D家の食卓

【written:あ・や】


いまから下を読まれる方、あなたはA君の奥さんに懸想しているE君になって下さい。
では、お料理名が一品も出てこない「お食事会(E君のつぶやき)編」どうぞ。


今日は恒例の任務明けの食事会だ。毎回、Dが何人かを招待して腕を奮ってくれる。
今回は、ぼくはもちろん、GとZ、そしてAが呼ばれたらしい。
しかも、Aは『今回、妻がもし良かったら一緒にって言ってるんだけど』なんて、昨日Dに言ってたんだ。
よーし、今回こそ奥さんと…。
今、ぼくはDの家にいる。ぼくより先に来ていたGは、さっきからテーブルセッティングをしている。
あの席配置だと、ぼくは端になりそうだな。そしてぼくは…なんで、AとZの三人で、並んで座ってTVのサッカーの試合なんか観ているんだ?しかも肝心の奥さんは、ぼくより遅れて来たと思ったらすぐにキッチンに行ってしまい、Dと楽しそうに料理談義に花を咲かせている。
「まぁ、Dさん、これ、Dさんがおひとりで作ったんですの?」
「もちろんですよ、(ちょっと自慢げ)それよりこれおいしいですよ、どうやって作ったんですか?」
「私もこちらの作り方、教えていただきたいわ」
「それでしたら、また、今度の休日にでも…Aの都合も聞かないといけないけど」
「うふ、楽しみですわ。今度はぜひ、我が家の方に来てくださいな。主人ならたぶん、大丈夫だと思いますわ」
…おいおい、なんでDがぼくをさしおいて、奥さんと会う約束をしているんだ?もしかして、Dは奥さんに興味があったのか?…いや、あいつに限って、きっと、Dは純粋に奥さんに料理を習いに(教えに?)行くんだろうけど…。だいたい、キッチンにはDと奥さんの二人きりなのに、Aはなんでこんなにのんびりしているんだ?ここだと、キッチンには背を向けて座っているから、何しているのか見えないじゃないか。代わりにぼくがキッチンに聞き耳を立てる羽目に…。
と、しばらくして奥さんの驚く声が聞こえてきた。
「…あっ!」
続いてDの、動揺して奥さんを呼ぶ声がする。
「…奥さん!」
Dのやつ、なにをした?おい!D!いくら何でも人がこんなにいるのに、あいつ、いつからAの奥さんに?
いや、そうじゃない、今はここで振り向いて二人の様子を見るんだ。
ぼくはそう思い急いで振り向くと、Dが奥さんの指を口にくわえている光景が、目に飛び込んできた。
ぼくは思わずAを呼んだ。
「おい、A、奥さんが」
それまでサッカーの試合に夢中だったAは、ぼくの声でやっとキッチンのほうを向き、のんきに二人に声をかけた。
「また切っちゃったの?D、ごめんな、彼女、案外そそっかしいんだ」
「いや、そこの棚に絆創膏があるから取ってやって」
Dは奥さんの指を口から外しAに言っている。でも、Dのやつ、まだ奥さんの手を握ったままだ。
しかも奥さんに向かってなんか囁いている。おい!D!離せよ!なに奥さんに言ってるんだよ。
その間にも、AはDに言われたとおり、棚から絆創膏を取って、キッチンに向かう。
Dが奥さんの手を握っていることは全然気にしていないようだ。Aは奥さんに絆創膏を貼りながら、
「これで、また当分、後片づけはぼくだね」
なんて、悠長なことを言っている。ぼくがAだったら怒っているぞ?
食事会が始まった。やっぱり思ったとおり、テーブルの長手方向に二人ずつ、端に一人という配置でぼくは端の席だった。もう一方のキッチンに近い側の端はDで、奥さんとGが、長手方向でDの側の席に座っている。こちら側はAとZ。奥さんに話しかけることすらできないじゃないか。
それに奥さんは、さっきからDとGも交えて料理の話ばかり。
「この飾り切り、素敵ですわ」とか「でも、これはもう少し濃い味の方が…」とか…。
奥さんたちの会話が気になったけど、とりあえず、気にしてない素振りをして、目の前にあるサラダにドレッシングをかけて食べる。
ふむ、このドレッシングうまいな、自家製か?…あれ?なんかDとGと奥さんが、ぼくを見て笑っている。
なんだろう?そっちを見ていたことがばれたのかな?そのうち奥さんがAに、
「今度のお休みにDさんをお家に招待したいわ、今日のお礼も兼ねて。ねっ、いいでしょ?あなた」
とか言って、もうDがAの家に行くのは本決まりのようだ。しかもそれを聞いていたZが
「ぼくも行きたいなぁ」なんて言うから、「Zさんもどうぞ」なんて、奥さんが答えている。
え〜、なんだよ、ぼくは今度の休日は、妻と子を遊園地に連れて行かないといけないのに…。
はぁ〜、また今度も奥さんとあまり話ができなかった…。ちくしょう、Dのやつ、うらやましいぞ、Dのやつ、ばかやろう、Dのやつ…、ぼくがこっそりDを睨みながら、頭の中でDを罵倒していると、Gがこそっとぼくに耳打ちした。
「E、今回も残念だったわね、くすっ」
…Gのやつ、お見通しってわけ?



いかがでしたか?
それでは次に、「お食事会(D君の独り言)編」どうぞ。あなたはこれから『単細胞な料理人:D君』になって読んで下さい。



今日は恒例の任務明けの食事会だ。今回は、Eは相棒だからもちろんだけど、AとGとZを呼んだんだ。
Bも呼んだんだけど、なんか奥さんの方の用事があって来られないらしい。
そういえば昨日、Aが奥さんを連れて来るって言っていたな。女性が来るとなると、
いよいよ張り切らないといけないな。そうそう、今日こそEが嫌いなセロリをあいつに食わせてやるんだ。
あ、もう誰か来た、早いな。扉を開ける。
「アタシよ〜、D。今日はご招待ありがとう。アンタの料理が食べられるなんて嬉しいわぁ〜。それでね、どうせ料理作りでアンタは忙しいと思って、早めに来てテーブルセッティングでもやったげようかと思ったのよ」
「今日はご招待ありがとうございます、D先輩。うわさの先輩の料理が食べられるなんて、
ぼくも嬉しいです」
GとZが一緒にやってきた。この二人、任務でも良く一緒に組まされているよな?少佐の趣味かな?
まぁ、いいや。おっと、手に持っているセロリを見られてしまった、ここは言っておかないと。
「G、Z。内緒にしていてくれよな。今日こそEにセロリを食わせようと思ってるんだ」
「はぁ〜ん、また、アンタのお得意のヤツね?Eもセロリはどうしてもヤダって子供みたいなこと言ってるもんね」
二人を中に入れ、ZにはTVでも観せながら、この後来るAとEの応対も任せた。
おれはEが来る前に、セロリを見つからないように下処理しておかなければ…。次に来たのはEだ。
やばいよ、早くしないと、あいつ、においにも敏感だもんな。あれ?なんかキョロキョロして、こっちには気づいてないみたいだな。なんかZに聞いている。今のうちだ。
しばらくしてA夫妻がやってきた。ん?奥さんがこっちに来るぞ。なんだろう?
ああ、デザートを作って持って来る、って言っていたな。どれどれ、お手並み拝見と行くか。
「まぁ、Dさん、これ、Dさんがおひとりで作ったんですの?」
奥さんが感嘆しながら、見劣りしちゃうかしら、とか言って自分が持ってきたデザートを出した。
「もちろんですよ、(『ローテグリュッツェ』じゃん…真夏のデザートだよ、これ…とりあえず味見)、それよりこれおいしいですよ、どうやって作ったんですか?(これは珍しいから、おれは知らないんだ)」
「私もこちらの作り方、教えていただきたいわ」
「それでしたら(これはおれのレパートリーにぜひ加えないと!)また、今度の休日にでも、(おっと、いくらなんでも人妻だよ、二人きりはいけないよな)Aの都合も聞かないといけないけど」
「うふ、楽しみですわ。今度はぜひ、我が家の方へ来てくださいな。主人ならたぶん大丈夫だと思いますわ」
とか言いながら、持参したエプロンをつけて、「お手伝いしますわ」と言ってくれたから、
サラダに使うトマトのスライスをお願いした。おれは奥さんが持ってきたデザートを冷蔵庫に入れてから、Eにばれないように、セロリを特製のドレッシングに混ぜていた。
と、奥さんが急に声をあげたから驚いちゃったよ。見ると、奥さんが指を切っちゃっている、いけない、血が垂れるよ、トマトに。とっさにおれは奥さんの指を口にくわえてそれを防いだ。あれ?この血の味…。
Aが気づいて声をかけてきたから、絆創膏を頼んだ。
血が出ないように奥さんの指を押さえているときに、さっき、気がついたことを奥さんにそっと言う。
「奥さん、最近、少し貧血気味じゃないですか?ちょっと血が薄いですよ」
奥さん、ちょっと驚いていたな。ん?Eがこちらを睨んでいる…。セロリのにおいでもしたかな?
食事会が始まった。Zなんか「D先輩、これおいしいです!」と言いながら、ばくばく食っている。
おれはAの奥さんとGも交えて、またもや料理の話。奥さんとGに、ドレッシングの中にEの嫌いなセロリを入れてあることをそっと言う。あっ、Eがドレッシングをかけてサラダを食っている。思わず、Gと奥さんと三人で笑いながら見ちゃったよ。へっへ〜ん、明日言ってやろっと。
Aは奥さんに
「きみの料理もおいしいけど、Dの料理はまた別だね」
なんて言っている。そうだろう?でも、きみの奥さんのお菓子にも、おれは惹かれたぜ。
今度の休日には絶対教えてもらうんだ。
そうこうしているうちに食事会もお開き。みんな帰る支度をしている。Zは
「ぼく、後片づけ手伝いますよ」
とか言って残ってくれるそうだ。あれ?Eがまたおれを睨んでいる。やっぱりセロリがばれたのかな?
あっ、Gのやつ、なにEに耳打ちしているんだよ、セロリのことばらしているのか?
やめろよ、それは明日のおれの楽しみだぞ。


以上、D君家の「お食事会」でした。
まぁ、同じ場所にいても人はそれぞれ別のことを考えているってことなんですけど。
美紀さん、勝手にアイデアを拝借しました、気を悪くなさっていたらごめんなさい。
(あぁ、謝ってばっかり・・・)


注:このお話は掲示板発表当時は「お食事会」というタイトルでしたが、今回再録するにあたり、管理人の独断で「D家の食卓」とタイトルを変えさせていただきました。ご了承下さい。

HOMEDWM/妄想