サンタさんの約束

「あの子ったら、今日急にプレゼントを買わなきゃって言い出したのよ」
「プレゼント?」
「そう。サンタさんへのプレゼントなんだって」
「へぇ〜、サンタさんにねぇ」
「サンタさんはいつもプレゼントを配ってばかりで大変だから、おこづかいでお返しのプレゼントをあげるんだって言うの。
お礼の手紙を書けばいいでしょうって言ったんだけど、聞き入れなくって」
「へぇ〜。いいじゃないか、夢があって。思いやりのある子に育って嬉しいじゃないか」
「でも、困るわ。買ってきた手袋とマフラー、どこかに隠しておく?」


 なんかほっぺが冷たい。そういえば、サンタさんが入りやすいように窓のカギもカーテンも開けて寝たんだっけ。
 サンタさん……?
 ぼくが飛び起きると、半分開いた窓の前に知らないおじさんがびっくりした顔で立っていた。後ろから街灯に照らされて、片手にゴミ袋のような黒いビニール袋を持って、全身真っ黒な服を着ているのが見えている。
 だれ? ぼくは眠い目をこすった。
 おじさんはいそいでポケットに手を突っこむと、よれよれの赤い帽子を取り出して、頭にかぶった。
「サンタさん?」
 ぼくがひそひそ声できくと、おじさんはこっくりとうなずいて、窓をそっと閉めながらかすれごえで言った。
「ぼうや、まだ起きていたのかい?」
「うん」
 ぼくはサンタさんに会えたのが嬉しくて、まくらもとにおいておいた紙袋を持ち上げた。
「だって、サンタさんにプレゼントがあるんだもの」
「プレゼント?」
 サンタのおじさんは、不思議そうに首をひねった。
「うん。サンタさん、いつもプレゼントをありがとう。ぼく、お礼のプレゼントを買ったんだ」
 ぼくが袋をわたすと、サンタのおじさんは顔を赤らめた。サンタさんの目のふちで、何かががキラリと光ったように見えた。
「ぼうやはいい子だね」
 サンタのおじさんは、もごもごと言った。
「お外は寒いから、マフラーと手袋だよ。サンタさんが今している手袋より、ぼくの買ったのが、きっとあったかいよ」
 ぼくはサンタのおじさんの、軍手みたいな手袋を見ながら言った。
 サンタのおじさんは紙袋をあけて、首に白いふわふわのマフラーを巻いて、手に手袋をはめると、顔を赤くして言った。
「ありがとう。あたたかいよ」
「良かった」
 ぼくはほっとすると、首をかしげた。
「ねえ、サンタさんはどこに住んでいるの? いつもは何をしているの?」
 サンタのおじさんはちらりと窓の外を見つめると、遠くをみつめるような目をして言った。
「ずっと北の、寒い、寒い国だよ」
「ふ〜ん。そしたら、そんな格好じゃ風邪ひいちゃうよ。もっとふかふかの赤い服を着てなきゃ」
 ぼくが言うと、サンタのおじさんは悲しそうに言った。
「おじさんはね、びんぼうなサンタクロースだから、赤い服が買えなかったんだ」
「え? それなのに、みんなにプレゼントをあげてるの? そしたら、大変だよ。ぼく、プレゼントもらうの、がまんする!」
 ぼくが決意して言うと、サンタのおじさんはまた泣きそうな顔をして、かすれ声で答えた。
「……ぼうやはいい子だから、プレゼントをあげるよ。でもね、おじさんに会ったことは秘密だ」
「どうして?」
 ぼくがきくと、おじさんは悲しそうな顔のまま言った。
「サンタクロースはね、他の人に姿を見られちゃいけない決まりなんだ。だから、ぼうやが黙っていてくれないと、おじさんはサンタクロースをやめなきゃないかもしれない」
「そうだったの!?」
 ぼくはびっくりして、おもわず大きな声を出した。サンタのおじさんはすばやく左右を見回すと、小声で言った。
「静かに。だから、誰にも言わないって、ぼうやとおじさんの約束だよ」
 ぼくは大きくうなずいてひそひそと言った。
「うん。誰にも言わない」
「よおし。それじゃあ、プレゼントをあげるからね。ベットに横になって、目をとじていてごらん」
 サンタのおじさんの言葉に、ぼくはうなずいて布団にもぐりこむと目を閉じた。ぼくの胸の大きなドキドキに重なって、がさごそとビニール袋の中でプレゼントのぶつかり合う音がする。
 その時、階段がぎしぎしと鳴って、廊下から足音が聞こえた。
 入ってきちゃだめだよ、パパ。ママ?
 さっと冷たい風が吹き込んで、カーテンレールがカラカラと音を立て、窓がガタガタと鳴った。
「ヒロキ?」
 ママが小声で廊下から呼びかける。
 だめだよ、ママ。
 ぼくがそっとうす目を開けて見ると、サンタのおじさんの姿はなかった。窓はぴったりと閉まっている。
 あれ、プレゼントは?
 ぼくは起き上がって、窓のそばへ行った。床に何か落ちている。拾いあげると、鮮やかな赤い色の紙に包まれて、金色のリボンがかかった、小さなプレゼントだった。
 良かった。ちゃんとプレゼントを置いていってくれた。
「ヒロキ? 起きているの?」
 振り返ると、ママが戸口に立って中をのぞきこんでいた。
 ぼくはリボンにさしてあるカードに気づくと、頭がカーッと熱くなって、ありったけの大声で叫んだ。
「ママ!!」
 ママの後ろからパパも一緒に部屋へ入ってきた。
「ヒロ、起きていたのか」
 と、パパが頭をかきながら言う。
「話し声が聞こえたような気がしたのよ」
 と、ママ。
 ぼくはもらったプレゼントを頭の上に持ち上げると、くやしくて悲しくて叫んだ。
「二人とも、どうして起きているのさ! サンタさんがびっくりして、プレゼントをまちがっちゃったじゃないか!」
 ママとパパはびっくりして、顔を見合わせている。
「ほら、見てよ。これ、他の子へのプレゼントだったんだよ!」
 ぼくは、「ケイちゃんへ」と書かれたカードを二人に見えるように差し出した。
「どれどれ、見せてごらん」
 パパはそう言いながら、ぼくの手からプレゼントとカードを取り上げた。
「これ、どこから来たんだ?」
 パパはプレゼントをひっくり返しながら言って、部屋の中をみまわした。
「あら、カーテンが窓ガラスに挟まっているわ!」
 ママがびっくりしたように言って、窓にかけよった。
「だれか来たのか?」
 パパもあわてて窓辺に行くと、窓を開けて挟まったカーテンを引っ張り出して、上半身を乗り出すようにして窓の外を見つめた。
「だから、言ったじゃないか。サンタさんが……」
 ぼくはそう言いかけて、あわてて口をとじた。忘れてた。サンタさんと約束したんだった。言わないって。
「サンタさんはどんな人だった?」
 パパがひどくおどろいた顔をしながらきく。
「ふつうだよ」
 ぼくがそっけなく言うと、パパはまたママと顔を見合わせた。
「ヒロキ、窓を開けていたの?」
 ママが窓のほうをみつめながら言う。
「うううん。カーテンとカギを開けておいただけ」
 ぼくが言うと、ママはブルブルと身体をふるわせて言った。
「カギはしめなきゃだめよ。それから、カーテンもね」
「だって、カギを閉めたらサンタさん入ってこられないよ。まちがえたのに気がついて、戻ってくるかもれないのに!」
 ぼくが口をとがらせて言うと、ママはパパと顔をみあわせた。
「わかった。でも、サンタさんもまた窓から入ってくるのは大変だろう? だから、プレゼントを玄関の外においておいたら、サンタさんも交換しやすくていいんじゃないかな?」
 パパがゆっくりと言う。僕はフマンだったけれど、ママがサンセイしたから、ぼくは仕方がなくカギを閉めて、布団にもぐりこんだ。


「結局、あのプレゼントはそのままだったのね」
 忙しく台所を動き回りながら女が言う。
「そう。だから、とりあえず隠しておいたよ。それから、ヒロへのプレゼントはちゃんとカードを添えて枕元に置いておいたから」
 男はそう言いながら、パソコンを起動した。
「夕べはほんとにびっくりしたわ。いったい……」
 女の言葉を遮って、男はモニターを覗きこみながら裏返った声で言った。
「あっ。このニュース、家の近所じゃないか」
「なあに?」
「まさか……」
〈ニュース速報−12月25日6時00分
25日未明、都内の……区で、カギの開いていた窓から子供部屋へ侵入する行為を繰り返した男が逮捕された。
犯人は都内に住む四十代の男……で、リストラで自分の三人の子供たちにプレゼントを買う金がなく、他の子供たちのプレゼントを盗みに入ったと供述している。
男は前日のうちにピザ宅配店から盗んだサンタクロースの衣裳を着て……〉

-end-

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