Date: Fri, 15 Feb 2002
Subject: 進化論について
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乗物に乗ると直ぐに眠くなってしまう性向があり、新幹線や飛行機でも殆ど寝ていた
のですが、最近は歳のせいか途中で目が醒めてしまい、流石に手持ち無沙汰なことも
あり、元来本を読む習慣がない僕も 時々本を持ち歩くことにしました。といっても
理科系人間としては小説や文学などは読む気が起こらないので、ポピュラーサイエン
スものにしています。BOOK-OFFへ行けば、ブルーバックスなどが半額〜百円で売って
いるのは嬉しいのですが、古本だけあって出版時期が少し古い分、中身の情報も古い
のが、サイエンス物にとっては痛いところです。最近読んだもので面白かったのは、
進化論に関するものでした。
ダーウィンが進化論を発表したのは19世紀の半ばで、良く知られているように、
突然変異・自然淘汰・適者生存で組立てられた説得性の高いものでした。進化論は、
神が世界を創造したというキリスト教の世界観を打壊し、ニーチェをして「神は
死んだ」と言わしめたように、近代思想の礎となる画期的なものでした。他方で、
アインシュタインの相対性理論が核兵器を産んだように、進化論やメンデルの遺伝学
がナチスのホロコーストを生んだ優生学に多大の影響を与えたことも事実です。
進化論が面白いのは、古代史や天文物理学と同様、現代に残された遺物から遠い過去
を推察するというところにあります。
ダーウィン進化論で言う突然変異は今や周知のことですが、種を超えるような突然
変異体(mutant)が産まれたとの報告はありません。鳶は決して鷹を産まないと言う
ことです。それなら、麒麟の首は長い世代を経て徐々に長くなった筈ですが、中途
半端に首の長い移行期の化石は、発見されていません。化石が物語っているのは、
連続した種の進化ではなく、突如として新たな種が表れたとしか思えないと言うこと
です。ここが進化論の疑問点となっています。
ところで、ダーウィンの時代には遺伝子の概念も明確になっていなかったのですが、
昨今では分子生物学の進歩により遺伝子の解読(ゲノム解析)も可能となっています。
この分子生物学の観点では、種や系統は形態や化石の年代ではなく遺伝子により
分類整理されることになります。また、遺伝子が染色体のみならず、ミトコンドリア
や葉緑体にも発見され、ミトコンドリアは好気性バクテリアが、葉緑体は藍藻が
バクテリア細胞内に寄生・共生したものがその起源ではないかと言う、連続共生説が
唱えられるようになっています。
更には、ウィルスが遺伝子の運び屋となって、感染した細胞のDNAに、持込んだ
遺伝子を組込んでDNAを書換えることも判ってきました。癌ウィルスでは正常細胞
の遺伝子を書換えて癌細胞に変えてしまい、遺伝子治療ではウィルスのこの性質を
利用して遺伝子を組込むベクターに用いています。
ウィルス進化説によれば、ある種の生物に何らかのウィルス性伝染病が蔓延し、多数
に遺伝子異常が生じたということになりますが、異論も多くありダーウィン進化論を
打破るには至っていません。
とはいえ、人間は哺乳類としては相当変種のようです。大脳が異常に発達している
のは勿論ですが、早産で幼形成熟でビタミンC欠乏です。哺乳類の多くは産まれて
直ぐに自立し自ら乳房を探して吸いますが、人間ではそうはいきません。正常の出産
でも他の哺乳類から見れば早産といえます。これは2足歩行と大脳の肥大が原因と
言われていますが、妊娠期間(ゴリラなみ。就巣動物の肉食動物では巣の中で育つため
妊娠期間も短くより未熟な状態で産まれる。狼の妊娠期間は2ヶ月。)が短い訳では
ありません。幼形成熟(neoteny)とは、幼形の形態のまま成熟し生殖機能を持つこと
で、一時流行ったウーパールーパーはホルモン欠陥によりメキシコ山椒魚が幼形成熟
したものです。ホルモンを与えると成魚に形態変化するようです。胎児の頭蓋骨では
人間とチンパンジーは酷似していますが、成長するにつれてチンパンジーの方がより
変形していきます。体毛の薄さなどから見て、人間は類人猿の幼形成熟と考えられて
います。さらに、大部分の生物ではビタミンCを体内で生成しますが、進化した人間
が生命に必須のビタミンCが作れないのは、ビタミンCを作り出す遺伝子に異常が
起きたためだと考えられています。
さて、連続共生説が生まれる前から、珊瑚と褐虫藻とか、豆科植物と根粒バクテリア
とか様々な共生が知られていますが、人間と大腸菌も一種の共生と言えます。かつて
人間は寄生虫や感染症などに悩まされていましたが、医薬の進歩によりこれらを一掃
すると、今度はアレルギーなどの膠原病や癌などが増加してきました。一説によると
清潔になり過ぎて、免疫機構が過剰反応したり逆に免疫力が弱ったためだと言われて
います。植物連鎖や植物の酸素生成は勿論ですが、どうやら人間も複雑な生態系の中
に組込まれているのは事実のようです。
分子生物学によれば、人間のアイデンティティは遺伝子にあることになりますが、
ゲノム解析の結果では30億塩基配列に書かれた有効な遺伝情報は3万種類程度と
予測より少なく、チンパンジーとの相違は約1%程度という結果となっています。
つまり、僕の机の上のように人間の遺伝子も進化に伴って新たな遺伝子を獲得し
ながら役に立たない古い遺伝子も持ち続けているように思えてきます。
ミトコンドリアにも遺伝子があると言いましたが、精子はミトコンドリアを持って
いませんから、ミトコンドリアは女紋のように母から娘へと、女系で受継がれられま
す。逆にミトコンドリア遺伝子を遡ることでルーツを探ることができます。その結果
辿り着く人類のルーツはミトコンドリア・イヴと呼ばれ、20万年前アフリカに居た
と言われています。現在世界の人口は約60億人ですが、皆このミトコンドリア・
イヴの子孫と言う訳です。ということは、僕のミトコンドリアDNAは、何万世代を
乗継ぎながら、ミトコンドリア・イヴのミトコンドリアDNAが現代に生き続けて
いると言うことができます。(長時間の内で変化はしていますが。)
同じようにミトコンドリア・イヴも人類と猿との共通の祖先より分化し、更に遡り
続ければ、約40億年前の全生物共通のルーツ、スパー・イヴとでも言うべき物に
辿着く筈です。即ち、生きとし生ける物は皆兄弟と言えるのです。
話は逸れますが、昔テレビで、鮭が河を命懸けで遡上しボロボロになりながら最期
の力を振り絞って産卵・受精して一生を終える、という映像に酷く感銘を受けたこと
を今でも鮮明に覚えています。鮭の一生は、生まれ故郷の渓流に帰って産卵すること
にあるように、人間の一生もその基本は生物として子孫を残すことにあるのだと、
思い知らされました。
両親から受継いだ僕の遺伝子は、既に息子達に受継がれましたので、僕の生物として
の使命はもう終わったのかもしれません。遺伝子にとってみれば、僕の体は次に
乗移るべき子孫を造り出すための物にしか過ぎなかったのかもしれません。
話を元に戻すと、生命の起原はウィロイドのようなRNAだけの物だったのが、自己
複製や結合を繰り返し、アミノ酸から蛋白質を作るようになり、更に細胞を形成し、
と言うように進化して行ったと思われますが、生命の基本が遺伝子にあるのなら、
遺伝子が自己複製を繰り返しながら、あるものは進化して行ったと言えます。
人間の身体は60兆個の細胞で出来ていますが、その総ては受精卵の複製であり、
同じ遺伝子が含まれています。しかし、次世代まで生き延びられるのは精子や卵子の
遺伝子だけで、それ以外の細胞は何れ死ぬ運命です。これを例えれば、身体の大部分
の遺伝子は働き蜂のようなもので、生殖細胞の遺伝子を次世代に残すためだけに
生まれ、それらが造出す各器官の細胞は蜂の巣のようなものと言えます。
単細胞生物ならもっと単純で、細胞分裂により順じ自己複製(clone)を作りながら
現在に至る訳ですが、細胞分裂した2つの個体では親子の区別はつきませんから、
何億年もある個体が行き続けていると言って良いでしょう。人間も細胞レベルでは
新陳代謝を繰り返しているので、脳細胞以外は生まれた時の細胞とすっかり入替わっ
ています。その間、遺伝子も新たな細胞にコピーされるのですが、コピーの度に劣化
し、終にはコピーが出来なくなって老衰すると言われています。(無性生殖生物では
DNAの構造が異なり、複製に伴う劣化が起きない)
何れにしても、僕の遺伝子も遥か太古より今まで形を変え進化しながら生き延びて
来た訳ですが、一方で生きた化石と呼ばれる様々な生物は、殆ど進化せずに何億年も
生き続けています。30億年前ストロマトライトを形成し、地球に酸素をもたらした
藍藻類は勿論、ウミユリ・シーラカンス・オウム貝・イチョウ・メタセコイアなどは
何億年前から殆ど進化せずに生き続けています。
逆に、進化を遂げ世界を制覇したかに見えた恐竜達が、絶滅しています。現在地球上
には、150万種類以上の生物が生きていますが、それも現在までに地球で生まれた
生物種の1%にしか過ぎないとも言われています。
では、何故生物は進化し続けたのでしょうか。言葉が話せる唯一の生物である人間
に訊いても、分かりません。多分、それは地球環境変化に備えて多様性を確保する
ためだろう、としか言いようがありません。即ち、様々な形態や生態を持つ多様な
生物を創り出しておけば、環境変化に対して全生物が絶滅する危険性を分散出来る
という戦略、ではないかと考えられます。幾らかの種が生き残れば、新たな環境に
対して適合する新種が生まれて、更に次の環境変化に備えるという考え方です。
実際、環境変化が起きた時期に進化が促進され、短期間に多くの種が生まれたとの
論証もあるようです。
進化論の周辺は、バイオテクノロジーの進展によって、新たな視野が拡がってきて
いますが、進化の謎は依然として明確になっていません。しかし、生物界の歴史や
相互の関係が明らかになるに従い、生物全体が複雑な1つのシステムを形成して、
40億年前に生まれた生命を維持し続けているのではないか、と思えてきたのでは
ないでしょうか。進化することも、進化を停めることも、夫々に与えられた天命で
あり、進化した人類も、何十億年も進化していない藍藻類も、共に生命を守り
続けているという意味では等価である、と言う東洋思想が、科学者達にも分かり
始めたのではと思えてきます。
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