
クライマックス(いったい何度目だ)を迎えて、ようやく本来のA&Gストーリーに戻った「いつこい」。栄光のゴールはすごそこだ!さあ、最後の力を振り絞ってゴール目指して突き進めー!!
いつこい・女王様とパトロン編 投稿者:ひーちゃん 投稿日: 8月28日(月)02時10分26秒
ようやく泣きやんだGと共にAがBたちの所に戻ったのは、水上バスが終着駅のリアルト橋に
着く頃と、ほぼ同時だった。一目で泣きはらした直後と分かるGの赤い目を見て、Bは目を丸くして
「なんだG!おまえ、泣いてたのか?」
「ち、ちがうわよっ!」
「嘘つけ!どう見たって泣いた後じゃん。もしかして、Aに泣かされたのか?」
「そんな訳ないでしょう、В先輩!A先輩がG先輩を泣かすなんて‥‥ねえA先輩?」
と、Zが傍らのAに同意を求める。が、自分がGを泣かせたのも同然だと思っていたAは、
「う、うーん‥‥」と言いにくそうに口ごもるだけで、否定しない。Zは「?」と首をかしげた。
(あれ?変だな‥‥。否定しないって事は、ほんとにA先輩がG先輩を泣かしたのか?)
そんな事を思いながら、Gの方に目を向ける――――Gは、じっとAを見ていた。いや正確には、
Aと奥さんの二人を見ていた。水上バスが終着駅に着いたので、ずっと椅子にもたれて寝ていた
奥さんを、Aが優しく肩を揺すって起こしている。その仕草には妻への愛情が溢れていた。Gは
そんな二人を見てホッとする反面、どうしようもない寂しさがこみあげてくるのを押さえきれな
かった。
そんなGの寂しそうな表情を、Zは見逃さなかった。
(やっぱりG先輩は、まだA先輩の事が‥‥好き、なんだ‥‥)
ZはGの表情を見守りながら、そう確信した。だが次の瞬間にはGにバシッと背中をはたかれていた。
「何よ、じーっと人の顔見て!気持ち悪いわね!おしおきにこのゴミを背負っていきなさい!」
と、まだ眠りこけているジェイムズ君を指差すG。Zはややうろたえて、
「えっ‥‥僕が背負うんですか?それより起こした方が‥‥」
「バカね、このゴミを起こしたらまたキーキーとうるさいじゃない!このまま寝かしといた方が
静かでいいでしょ!ほら早くこいつを背負って、船から降りて!」
(キーキーとうるさいのは、どっちだよ‥‥)
Zはげっそりしながらも、仕方なく言われた通りにジェイムズ君を背負って、水上バスから降りた。
水上バスから降りた一向は、カーニバルに湧くヴェネチア市街を歩いていった。ここから少佐の
待つホテルまでは歩いて数分の距離である。
「とりあえずロシア人たちに見つからないうちに、早く少佐のとこに行きましょう!」
先頭を歩いていたGがそう言った時である。突然、それまでZの背中で眠りこけていたジェイムズ君
が目を覚まし、ガバッと起き上がるやいなや、「ちょっと待て〜!」とわめきながら先頭のGの前に
立ちはだかった。そしてGをにらみながら、
「約束が違うじゃないか!少佐のとこに行く前に、僕のセーラー服を横取りした女を探すのが先決だぞ!」
「だから、その女も少佐と一緒にいるんだって!」
Gがうんざりしたように言い返した。ジェイムズ君はAに振り返って、
「本当か?」
「ああ」
とうなずくA。ジェイムズ君はそれでも半信半疑な顏で部下たちをにらみながら、
「本当だな‥‥よし、だったら一緒に行ってやってもいいけど。‥‥もし女がそこにいなかったら、
どうなるか覚悟しとけよ」
「バーカ、あんたなんかちっとも恐くないわよ」
Gは馬鹿にしたように鼻で笑うと、速足で歩きだした。
部下たちが少佐の待つホテルへと急いでいる頃、少佐の方も、部下たちが到着するのをイライラ
しながら待っていた。
「少佐、AやZと会うのは久しぶりなんじゃないですか?Aが空軍基地であの女スパイに拉致
されてから、ようやく再開できるんですね」
さっきから机の灰皿にせっせとタバコの山を築いている少佐に、Eはイライラをなだめるように
柔和な声で言った。だが少佐は渋面をくずさずに、
「‥‥だが、Aたちが戻ってきたからといって何も解決してはおらん。あの女のおかげで、片方の
“レンズ”はとうとうミーシャに奪われちまったしな」
「本当に、あの女にはいいように引っかき回されましたね。でももう安心ですよ。ほら、今は猫み
たいにおとなしいじゃないですか」
と、Eは部屋の隅に縛られて座っているアナスタシアに目をやった。アナスタシアは何か言い足そ
うにEを睨んだが、口にガムテープを貼られているので言い返せない。
「ばかもの、あの女の事じゃない。俺が言ってるのは、Aの嫁さんの事だ」
少佐が十何本めかのタバコに火をつけながら、無愛想に言った。
「まんまとレンズをミーシャに手渡しやがって。あの女に比べたら、アナスタシアなんか分かり
やすくて可愛いもんだぜ」
「あのぅ‥‥」
Eは明らかに戸惑った顏で少佐を見ながら、言いにくそうに、
「少佐はやっぱり、奥さんはロシアのスパイだと思ってるんでしょうか?」
「当たり前じゃないか。今さら何を言っとるんだ、ばかもの」
少佐は呆れたように言い返した。「Gからの報告を聞かなかったのか?あの女がロシア側にレンズ
を手渡したんだ。これ以上の証拠があるか」
「ええ。しかし‥‥」
Eはいまだに信じられなかった。あの柔和でいつも笑顔を絶やさない奥さんが、今までずっと夫の
Aや、自分たちを騙していたとはとても思えない、いや思いたくなかった。
だが少佐は容赦なかった。Eの心の葛藤を見抜いたかのように厳しい声で、
「私情におぼれて任務を忘れるなよ、E。『疑わしきはすべて疑え』、それが俺たちの鉄則だ」
「‥‥はっ」
Eがやや目を伏せて答えたすぐ後に、
「ジリリリリリリ!」
と電話のベルが鳴り響いた。Eはハッとしたように目をあげると、受話器を取って耳にあてる。
「はい‥‥あ、すぐ隣にいます。お待ち下さい」
「誰だ?」
Eから受話器を手渡されて、少佐がうっとうしそうに聞く。
「部長からです」
Eの声に、少佐はますます不機嫌そうな顏になって、受話器を耳に当てる。
「はい。‥‥はい、おとなしく監禁されてますよ。ああ見えてロシアの高級将校ですからな。
人質として、これから幾らでも使い道がある」
少佐はアナスタシアに目をやりながら言った。だが次の瞬間、顔色が変わった。
「な、なんですと部長!本気ですか!?」
『本気だよ、エーベルバッハ君。上層部からの命令だ。今すぐその女を釈放したまえ』
受話器の向こうの部長の声も、苦しそうだった。少佐は声を荒げて、
「Dが苦労して連れてきた人質ですよ?それにあの女はレンズについての重要な秘密を握っている。
Aたちが戻ったらもっと安全な場所に避難して、あの女からレンズの秘密を聞きだそうと思ってい
たのに‥‥それをみすみす逃がせと言うんですか!」
『仕方ないだろう。あの女にはロシア国防長官という強力なパトロンがいて、そのパトロンがどこ
から聞きつけたのか、女が人質にされてると知ってえらく怒っとるらしいんだ。このままでは
独ロ間の友好にヒビが入る。だから今すぐ女を釈放しろと上層部が‥‥』
「そんな、オエライ方の都合なんか知ったこっちゃないですよ!独ロ間の友好?馬鹿馬鹿しい!
今までロシア側はどれだけ今回の任務の邪魔をしてきたか、知ってるでしょうが!」
『わしに怒鳴らんでくれ!わしだって辛いのだよ、だが上層部の命令には逆らえんじゃないか!』
「‥‥‥‥」
少佐はしばし受話器を握ったまま無言で怒りをこらえていたが、やがて、
「‥‥分かりました。言われる通りにします」
と低い声で言うと、叩き付けるようにして受話器を置いた。
「くそっ!何が独ロ間の友好だ!ふざけんな!」
少佐の怒号は、隣の部屋のソファーで仮眠を取っていたDにも聞こえた。その声にただ事ではない
空気を感じたDは、起き上がって少佐のいる部屋に駆け込んだ。
「何事ですか、少佐!」
「NATО上層部が、アナスタシアを釈放しろと言ってきやがった!」
少佐が怒りに燃えた瞳で怒鳴った。その顏を見て、思わず(か、かっこええ‥‥)と見惚れるD。
だがすぐ我に返って、
「な、なんでそんな事を‥‥?あの女は任務の鍵を握る重要人物ですよ!」
「ロシア国防長官とかいうパトロンが、NATОに圧力をかけてきたらしい。で、それにビビった
NATО上層部の連中が、『独ロ間の友好』とかなんとか言い訳して、俺たちにあの女を釈放しろ
と言ってきやがった」
少佐は怒りにまかせて毒づくと、手にしていたタバコを灰皿に押しつけた。DとEはあまりの事に、
しばし怒るのも忘れてぽかんと少佐を見ていた。が、すぐに怒りが沸き上がってくる。最初に口を
開いたのはやはりDだった。
「そんな馬鹿な命令が聞けるか!少佐!俺が責任を取りますから、あの女を釈放するのはやめましょう!」
「そういう訳にはいかないよ」
Eが怒りを押し殺した声で言った。「悔しいけど‥‥上層部の命令には逆らえないよ」
その時、ふいにコンコンとドアがノックされた。
「Aたちか?」
期待しながらEがドアを開けると、見慣れない軍服の男が立っていた。が、その軍服の腕章と顔つき
から、彼がロシア軍の将校である事は容易に推測できた。彼は部屋の中にずかずかと歩み入ると、
少佐に向かって、
「エーベルバッハ少佐だな。すでに上司から事情は聞いているはずだ。アナスタシア・ドミトリィ
大尉を引き取りに来た。今すぐ大尉を釈放したまえ」
「―――好きにしろ」
少佐は男から目線を反らして、ぶっきらぼうに言い捨てた。男は部屋の隅に縛られているアナスタ
シアに歩み寄ると、縄をほどき、口のテープをはがしながら、
「おけがはありませんでしたか?大尉」
「ないわよ。ただ‥‥」
やっと手と口を解放されたアナスタシアは疲れた声で言いながら、ちらりとDに目をやった。Dは
怒りに満ちた目でこちらを見ている。アナスタシアはくすりと笑って、
「心の方は、かなり傷ついたわね。女扱いの上手い誰かさんにまんまと騙されて、ソノ気にさせら
れたあげく、裏切られて」
アナスタシアはすっくと立ち上がると、男を連れてドアへ向かった。少佐たちは憤りに燃えつつも、
ただ黙って見送るしかない。部屋から出ていく間際、アナスタシアは振り返り、ひたすら怒りをこ
らえている男達3人に挑発的な目を向けた。そして口元に嘲笑を浮かべ、
「じゃあね」
とウインクすると、勝ち誇った足取りで部屋を後にした。カツカツカツ‥‥と、規則正しいヒール
の音がしだいに遠ざかっていく。少佐、D、Eの三人は拳をぐっと握り締め、唇を噛みしめて、
その音を聞いていた。―――――――――――――――――――――――――――――――続く
いつこい・感動の再会編 投稿者:ひーちゃん 投稿日: 9月 4日(月)00時12分27秒
「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!」
アナスタシアの、部屋から遠ざかっていくヒールの音が聞こえなくなった途端、Dは罵声と共に
壁にドスッと拳を埋め込ませた。
「せっかく、俺が気の進まねぇ芝居までうってあの女をここに連れてきたのに!“レンズ”も
ミーシャの手に渡ったし、これで何もかも振りだしに戻っちまった!」
「――いや、そんな事はないぞ。D」
少佐の、まだ怒りをこめつつも冷静な声が返ってきた。Dははっと顏をあげて少佐を見る。少佐
はうなずいて、
「確かにアナスタシアも“レンズ”もロシア側に渡ってしまったが、その代わりにAが帰ってくる。
もう片方の“レンズ”と共にな」
「そ、そうだった‥‥。“レンズ”は一個だけじゃない。割れた片方は、まだAの腹の中にあるん
だ‥‥」
Dは思い出したようにつぶやいた。少佐は「今さら何を言っとるんだ」という顏でDを見ながら、
吸い終わったタバコを捨てようとして、灰皿が吸い殻で満杯でもう入らない事に気付いた。思わず
チッ、と舌打ちする。それを見て、ようやく気付いたEが慌てて灰皿の中の吸い殻を捨て、少佐の
前に置いた。そして新しいタバコをくわえた少佐の前にライターの火を差し出しながら、
「Aが帰ってきたら、何よりもまず、腹の中から“レンズ”を取りださなきゃなりませんね。あれ
を飲み込んじまったおかげで、Aはロシア側から付け狙われて、酷い目に会ってるんだから‥‥」
「いや‥‥まだそれは早い」
少佐はきっぱりと言った。えっ?!とDとEは少佐を見つめる。少佐はタバコをふかしながら、
「俺にもよく分からんが‥‥どうやらあのレンズは、Aの腹の中が気に入っているらしい。ほら、
おまえたちも覚えとるだろう。おまえたちとAの三人がGRUの揚陸艦からジェット機で脱出した
際、撃墜されて空中に放り出された時――甲板に叩き付けられる直前、Aの腹の中のレンズが光り
輝き、強力な浮遊力を発揮しておまえたち三人を空に浮かび上がらせた事を」
「ああ、そういえば‥‥!」
「あの事件から察するに、あのレンズにはちゃんと『意志』があるんだよ。‥‥だからレンズの秘密
を解くためにも、今はまだAの腹の中から取り出さず、様子を見た方がいい。Aには酷な話だけどな」
少佐は話終わってから、窓の方に目をやった。「それにしても遅いな、Aたちは‥‥いったい何を
ちんたらしてやがるんだ」
「きっと、Вがまたどっかで買い食いして、それで遅くなってるんですよ」
Eが確信を持って言った。「それか、久しぶりに奥さんと再会したAが、新婚気分でゴンドラデート
を楽しんでるとか」
「ばかものーっっっ!」
少佐の怒号が鳴り響くのと、部屋のドアが開いたのはほとんど当時だった。
「いきなり怒鳴られちゃった‥‥」
ドアを開けたものの、中に入る事が出来ず、脅えた顏でその場に立ち尽くすAの後ろに、同じく
脅えた顏のВ、G、Zの二人がいる。ВはAの耳元に口を近づけ、「こりゃ相当頭に来ているぞ〜」
と耳打ちした。一方、部屋の中の少佐たちも突然の再会に一瞬ぽかんと立ち尽くしたが、すぐ我に
返って口を開いた。
「ばかもの!何をボケッとしとる!早く中に入ってドアを閉めろ!‥‥ん?そこに隠れてるみす
ぼらしい物体はなんだ?」
射ぬくような少佐の視線に、Aたちの背中に隠れていたジェイムズ君がびくびくしながら顏を出す。
「あ、彼はその、GRUの揚陸艦から脱出させてくれた、命の恩人なんです。今後、何か役に
立つ事もあるかと思い、連れてきました‥‥」
少佐の怒号が響く前に、すかざずAが弁解する。だが少佐には通用しなかった。
「バカかおまえはー!!ただでさえ面倒な任務なのに、こんな邪魔っけなゴミを拾ってきやがっ
て!今すぐ捨ててこい!!」
「わわわ分かりました!でもその前に、セーラー服を‥‥」
と慌てて部屋の中を見渡すA。だがどこにも、アナスタシアの姿はなかった。焦りまくった顏で
Dを見上げて、
「あの‥‥アナスタシアは?」
「いねぇよ、そんな女」
Dが憮然とした顏で吐き捨てる。エーッ!!とAは顏をひきつらせ、
「でででも、Gが、おまえがあの女を少佐のとこに連行して、監禁してるって‥‥」
「さっきまではな。でもおまえらがここに来る直前、上層部から釈放しろと命令されて‥‥逃が
したのさ」
「なんだってーっ!!」
と叫んで詰め寄ったのは、ジェイムズ君だった。彼はDとAの顏を交互に見上げて、
「僕のセーラー服を横取りした女が、ここにいないだって?あの女がいると言うから、しぶしぶ
ついてきてやったのに‥‥裏切ったな〜っ!A!!」
目を怒りに充血させてののしるジェイムズ君に、Aは返す言葉もなくおろおろと冷や汗を流すだ
けだ。こんな男の面倒をいつも見させられているボーナムさんはやっぱり凄いと、ふと感心する。
だがそんな感慨にふける間もなく、少佐の怒声が部屋の空気を震わせた。
「何が『僕のセーラー服』だ!A!おまえ今までいったい何をやっとったんだ!人をさんざん
心配させておいて、やってたのはゴミの相手とセーラー服探しか?肝心のレンズはミーシャに
奪われるし、いったいいつまで俺に世話をかければ気が済むんだ!この無能―!!」
(ひえええ〜)
久々に聞く少佐の怒鳴り声に、Aは鼓膜が破れるかと思った。だが少佐が怒るのももっともだ、
と思った。本当に、いったい何をやっているんだろう‥‥。
少佐はしゅんとしてしまったAから目を離すと、BやDたち他の部下の顏も見渡して、断固と
した声で怒鳴りつけた。
「Aだけじゃない、おまえらもだ!こんな単純な任務にいったい何日かかっとるんだ!ヴェネ
チアに観光に来てるんじゃないんだぞ!もうおまえらの無能ぶりには愛想がつきた!俺はこの
任務にはもう出しゃばらん、おまえらだけでやってみろ!いいか!おまえらだけでミーシャに
奪われたレンズを奪い返し、レンズの秘密を解き明かすんだ!」
「そ、そんな無‥‥」
無理です、と言いかけて、Aは少佐にギロッと睨まれて口をつぐんだ。無理でもなんでも、
少佐にそう言われたら従うしかない。でないと‥‥。
Aの心中を読んだかのように、少佐は容赦ない口調で言い切った。
「もしこの任務に失敗したら‥‥分かっとるな。アラスカが再び君たちを待っとるぞ」
ヒョォォォォォ‥‥。たちまち部下たちの心に氷点下の寒風が吹き荒れる。もう待ったなし
だ、なんとしても任務を成功させなければならない。それも少佐の助けを借りず、部下だけ
の力で。
Aはうつむきながら、ちらりと皆の顏を見た。皆、一様に青ざめた顏をしていて、「俺は
やるぜ!」てな感じでメラメラと闘志を燃やしているのはDただ一人だった。――――――続く
という訳で、一週間ぶりの「いつこい」でした。やっぱA君は少佐に怒鳴られてオロオロ
してんのが最高にステキよのう。
いつこい・疑惑の香水編 投稿者:ひーちゃん 投稿日: 10月2日(月)00時40分27秒
ついに少佐に見放され、「おまえらだけでミーシャに奪われたレンズを奪回しろ!」とどやされた
部下たちは、少佐の元にE一人残して、後は全員追い出されるようにホテルを出た。
「ちくしょ〜、なんだよEの奴!『僕は電話番として少佐の元に残るよ。後は君たちに任せた。
がんばってくれ』だってー?一人だけ楽しようとしやがって、まったく要領いいんだからなアイツ!」
Вがドーナツを頬張りながら毒づく。「な、Aもそう思うだろ?」
「んー‥‥、でも、誰か一人は少佐の元に残って、雑用をこなさなきゃならないから‥‥」
ホテル前の路上に突っ立ったまま、これからどうしようかという思いでいっぱいのAは、適当に答
えた。代わりにGがВをにらみつけて、
「もう、そんな事どうだっていいでしょ!それよりこれからの事を考えなさいよね!少佐の助けを
あてにせずに、あたしたちだけでレンズを奪回しなきゃならないんだから!」
「そうですよ、もっと建設的に行きましょう」
Zも同意する。Вはまだ不服そうだったが、仕方なく引き下がった。
「‥‥で、これからどうすんの?A」
Gが振り向いて、唐突に訪ねてくる。Aは少し戸惑いながら、
「そうだなあ‥‥いくらなんでも僕たちだけでミーシャと対決するのは無謀だから、やっぱり逃げた
アナスタシアを追跡するのが、一番妥当かなあ‥‥」
「そうだそうだ!それで僕のセーラー服を取り戻すんだ!」
とジェイムズ君。それまで黙っていたDはそれを聞くなり、いきなり眉を吊り上げた。
「俺たちだけでミーシャと対決するのは無謀だとー?この期に及んで、なんでそんなに弱気なんだA!
今までさんざん酷い目に会ってきたのに、あのタコ坊主に仕返ししたいと思わねえのか?!」
「そ、そんな私怨なんかより、レンズを取り戻すのが先決だろ!」
いきなり怒鳴られたAが、腰が退けながらも懸命に反論する。Dはチッ、と気に入らないように舌を
鳴らして、
「それで、敵の大ボスとの対決を避けて、まだ太刀打ちできそうな女のケツを追っかけるって訳か‥
‥。悪いが、俺は絶対ごめんだからな。これ以上あの女に関るのは」
「えっ?じゃあ‥‥」
不安げに見つめるAに向かってDはうなずき、
「あの女のケツを追いかけたきゃあ、おまえらだけで勝手にしな。俺は一人で行動させてもらうぜ」
「ちょ、ちょっと待てよD!」
「そうよ、何カッコつけてんの!あんた一人でミーシャたちと闘える訳ないじゃない!」
「うるせえな。あんなちっこいレンズを取り戻すぐらい、俺一人で十分なんだよ。じゃあな」
邪魔臭そうに言い捨てると、DはAたちに背を向け、立ち去ろうとした。すかさずGがその背中に
向かってキンキン声を張り上げる。
「自分一人でレンズを取り戻して、少佐の寵愛を独り占めしようって訳?許さないわよ、D!」
「はぁ、何言ってんだ?バーカ!お前と一緒にすんな!」
怒鳴り返されてもGはめげずに、Dの前に回り込んで押し留めようとした。Dのシャツをむんずと
つかんで言い返そうとした次の瞬間、ふと怪訝そうな顏になってシャツの匂いをくんくんとかぐ。
「あら、何?この香水の匂い‥‥」
「香水?」
Aたちも気になってDを取り囲む。GはなおもくんくんとDのシャツをかぎながら、
「ええ、確かにこれは、女の香水の匂いだわ‥‥それもかなり高級な」
Gの言葉に、AたちはいっせいにDに嫌疑の目を向ける。Dはさっきまでのクールぶりもどこへやら、
とたんに焦った顏になって、
「な、なんだお前らその顏は!俺はそんな、任務中に女といちゃつくような真似はいっさいして
ないぞ!」
「あーらそう?じゃあなんでこんなにしっかり、シャツに香水の匂いが残ってるのかしら?」
Gが顏をあげて、意地悪そうな顏で尋問する。「それにこの匂い、どっかでかいだ覚えがあるのよねー。
そう、確かあの、高慢ちきなロシアの女スパイがつけてた香水とおんなじ匂い‥‥」
「えーーーーーっ!」
一際派手な声をあげたのはВだった。興味津々な目をDに浴びせて、
「さっすがGは香水に敏感だなあ!そうかD、おまえあの女スパイといちゃついてたのか!」
「ち、違わぁ!誰がすき好んであんな女といちゃつくか!あれは艦から脱出するために、仕方なく‥‥」
「やっぱりいちゃついてたんですね」
冷静な声で言ったのは、Zだった。そしてすっかり動揺しているDの肩を叩いて、
「そんなに焦る事ないですよ、D先輩。任務のために女を騙すぐらい、誰でもやってる事ですから。
そう、僕だって‥‥」
言いながら、フッと悲しそうな目になって過去を回想するZであった。Dは思わずその顏を殴り飛ば
したい衝動に駆られたが、その前にAが笑顔で語りかけてきた。
「じゃあ、行こうかD」
「は?どこへ?」
「もちろんアナスタシアの追跡にさ。おまえのシャツについてる香水の匂い、それさえあれば追跡は
可能だよ」
「A、おまえ馬鹿か?警察犬じゃあるまいし、こんな匂いなんかでこの広いヴェネチアからあの女
を探し出せる訳ねぇだろう!」
「普段の僕らならね。でも、今は彼がいる」
とAが目で示したのは、ジェイムズ君だった。Dは顔面が蒼白になった。Aはにっこり笑って、
「さあジェイムズ君、出番だぞ。Dのシャツの匂いをかいで、その匂いと同じ香水をつけた人物を
探すんだ。そいつが、君のセーラー服を横取りした人物さ」
「よっしゃ!」
Aの言葉に俄然やる気を出したジェイムズ君は、Dの胸にぴったり張り付くと犬のようにくんくん
と匂いをかぎまわった。そしてDから殴られないうちにパッと彼から離れると、
「おし、匂いは覚えたぞ!これからセーラー服横取り女を追跡する!」
言うなり、くんくんと鼻を働かせながら歩きだす。Aたちもその後に続いたが、Dだけが強情に
その場を動こうとせず、呆れたように、
「な、なんてみっともない追跡方法なんだ‥‥。俺は行かねぇぞ、お前らとは別行動だ!」
「もー、まだそんな事言ってんの?さっさと行きなさいよ!でないと少佐に、あんたが敵の女スパイ
といちゃついてた事バラすわよ!」
Gに背中をはたかれて、Dも嫌々ながらジェイムズ君の後をついていく。その様子を見ていた奥さん
(いたんだな、まだ)がきょとんとした顏で、
「あのぅ‥‥私も一緒に行っていいんでしょうか?」
「いいわよ、当然じゃない!さっ、行きましょ!」
Gは愛想良く答えると、奥さんの手をつかんで歩きだした。
「―ようやく動きだしたか」
その様子をホテルの窓から眺めていた少佐が、つぶやくように言った。傍らではEも、窓の下のA
たちを不安そうに眺めている。そしてふと顏を少佐に向けて、
「‥‥いいんですか?少佐。Aの奥さんを自由にさせて‥‥。彼女はもう、ロシアのスパイだと
確定した訳でしょう?」
「‥‥ああ。だが、まだあの女は自分の正体がばれてないと思っとるようだし、もう少し泳がせて
様子を見ようと思ってな」
「泳がせている間に、あの女が逃げたら‥‥?」
「あの女の監視は、Gに任せてある。それにAも、薄々感づいとるようだしな‥‥」
少佐の声が重苦しくなった。Eもそれ以上何も聞かずに、いつの間にか視界からいなくなったAたち
の無事を祈りつつ、自分はホテルに残って正解だったと安堵の息をついた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――続く