足跡と少女

 沈みかけた太陽が雪山を金色に輝かせている。
 住宅街の公園で遊んでいた子供たちが一人、また一人と家へ帰っていく中、幼い少女がぽつりと公園の隅にいた。灰色のスカートが濡れるのも構わずに、雪の上にぺたりと座りこんでいる。
 少女は、赤い手袋をはめた手を握りしめて、雪面へ丸い窪みをつけた。それから、指を広げて、指先で小さな穴を四つ押す。これで、動物の足跡が一つ完成。
 少女は顔を上げて、公園の中を見回した。
 噂話にふけっていたおばさんたちも、遊んでいた子供たちも、もう誰もいない。
 少女はため息をつくと、立ち上がった。誰も踏んでいない柔らかな雪面に、黒いピカピカの靴で小さな跡をつけながら歩いていく。
 少女はふと立ち止まると、雪面を見つめて目を輝かせた。
 本物の動物の足跡が、公園を横切って点々と続いている。
 少女は足跡を辿って、歩き始めた。
 フェンスの穴を潜って、室外機の並ぶ集合住宅の裏を駆け抜けて、物干し竿の下を潜り、足跡の横に靴跡をつけていく。
 息を弾ませてアパートの階段下を通り抜けた少女は、ぴたりと立ち止まった。
 目の前には、雪の消えた黒々としたアスファルトの道。足跡はどこにも見えない。どこかの家から漂う香ばしいシチューの匂い。
 少女は濡れて重くなった手袋を外すと、かじかんだ指先へ息を吹きかけた。
 その時、ドアの開く音と共に、アパートの裏から白い塊が飛び出した。白い小さな猫だ。
 猫は道路へ走り出ると、ちらりと振り向いて、やぶ睨みの黄色い目で少女を見つめる。
 少女は弾かれたように、猫を追って走り出した。
 白猫は、まるで競争でもするように、少女の前を素早く駆けていく。
 やがて、真っ直ぐに道を駆けた後、猫はひょいっとブロック塀に飛び上がると、今度は振り返りもせずに雪に包まれた庭へと飛び降りた。
 薄明の空の下、庭は淡い薄紫一色に塗りこめられて、木立も影も白猫も見分けがつかない。
 少女は肩で息をしながら、恨めしそうに庭を見つめた。

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