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海岸動物拾い歩き記 32

伊良湖岬にルリガイとカツオノエボシなど

2002・9・4
田中利雄

 漂着物学会のメーリングリストを通して、9月2日に、鎌倉の山田海人氏から、由比ヶ浜の近況を伝える次のようなメールが配信されてきました。
 (前略)
 8月15日に大量のギンカクラゲが流れついて以来、まだまだ流れついていて、親指大のカツオノエボシもだいぶ流れついていました。うれしかったのは流れ藻の打ち寄せの中に泡状のものがあったので、つまみ上げると、出てきたのは500円玉クラスのルリガイ(英名はバイオレットシェル)でした。多くの海水浴客にもつぶされず完全な形で立派なものでした。あらためて探しましたら、米粒大のアサガオガイが2個体見つかりました。クラゲとともに現れる浮遊生活の美しい貝。浜歩きの楽しみの一つです。
 これを読んで、「伊良湖岬へ行ってみたら?」と、家内に言われたこともあって、さっそく月参りに出掛けました。
写真1 伊良湖岬は、愛知県の渥美半島の先端です。その内海側が西の浜です。ここで以前に、ルリガイ類を沢山拾ったことがありました。それは粕谷由美子先生から「拾いましたよ!」という電話で、その2日後に行ったのでした。それで、今回も西の浜へ向かったのですが、さっぱりダメでした。そのうえ、前日に雨が降って、小型の貝類もサッパリでした。微小貝は砂の下になり、見つからないのです。
写真2 午後は、外洋側の堀切へ行きました。ここで、昔、原田一夫先生がルリガイを拾ったことがあるとお聞きしていたからです。浜には、あまり漂着物も多くなく、綺麗サッパリという感じでした。でも、カメラ片手にテクテクと歩き始めました。流れついた浮子(あば)にエボシガイ類が付いています(写真1)。よく見ると殻の表面一面にはっきりと細かい成長線があります。これはカルエボシでした。数年ぶりにやって来たのです。
 と、100円玉ぐらいの丸くて白い銀貨のようなギンカクラゲに気づきました。先の方に行くといくらでも落ちています。淡褐色や褐色のものもあります(写真2)。これらはさしずめ、銅貨クラゲでしょうか。
写真3 拾いながら、ルリガイもあるのではないかと、眼を皿のようにして探しました。あ、ありました。テトラポットの横に2cmほどの紫色で薄質の、まあるい貝殻です。それは歓喜の一瞬でした。この紫色は、絶世の美女にも劣らぬ魅惑を秘めていて、体中の血流を最高潮にさせ、またホルモン系を沸き立たせるのです。ルリガイの波に浮くための仕掛けは殻の直径より長い浮き袋です。そんな筏の付いているものもありました(写真3右)。小さいのもあり、全部で6個拾いました。
 また、クラゲの仲間のカツオノエボシも10個ほど拾いました(写真3左)。これは、今回初めて見た物でした。魚の浮き袋のように膨れています。ですが、とても弱くて、注意深く取り扱わないと、どこかに穴が開いて、しぼんでしまいます。

 ギンカクラゲとカツオノエボシは強い刺毒を持っていて、とても危険です。ところがルリガイの仲間は、これらのクラゲ類を常食にしているのです。彼らは一つの生態系を形作り、食うものも食われるものもみんな一緒に、黒潮に乗って広い大洋を巡行しているのです。

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