電車と少女

 空には黄色に染まった雲の峰。
 刈り取られたばかりの麦畑の中を、灰色の子猫を抱いた少女が歩いていた。Tシャツとショートパンツから、陽に焼けた伸びやかな手足がのぞいている。
 少女は麦畑を横切って狭い一本道に出ると、踏み切りに向かって歩きはじめた。
 少女の腕の中で揺られながら、子猫は耳を小刻みに動かしている。
 少女が踏み切り前に着いたとき、甲高い警報音と共に遮断機がおりた。
 子猫は音に驚いたのか、急に少女の腕の中で暴れはじめた。少女が押さえつけようとすればするほど、腕の中から逃れ出ようとする。
 少女の腕に小さな引っかき傷を一つ。
 子猫は少女の腕の中を飛び出した。柔らかく地面に降り立つと、遮断機を潜って線路へと駆けていく。
 少女の悲鳴は電車の音にかき消された。
 二両編成の電車が風と共に通り過ぎたとき、子猫の姿はどこにもなかった。
 線路の上にも、道路にも、何も残っていない。
 少女は暗くなるまで子猫を探し回って、泣きながら家へ帰った。


 真夜中。少女は闇の中でふと目を覚ました。
 ベッドから降りて、子猫の姿を求めて闇の中を歩き回る。ミルクの入った餌皿の傍にも猫用トイレにも、子猫の姿はない。
 少女は泣きながら家の外へ飛び出した。
 街灯に照らされて、線路沿いの防風林が黒々と見えている。
 少女は防風林へ向かって駆けだした。
 濃い闇の中、絡まる蔦や下草をかきわけながら進んでいく。
 線路と林を隔てるフェンスをよじ登って、少女は線路脇の砂利へ降り立った。
 少女が子猫の名前を呼んだ途端に、眩い光が迫ってきた。
 光はやがて、煌々と灯りをつけた電車に変わった。窓から強い光が放たれて、車両全体が眩く輝いている。
 電車は音もなく少女の前で停まり、窓から白い腕が灰色の毛に覆われた塊を差し出した。
 少女が目を輝かせて受け取ると、電車は音もなく走り去った。


 少女が顔を寄せると、灰色毛皮の子猫は小さな甘えた鳴き声をあげて、少女の涙の痕を舐めた。

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