銀幕と少女

 灰色の空から大粒の雪が舞い落ちる。
 オーバーコート姿の少女は、ドアの前に立って空を睨んだ。
 ため息をつくと、家の中へ駆け戻る。赤い帽子をかぶり、マフラーを巻いてミトンをはめた。
 次に、コタツ布団をめくり上げて、中で丸くなっている黒い仔猫を引っ張り出す。仔猫は目を細くあけて、小さな鳴き声をあげた。
 少女は温かい仔猫をコートの中の胸元に入れて、下から手で支えると、勢い良く外へ出た。
 次々と降り注ぐ雪の中を、少女は白い息を吐きながら駆けていく。
 窓硝子の割れた空き家の前を通って、古い洋館の前を走りぬけて。
 砂利の駐車場を横切って、狭い路地を突っ切って。
 少女の頬は、林檎のように真っ赤だ。仔猫はコートの中で大人しく抱かれている。
 大きな看板を掲げた映画館の前で、少女は足を止めた。
 受付で券を買うあいだ、コートの中で仔猫がもぞもぞと動いた。少女はお釣りを貰うのももどかしく、中へと急ぐ。
 飴色の灯りに照らされた誰もいない待合室を通って、重い扉を押し開ける。
 上映は既に始まっていた。スクリーンには、古びた洋館が映し出されている。
 少女は身体を屈めて通路を進み、ようやく見つけた空席に腰を下ろした。
 暗い嵐の場面に変わって、辺りは闇に包まれた。
 その途端に何かが目の前を、少女の膝を踏みながら素早く横切った。
 少女は目を見開いて辺りを見まわした。けれど、隣の人の顔すら見えない。
 すぐ近くで聞こえる甘えたような鳴き声に、少女はあわてた。けれど、コートの中の仔猫は眠っているようだ。
 少女は首を傾げて再び辺りを見回した。
 大きな音が鳴り響き、スクリーンいっぱいに白い光が映し出された。
 隣の女性の抱えるバックの中から尖った耳が覗いている。
 その向こうの男性の膨らんだジャンバーから白い前足が出ている。
 老人の上着の中から長い尻尾が出ている。
 前の席の背もたれからは、縞々の背中がはみ出ている。
 すぐにまた場面が変わり、人々の顔も猫の姿も闇の中に消えた。

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