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●目次

第1話

第2話

 

 

 

 

第1話「滝」

それは、あまり人が通らない登山道の途中にあった。

雪解け水が流れる渓流。
すぐ脇を、ぬかるんだ土の道が続く。
道端には、白や淡い桃色の小花を咲かせるニリンソウ。
大きめの水溜りは、産み付けられたばかりのカエルの卵でびっしりだ。
シダや木々の若葉が目にまぶしい。

川沿いを歩き、石の上を伝って川を渡るのを繰り返して、傾斜のある土の道を登っていく。
途中で休みながら1時間くらい歩いただろうか。
ふいに、滝が姿を現した。
噴出す水が、岩肌にぶつかって跳ね返りながら、滝壷に降り注ぐ。
水が滝壷に落ちるまでに、7回折れているといわれているけれど、すべてを数えることはできなかった。
岩肌に水が当たるからだろうか。落差を一気に落ちる滝のような轟音が聞こえない。

下手な写真をとろうとして、夢中でカメラを向けた。

帰ってきてから後悔した。
もっと、レンズ越しではなしに、滝を見ればよかった。
同じ滝を見ても、日によって水量は違うだろう。いずれ形も変わってしまうかもしれない。
もう一度、山道を登って見に行っても、もう、同じ感動は味わえないような気がする。

山道を登りたくない言い訳みたいだけれど、なぜだか、そんな予感がするのだ。

 

第2話「護岸」

 子供の頃に住んでいた家は、川に沿った住宅地にあった。
 大きなクルミの木や柳の木が川辺に生えて、川辺と家との間の低地には、春には山菜のウルイも生えた。
 川の水の少ないときには、クルミの木の横の藪をくぐって水際へでる。
 白茶けた土。すぐ目の前は水。川の向こうに、一面に広がる稲田。
 春には藤の花が咲き、夏にはホタルが居た。
 そこだけ別の世界のような、日常とはかけ離れた場所に思えた。

 けれど。
 秋。
 台風で川が増水し、茶色く濁った水が溢れた。
 家のほうまでは来なかったけれど、低い部分に水が溜まった。
 夜遅く、大人たちが外で、水を汲み出す相談を大声でしていた。
 それは、たった1回だけのこと。
 なのに、護岸工事が始まった。
 お気に入りだった場所は、あっという間に、コンクリートで固められた土手に変わった。
 クルミも藤の木も消えて、川辺は見通しが良すぎるくらいにだだっ広くなった。
 工事したての年は、コスモスやオオマツヨイグサが土手で咲き乱れていた。
 2年目は、何だか種類のわからない、地面を這って広がる太い茎の植物が繁殖していて、そのうねうね具合が怖かった。
 3年目。コスモスも咲かず、草だけが茂る土手になっていた。
 工事してからホタルは、2度と来なかった。