二台のバスが平行して走っていた。片方のバスにはフーテナニー・シンガーズの文字が、片方のバスにはヘップスターズの文字が書いてある。お互いの存在に気づき、二台のバスは片道に停車した。スウェーデン国内において、人気を二分するほどのグループ同士である。相手に興味を示さないことの方がおかしかった。そして、アバの母体であるメンバー、ビヨルン・ウルバース、ベニー・アンダーソンが顔を合わせたのは、この時が初めてのことであった。二つのグループのメンバーは、しばらく雑談にふけった後、その晩ヴァスタビックという町にあるバーで、パーティーを開く約束をした。

 楽しい一時だった。お互いの功績をたたえあい、時にはくだらないジョークを飛ばし、旅の疲れを癒すには最高のパーティーだった。そんな中、他のメンバーをよそにビヨルンとベニーは、熱い議論を戦わせていた。それは、これからの音楽活動に関することだった。最初は遠慮がちにしゃべっていた二人だったが、話し込む内にお互いの音楽に対する考えが驚くほど似通ったものであることに気が付いたのだ。当時をビヨルンが語る。「とても有意義な議論だったね。そして思ったんだ。彼と組めば、素晴しい仕事ができるのではないかと」なにより二人が考えていたことは、スウェーデン語で歌うことの無意味さであった。やはり世界の共通語である英語で歌わなければ、そう、すでに二人の頭の中には、世界進出の青写真が描かれていたのだ。かなり長い間話し込み、意気投合した二人は、ビヨルンの故郷で再会を誓い合う。実験を兼ねた共同作品を書くことを約束して。

 歴史的な日がやってきた。彼等はビヨルンの実家の地下にオルガンやらギターなどを持ち込み、初のセッションを始めた。「父は僕達のやっていることに理解を示してくれましたが、さすがの大音量には参り、場所を変えてやってくれと怒鳴り込んできたんですよ」とビヨルンは苦笑いをした。しかし、親切にもビヨルンの父は、経営する工場の一室の鍵をひっそりとビヨルンに渡してくれた。そして二人は、工員がやってくる朝まで曲作りに専念することができたのだ。

 幾日が立ち、二人が初めて完成させた曲は「イズント・イット・イージー・トゥ・セイ」という曲であった。これは、ヘップ・スターズのLPの中の一曲としても取りあげられ、続く第二弾目の「フラワー・オヴ・マイ・ガーデン」も同じくヘップ・スターズのLPに収録されている。これに関連して、ベニーが自分たちの作曲スタンスについて語ってくれた。「僕達の作曲法は、今日までぜんぜん変わった事がないんだ。とにかく気に入ったコード進行を作り、単音を追って作曲する。音楽的な理論なんて分かってないので極めて原始的な方法だ。だけど、いつもこれでうまく行くんだよ。それから、僕らの基本的な考えは、メロディをなによりも優先させることなんだ。普通ならば歌詞があって、そのうえで旋律を乗せていくものだけど僕達は逆なのさ、歌詞の内容なんてどうでもよかったんだ。一番の問題は、歌詞がメロディの響きに合うかどうかなのさ」

 それから二年後(1969年)、ベニーはヘップ・スターズを脱退した。ロック・ミュージックという殻だけに閉じこもっていては、自分の考えている理想には到達できないことを悟ったのである。ビヨルンの方も同じだった。早い話彼等は、ただのミュージシャンから本格的なコンポーザーに転じたかったのであった。最初は、ビヨルンの行動の真意が分からなかったスティグも、ビヨルンの真剣な説得に充分な理解を示しくれたのだった。当時をスティグが語った。「最初は、本当にびっくりしたんだ。フーテナニー・シンガーズが下降線ならともかく、順調にいっていたからね。それを捨ててまでベニーと一緒に作曲活動に専念したいと言いだしたんだから。だいたい、ビヨルンとベニーのような異なった人間が、一緒に仕事をしていけるのか?それが一番の疑問だったんだ」

 ビヨルンとベニーは、スティグのレーベルであるポーラー・レコードの専属作曲家として契約を結ぶことになった。ビヨルン不在のフーテナニー・シンガーズが自然消滅したのはいうまでもない。スティグも、自分のレーベルの売れっ子アーティストを失うということは、半ば残念だったに違いない。しかし、彼が最も信頼をよせていたのは、フーテナニー・シンガーズというグループではなく、ビヨルンそのものだったのだ。もちろん、そのビヨルンがパートナーに選んだベニーにも期待せずにはいられなかった。その後二人は、作曲家活動を続けながら、自らビヨルン&ベニーのデュオとしてレコード制作を行っていくことになる。


注意1)この文は【原書】ABBA(Harry Edgington and Peter Himmelstrand著)【訳書】アバ世界の恋人たち(山本沙由理訳)及び、かまち 潤さんのアバ年表を参考文献として書かれたものです。

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