ミ ステリー文庫(2000年)
ミステリーを中心とした独断的感想 。
「面白ければ何でもOK」というのが信条。

書名 著者 コメント 年月
岡山女 岩井志麻子 暗い怪奇談 00.12
百年の恋 篠田節子 ドタバタユーモア結婚物語り ★★★ 00.12
あふれた愛 天童荒太 心が疲れている人たちの愛情物語り ★★★ 00.11
神様がくれた指 佐藤多佳子 心暖まるスリ師の小説 ★★★★ 00.11
アンテナ 田口ランディ 奇抜で性的な自立小説 ★★★★ 00.11
ライディ ング・ザ・ブレット スティーブン・キング キングならではの中編ホラー ★★★ 00.11
0番目の男 山之口洋 星新一風SF ★★ 00.11
プラナリア 山本文緒 ちょっと飛んでる恋愛短編小説 ★★★ 00.11
八月の博物館 瀬名秀明 がんばれ瀬名秀明 00.11
puzzle 恩田陸 謎解きミステリー ★★ 00.11
黄泉がえり 梶尾真治 泣けるファンタジックホラー? ★★★ 00.10
雪月夜 馳星周 ダークパワー小炸裂のバイオレンス小説 ★★ 00.10
Alone  Together 本多孝好 子供も大人も悩んでるんだミステリー ★★★ 00.10
ジャンプ 佐藤正午 彼女が突然失踪した訳は? ★★★ 00.10
細菌人間 筒井康隆 小学校低学年向けのSF ★★ 00.10
脳男 首藤瓜於 鈴木という登場人物が異彩を放つミステリー ★★★ 00.10
魚籃観音記 筒井康隆 メタ虚構な短編集 ★★★★ 00.10
海底密室 三雲岳斗 SFチックな正統派ミステリー ★★★ 00.10
鵺姫真話 岩本隆雄 タイムスリップ異世界ファンタジー 00.9
光源 桐野夏生 個性豊かな映画人たちの人間物語り ★★ 00.9
13のエロチカ 坂東眞砂子 非日常の中のエロス ★★ 00.9
う しろのしょうめんだあれ 鎌田敏夫 素っ飛ばしホラー ★★ 00.9
新宿鮫 風化水脈 大沢在昌 鮫島刑事 カッコよすぎるぜ! ★★★★★ 00.9
王女グリンダ 茅田砂胡 幻のデルフィニア戦記 ★★★★ 00.9
虚無回廊 3 小松左京 これぞSF! ★★★★ 00.8
骨の袋 スティーヴン・キング ホラータッチのラブストーリー ★★★ 00.8
パヴァーヌ キース・ロバーツ ノスタルジックな異世界ファンタジー ★★ 00.8
あやし〜怪〜 宮部みゆき 江戸怪談話し ★★ 00.8
P.I.P. 沢井鯨 妙にリアルな監獄小説 ★★★★ 00.8
麦の海に 沈む果実 恩田陸 まさに恩田陸ワールド ★★★★ 00.8
オウム帝国の 正体 一橋文哉 オウム絡みの事件のノンフィクション ★★★ 00.8
聖土 黒岩健 パクリのモダンホラー ★★★ 00.8
星虫 岩本隆雄 青春ファンタジー ★★★★ 00.7
21世紀  知の挑戦 立花隆 最新科学技術の啓蒙書 ★★★ 00.7
古惑仔 チンピラ 馳星周 ちょっとパワー抑えぎみの短編集 ★★ 00.7
東電OL殺人事件 佐野眞一 我田引水的ルポルタージュ 00.7
とんかつ奇々 怪々 東海林さだお 庶民的エッセイ ★★ 00.7
ネバーランド 恩田陸 ホラー&ミステリータッチの青春小説 ★★★ 00.7
ミッド ナイト イーグル 高嶋哲夫 スリルとアクションの死闘 ★★★ 00.7
M.G.H  楽園の鏡像 三雲岳斗 SFタッチのミステリー ★★★★ 00.7
ローズガーデン 桐野夏生 女探偵「ミロ」を主人公にした短編集 00.7
コンセント 田口ランディ ゆるやかな狂気と内面世界を描写した不思議な小説 ★★★★ 00.7
予知夢 東野圭吾 著者のこだわりが伺える科学的推理小説 ★★ 00.6
人体再生 立花隆 人体再生技術をテーマにした対談集 ★★ 00.6
神祭 坂東眞砂子 非日常的短編集 ★★★ 00.6
バ ンド・オブ・ザ・ナイト 中島らも ジャンキー小説 ★★★ 00.6
おやじ丼 群ようこ 悲しくも愛すべきおやじの生態 ★★★ 00.6
タイムライン マイクル・クライトン スリルとアクションのパラレルワールドSF 00.6
無間地獄 新堂冬樹 闇金融を舞台にした悪漢小説 ★★★ 00.6
と んち探偵一休さん 金閣寺に密室 鯨統一郎 とんちミステリー ★★ 00.6
天使のウインク 橋本治 橋本治にしては真っ当な文化批評 ★★ 00.5
雄呂血 冨樫倫太郎 ノンストップ伝奇物語 ★★★★ 00.5
一瞬の光 白石一文 真っ当な恋愛小説 ★★★ 00.5
聖の青春 大崎善生 若くして他界したプロ棋士村山の壮絶な青春記 ★★★★ 00.5
信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス 宇月原晴明 トリップ度の高い伝奇小説 00.5
ストロボ 真保裕一 心にしみいる短編集 ★★★★ 00.5
猫の地球儀 秋山瑞人 猫好きに贈るファンタジックSF ★★ 00.5
ぼんくら 宮部みゆき 江戸人情話ミステリー ★★★ 00.5
始祖鳥記 飯嶋和一 突飛な時代もの青春記 ★★ 00.4
フレームシフト ロバート・J・ソウヤー ミステリータッチのSF ★★★ 00.4
嘘をもうひとつだけ 東野圭吾 もの悲しくなるミステリー短編集 ★★★ 00.4
ヘッド・ダウン スティーヴン・キング むかしのキングは面白かった 00.4
レディ・ガン ナーの冒険 茅田砂胡 短かめのためか本領を削がれているか ★★★ 00.4
虚の王 馳星周 今の若者の不思議さをテーマにしたバイオレンス小説 ★★★★ 00.4
月の裏側 恩田陸 ホラータッチのSF 恩田陸は今が旬 ★★★★ 00.4
媚薬 図子慧 ちょっと耽美的でちょっとグロテスクなホラー ★★★ 00.4
エリコ 谷甲州 エロチックサスペンスSF ★★ 00.4
マン ハッタンの怪人 フレデリック・フォーサイス なんでフォーサイスが? ★★★ 00.4
水霊 ミズチ 田中啓文 文章に勢いのあるホラー ★★★ 00.3
カーラのゲーム ゴードン・スティーブンズ 老舗イギリス産の冒険小説 ★★★ 00.3
脳のなかの幽霊 V.S.ラマチャンドラン他 目からウロコの認知科学ノンフィクション ★★★★ 00.3
エンガッ ツィオ司令塔 筒井康隆 筒井康隆はスゴイ! ★★★★ 00.3
やみなべの陰謀 田中哲弥 正しいSF少年向けドタバタ時間SF ★★★ 00.3
い かしたバンドのいる街で スティーヴン・キング 大御所久々の短編集 ★★ 00.3
どすこい(仮) 京極夏彦 有名ミステリーのパロディー ★★ 00.2
とらわれびと 浦賀和宏 ホラータッチのミステリー ★★★ 00.2
オルファクト グラム 井上夢人 ひさしぶりだから五個 ★★★★★ 00.2
陰陽寮(参)丹波死闘篇 冨樫倫太郎 伝奇エンターテイメントの中継ぎ篇 ★★★ 00.2
遺品 若竹七海 こぢんまりしたホラー ★★★ 00.1
道祖土家の猿嫁 坂東眞砂子 明治時代の女性は大変! 00.1
李歐 高村薫 変な友情物語 00.1
悪意 東野圭吾 あんまり悪意を感じない推理小説 ★★★ 00.1
サイエンス・ミレニア ム 立花隆 科学ノンフィクション ★★★ 00.1
第4の神話 篠田節子 流行作家の真実の姿は? ★★ 00.1
エ ンディミオンの覚醒 ダン・シモンズ SFの金字塔完結編 ★★★★★ 00.1
シェエラザード 浅田次郎 戦記ミステリー ★★ 00.1

岡山女 岩井志麻子 角川書店 1,300円 2000/11/30発行
暗い怪奇談度:★★
霊能者度:
岡山土着度:
霊能者「タミエ」のもとに訪れる、市井の人々の陰惨な出来事を綴った、連作短編集。
陰湿で暗い事件を、タミエが霊視しながら解決?していくという構成だが、とりたたて珍しくもなく、また怖いわけでもない。ただ陰湿で行き場のない思いだけ が行間から漂う。なんとも後味の悪い怪奇談。
会話の間に描写される情景も、じゃまで読みづらい。
前作「ぼっ けえ きょうてえ」でも感じたが、作者にぴたりの題材を選べば、かつての坂東眞砂子のように大成するであろう。
ただフィーリングの問題もある。
自分は「牧野修」のホラーはどうにも受け入れられないが、逆に牧野修ファンには、本書「岡山女」を面白く読めるかも。
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百年の恋 篠田節子 朝日新聞社 1,500円 2000/12/1発行
恋愛&結婚&育児物語り度:★★★
ドタバタユーモア度:★★
活きている主人公度:★★★★
うだつのあがらない科学ライター「真一」は、ひょんな事から才色兼備のエリートOL「梨香子」と恋に落ちるが…
全体の印象は、群ようこばりのドタバタ劇。ヒロイン梨香子のとんでもない生態ぶりは、読者の気持ちを真一側に引き寄せ「こんな女となぜつき合う?」と思わ せるほど。
しかしそれを終盤の編集者の台詞で、「梨香子と別れちまえ」という気持ちから「梨香子を大事にしろ」と、一気に読者の視点を転換させるあたり、見事な展開 である。
フェミニズムや父権といった考えを超えた、人生や生活の生々しさと輝きを描写しているところに、単なるドタバタユーモアに終わらないエンターテイメント性 を感じる。
まあ、そんな事は抜きにして、梨香子の生態を観察するだけでも楽しい。
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あふれた愛 天童荒太 集英社 1,400円 2000/11/10発行
危うい恋愛小説度:★★★
心が疲れている人たち度:★★★
主人公にデリカシーがない度:★★★★
心に悩みや疲れを持ち、破綻しそうになっている人たちを描いた短編小説。
それぞれに思い悩み、今にも崩れそうになってしまう登場人物。とても悲しく辛い思いが、描写される。
普通の人が読めば、どってことないちょっと暗めの小説。ただ、シンクロしてしまう人には、悲しく厳しい小説。
前半の2遍は、どうにも主人公のデリカシーのなさが納得できず、イライラした。作者の意図がそこにあったとしても、もうちょっと抑えて描写して欲しい。
最後の「喪われゆく君に」は、なかなかの出来映え。青年とその彼女と夫を亡くした女性。この3人の心の機微が、情景を描くだけで伝わってくる。
なぜか読んだ後は、人に優しくしてあげたくなる。
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神様がくれた指 佐藤多佳子 新潮社 1,700円 2000/9/20発行
スリ師の職人技度:★★★★
プラトニックな恋愛度:★★★
暖かい人間関係度:★★★★
出所したばかりのスリ師「マッキー」は、電車の中で少年達のスリに会う。屈辱的な思いをした彼は、少年達を追うが…
物語は、マッキーがスリの少年達を探すことをを中心に展開する。途中ちょっと無理な展開はあるものの、電車の中でのスリのシーンなどは、なかなかリアルで 緊迫感あり。作者はこの小説を書くために、実在のスリ師に取材をしていると思うが、うまくこなれていて違和感がない。
脇役として登場する人物も、前作「しゃ べれども しゃべれども」と同様に、心あるいい人ばかり。中性的な占い師「マルチェラ」、幼馴染みの「咲」、スリ仲間達など、癖のある登場人物で はあるが、だれもが優しく人の気持ちを大事にしている。
犯罪小説でありながら、悪人にすら同情してしまうのは、作者の心のあらわれだろう。この辺に児童文学をやってきた経歴と、作者の確かな物語り世界を感じ る。
気持ちのやさしい女性に、是非おすすめしたい。
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アンテナ 田口ランディ 幻冬舎 1,500円 2000/10/31発行
奇抜で性的な自立小説度:★★★★
狂気あるいは妄想度:★★★★
自虐あるいは現実逃避度:★★★
15年前に失踪した妹に捕われた家族。新興宗教にはまる母、狂気に陥る弟、そして自虐にはしる主人公「祐一郎」。彼等はどうやって妹の死に対処するのか…
コンセント」でも感じたが、女性ならではの感性とセクシャルな展開 は、読み手の予想を許さない。
普通感覚的な文章は、読んでいていらだつことが多いが、田口ランディの文章はなぜか受け入れられる。なんでだろう?
登場人物達の異常ぶりは常識的?だが、この小説を祐一郎の「自立」あるいは「脱皮」をテーマにしているとすれば、作者の頭の中を見てみたい。どうやった ら、こんな風な展開を思い付くのかとっても不思議。
コンセント」と本書を読んで、作者の小説世界がより明確に見えてき た。
幻想と性と非日常世界。
いかにして自分を守るか、あるいは回復/救済するかが、幻想と性と非日常世界を通して語られる。
これから感覚的な文章をあやつる人が多くなると思うが、今んとこ、こんな不思議な文章を読者に受け入れられるようにあやつれるのは、彼女しかいないので は。
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ライディング・ザ・ブレット スティーブン・キング アーティストハウス 1,000円 2000/11/3発行
ホラー度:★★★
単純な展開度:★★
キングは中編の方がいい?度:★★★
母親が脳卒中で倒れたという電話を受けた「アラン」は、ヒッチハイクで病院へ向かうが…
これだけシンプルな展開で読ませるテクニックは、キングならでは。
中編であるためか、くどく時には邪魔に思える心理描写や情景描写が、すっきり短かめになっているところも、読みやすさを増す要因になっている。
「母親の入院」という出来事を、ヒッチハイクの動機にすえたところは、うまいというか、あざといというか。「母親の入院」がなければ、読者の心を掴むこと はできなかったろう。
しかし、モダンホラーは日本の怪談とちがって、風情や情緒がないね。超常的なシーンは、恐怖というより滑稽に感じてしまう。日常と非日常がシームレスに繋 がっている怪談の方が、やっぱり日本人には怖い。
1000円というのは、ちょっと高い。文庫化を待つのが正解かもね。
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0番目の男 山之口洋 祥伝社文庫 381円 2000/11/10発行
クローンSF度:★★
星新一風オチ度:★★★
自分の別の生き方度:★★
70年の深眠から覚めた「マカロフ」は、彼のクローンである「マカロフ」達と会うが…
クローン技術に対しては様々な技術的,道義的問題があるが、小説中ではサラッとうわべを撫でるくらいで、シリアスな展開やディープな問題提起はない。
星新一を思わせるようなあっさり目のSF。オチもショートショート風だし。
物語の中で、自分の性別を替えたクローンと会うシーンがあるが、考えるとちょっと気味悪い。
自分と同じ性別であれば、なんか会ってもお互いに許せそうだし、飲み屋で愚痴をいいあってストレス解消できそう。
でも自分とそっくりの女だと、生理的に受け入れられない。
これって人によって違うだろうが、精神分析的にはどうなるんだ。
俺はマザコンなのか、ファザコンなのか。それともホモっぽいだけなのか?
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プラナリア 山本文緒 文藝春秋 1,333円 2000/10/30発行
恋愛小説度:★★
ちょっと飛んでる登場人物度:★★★
他人にはかり知れない心模様度:★★★
どこか普通ではない女性達を主人公にした、恋愛短編小説。
前に「恋愛中毒」を読んでいるだけに妙 な期待をしたが、 小説としては、いたって健全な構成。
しかし、作者は人の心をうまく描く。言葉ではなかなか表現できないわだかまりや心の中の暗い部分を、さらりとした文で描写する。それがなかなか切れ味がい い。
男と女の気持ちのずれがうまく描かれ、読む人の共感を(時には反発を)生むだろう。若い女性に受け入れられるわけだ。
個人的には、その心理描写の巧みさを生かして、「恋愛中毒」ばりの危ない世界を書いて欲しいと思う。
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八月の博物館 瀬名秀明 角川書店 1,600円 2000/10/30発行
ファンタジックな冒険度:
作者自身の苦悩と決別度:★★
メタ小説度:
少年の「リョウ」はある日不思議な博物館を発見する。彼はその博物館で不思議な少女と出会い、ファンタジックな冒険がはじまる…
作者自身の現在と、少年時代の出来事と、1800年中期のエジプトが舞台となって物語は展開するが、主題は作者自身の作家としての悩みか。
表向きは少年の冒険談がメインだが、作家として物語をどのように書くか悩んでいる姿と、そこに作者自身の少年時代の分身を登場させ、その悩みを解決すると いうテーマにそって物語が展開する。
作者の中では、素晴らしく完結しているのが読んでいて分かるが、読んでる方はちっとも完結しない。
作家としての悩みや考えを書きたければ、エッセイにでもすればいい。少年の冒険談も、話がブツ切れで興醒め。エジプトの話は、自分が歴史に興味のないこと もあり、全然面白くない。それぞれ3本の小説にした方が、まだまし。実験的な手法も、成功しているとはいえない。
だが文章の勢いを見ても、作者がこの小説を書くことで何かを吹っ切れたことはわかる。それが作者の中だけで完結し小説としては失敗も、「瀬名さん、よかっ たね、ふんぎりついて」と、いいたくなる。
これから小説家として面白い物語を書いて欲しいと思う。
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puzzle 恩田陸 祥伝社文庫 381円 2000/11/10発行
謎解きミステリー度:★★
ミステリアスな命題度:★★
ちょっと短かすぎる度:★★★
長崎県の沖合いにある無人島。そこで3人の男性の死体が見つかる。彼等はなぜ、どのような理由で死んだのか。謎めいたコピーの意味は?
ミステリーとしての設定はいい。しかし、ちょっと短すぎる。もうちょっと人物やシチュエーションを書き込んでくれれば、ある程度納得いく内容になったかも しらんが、これでは雰囲気が出ないままキスするみたい。(ちょっと例えが変か)
中盤の謎解きのシーンは興味を惹かれたが、そこまで。
恩田陸、今旬なだけにコキ使われているようで、かわいそう。
自信喪失になったりしないよう、がんばってほしいな。
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黄泉がえり 梶尾真治 新潮社 1,700円 2000/10/15発行
宇宙からの優しい物体度:★★
泣けるファンタジー度:★★★
愛情と思いやり度:★★★★
熊本のある都市で、死者が蘇る事件が起きる。彼等は何故蘇ったのか。そして彼等はどうなるのか…
死者が蘇るというありふれた手法でありながら、梶尾真治が書くとなんでこんなに感動的なの?と思う出来ばえ。
思いやりや愛情を、ストレートに表現できるところが梶尾真治の特徴だが、本書でもその特徴が遺憾なく発揮されている。
随所に泣けるシーンはあるし、「周平」の描き方に作者の登場人物達への親愛度を感じるし、宇宙からの生命体?も乙女チックだし、粗筋だけを見ると甘ったる くて嫌になりそうだが、読むと不思議と心地よい。
愛にかつえている人は、感涙間違いなし。
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雪月夜 馳星周 双葉社 1,900円 2000/10/5発行
暴力度:★★
ダークパワー小炸裂度:★★
きれいなナターシャ度:★★★
ヤクザの「裕司」は女と金を組から持ち逃げした「敬二」を追って根室に来る。腐れ縁の「幸司」は、裕司の言うままに手助けをするが…
舞台は過酷な生活条件の根室。そこに生きる有象無象が、金を求めて謀略を張り巡らす。
舞台は都心でも北海道でも、馳星周の描く男達は鬱屈しまくっている。そして凶暴に狂気の世界に落ち込んでいく。
本書もその例にもれないが、バイオレンス度はちょっと抑えめ。展開も目まぐるしくしている割りには、堂々廻り。
馳星周初体験の読者には新鮮かもしれないが、馳星周の小説を心待ちにしている読者には、見なれた女房のように馴染み深いが新鮮味はない。
ナターシャだけが美しく描写されているのは何故なんだろう?
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Alone Together 本多孝好 双葉社 1,400円 2000/10/5発行
エスパーミステリー度:★★
みんな悩んで大きくなった度:★★★
大きくなっても悩んでるんだ度:★★★
塾の講師「柳瀬」は、医学部在籍中の恩師からある少女を守って欲しいと依頼される。恩師と彼女の関係は? そして何から彼女を守るのか?
ドロップアウトした中学生相手に、塾の講師をしている柳瀬の視点で物語は展開する。今時の中学生がいったい何を考えているのか。また、少年達の親にはどん な苦悩があるのか、といったことがテーマ。
ただ、テーマをストレートに書くのではなく、柳瀬の視点というフィルターを通して書いているところがミソ。
少年や少女、親や柳瀬本人の思いが、うまくそして説得力ある形で語られる。
文章も推敲されていて、なかなかのテクニシャン。
ただ、心のわびさびを書くのはうまいが、もっとドラマチックに、もっと過激になっていてもよかた。
ちょっとミステリーっぽい中間小説が好きな方向け。
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ジャンプ 佐藤正午 光文社 1,700円 2000/9/25発行
ミステリー度:★★★
恋愛小説度:★★★
お洒落な文体もしくは冗長な文体度:★★★★
「三谷」のガールフレンド「南雲みはる」は「コンビニでりんごを買ってくる」と言い残し、失踪する。いったい彼女に何が起きたのか…
ミステリアスな出だしは、うまい。この先どうなるのかと思わせる、読者の心を掴むテクニックに感心する。
文体もとてもセンスよく洒落ているが、人によっては馴染めないかも。まだらっこしく鼻につきそうになる寸前の文体。
OLやサラリーマンの「憂鬱」を巧みに取り込んでいるテーマづくりは、読者の共感を呼ぶだろうが、前半のミステリアスな展開に期待し過ぎると、読み誤る恐 れあり。
しかし、女性はどこか突き抜けていて、男性はなぜか日常に埋没するというパターンは、昔から変わらないものなのか。
大昔に読んだ「されどわれらが日々−」とかを思い出すなぁ。
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細菌人間 筒井康隆 出版芸術社 1,500円 2000/9/20発行
少年向けSF度:★★
愛と友情度:★★
コテコテの筒井ファン向け度:★★★
30年以上前に雑誌等に掲載された、単行本初収録の短編集。
小学生向きの冒険SFで、さすがに古さや臭さを感じるが、本当の小学生低学年の少年ならば、面白さを満喫できるかも知れない。
「初期の筒井作品のエッセンスが濃縮されている」という言い方もできないことはないが、まあ、コテコテの筒井ファン向けの小説。
「細菌人間」については、解説で「ミクロの決死圏」との関係を書いているがこれは誰が読んでもパクリ。
「ミクロの決死圏」のストーリーが昇華されていない辺りに、筒井康隆の若さを感じる。
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脳男 首藤瓜於 講談社 1,600円 2000/9/11発行
ミステリー度:★★
スリルとサスペンス度:★★★
脳男(コンピュータ人間?)度:★★★★
連続爆弾魔のアジトを見つけだした「茶屋」刑事は、そこに偶然居合わせた「鈴木」という男を取り押さえながらも、犯人を逃がしてしまう。犯人の仲間と思わ れる鈴木を調べるうち…
前半は展開がぎこちなく、描写もいまいち。登場人物の言動も、リアリティがない。しかし、後半はスピード感のある展開で、読者を引き付ける。
物語り自体は凡庸だが、鈴木という登場人物が異彩を放っている。
心を持たない人間という設定はなかなか興味深く、最近の少年犯罪や人工知能とも繋がるようなテーマ。
本書では鈴木の過去が語られ、どうして「脳男」になったかが明らかになるが、もっと精神面でつっこんだ、サイコものにしても面白かったかも。
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魚籃観音記 筒井康隆 新潮社 1,300円 2000/9/30発行
不条理&シリアス度:★★★★
狂気あるいは虚構度:★★★★
ドタバタエロチック度:★★★
狂気と虚構、日常と非日常、愛情とセックスが混在となった短編集。
往年の筒井康隆を彷佛とさせる短編集であるが、受ける印象はちょっと違う。
それは筒井康隆が変わった点もあるだろうが、それ以上に読み手の意識が変わったせいと思う。
筒井康隆は狂気や虚構にこだわり、それをエンターテイメント小説として表現してきた。
かつての小説には、その先見性や虚構性が遥かに現実を凌駕し、読者を驚かせまたおののかせた。
ところが現在は、現実の方が遥かに虚構性と狂気を孕んでいる。
虚構と狂気を描写してきた筒井康隆は、現在の狂気の直中にある現実に、恐れと怯えを感じているのではないか。
「市街戦」「作中の死」「虚に棲むひと」などは、現実社会の虚構性や狂気をいかにして小説世界に取り込むか、あるいは小説という虚構の世界が、現実の世界 をメタ化しようとする苦心作に読める。
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海底密室 三雲岳斗 徳間デュアル文庫 762円 2000/9/21発行
正統なミステリー度:★★★
舞台や設定がSFチック度:★★★
SFファン向け度:★★
海底4000mに設置された実験施設「バブル」。この密室状態の環境で死亡事件が起きる。科学ライター「遊」は「バブル」の取材時に事件と遭遇し…
前作「M.G.H楽園の鏡 像」はマンガチックで少年少女向けの文章であったが、本書はシリアスなミステリーになっている。
舞台となる「バブル」やトリックに、多分にSF的な要素はあるものの、ミステリー小説であってもSFではない。ミステリーファン向けの小説。
犯人探しや謎解きに興味の希薄な自分は、登場人物の「寺崎緋沙子」のひねくれた心理分析が面白かった。
人工知能の「ミドー」も刺身の妻みたいで、面白みに欠ける。
あとはなんだか若い女性が沢山登場してきて、誰が誰やらさっぱり。
若い女性が周りに沢山いるのは良いけど、あんまりいすぎてもうっとうしくなる。小説も現実も一緒か?
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鵺姫真話 岩本隆雄 ソノラマ文庫 571円 2000/8/31発行
異世界(戦国時代)ファンタジー度:
時間SF度:
少年,少女小説度:★★
姫森神社の神木に宿る「鵺姫様」に、25年の寿命を差し出せば、どんな願いもかなうという。「川崎純」は、偶然神木に願いをかけている少年を見て…
複雑な入れ子構造のタイムスリップもの。主な舞台は戦国時代だが、なんだかちっとも面白くない。ストーリーも人物も異世界の描写も、中途半端。
多分作者は、辻褄合わせに頭がいっぱいだったのだろう。
星虫」の続編ということだが、それらしいのは物語の初めと終りだけ。「星虫」と同じような面 白さを期待すると、ちょっと苦しい。
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光源 桐野夏生 文藝春秋 1,619円 2000/9/20発行
映画への情熱度:★★
個性ある登場人物/全員が主役/人生の主役は自分自身度:★★
作者自認の投影度:★★★
映画の制作に情熱をかける監督や役者達。個性ある彼等の造り出す映画は、どのような軌跡を辿るのか…
ミステリーでもサスペンスでもない、映画を制作する人々と、その背後にある愛憎や人間関係を描いた小説。
あんまり自分のタイプの小説ではないなぁ。
登場人物は書き込まれているが、それぞれ個性が強く、みんながみんな自分を主張し出して、読んでいる方は疲れる。物語の展開も、新人がはじめて監督する映 画の撮影風景裏話しみたいで、魅力に欠ける。
ひょっとして作者自身の内面にある様々な葛藤を、登場人物達に投影しているのでは?
ミステリー小説とはかけはなれた小説だし。これからどんな小説を書こうとしているのか、作者は相当迷っているのかも知れない。
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13のエロチカ 坂東眞砂子 角川書店 1,300円 2000/8/31発行
エロ本と文藝の間度:★★
非日常の中のエロス度:★★★
大人度:★★
女性の中に秘められた性愛に関する13の官能小説。
作者は、様々なシチュエーションや年代の違いによる性愛を描写しながら、登場人物達の心の中にあるわだかまりを解き放とうとしているように見える。でも、 下世話にいえば、ただのエロ小説とも読める。
文芸書として読むには、もう一つ昇華できないまま物語が終わっているのが残念だし、エロ本小説にしては綺麗すぎる。
まあ、官能小説が文学なのか違うのかといった、こむずかしい話ではなく、ただ作者のサービス精神たっぷりの小説として読むべきだろう。
それにしても坂東眞砂子、これからどんな小説を書こうとしているのか、皆目見当がつかない。
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うしろのしょうめんだあれ 鎌田敏夫 ハルキ・ホラー文庫 495円 2000/8/28発行
ホラー度:★★
愛憎または嫉妬度:★★
シナリオまたは粗筋度:★★★★
殺された小夜子は霊魂として甦り、とある盲目の女性にとりつく。小夜子が殺された理由とは? そしてとりつかれた盲目の女性は…
ホラーというより、ホラーに名を借りた人間の愛憎劇。
展開は速いのだが、なんかドラマのシナリオかノベライゼーションを読んでいるよう。
たぶん作者の頭の中では映像化されたシーンが浮かんでいるんだろうが、それを言語化しないのはちょっと手抜き。だが、読む方もドラマを見るようにして読め ばもっと面白いのかのも知れない。脚本家らしい作風ということか?
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新宿鮫 風化水脈 大沢在昌 毎日新聞社 1,700円 2000/8/30発行
ハードボイルド(侠気)度:★★★★★
鮫島刑事カッコよすぎ度:★★★★★
恋愛小説度:★★★
鮫島は出所したばかりの「真壁」と新宿サブナードで偶然会う。刑事とヤクザの関係でありながら、お互いに認め会っている二人に、新たな事件が…
新宿で頻発する高級車盗難事件を出だしに、物語は過去と現在を繋ぎ人間の業とも言える因果を描き出す。
メインのストーリーとなる高級車盗難事件の捜査はもとより、駐車場の管理人と小料理屋の女将の生きざま、またそれを伏線とした真壁と雪絵の関係、刑事小説 としてだけではなく、恋愛小説として読んでも遜色ない出来。
登場人物の個性も光っているが、鮫島刑事がいい。
組織に属しながら体制に迎合せず、恋人との関係にも自分に甘えを許さない。人との約束を違えることなく、刑事であるこに誇りを持つ。
ヒーローでありながらヒーローを演じない新宿鮫。カッコよすぎ!!
(晶との関係が、あまり書かれていないのが残念)
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王女グリンダ 茅田砂胡 中央公論新社C☆NOVELS 1,200円 2000/8/25発行(1992年 大陸書房発行の復刻版)
デルフィニア戦記エッセンス度:★★★★★
少女小説度:★★★
破天荒なヒロイン度:★★★★
かつて大陸書房より出版された「デルフィニアの姫将軍」「グランディスの白騎士」2作の復刻版。
作者は前書きで本書の拙さを書いているが、読んでみるとそうでもない。登場人物や物語の背景はデルフィニア戦記シリーズと ほとんど同じで、内容自体も重なる部分は多い。「番外編」といったところか。
ヒロインの「リィ」は活発にして野性的で、「ウォル」の飄々とした性格や彼等をとりまく登場人物達には、なつかしさを感じる。
全シリーズを読んでからの方が、内容も理解しやすいかも。
ファンには見のがせない1冊。
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虚無回廊 3 小松左京 角川春樹事務所 1,600円 2000/7/8発行
ハードSF&異星人との遭遇度:★★★★★
これぞSF度:★★★★
知的生命とはなにか度:★★★
地球から5.8光年の場所に、突如現れた円筒形物体。その大きさは長さ2光年、直径1.2光年というとてつのない物だった。その物体(SS)を探査するた めに特化されたAE(人工実存)は、調査の過程で様々な知的生命体と遭遇し…
本書を読む前に1と2を再読。
面白かった記憶はあるが、ちっとも内容を覚えていないことに己の歳を感じるが、そんなことより今読んでも面白すぎる「虚無回廊」に驚嘆。
人工知能、知的生命体、SSという謎の構造物。ありとあらゆるSF的設定を投入し、SFでしかできない小説の面白さを味わえる。
(3よりも1と2の方が読みごたえあり。)
本書でSSの意義がおぼろげながら提示されるが、この先の展開がどうなるかが楽しみ。ただ決着をつけるだけの展開にならぬよう期待する。
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骨の袋 スティーヴン・キング 新潮社 上2,800円 下2,700円 2000/7/30発行
ホラータッチのラブストーリー度:★★★
愛する人との絆あるいは憎悪度:★★★
ヒロイン達が美しく愛らしい度:★★★★★
妻を亡くした作家「マイク」は、暫く逃避的な生活を送るが、かつて二人で過ごした別荘へと向かう。そこで少女と偶然巡り会うことをきっかけに、彼の生活は 大きく変わっていく…
最近不作のキングにしては、まあまあの出来。相変わらずの文章は長ったらしく、本筋と関係のない細かな描写は邪魔だけど。
別荘で巡り会う女性と少女が、この本の成功のカギ。美しく可憐な女性と少女の愛らしい姿は、とても魅力的に描写されている。彼女達が登場しなければ、この 本を読み続ける気にならなかっただろう。
なんたって女性が美しすぎる。こんな可憐で愛情をストレートに表現する妻と、少女のようなかわいい娘がいれば、毎日家に帰りたくなる。
物語はキングのホラーらしいオーソドックスな展開で、そう言う意味では新鮮さは感じないが、ベテランのテクニックの健在ぶりを堪能できる。
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パヴァーヌ キース・ロバーツ 扶桑社 1,429円 2000/7/30発行(1987年刊行本の訂正版)
ノスタルジックなファンタジー度:★★
中世イギリス度:★★
散文詩度:
中世のイギリスを連想させる異世界を舞台にした、ファンタジー。
「不朽の名作SF」と帯にあるが、SFという感じはまったくしない。それよりか、教会が支配していたころの様々な人々の生活と生きざまを描いた市井の歴史 物と読める。
物語の世界はきっちりと構成されており、とてもリアルで違和感はない。そしてどこかノスタルジックな世界。散文詩のような文体で描写される主人公達や出来 事に、どこかのんびりした印象を受ける。
一つの繊細な物語世界を完成させているところは素晴らしいが、「不朽の名作」というほどの強烈な印象は受けなかった。
まあ、この本に関する思い入れもないし、再刊を待ち望んでいたわけでもないのでこんなもんかも。
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あやし〜怪〜 宮部みゆき 角川書店 1,300円 2000/7/30発行
江戸時代怪談話し度:★★
怨念度:
市井の人々度:★★
江戸時代の市井の人たちの間で起きる、不思議で怪奇な短編集。
市井の人々の生きざまや気持ちが、宮部みゆきならではの優しい視点から描かれている。小説としては完成され、文句のつけようがないできばえ。そんな人と人 の軋轢や人情を主題とした怪奇な話は、「怖い」というよりもの悲しい。
宮部みゆきの、江戸時代ミステリーファンにはお勧め。
しかしどうも自分は時代物になじめないのである。
「レベル7」の引き込まれるような出だしの見事さ。「心とろかすような」のマサと糸ちゃんの心のふれ合い(初めの5ページは、何回読んでも泣けてしま う)。「龍は眠る」の少年達の悲哀。
この辺の印象が非常に強く、どうしても同じタイプの小説を期待してしまう。
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P.I.P. 沢井鯨 小学館 1,200円 2000/7/10発行
監獄脱出小説度:★★★★
血と汗と反吐度:★★★★
カンボジア警察の裏側&ポルポトの爪痕度:★★★
教師である「イザワ」は、休みを利用してカンボジアに行く。そこで待ち受けていたのは、不当な逮捕と牢獄生活。彼はゴミためのような牢獄から脱出しようと するが…
互いに騙し合い、金で駆け引きする世界。売春宿、牢獄のなかの生活、ポルポト時代の生々しい戦禍。どれもが猥雑で禍々しく、カンボジアの実情が見えるよ う。そんなカンボジアの情景をバックに、冤罪で投獄されたイザワの脱出劇が展開する。
お世辞にも文章がうまいとは言えないが、実体験に基づいたらしい描写はリアル。刑務所内のシーンは反吐が出そうだし、警察や裁判所がカネでどうにでも動く ところは、カンボジアの見方を変えるだけの筆力がある。
ラストもカタルシスを感じさせる展開で、伏線もきいている。
暑苦しい夜には、この手の小説でもっと暑苦しくなるのもいい。
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麦の海に沈む果実 恩田陸 講談社 1,800円 2000/7/25発行
恩田ワールド度:★★★★★
ミステリアス度:★★★★
学園小説度:★★★
湿原に囲まれた学園に転入してきた「理瀬」。彼女のまわりで起きる事件。いったいこの学園では何が起きているのか? そして理瀬は…
物語は作中でも言及される「三月は深き紅の淵を」の第4章「回転木馬」をふまえたもの。ストーリーを要約すると、どってことない学園ミステリーになってし まうのだが、そこが恩田陸のすごいところ。
人物の書き込みが素晴らしく、少年や少女達の様々な性格がきっちり描写されている。相当人物を創りこんでいるたまもの。
展開も内容もミステリアスでドラマチック。どこか浮き世離れしていながら、確かな人物造型によるリアリティー。なんとも抽象的な言回しだが、恩田陸ワール ドとしかいいようのない世界を堪能できる。
いままで「光の帝国」が彼女のベストと思っていたが、本書と甲乙つけがたい出来。
女装趣味?の校長や奇妙な学園内の設備も彩りを添えているが、やはりクライマックスはヒロイン理瀬の秘密が明かされそうになるところか。
しかしラストは恩田ワールドから下世話名世界に転落。
もっとSFチックにしてくれた方が、おじさんは嬉しかった。
(最終章はなくても良かったか)
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オウム帝国の正体 一橋文哉 新潮社 1,600円 2000/7/30発行
正体解明度:★★★
オウムをとりまく裏社会度:★★★★
世の中はいろんなところで繋がっている度:★★★
「国松長官狙撃事件」「村井刺殺事件」「坂本弁護士一家殺害事件」といったオウム絡みの事件のノンフィクション。
オウム自体の凶暴さや異常さもさる事ながら、オウムをとりまく世界が無気味。
異常集団でありながら膨大な資金を持っていることが、暴力団をはじめとする裏社会とのつながりを生む。オウムが裏社会を利用しているようで、実はカモとし て使われていた。
そんな小説まがいの、資金=暴力団=政治家の構図が浮き彫りになっている。
オウム事件は:
表に現れた腫瘍を取り除こうとしたら、それには多くの神経や血管や組織がからみついている。やむなく腫瘍部分のみを切除するしかなかった。
そんな感想を抱かせるノンフィクション。
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聖土 黒岩健 光文社 1,700円 2000/5/30発行
モダンホラー度:★★★
シャーマニズム度:★★
一気読み度:★★★★
恐山の火山爆発、老夫婦の猟奇的殺人事件、OLに降り掛かる不幸な事件。一見つながりのないできごとの背後には何があるのか…
内容は他のホラー小説や映画を連想させるものが多く、オリジナリティーは薄い。帯にあるような恐怖も感じない。
だが、平行して進むいくつかの事件が、しだいに収束していく展開はうまいし、一気に読ませるスピード感と展開の巧みさもある。癖のない文体も、エンターテ イメントにはふさわしい。(その分あっさり目の感はあるが)
キングのファンはパクリだと言って怒るかもしれないが、それを認めれば、あるいは読んでなければ、結構楽しめる。
そこを認めるかどうかが、本書の評価の分かれ目だな。
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星虫 岩本隆雄 朝日ソノラマ文庫 571円 2000/6/30発行(1990年刊行の加筆版)
ファンタジー度:★★★★
知的生命体との遭遇度:★★★★
青春度:★★★
スペースシャトルのパイロットになることを夢見る女子高生「氷室友美」。世界中に降ってきた「星虫」は、彼女をはじめ多くの人にとりつき、不思議な力を発 揮しはじめるが…
少年少女向けのファンタジーで、おじさんには恥ずかしいくらい青春しているが、いつしか小説の世界にはまってしまう魅力あり。
額にとりついた「星虫」がどのようになっていくかは、予想できない展開。それがとてもファンタジック。全体をおおうほのぼのとしたトーンと、物語の展開が ピッタシ。
ラストはなかなか感動的でホロリとくる。
「地球と人間の関係」「人類の進化計画」といったサブテーマも登場するが、あくまでも主人公達の盛り上げ役で、ハードSF的なところはない。
星虫の変態ぶりも異様だが、「寝太郎」とあだ名されるヒロイン友美の相手役「広樹」の変貌も驚異。不潔でダサイ男から、かっこいい知的な男への変貌ぶり は、ある意味星虫よりすごい。
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21世紀 知の挑戦 立花隆 文藝春秋 1,429円 2000/7/10発行
科学的ノンフィクション度:★★★
啓蒙書度:★★★★
若者へのメッセージ度:★★
バイオ,DNA,癌などの最新科学,医療についてのレポート。
もうこのジャンルは立花隆の独壇場。
最近の著書のまとめというか総括的な部分もあり、立花隆フェチにとっては、目新しいテーマはない。唯一「ツングースカの大爆発」はちょっと異色だが。
文章も分かりやすく、一般あるいは若者を意識した内容になっている。
最後の、新人キャリヤ官僚に対して行われた研修内容「若者たちへのメッセージ」も説得力り。日本の若者はどんどん科学オンチになっていくというが、こんな 話を聴けば新人官僚も「何とかせねば」という気持ちにはなるだろう。
自分も科学的知識の浅さを反省したが、どう言うわけかSF的な科学知識しか脳が受け付けないんである。
はやいとこ、本書でも登場する「記憶強化薬」を商品化して欲しいところである。
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古惑仔 チンピラ 馳星周 徳間書店 1,600円 2000/7/31発行
新宿の中国人裏世界度:★★
ダークパワー炸裂度:★★
屈折した感情度:★★★
新宿に流れ着いた、中国人不法入国者達を主人公にした短編小説集。
いままでのようにダークパワーは炸裂せず、鬱屈した心と人間関係を中心に描かれている。
主人公たちは、金を儲けるために裏社会に入ったり売春をしているが、どこかに「金」以外のつながりを求める。そして異国の地でお互い仲間意識を持ちながら も、「金」に関しては他人を寄せつけない。
そんな人間関係の中で起きる、トラブルや事件。
みんな暗くて悲しく鬱屈している。それが炸裂しないだけ、よけいに暗たんとした小説になっている。
今までに比べるとソフトで内向的な路線だが、大雑把に見るとあんまり変わらないか。ソフトな分だけ、印象が薄い。
やっぱ炸裂しないと「馳星周」を読んだ気がしないなぁ。
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東電OL殺人事件 佐野眞一 新潮社 1,800円 2000/5/10発行
ルポルタージュ度:
自己中心度:★★★★
我田引水度:★★★★
平成9年、渋谷で起きたOL殺人事件のルポ。
昼間は美人エリートOL、夜は売春婦という被害者は、マスコミでも大きく取り上げられた。記憶にある方も多いだろう。
自分も被害者の二面性に興味を持ち、読みはじめたのだが、これが失敗。
帯には「壮絶なルポルタージュ」とあるが、壮絶でもなんでもない。
被害者に関する話はどこへやら。容疑者のネパール人の話ばっか。それも本来ライターが調査して検察側の不備な点を追求せねばならぬことを、裁判での弁護士 の反論を長々と取り上げ、挙げ句には「胸のすくような論理展開」などというていたらく。
被害者の昼と夜の二面性についても、精神科医の対論をちょろっと載せて終わり。読者がもっとも関心を寄せるであろう「被害者は何故二重生活をしていたの か?」という疑問に対し、それらしい答えがこの数ページとは。おまけに、精神分析医の見解で終りとは、なさけない。
これでは、単なる裁判傍聴記あるいは取材日記。ルポルタージュとして読むと、頭にくる。
しかし、あまり乗らないテーマの仕事もそつなくこなすという点では、プロを感じさせる。
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とんかつ奇々怪々 東海林さだお 文芸春秋 1,048円 2000/6/20発行
庶民的エッセイ度:★★★
思わずニヤニヤ度:★★
やってみたくなる度:★★
まるかじりシリーズも面白いが、こっちのエッセイも捨てがたい。
東海林さだおは、ちまちました普通の日常に面白みを見つける天才。無理して書いているところもあるが「食」に対しては、関心の強さを伺える。
思わずとんかつを食べたくなったり、タコを釣りたくなったり、散歩をしたくなったりする。実際やってみたところで、エッセイにあるような気持ちにはならな いけどね。(そこがどんなところにも面白さを見つける作者の躍如たるところか)
のんびりした日曜日に読むには、うってつけ。
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ネバーランド 恩田陸 集英社 1,500円 2000/7/10発行
青春小説度:★★★★
ホラー&ミステリータッチ度:★★
人生の苦悩と友情度:★★★
れぞれ訳ありの4人の高校生が、年末を寮で過ごすことになる。そこで明かされる秘密とは…
出だしはミステリーぽいが、だんだん普通の青春小説らしい展開に。
それぞれに抱える悩みや問題がしだいに明らかになると同時に、どこか連帯感も強くなっていくあたり。そして、寮の中で繰り広げられる4人の生活ぶりが、青 春だなぁ。
自分は寮生活をしたことはないが、きっとこの小説のような場面も実際にあるだろうな、と感じさせる。
ちょっとグロい人間関係の描写もあるが、純な中学生には感動的。
おやじもちょっと昔を思い出し、感動しそうになった。
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ミッドナイト イーグル 高嶋哲夫 文芸春秋 1,714円 2000/4/20発行
スリルとアクション度:★★★
雪山での死闘度:★★★
世界的陰謀度:★★
横田基地で発生した銃撃戦を調べるフリーライター「優子」。彼女は銃撃戦の奥にある秘密を解き明かそうとする。一方、北アルプス山中で偶然飛行機の墜落を 目撃した、報道カメラマンの「西崎」。彼は調査のため吹雪の山中に赴くが…
物語は、冬山で西崎が遭遇する困難と、横田基地で発生した銃撃戦を調べるフリーライター「優子」の姿とが、交互に描かれる。どちらの描写も、緊張感があり 展開が速い。削ぎ落とされたような文体も、物語にマッチしている。
だが、どこか凡庸。
それなりにスリルがあり、雪山の描写は冒険小説ばりだが、なぜか心に響かない。登場人物の性格も、みんな同じに見える。
だが、もっとも理解に苦しんだのは、主人公達が自分の死を賭けてまでやる動機。特に主人公西崎の動機は結果と逆転しており、理解に苦しむ。
これだけ主人公ががんばったのに、全然感情移入できず、読んでる自分は嬉しくも悲しくもないんじゃ、主人公達が可哀想。
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M.G.H 楽園の鏡像 三雲岳斗 徳間書店 1,600円 2000/6/30発行
SFタッチのミステリー度:★★★★
恋愛ごっこ度:★★★
SFへの思い入れ度:★★★★
無重力空間に浮かぶ宇宙ステーションで、墜落死体が発見される。あり得ない事件にひょんなことで遭遇した「凌」と「舞依」は…
物語の展開は珍しいものではないが、ミステリアス(SF的)な設定が魅力的。
作者のSFへの思い入れも随所に感じるが、ミステリーファンにもけっしてじゃまになるほどではない。このへん、SFとミステリーがうまく融合している。
主人公達の会話で
「誰が犯人なのか。本当は知っているんでしょう?」
「いや、そうじゃない。僕に分かったのは確率の分布が局在しているってことだけだ」ってくだりは思わず笑ってしまうほど、SF的言い回しで楽しい。
主人公の凌と舞依の恋愛模様も微笑ましい。
理論派で無機材料にしか興味のない凌と、彼を慕う活発な舞依の行動は、設定年令の割りに幼すぎ。これは作者の趣味なのか、少女タッチあるいは乙女チックな 恋愛。今どき(近未来は違うかも)社会人にもなって、手を握られただけでドキドキするか?まあ、この少女趣味、おじさんは嫌いな世界ではないけど。
今年のSFベスト10には入るだろう。うまくすればミステリーにも入るか。
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ローズガーデン 桐野夏生 講談社 1,600円 2000/6/15発行
女探偵小説度:★★
夜の街の人たち度:
愛憎劇度:
探偵「ミロ」を主人公にした短編集。
前に読んだ「ジオラマ」にも登場していたらしいが、覚えていない。まあ、それなりの登場人物ではある。(印象が薄いってことだけど)
物語はミステリアスでもないし、驚く展開もないし、とんでもない異常者が出てくるわけでもなく、面白みに欠ける。
表題作の「ローズガーデン」は、高校生時代の「ミロ」と男子高生との奇妙な恋愛回顧談で、異常な関係に興味はそそられたものの、もっとドロドロした部分を 書いてくれないと満足できないなぁ。(俺は変態か?)
多分作者は人の心の中に住む暗ーい部分あるいは非日常を描きたかったのだろうが、主人公のミロも他の登場人物も常識の範囲から逸脱していない。このためか 人物の内面が浮上がってこない。
まあ毎回「OUT]や「柔らかな頬」 のような小説を期待するのも酷か。
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コンセント 田口ランディ 幻冬舎 1,500円 2000/6/10発行
ゆるやかな狂気と内面世界度:★★★★
革新的ホラー度:★★★
独自の小説世界度:★★★★
ヒロインの兄は、ひとりアパートで衰弱死する。彼は死ぬ前にヒロインにこんな話をしていた。「分裂病の男の子がいて、繋がっているコンセントが抜けると動 けなくなる」 コンセントが抜けたように死んだ兄。いたい何故生きることをやめたのか…
物語はどこか精神的に不安定なヒロインの目で語られるが、これがなんとも不可思議でどこかに狂気のただよう世界。
死体の臭いにまつわる話から、カウンセリング、セックス、オカルトとヒロインの精神世界を中心に物語は展開する。これがなかなか危うい世界でスリリング。 かなりシリアスで超常的な展開でもある。
女性にしか思い付かないようなラストも、陳腐にならずに説得力があるのは、構成と展開がしっかりしており、なにより小説の世界に読者を引き込む力があるか らだろう。(自分は納得させられたが、ラストは賛否両論あるかも)
ジャンル分け困難な小説。
在り来たりのホラーやサイコドラマに満足できない方にお勧め。
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予知夢 東野圭吾 文芸春秋 1,333円 2000/6/20発行
科学的推理小説度:★★★
納得度:★★
ちょっとした人間ドラマ度:
殺人や失踪事件にからむ予知夢、霊視、ポルターガイストといった不可思議な現象。はたして事件は霊的な仕業なのか。それとも科学的に証明できることなの か…
探偵ガリレオ」の続編と いえる連作短編集。工学畑出の作者ならではの小説。
「世の中に不思議なことなどない」のを科学的に証明するカタルシスはあるものの、事件の動機や科学的仕掛けにもうひと工夫欲しいところ。人間ドラマの味付 けもあるが、ちょと薄味。
個人的には最後の短編に出てくるER流体に興味あり。別の解決法もあるだろうに、わざわざ人の知らないものを出してくるあたりに、こだわりを感じる。
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人体再生 立花隆 中央公論新社 2,200円 2000/6/10発行
驚異の科学読み物度:★★
アカデミック対談集度:★★★
サイボーグの作り方入門編度:★★
立花隆得意分野の科学的対談集。本書のテーマは人体再生技術。
失われた体の一部や臓器を再生する技術(ティッシュー・エンジニアリング)は、人工臓器や臓器移植にとって替わる技術として注目されている。患者自身の細 胞を取り出し、それを培養して再生し、患者の体内に戻す。こんなとんでもない技術が臨床でも適用されはじめている。
対談集の内容自体はとてもアカデミックで、知識のある人には興味深いだろうが、素人にはちょっと退屈。でもその奥の深さと、人体の不思議さは伝わってく る。
いずれサイボーグができるのも時間の問題か、と思わせるほど。科学は知らないところで目ざましく進んでいるんだなぁ。
人間自身が対象であるため無気味でもあるが、もっととんでもない技術が開発されないか期待したりもするのは、SFファンだけか。
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神祭 坂東眞砂子 岩波書店 1,500円 2000/5/18発行
日常と非日常のあいだ度:★★★
妙に納得度:★★★
エロチック度:
「死国」や「狗神」などの、神話世界や伝説をあつかった小説を思い起こさせる、日常と非日常的世界のはざまを描いた短編集。
この手の小説は、やっぱり坂東眞砂子。なんで最近は路線を変えたのかと残念だったが、久しぶりに満足。
出産、不倫、殺人といった題材を、人の心の奥から描く。そして理論で詰めていくのではなく、心の有り様で決着させる。
個人の心の中では普通のできごとが、第三者から見ると非日常的なできごとに見えるもの。そんな他人には見えなかった心の有り様が浮き彫りにされた時、物語 は日常から非日常へと昇華される。そこから信仰や伝説というのが生み出される。
そんなことを感じさせる小説。
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バンド・オブ・ザ・ナイト 中島らも 講談社 1,800円 2000/5/24発行
ジャンキー小説度:★★
バロウズ度:★★★
トリップ度:
中島らもの実体験的ジャンキー小説。
ストーリーよりもイメージ。
真っ当よりも乱交。
ねくらよりも愛。
ジャンキーの脳みそ内はかくありなんと思わせる、怒濤のようなイメージの奔流に溺れそう。
バロウズほどに難解ではないが、波長がぴったりの人が読むと、なんだか恐ろしい事が起きそう。
波長が合わないと、バットトリップに。
しかし、中島らもはひょっとして本物ではないか?
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おやじ丼 群ようこ 幻冬舎 1,300円 2000/6/10発行
(OLには)笑える度:★★★
(おやじには)そこはかとなくもの悲しい度:★★
いるよなー こういうおやじ度:★★★
そこらを伺えば、必ずいそうな「おやじ」にまつわる短編小説。
わたしは、この短編小説に登場する12人のおやじ達のうち、そっくりな人を5人は知っている。その中の1人は自分だけど。
そんなおやじが読んでも、そこそこ笑える。(人ごとだと、平気でばかにできるんだよねぇ)
日頃おやじに怒りを感じている女性は、これを読むとちょっとは溜飲が下がるかも。
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タイムライン マイクル・クライトン 早川書房 上1,700円 下1,700円 2000/5/25発行
スリルとアクション度:
パラレルワールドSF度:
映画化を眼目にしている度:★★★
アリゾナの砂漠をさまよっていた老科学者。病院での検査結果、常識では考えられない組織の「断裂」が発見された。そして老科学者はITCというハイテク企 業に所属。いったい彼の体には何が起きていたのか…
期待が大きすぎたかなぁ。
なんだか、つまらないRPGか映画のシナリオのようにしか読めない。
SFとしての設定は説得力に欠け、手法もありふれているし。
中世フランスでの展開も、ただ映画的なシーンを連続して描いているだけで、面白みに欠ける。人物描写も中途半端だし。
中世フランスの歴史や生活様式に興味のある方には、その部分だけは楽しめるかも。
取り合えず流行りものはチェックしときたい人はどうぞ。でも、小説読むより映画を見た方がいいかもね。
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無間地獄 新堂冬樹 幻冬舎 1,980円 2000/5/10発行
悪漢度:★★★
闇金融またはヤクザ度:★★★★
エログロ度:★★
貧乏で非道な父親に育てられた「桐生」は、心に深い傷を負うとともに、カネこそが世界を支配するという考えにとりつかれる。闇金融の世界で、その容赦のな い取り立てぶりから恐れられるようになった桐生の前に、新たなカモが現れ…
闇金融の世界は恐ろしや、と思わせるほどに裏業界の描写は細部がしっかりしていて生々しい。だけどそれらしいのは裏業界の描写部分だけで、登場人物や物語 の展開はB級。
桐生のヤクザぶりはいいにしても、桐生に対抗するヤクザの鬼塚の描写は弱いし、美容機器のセールスをやってる優男の玉城は、どう考えても無理がある。
玉城に引っ掛かる軽薄女性も、可哀想すぎるぐらいにブスで間抜け。(これじゃ女性読者は怒ること必至)
しかし、そのへんのB級部分を許せる読者には、面白く読めるし、自分自身面白く読んだ。
残虐な殺人シーンは、生理的な嫌悪をもよおさせるグロさで、これはちょっと特筆ものだし、ラストのなんとも悪漢小説らしくない結末も、しょぼくていい。
まあ「闇の貴族」同様、いつまでも記憶に残 る小説ではない。
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とんち探偵一休さん 金閣寺に密室 鯨統一郎 ノン・ノベル 857円 2000/4/10発行
とんち(屁理屈)ミステリー度:★★★
あっと驚く展開度:
邪馬台国はどこですか?度:★★
金閣寺で首吊り死体として発見された足利義満。この謎の死を解きあかした一休の推理とは…
室町時代という時代背景は、ミステリーとしてはおまけ。「邪 馬台国はどこですか?」にみられたような、奇抜で斬新な論理展開も影をひそめている。
文章は軽めでさらりとしており、仕事で疲れたおじさんの頭でも、するりと入りこむ。
一休さんの描写もちょっとマンガチックだが、適度にひねくれていていい。
しかし前ふりのとんち話しは一考を要す。
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天使のウインク 橋本治 中央公論新社 1,900円 2000/4/7発行
真っ当な文化批評度:★★★
橋本治思想度:★★
お父さんのための文化講座度:★★
橋本治の社会問題や文化に対しての批評集。中央公論に掲載されていたためか、突飛もない理論は抑えぎみだし、文体もまとも。その分かりやすい面もあるが 「橋本治らしさ」は希薄。
しかし「酒鬼薔薇聖斗事件」の分析は独特の持ち味を出しているし、「クリントン大統領のスキャンダル」にまつわる「突っ込んじゃいない。しゃぶらしただけ だから、ヒラリー許して」的な推論は爆笑の切れ味。
いつまでも青臭く考え続ける、そして流されない橋本治はエライ。
学生時代に議論好きだった人で、今仕事でそんなこと考えている暇もない人は、自分の青春時代を思い起こさせるかも。
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雄呂血(おろち) 冨樫倫太郎 カッパノベルス 1,429円 2000/4/25発行
伝奇度:★★★
平安時代の政治と武将達度:★★★★
一気読み度:★★★★
平安時代末期、ある山奥で生まれた「雄呂血」。彼は生まれながらにして様々な超人的能力を身につけていた。彼の使命とは。そして彼にまつわる4つの奇跡と は何か…
陰陽寮」の作者による、ノン ストップ伝奇物語。ただ「陰陽寮」ほどには破天荒な伝奇ではない。そこがもの足りない。もっととんでもない展開や、劇画的な妖術合戦を期待していたが、親 子の愛情や主従関係の軋轢に作者の志向は向いていたよう。
「…この場面を私は泣きながら書いた…」と著者の言葉があるが、そのへんが小説のモチーフになっている。(泣くほどのもんじゃなかったけど)
しかしながら、これだけの長丁場を一気に読ませる勢いはすごい。今一番のってる作家の内のひとりだろう。
気になるのは、進む方向を間違えるとつまらない小説になってしまうということ。勢いがあるからつまらん瑕疵は気にならないが、変にじっくり書き込まれる と、勢いがなくなりアラが目立つようになってしまうんじゃないか。
「陰陽寮 四」がそんな風にならないことを祈る。
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一瞬の光 白石一文 角川書店 1,800円 2000/1/10発行
恋愛小説度:★★★★
人を思い人に思われる事とは度:★★★
企業内派閥争い度:★★
大企業のエリートである主人公「橋田」。彼は社長の姪であり、媛で美貌の「瑠衣」と半ば婚約関係にあった。そこに不可思議で捕らえ所のない「香折」が現れ る。彼の心は香折に近付いていくが…
真っ当な恋愛小説。ひねくれ読者は「なんか展開に裏があるんじゃないか」と勘ぐりながら読んでしまうが、ミステリアスな趣向はない。そんなひねくれた読者 でも、最後まで飽きさず読ませるということは、なかなかのもの。デビュー作とは思えぬ。
何ごとも一人で解決しようとする秀才の橋田。だれもが振り返るほどの美人でありながら、奢ったところのない瑠衣。心の中に秘めたものを持つ香折。登場人物 の描き方も優れているし、人によっては雪崩のように感情移入してしまいそう。特に香折に気持ちを入れ込んだら、号泣ものの展開。
だが、残念ながら自分は男だし、純な心もどこへやら置き忘れてしまった。毎日へらへら暮らしていて、あまり感動できない自分を省みて、いやになる。
二十歳ぐらいの女性には◎。
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聖の青春 大崎善生 講談社 1,700円 2000/2/18発行
命がけの青春記度:★★★★★
異色の棋士度:★★★★
泣ける度:★★
幼い頃から腎臓病を患い、29歳で癌のため他界したプロ棋士「村山聖」の壮絶で、純粋な青春記。
将棋界のノンフィクションというと傑作「真剣師 小池重明」を思い出すが、両者にはどこか似たようなところがある。
かたやプロでかたやアマチュア。かたや純粋でかたやアウトロー。真反対でありながら、両者とも将棋に命を賭ける、あるいは将棋でしか自分の人生を表現でき ないところが似ている。どこか性格破綻していながら、純な心を持っている。そこに日常に縛られてにっちもさっちも行かない人には、たまらなく魅力的に写 る。
それにしても天才肌でありながら、たゆまぬ努力を惜しまない村山聖という人に頭が下がる思い。(自分も村山聖の爪の垢でも煎じて飲んだ方がいいかも)
一方、めったに風呂にも入らず、少女マンガとミステリーにのめり込むオタクぶりにも「やっぱ偉人は凡人と違う」と思わせる。(やっぱ爪の垢は汚いから止め た方がいいか)
雑誌編集長である大崎善生のストレートな文章もいい。変にお涙ちょうだい式になっておらず、著者が感じたままの村山聖の姿が表現されている。またそれが心 に響き涙をさそう。
将棋が分からなくても、感動的。
自分の人生を考えている若い人には、特におすすめ。
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信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス 宇月原晴明 新潮社 1,600円
超伝奇度:
神話&古代史&戦国史度:
耽美度:
わけがわからん度:★★★★★
信長は両性具有だった!
1930年。アルトローの前にあらわれた謎の日本人は、信長の隠された史実を語ってゆく…
なんとも自分には理解しがたい、あるいは理解し得ない小説。
まず読者にある程度の戦国史および神話についての素養を求められる。(ここで自分は失格)文中くどいくらいに歴史的背景や神話について説明があるのだが、 もとから知識が浅く、また興味もないためか読み飛ばしてしまう。
信長の両性具有による神格性は理解できるし面白みがあるが、あとはなんだかあっちゃこっちゃ話が飛んで、作者のトッリップについていけなかった。
帯にコメントを書いている荒俣宏のような博識な人には、突き抜けた歴史&神話世界を楽しむ事ができるだろう。
唯一自分が楽しめたのは、信長が家来と乳繰り合うシーンと、合戦のシーンぐらい。(なんともお粗末 賢くなりたいなぁ)
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ストロボ 真保裕一 新潮社 1,400円
人生のわびさび度:★★★★
熱い心度:★★★
写真が人生の一場面を切り取る様度:★★★★
プロカメラマン「喜多川」の半生を、あたかも写真を見るようにその時々の情景を描写した短編集。
全体の構成や内容も十分推敲され、完成度は高い。
でもどこか新鮮さはない。
描写も作者らしく緻密で、主人公の気持ちや情景が手にとるようにわかる。
でもどこかありきたり。
そんな凡庸ともとれる小説なのに、侘びしく、哀しく、そして熱い登場人物達に泣かされてしまう。写真に賭けるカメラマンの情熱と、被写体の発する思いに心 打たれる。またそれを通して見えてくる夫婦や恋人、友人達の心象風景が心にしみる。
真保裕一、老成の観あり。
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猫の地球儀 秋山瑞人 電撃文庫 その1 510円 その2 530円
猫ファンタジーSF度:★★★
マンガチック度:★★
手に汗握る度:★★
地球の衛星上に浮かぶ「トルク」。そこは人類の後、猫が闊歩する宇宙ステーション。その猫の中に「幽」というスカイウォーカーがいた。スカイウォーカー・ 幽の望みは、死んだ猫が昇るといわれる眼下の地球儀に行くこと…
猫を主人公にしたところが、この小説のミソ。人間であれば当たり前の科学や技術も、猫の視点で語ると新鮮。
ぎこちない展開や描写はあるものの、少年向けSFの佳作。もっとディテールを書き込んでくれれば、よりマンガチックなイメージが浮かんだはず。ちょっと もったいない。
でもなんで人類滅亡のあと、犬じゃなく猫なんだろう。
猫達がじゃれあったり戦ったりする描写は、犬よりも合ってるような気もするが。でもゴキブリの干物はかんべんしてほしい。
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ぼんくら 宮部みゆき 講談社 1,800円
江戸時代人情話度:★★★
ミステリー度:★★
鼻毛でも抜きながら「しょうがないな」で終わりにする度:★★★
殺人事件や新興宗教騒ぎを期に、下町の長家から店子が次々と抜けていく。同心「平四郎」はそうそうのんびり構えているわけにもいかず、事件解決に乗り出す が…
宮部みゆきはなんで時代ものミステリーを書くのか。彼女の時代物を読む度に不思議に思う。
この本に登場する人物達は、例に漏れずみんな「いい人たち」ばかりで、おまけに少年コナンみたいに賢い美形の「弓之助」や、聴いたことを端から丸ごと記憶 してしまう「おでこ」など、ユニークな登場人物も魅力的。でもちょっとアレンジして現代風にしたらもっと面白いのではないか、と思ってしまう。
やっぱ趣味の問題か。
自分はテレビの時代劇も見ないけど、なんか展開もテレビの時代劇っぽいような気もする。
それにしても、登場人物が生き生きとしてみんな輝いているのは、さすが宮部みゆき。個人的には美人でいながらお転婆の「みすず」とお近づきになってみた い。
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始祖鳥記 飯嶋和一 小学館 1,700円
突飛な時代もの青春記度:★★
空飛ぶ表具師度:★★★
天明期の生活風景度:★★
天明の時代、人とはなにやら違うものを追い求めながら表具師となった「幸吉」は、空を飛ぶことに一心だった…
過去の時代を一人の人物を通して描き出し、またその時代の生活風景や人々が何に関心を持っていたかなどを小説にしたものはいくつもあるだろう。だが本書の ように、名もない人物で、おまけに「空を飛ぶ」という突飛なことに情熱を燃やしていた人物を主人公にしたものは、ない。
どこかアウトローの幸吉は、少年の心を持ち続けなら、空を飛ぶことを忘れられない。そんな姿が、うらやましかったり眩しかったりする。
市井の人々の描写も詳細をきわめ、どのように生活していたかが手にとるように分かる。(ちょっとくどいところもあるが)
NHKで青春時代劇にしたら、ぴったりだろう。
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フレームシフト ロバート・J・ソウヤー 早川文庫 880円
遺伝子SF度:★★
ミステリー&アクション度:★★★
苦境と愛情度:★★★
遺伝子学者「ピエール」は、ネオナチの暴漢に襲われる。襲われた理由を調査していくうち、とてつもない事件にはまって行き…
ストーリーは遺伝学者であるピエールの研究内容と、ネオナチによる事件の2本柱で展開する。
SF的にとんでもない大風呂敷を広げるわけでもなく、またミステリーとしてもずば抜けて面白いわけでもないが、主人公達の心象風景がいきいきしている。
特に「アマンダ」にまつわる話は、感涙もの。好きな相手を思いやる気持ち、大事な娘を気づかう情景が美しい。
SFあるいはミステリー的な展開より、アマンダにまつわる描写に拍手。
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嘘をもうひとつだけ 東野圭吾 講談社 1,600円
ミステリー度:★★
ねじれた心の行く先あるいはもの悲しさ度:★★★
全体的に悲哀のこもった短編集。
それぞれの短編の動機と結末が、人の心の弱さ醜さをあらわしている。登場人物全員がそこはかとなく暗く、けだるい雨の日曜日みたいな感じ。
全編に登場する「加賀」という刑事も、癌でも患っているんじゃないかと思わせるような描写だし。
読むんだったら梅雨時のじとじとした日を避けて、晴れた明るい日に。
個人的には「冷たい灼熱」のなかの金属組織の顕微鏡写真の件に感動。
東野圭吾は、かつてエンジニアだった頃の仕事を題材にするが、それが自分の仕事と重なることがあり、マニアックな喜びを感じる。
普通は「熱硬化性樹脂」や「硬度分布」といった言葉が、小説のなかに登場することはないから、なんだか嬉しい。
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ヘッド・ダウン スティーヴン・キング 文芸春秋 3,000円
モダンホラー度:
むかしのキングは面白かった度:★★★★
モダンホラーの大御所S・キングの「いかしたバンドのいる街で」に続く短編集。
むかしは徹夜してキングの小説を読んだのに、なんでこんなにつまらないのか。
ちっとも怖くなければ、感動的でもない。
うーむ。
たぶん自分が本に対して欲する事柄が、年とともに変わってきたんだろう。
あるいは、あまりにももったいをつけた文章に馴染めなくなったか。
それとも単に、この短編小説がつまらないだけなのか
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レディ・ガンナーの冒険 茅田砂胡 角川スニーカー文庫 571円
少女小説度:★★★★
ファンタジック冒険小説度:★★★
いじめあるいは差別の構造度:★★
台風娘のウインスロウ家の娘「キャサリン」が、幼馴染みのマクシミリアン公爵家子息「フランツ」から助けを求める手紙をもらう。彼女は幼馴染みを助けるた め、匪族の出没する半島を不可思議な4人の用心棒とともに横断しようとするが…
例にもれず、元気な少女と中性的な登場人物達が登場する、少女小説の世界。どたばたあり、ユーモアあり、アクションありの展開だが、デルフィニア戦記等 に比べるといささかトーンダウン。
やっぱり長篇でないと思う存分作者も入れ込めないし、読む方も物足りない感じ。
延々と続く小説世界こそ、少女小説の神髄なのかも。
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虚の王 馳星周 カッパ・ノベルス 933円
バイオレンス&セックス度:★★★★★
空虚な人間性度:★★★
渋谷はもうスラム街度:★★★
少年院を出てチンピラの使いっ走りをしている「隆弘」は、兄弟分の命令で、渋谷で売春組織を仕切っている高校生「英司」を探しはじめる。普通の高校生であ りながら、仲間から恐れられている英司の姿とは…
物語はかつて渋谷でならした隆弘と、一見普通の高校生に見えるが、とてつもなく残忍で空虚な英司を主人公として進む。
作者が扉に書いているように、何を考えているのか分からない英司の姿が、この小説のポイント。どこか「白夜行」の登場人物を思い出させるし、最近のニュースなどを 見ていると、英司の描写にリアリティを感じる。
犯罪を起こす少年達の心境は、英司と同じなんだろうか?
相変わらずのバイオレンス描写も迫真。畳み掛けるような展開に、一気読みしてしまうし、誰もがどこかに持ている心の弱さや醜さを登場人物達に投射して、ほ じくり返すように描写するテクニックも作者ならでは。
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月の裏側 恩田陸 幻冬舎 2,800円
SF度:★★★
ホラー度:★★★★
恩田陸ワールド度:★★★★
水郷都市九州箭納倉。この街で老女が失踪し数日後戻ってくるが、失踪期間中の記憶がなくなるという事件が発生する。元教員の「協一郎」とその教え子の「多 聞」は、この不可思議な事件を探って行く…
前半は背筋が寒くなるようなホラー。読んでてあんまりゾクゾクするのでエアコンの設定温度を上げたほど。恩田陸のホラーは怖い。
それでいながら後半はSFに。
オーソドックスなSFテーマでありながら恩田陸ワールドを展開しているとこもすごいが、前半と後半でホラーからSFへとアプローチの仕方を替えているにも かかわらず、ストーリー展開がスムーズなところも驚異。
さらに「あれ」に対する印象が、前半と後半でガラッと変化させるところも、作家としての腕をあげたよう。
着地もひねりがあっていい。
これからますます楽しみ。
(ジャック・フィニイ むかし読んだのに、全然覚えていない 愕然)
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媚薬 図子慧 角川ホラー文庫 762円
ホラー度:★★★
淫美度:★★★
あっさりめのグロテスク度:★★★
美男子の「茅島」に恋する「啓子」は、インターネットで手に入れた媚薬を試してみると、劇的な効果が…
マレーシアの欄園での印象的なシーン。啓子の会社での不可思議な出来事や死亡事件。なかなか巧みなストーリー展開で、読む気を惹かれる。
文章もあっさりめで読みやすいが、逆に物語の盛り上がりに欠けてしまうことも。アクションシーンよりも、じわじわと、あるいはひたひたと迫るような恐怖の シーンがうまい。
登場人物達に厚みがあって、もうちょっと毒気のある描写があれば最高。でもホラー小説としては完成度高し。
こんな媚薬があったら、ちょっと使ってみたい気も…
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エリコ 谷甲州 早川書房 2,200円
エロチックサスペンスSF度:★★★
上方漫才度:★★
エリコが女に見えない度:★★★★
近未来の大阪。性転換をし女になった娼婦「エリコ」は、ある売春組織に所属する。その直後からエリコのまわりで事件が起きはじめ…
出だしからエロチックパワー炸裂で、展開もめまぐるしい。
しかしエロチックパワーといってもどこか安もんで、物語の内容や展開もチープ。
それなりに楽しめるものの、スポーツ新聞に連載されるような、B級のSF。
ヒロインや登場人物達の行動や言動が、さっぱり理解できないし、雑誌連載のために、むりやりアクションシーンやエロチックシーンを書いたよう。
そのくせ長さをあまり感じさせないのは、やっぱ俺がHだから?
中学生の男子にはお勧め。
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マンハッタンの怪人 フレデリック・フォーサイス 角川書店 1,500円
ドラマチック度:★★★
悲劇の主人公度:★★★
なんでフォーサイスが?度:★★★★
ガストン・ルルーの名作「オペラ座の怪人」の続編。
「オペラ座の怪人」すら読んだことがないのに、フォーサイスが書いた、というだけで買ってしまった。
なんでいまさらフォーサイスが?という気持ちは、読んだ後も消えないものの、物語自体はきちんとした構成で完成度は高い。
結末がどうなるのか、気になって最後まで一気読みしたが、プロローグを読んで、あれこれ勝手に想像している時の方が、自分の中ではドラマチックだった。
まあ、ひとり相撲みたいなもんだけど。
(恋愛小説やホラーっていうのは、自分で考えて書いたりしている時が、一番幸せだったり、一番怖かったりするもんだよねぇ)
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水霊 ミズチ 田中啓文 角川ホラー文庫 960円
ホラー度:★★★
荒唐無稽度:★★★
話がでかいようだがこぢんまりしてる度:★★★★
中学生の「由美」のまわりで起きるポルターガイスト現象。そして遺跡の発見とそれにまつわる事件。物語はとてつもない破滅に向かって進んでいく…
出だしはうまく読者の心を引き付ける力があったが、だんだんと御都合主義や説明過多、こんな女いねぇよ、等が目につくように。
やるなら初めから荒唐無稽に。史実にまつわる説明は不要。
やらないならもっとシリアスに。昔の坂東眞砂子のように、土着信仰に根ざした物語に。
だが、読んでて不満は感じるものの小説の勢いはある。
文章構成上の拙さはあるが、 それを上回る作者の意気込みが一気に読ませる力になっている。
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カーラのゲーム ゴードン・スティーブンズ 創元ノベルズ 上700円 下700円
冒険小説度:★★★
生き抜く女性度:★★★★
ストイックな男達度:★★
1994年、ボスニアの内戦下。不安と恐怖におののく女性「カーラ」にさらなる不幸が襲いかかる。彼女は度重なる災難の中、運命的な出合いをしたASA隊 員の言葉に、自分の生きるすべを見つけようとする…
ヒロイン達の心象風景を描き出すストイックな文章がいい。特に前半の内戦下でのカーラの悲哀と、戦争が巻き起こす悲惨な状が、心にしみる。
だが、後半から展開に無理が出てくる。
情報戦にもにた展開は不要に感じる。展開もぎこちなくなってるし。
また、ヒロインに汚れ役をやらせるのはいいが、もっとシンパシーを抱かせるように書き込まないと、せっかく感情移入していた気持ちが、裏切られたよう。
ただラストの盛り上がりはなかなかいい。落ちも無難だが「冒険小説」を感じさせる。
もうちょっとストレートな構成にすれば、感動的だった。
主人公を少女にする、という手もあったかも。
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脳のなかの幽霊 V.S.ラマチャンドラン サンドラ・ブレイクスリー 角川書店 2,000円
脳の認知科学度:★★★★
色即是空、空即是色度:★★★★
目からうろこ度:★★★
切断された手足がまだあると感じる「幻肢」。自分の体の一部を他人のものだと主張する「自己身体否認」。その他いくつかの神経疾患の実例をあげながら脳の メカニズム、認識のしかたについて書かれたノンフィクション。
立花隆のノンフィクションが「ハード」なのに対し、本書は「ソフト」からのアプローチといった趣き。
これを読むと、いかにして脳が外界や物事を認識しているのかがよく分かるが、さらに、とっても不確かで自分の意志ではどうにもならない認識回路があること に愕然とする。普通意識したことのない「脳」に自分が支配されているような、逆説的な気分にもなる。
また、自分が認識している世界が、本当に確実なものなのか。自分の行動は、社会規範に合っているのか。神経疾患ではないが、不安になってくる。
ミステリーの題材になりそうなエピソードも多い。
そういえば、耳が性感帯で足をスリスリするのが好きな女性がいたが、その理由が分かってしまった。そういった面でも役立つ?
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エンガッツィオ司令塔 筒井康隆 文芸春秋 1,333円
危ない度:★★★★★
ハチャメチャ度:★★★
ブラック度:★★★★
筒井康隆すごすぎる!
断筆、死、夢、カルトなどを題材にした短編集だが、その過激さ、危なさは以前の数倍。
中でも表題作の「エンガッツィオ司令塔」は筒井ファンを唸らせる出来。往年の傑作短編小説の10倍はカゲキで、うさん臭い電波系の雑誌や雑文は裸足で逃げ てくだろう。また、文章の持つ魔力、読者を小説の世界に引きずり込むテクニックは筒井康隆ならでは。これだけインパクトのある小説を読むと、他の作家の小 説が霞んで見える。
それにしてもここまでかたくなに自分の意志を押し通す筒井康隆のエネルギー源は、どこから来るのか。ひょっとすると危ないものを飲んだり食ったり打ったり してるんじゃないか。ただでさえ狂気の世界にとても近く、そして近付こうとしているだけに、妙なことまで考えてしまう。
新潮社からも短編集の出版が予定されているようだし、これからも筒井小説を楽しめそうだが、本人が暗殺されたり抹殺されたりしないよう、七福神に祈る。
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やみなべの陰謀 田中哲弥 電撃文庫 510円
時間SF度:★★★★
ドタバタコメディ度:★★
正しい青少年向け度:★★
時代も内容も文体も違う5遍の短編集。
それぞれの短編がなかなかいい味をだしてるし、元台本作家のためか台詞まわしがうまい。
ラストの短編はアクロバティックで、4編の異なる内容のストーリーを、時間SFとして連結させるという、作者自ら解説で書いているような無茶な内容だが、 それなりに完結している。
ドタバタあり時代物あり恋愛ものありの、やみなべのごとき内容でありながら最後はきっちりとSFで締めるあたりは、作者のテクニックを感じる。
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いかしたバンドのいる街で スティーヴン・キング 文芸春秋 3,000円
モダンホラー度:★★
サブカルチャー度:★★
超現実度:★★
モダンホラーの大御所S・キングの短編集。
「ファイアースターター」や「シャイニング」のような読者を引き込む魔力は感じられないなぁ。冒頭の短編は、らしくてよかったけど。でも、現実がミステ リーを越えている世の中で、これだけ超現実的な日常を描写できるということが、驚くべきことなのかも知れない。
キングのファンは買うだろうけど、ファン以外にはこの内容で3,000円は高すぎる。文庫本だったら勧められるけど。
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どすこい(仮) 京極夏彦 集英社 1,900円
メタメタパロディー度:★★
言葉ギャグ度:
不条理度:★★
「四十七人の力士」をモチーフに、名作ミステリーをパロッた短編集。
小説というよりは、作者のおふざけといった赴き。ギャグもそんなに笑えないし(京極堂シリーズに似てくどい)パロディーというほどでもない。
笑いのツボがはまれば、おもしろいかもしれないが、自分には合わなかった。
京極夏彦ファン以外にはお勧めできない。
(表紙の凸凹がおぞましい)
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とらわれびと 浦賀和宏 講談社ノベルス 940円
ホラー度:★★★
むりやりミステリー度:★★
猟奇度:★★★
大学の構内で、小太りの男達が腹を裂かれて殺されるという殺人事件が起きる。そしてその大学病院に入院している幼い「雄一」までもが無惨に殺害される。
高校生の「留美」と「雄一」の姉「亜紀子」は、事件を追求するが…
文章はぎくしゃくし展開もいまいちだが「猟奇的殺人」「男性の妊娠」「狂気」といったテーマについて描写は、変態ぽっくていい。
第1部のラスト、めくるめく狂気の世界はシュールで読ませる。だらかよけいに第2部のミステリー的解決編は不要に思える。わざわざミステリーにしなくて も、もっとサイコっぽくするか、ホラータッチにした方が、小説としては面白いのでは。
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オルファクトグラム 井上夢人 毎日新聞社 1,900円
嗅覚ミステリー度:★★★★
匂いの世界が見える度:★★★★★
デッド・ゾーン度:★★★
恋愛小説度:★★★★
姉の家を訪れた「ミノル」は暴漢に頭部を強打され意識を失う。1ヶ月後病院で意識を取り戻したミノルには”匂いを見ることができる”という能力が備わって いた。彼はその能力を使って、行方不明の友人と暴漢を探し出そうとするが…。
ひさしぶりの井上夢人は、期待を裏切らない。
匂いではなく音を手がかりにして犯人を追求する、といったミステリーもあるし、展開はどこか「デッドゾーン」に似ているし、驚く程斬新な小説ではないけ ど、匂いの世界が秀逸。
”匂い”のグラフィカルな描写はリアルで美しく、匂いが形作る世界は下手なSFよりもきちんと構築されている。作者は相当考えて匂いの世界を創っている。
また友人や恋人との会話は井上夢人ならではの軽妙さで、なおかつ心の動きが伝わってくるストレートな文章。ラストの緊張感あふれる展開も見事。ベテランの テクニック健在。
好きな作家はどうしても贔屓してしまう。でも、読者の期待どおりの小説を書けるというのは、すごい。
ファンはお見逃しなく。
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陰陽寮(参)丹波死闘篇 冨樫倫太郎 徳間ノベルス 1,300円
伝奇エンターテイメント度:★★★
妖術合戦度:★★
長篇の中継ぎ度:★★★★
陰陽寮シリーズの第3弾。
話があっちゃこっちゃで目まぐるしい割には、つぼを押さえた展開で読ませる。
「刀伊」という外国勢力との戦いが物語のメインとなっているが、ついでに「来流須」の謎も明かされたり、新たに狼少年が登場したり、ラストでは陰陽師がぞ ろぞろ出てきて、これからの展開が楽しみ…というところで終わり。
この手のエンターテイメントは、一気に読まないと勢いがそがれる。読みはじめは、登場人物を思い出すだけで大変だし。
でもラストの感じからすると、第4弾では妖術合戦が期待できそうで楽しみ。
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遺品 若竹七海 角川ホラー文庫 648円
ホラー度:★★★
マニアック度:★★
S・キング度:★★★
若くして亡くなった女優「曾根繭子」。彼女の膨大な、そして変質的なまでの遺品を整理する主人公に、次々と奇怪な事件が起こり…
ホラーではあるんだが、主人公達の言動や振る舞いがコミカルで、ひたひたとくるような怖さはない。かといって、クーンツばりのスーパーホラーぶりも無く、 こぢんまりまとまっている。
もっとはちゃめちゃなホラーにするか、リアリティのある怪談話し風にしたほうがインパクトがあったかも。
でもそう感じるのは読み手の問題かも知れぬ。
やっぱし慣れてくるとだんだんエスカレートし「これじゃ生温い」「もっと刺激を」というように過激になっていくもの。(これは小説に限らないのねぇ)
もっと怖いホラーを、もっと驚くような展開を、とエスカレートしていく自分の欲求の方が問題かもね。
そう考えると作中の変態コレクターの気持ちも分からんでは無い。
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道祖土家の猿嫁 坂東眞砂子 講談社 1,800円
道祖土家の年代記度:
家と嫁度:
伝奇度:
時代は明治。土佐の名家「道祖土家」に嫁いできた猿嫁こと「蕗」の一生を描いた物語。
はじめはかつての坂東眞砂子らしい伝奇ものか、土着信仰をあつかった小説かと思い期待したのだが、期待外れ。途中「白い猿」というモチーフがあり、これが もっと書き込まれて意外な展開になるのでは、と思ったが鳴かず飛ばず。どってことない自分史か、道祖土家の年代記といったおもむきの物語に終わってしまっ た。
物語の当人たちにとってはすごく重要なことではあるだろうが、読者にとっては「だからなんなの」ってとこ。
ひょとして道祖土家というのは、坂東眞砂子にとって重要な親族なのではないか。そしてどうしてもそれを記録にとどめておく必要があったのではないか。最後 に登場する人物は作者本人ではないか、と空想するが、それを小説にするなら、うつろい行く時代と主人公の人生という主題はあるものの、もうちょっとなんと かしてほしかった。
ファンとしては残念なかぎり。
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李歐 高村薫 講談社文庫 714円
波瀾にとんだ男の半生度:
変態友情度:
銃フェチ度:
ナイトクラブでアルバイトをし、自分の通う大学の助教授の妻と不倫をするような不良学生の「一彰」は、クラブで起きた殺人事件をきっかけに、裏社会と接触 するようになる。
裏社会に入るでもなく、かといいって真っ当に暮すでもなくするうち、「李歐」という暗殺者に会うことで、人生が変わる…
「一彰」という主人公の半生に、親子の愛、友情、拳銃への執着、裏社会との確執などを描写している。工場の描写はリアルで、銃に執着する主人公の姿もいい のだが、なんせ性格描写が変!。
やっぱ高村薫の描く男は、絶対変。自分の理解できる範疇を越えている。
きっと男性作家の描く女性の描写を読んで、 女性読者が「こんな女いるわけないじゃん!」と感じるのと同じだと思う。
『…またその夜からは、李歐の大きなベッドで一彰と耕太も眠った。耕太は父親が二人出来たのだ。』
なんで男三人で川の字になって眠る?!
「一彰」という主人公はオカマなのか? それとも両刀使いか?
李歐を15年も忘れられない割には、色んな女に手をだしているのはなぜ?
性格描写だけでなく、結局この小説は何を言いたかったのかよく分からない。
裏表紙にあるような青春の物語にも思えないし、李歐と一彰の友情物語りにしては、愛情に近すぎ変態すぎるし、裏社会と拳銃への執着も中途半端だし。
高村薫ファンには申し訳ないが、やっぱ自分には全然合わない作家でした。
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悪意 東野圭吾 講談社ノベルス 800円
推理小説度:★★★
二転三転度:★★★
悪意度:★★
流行作家が殺害された。その発見者で友人でもある童話作家の「野々口」の手記と、取り調べを行った刑事の手記が明らかにする真実とは…
二転三転する構成はよく練られているし、あえて手記という形で小説にした作者の意図も、成功している。淡々とした語り口でありながら、一気に読ませるの は、展開の速さと構成の巧さであろう。
だが、推理小説としてはそれで十分かもしれないが、物語として読むには不十分。もっと「悪意」が書き込まれていないと、心に響かない。
「秘密」の出来が素晴らしかっただけに、辛めの評価になってしまう。
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サイエンス・ミレニアム 立花隆 中央公論新社 1,400円
科学ノンフィクション度:★★★
鳥肌度:★★★★
驚愕度:★★
立花隆のサイエンスノンフィクションものの最新刊。
宇宙から遺伝子まで6分野の最新情報についての対談集。
中でも性転換技術の章は鳥肌ものの内容。外科手術でペニスを再建する手法が細かく語られるのだが、ちょっとしたスプラッター映画より怖くてなまなましい。 思わず自分の股間を握りしめてしまった。
時に専門過ぎて難解なところもあるが、変に簡単な表現や説明にしていないだけ、知識フェチの方にも読みごたえ十分。
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第4の神話 篠田節子 角川書店 1,600円
ミステリー度:★★
人の心の内側度:★★
薮の中度:
ある華麗な流行女流作家が癌で若くして死亡する。フリーライターの「万智子」は、彼女の本当の姿を追い求める。
女流作家の娘や、友人、夫などに取材して行くうち、きらびやかで美しいだけが印象に残るような女流作家の、真実の姿が見えてくる、という「薮の中」形式の 物語り。
物語に破綻はないものの、展開がゆるやかでインパクトがない。篠田節子にしてはお座なりの小説。
それなりに能楽などについて勉強して書いてはいるが、ちょっと専門過ぎて、また文章で表現するには芸術過ぎて、書き込みがうまくいっていない。
残念。
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エンディミオンの覚醒 ダン・シモンズ 早川書房 3,800円
SF叙事詩度:★★★★
冒険とアクション度:★★★★
時を越えた恋愛度:★★★★★
右手に筋力がつく度:★★★★★
SF的叙事詩、ハイペリオンシリーズの完結編。
前半は前作「エンディミオ ン」を継いで新たな惑星の冒険談から始まるが、後半以降は今までの謎とされていた「シュライク」や「パスクとテクノコアの関係」や「獅子と虎と 熊」がしだいに明らかにされ、「ハイペリオン」二部作との関連も語られるという内容。
細かな点でストーリーが破綻しているが、それにもましてダイナミックな物語に圧倒される。戦闘シーンやアウスターたちの描写、東洋的宗教観とキリスト教的 宗教観の違い、各惑星の風景や人物。どれもがSFでしかなし得ない物語で、かつリアリティあるものになっている。あらゆるSFファンにはこたえられない楽 しみとなるであろう。
それにもまして物語の中心となるのは、少女「アイネイアー」と「エンディミオン」の関係。
活発で行動力のあるアイネイアーは、とても魅力的に描かれているし、対するエンディミオンは、年の割にはちょっと間抜け。この二人の関係がなんとも恥ずか しくなるくらいハーレクインしている。でもそれが若々しく、微笑ましい。
なにはともあれ、御一読を。
ハイペリオンシリーズ四作を未読のSFファンには、1週間の徹夜と至福の物語り世界が堪能できることをお約束する。
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シェエラザード 浅田次郎 講談社 上1,600円 下1,600円
戦記ミステリー度:★★
海の男達度:★★
恋愛小説度:
元銀行員、現企業舎弟である栄光商会社長の「軽部」に、「宋英明」という謎の中国人から、戦争中に沈没した「弥勒丸」のサルベージ資金100億を融資する よう依頼がくる。調査すると「弥勒丸」には軍の金塊を積載し沈没したという情報が…
物語は「弥勒丸」引き上げにまつわる現在の裏社会と、戦時中の「弥勒丸」の航海の模様とが、交互に描写され展開する。
浅田次郎のミステリーということで期待していたのだが、ちょっと期待が大きすぎた。
謎を解くというより、現在と過去をシンクロさせて、そこに浮かびあがる人間ドラマを描き出すのが作者の主眼となっている。
それはいいのだが、どうにも御都合主義や無駄が多く、人間ドラマが浮かびあがってこない。ラストのモノローグ部分だけは光っているが、どうも書き急いだの か、心に響くものがない。
(「蒼穹の昂」に全精力を使い果たした後のせい?)。
浅田次郎という名前がなければ、読むことはなかった小説。
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