チョークと少女

 晴れた空の下、人通りのまばらな道路に幼い少女が座っていた。足元には赤と黄と白の真新しいチョーク。
 水色のスモックの下から、プリーツがとれかけた紺色のスカートがのぞいている。
 少女は腕を伸ばして、アスファルトの上に次々と赤いチョークで絵を描いていった。
 渦巻き型の太陽。チューリップの花。エントツつきの家。イチゴとリンゴ。
 少女はチョークを黄色に持ち替えると、花の周りにチョウチョを、家の上に星と三日月を描いた。
 少女は手についた粉をスモックにこすり付けて、小さくため息をついた。
 一番短くなったのは赤いチョーク。次に短いのは黄色いチョーク。白いチョークはまだ長いままだ。
 自動車がゆっくりと少女の前を通り過ぎる。
 車を見送った少女は、弾かれたように白いチョークをつかんで立ち上がった。
 道路の端にしゃがみこみ、アスファルトにチョークを擦りつける。
 少女はしゃがんだ姿勢のまま、少しずつ前進して道路を渡りながら真っ直ぐに線を引いた。
 つづいて少女は立ち上がると、自分で引いた線から二歩離れた場所に、もう一本の線を引いていく。
 今度は、平行な二本の線の間に直角に何本も線を引いていく。
 西に傾いた太陽が家々の壁を橙色に染め上げていくなか、路面に白い梯子状の線が出来上がった。
 少女は首を傾げると、すっかり短くなったチョークで、線の横に「おおだんほどう」と書いた。
 立ち上がって満足そうに微笑むと、短くなった白いチョークをポイっと捨てる。
 すると、まるでチョークを追いかけるように、一匹の茶色い猫が道路に飛び出した。
 カギ型の長い尻尾を自慢げに立てて、少女の描いた横断歩道を悠々と歩いていく。
 続いて黒ぶち猫が飛び出した。少女が目を見開いて見つめる中、灰色、トラ縞、白猫、次々と様々な猫が現れて、ぞろぞろと横断歩道を渡っていく。
 少女は三十匹ほどの猫が渡り終えるのを見送ると「おおだんほどう」の横に、赤いチョークで「ネコせんよう」と書き添えた。

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