地下道と少女

 白く塗りこめられた空の西側で、黄色い太陽がじんわりと滲んでいる。
 赤いランドセルを背負った少女は、長い黒髪を揺らしながら雪道を歩いていた。
 蜜柑色のミトンをはめた手を元気良く振って、シャーベットのような雪を踏みしめて行く。
 やがて少女は大勢の人々が行き交う歩道に出た。
 人の流れに乗って、古びた煉瓦造りのアーチを潜り、濡れた石造りの階段を降りていく。
 地下通路は、天井から吊り下げられた裸電球で、ぼんやりと飴色に照らしだされていた。
 歩き出した少女は、ふと足を止めた。人々が足早に行過ぎる中、目を大きく見開いて左右を見回す。
 壁際の暗がりで、金色の瞳が光った。
 少女は息を呑んで、魅入られたように金の瞳を見つめた。
 輝きはすぐにかき消えて、少女は目を凝らした。
 通路を歩く人々の間を縫って小さな猫が現れた。背中側がキジトラ模様で、腹部と四肢が白い。
 猫は金の瞳を細めて少女を見つめると、甲高く一声鳴く。
 少女と猫は、まるで鳴き声が合図だったかのように同時に駆け出した。
 先を行く猫は、行き交う人々の股下を潜り抜けながら駆けて行く。
 少女はランドセルをカタカタと鳴らせながら追いかける。
 角を曲がって、煤けたショーウィンドゥの並ぶ前を通って。
 古びた椅子に座って談笑する老人達の前を駆け抜けて、濡れている階段を駆けおりて。
 猫はどんどん先を行き、少女はだんだん離される。
 外へ続く階段から降りてきた会社帰りの一団とすれ違った少女は、ぴたりと足を止めた。
 猫の姿がない。
 首を傾げた少女の前で、初老の男がコートの肩に厚く積もった雪を払い落とした。
 少女ははっとして、足元を見回した。白い雪の塊が幾つも落ちている。
 その塊の一つがぶるぶると震えて、キジ白猫が顔を出した。
 身体の雪をふるい落とし、白い前足をぺろりと舐めると、ゆったりとした動作で少女の方へ歩み寄る。
 少女がため息をついてしゃがみこむと、猫は少女のランドセルに爪を立てて十個目の傷を刻んだ。

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