書肆「天青石」-鉱石&ハーブ-  ファンタジー小説とエッセイのサイト
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●目次

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話


第1話「クリソプレーズ」

 いつのことだったのか、どんな店だったのか、もう思い出せない。けれど、色々な石の色の中で、あの明るい緑色が目に飛び込んできたのだけは覚えている。
 クリソプレーズ。
 アップルグリーンと称される色は、本当に綺麗で、いつまでもぼーっと見ていてしまう。研磨した石も、半透明な質感が出ていて好きだけれど、最初に店で見たものは、割ったばかりのような3〜4cmくらいのかけらだった。
 この綺麗な色、太陽光で退色すると、ヒスイみたいな色になるのだとか。試してみたいような気もするけれど、…アップルグリーンでなくなったら、やっぱり悲しい。

 

第2話「キラキラ」

 砕石や砂利を見ると、いつも小石拾いをしていた。…子供の頃の話である。
 それも、ただ拾うのではなく、子供なりにポリシーのようなものがあった。それは、「キラキラと光る」または、「光が透けて見える」というものだった。つまり、小さな石英の欠片が入っている石か、雲母が光る石、愚か者の金が入っている石などである。とにかく、キラキラが重要で、形はどうでもよかった。
 綺麗な石だと思って拾ったら、ガラスのかけらだった、なんてこともよくあったものだ。
 …部屋の片づけをしていると、お菓子の箱から、当時集めていた小石が転がり出てくることがある。今、見てみると、なんの 変哲もない砕石やゴマ石ばかりだ。でも、なぜか捨てる気にはならない。
 どこで拾ったのか覚えていないくらいだから、思い出が詰まっているというような物でもない。けれど、当時の小石拾いに費やした時間、キラキラに対するあこがれ、それを思うと、なんだかバカバカしくて、どうしようもなくて、残しておきたいような気になるのだ。
 …ただ、キラキラ光るものを拾い集めるのが好きだったなんて、カラスみたいだったんだなと思う。

 

第3話「セレスタイン」

 はじめてその石を目にしたのは、本の中でのことだった。
 まず、名前に心惹かれた。
 セレスタイン。―天の色、空の色の石。
 そして、本に載っていた結晶の集合体。
 淡い淡い色。…無色透明な結晶が重なり合って、淡い青色を生み出しているように見えた。
 これだ! と思った。
 いつまでも見ていたいと思った。
 一目惚れしていた。
 後で別の本を見ると、セレスタインは無色の石が普通と書いてあった。他に、乳白色、黄色、淡青色のこともあるという。
 この石を最初に名づけた人の手には、きっと、淡い青色のセレスタインがあったに違いないと思う。

 

第4話「カルセドニー」

 とある場所の別荘分譲地。いつまでも売れずに残っているその土地の後ろには、急斜面の小さな山がある。山の名は…K山。
 K山を切り崩して分譲地を造ったためか、土地と山の間に、土が流れ込んでできたような緩やかな斜面がある。
 一見、何の変哲もないような土の山。けれど、黄土色の斜面をよく見てみると、太陽光を反射する小さなモノがあるのに気付いた。
 それは、小さなカルセドニーの欠片。白色〜透明の、細かい結晶や房状の小片。
 この欠片はどこから来るのだろう?
 もともと土の中に埋まっていたのだろうか。K山から、雨などで流れてきたのだろうか。
 こんなに綺麗な欠片があるなら、上にはもっと大きな塊があるかもしれない。
 それを確かめたくて、K山の急斜面を登った。

 はじめは、急斜面だけれど、立って歩けた。
 そのうちに、ますます急になり、足元の土が柔らかく、足を進めてもずるずると下がるようになった。上へ進めないのだ。
 下がらないようにと思って木を掴む。けれど、急斜面に生えているからか、木々はみんな細く、掴むと根が持ちあがってしまう。草を掴んでも同じだ。
 しかたがないので、土にぐいぐいと手足を刺すようにして、這いながら直登した。
 山頂にたどり着いてみると、少し下ったくぼ地に、ゴロゴロと石が転がっているのが見えた。青みを帯びた黒石や、赤みを帯びた石。ハンマーで割ろうとしても、割れない。とても硬い。下にあったカルセドニーとは、少し違うみたいだ。
 山頂に行ってみて気がついたのは、小さな山なのに、ちゃんと登山道がある、ということだった。登山道は稜線をなだらかに下り、やがて植林された杉林の中に消えていく。
 苦労して急斜面を登ったのに…。
 カルセドニーの大きな塊を拾えるかもしれない、という子供の頃からの石拾いの夢にとりつかれて、真直ぐ登ってしまった。石に向かって猪突猛進…なんだか恥ずかしい。
 でも、また、いつの日か、夢が忘れられなくて、ばかみたいに山を登ったりするのかもしれないと思う。

 

第5話「ローズクォーツ」

 どうしてそういうことになったのか、そういう話になったのか、今となってはもう判らない。
 ずっと昔、小学生の頃のこと。

 学校近くの道路に立って、友達の女の子と2人で石の話をしていた。
 …彼女が石の塊の話をして、私がそれを信じなかったのかもしれない。欲しがったのかもしれない。
 とにかく、彼女は一旦家に帰り(学校に家が近かった)、大きな薄桃色の石の塊を持って来た。
 結晶ではなく塊状で、両手で抱えてやっと持てるくらいの大きさだった。
 そして、私の見ている目の前で、石をアスファルトに叩きつけた。
 石は割れて、小さな欠片が道路に散らばった。
 とても驚いた。
 もったいないと思った。
 彼女が家の人に怒られるんじゃないかと心配した。
 …そして、小さな淡い桃色の薄片をもらった。

 確かにもらった記憶はある。
 あの石はたぶん、塊状のローズクオーツだったはずだ。
 どんな欠片だったかも、石の割れた道路も、覚えている。
 それなのに、…どこを探しても、石の欠片が見つからない。
 どこかに紛れてしまったのだろうか。
 それとも……?

 淡雪のような…夢のような…子供の頃の思い出。