階段と少女

 雲ひとつない青空。陽光がさんさんと降り注ぐ中、一人の少女がとぼとぼと歩いていた。
 デニムのミニスカートに白いカットソー。赤いランドセルを背中から浮かせるように背負って、熱せられたアスファルトを踏んでいく。
 足元からゆらゆらと陽炎が立ち昇り、少女は日焼けした顔に滲む汗をハンカチで拭いた。
 やがて、少女は二階建てのアパートの前へたどり着いた。
 コンクリートの通路と階段は、屋根の下で日陰になっている。
 少女は急いで階段へ駆け寄った。
 階段の中ほどで、コンクリートの床に赤茶色の猫がべったりと張り付くように伏せている。全身が赤茶で、尻尾だけが白と茶色の縞模様だ。
 少女は猫の休んでいる段を跨いで二階へ上っていく。猫は緑色の目を細めて、少女を見送った。
 少女は玄関ドアの前で息を整えると、ノブを回した。びくとも動かない。
 少女はすぐさま、ベルを鳴らした。しばらく待っても、何の物音もしない。
 少女はため息をつくと、ランドセルを玄関の前へ置いて、階段へ戻った。
 猫は姿勢を変えて、四肢を投げ出すようにして伸びをしている。
 少女は猫の上の段に座って、先ほど歩いた道路を見つめた。
 時おり車が通り抜けるだけで、出歩いている人もいない。辺りは静かだ。
 猫はいつの間にか起き上がって毛繕いを始めた。
 少女はちらりと猫を見ると、膝に顎をのせて、道路に視線を戻した。
 やがて、家々の屋根の先、線路脇の防風林の向こうに、淡いオレンジ色に染まった空が見えた。
 生ぬるい風が吹き、気温が少しずつ下がってくる。辺りは急に賑やかになった。
 サンダルを履いて鉢植えに水をかける老婆。洗濯物を取り込む女性。
 犬の散歩をする老人。網戸越しに聞こえてくる水音と食器のぶつかり合う音。
 やがて、魚を焼く匂いが漂ってきて、猫と少女は顔を上げた。
 少女のお腹が低く鳴る。猫は顔をあげてちらりと少女を見つめた後、髭を震わせて欠伸をした。
 少女は顔を赤らめて、ごまかすように猫の背中を撫でた。

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