木枯らしと少女

 刷毛でひいたような白い筋雲が、幾つも青空を流れていく。
 イチョウ並木の道を、コートに赤いマフラー姿の少女が歩いていた。
 短い髪は天然パーマ。ポケットに手を入れて、うつむいて歩いている。
 少女は、どこからか聞こえてくる鈴の音に立ち止まった。
 道端に草が生えている。細い茎から垂れ下がるように赤い実が一つ、黄緑色の実が二つ。スズランの実だ。
 少女は茎を手折ると、握りしめて歩き出した。
 実がゆらゆらと揺れている。鈴がリンリンと鳴り響く。少女が足を止めると、鈴の音もぴたりと止む。
 少女は首を傾げながら急な坂を下りて行った。
 枯れた蔦の絡まる塀の前を通って、油の臭いが漂う弁当屋の裏を抜けて。
 砂利の駐車場を横切って、長屋の低い軒下を通って。
 鈴の音は、まるで追いかけてくるみたいにずっと聞こえている。
 少女は酒屋の古い看板の下を潜って、狭い路地に入った。
 積み上げられた木箱の脇を抜けて、茜色の陽射しが注ぐ中を歩いていく。
 ひときわ高く鈴が鳴って、少女は振り向いた。
 木箱の陰から、猫の影が伸びている。
 少女は微笑むと、茎を猫じゃらしのように振りながら歩き出した。
 路地を抜けて土手へ出る。冷たい風に、少女はマフラーを引っぱりあげた。
 澄んだ鈴の音に、少女は顔をあげた。
 風に揺れるススキの中に、二本足で立ち上がった驚くほど大きな黒猫がいる。
 少女は思わず、スズランを取り落とした。
 その刹那、鈴の音が一度だけ高く鳴り、突風が吹きつけた。
 息苦しいほどの風圧に、少女はきつく目を閉じた。飛ばされないようにマフラーを押さえて風をやり過ごす。
 やがて風が止み、少女は目を開けた。
 猫はもういない。
 少女はため息をつくと、もつれた髪を指で梳いた。その途端に、軽やかな音を立てて鈴が転がり落ちた。
 拾いあげた少女はにこやかに笑みを浮かべた。
 緑色の紐に、陶器製の小さな赤い猫が一つ、小さな金色の鈴が二つ付いている根付だ。
 少女は根付を握りしめて、元気よく駆け出した。

BACK