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トラッドのリズムについて |
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【リズムの違い】 非常にありがたいことに、アイルランドをはじめとするケルト音楽(トラッド:日本国内での俗称)を演奏される方の人口は、この数年間で爆発的に増えました。しかし、それと同時に少々気になる部分も出てきました。かなりの上級者も含めて、ほとんどの方々がケルト音楽独特のリズムに関して、ひどく無頓着であるという点です。 本来のトラディショナルなリズムは、多くのケーリー・バンドや『チーフテンズ』の演奏で聴くことができます。リールの場合、『ブン・チャカ、ブン・チャカ』という感じ。よく混同されがちなブルーグラス系のリズムは『ブン・チャッ、ブン・チャッ』です。また、意外かもしれませんが、ケーリー・バンドのリズムで最も重要なのは『ブン・チャカ』の最後の『カ』です。このタイミングで全体のグルーヴ感が決定されてしまうのです。ブルーグラス系の『ブン・チャッ』には、この最後の『カ』が抜けている上に、アクセントの位置が異なることにも注意してください。この違いは非常に大きいモノです。 現代的なリズムに慣れた方々の多くは、この独特のリズムが認識できなかったり、なんとなく違いに気づいていても「田舎臭くてダサい」と無視してしまうようです。それでも、これが基本のリズムであり、音楽自体や楽器がそれに合わせてできあがっていたりしますので、たいへん重要な点なのです。 これに対し、現代的なリズムは『ドダダダ、ドダダダ』という均一で機械的な感じのものです。トラッド系の音楽でこのようなリズムが取り入られ始めたのはおそらく1970年代で、代表的なバンドとしては『ボシー・バンド』などがあげられます。現役のバンドでは『ソーラス』や『ダーヴィッシュ』などが代表格です。現代のポピュラー系のリズムと同じなので、広く多くの人々にとって「ノリ」がわかりやすく、アクセントの位置にもバリエーションを持たせることが可能で、音楽的な広がりも無限大になります。 どちらのリズムが「良い」「正しい」などという問題ではなく、実際の演奏においては、この両者の違いを注意深く認識したうえで対処する必要があるのです。 繰り返しになりますが、多くの演奏者はこれらのリズムの違いに無頓着で、ひとつひとつの曲を覚えた時に聴いた自分の好きな演奏家のイメージを参考にしていたりします。従って、Aという曲では『ブン・チャカ』で演奏していた人が、Bの曲に移ったとたんに『ドダダダ』で演奏していたりします。 トラディショナルなダンスの伴奏などは『ブン・チャカ』でないと合いません。ダンスのステップ自体が『ブン・チャカ』のリズムを含んでいるためです。これに対し、有名な『リバーダンス』などの現代物では当然『ドダダダ』です。 同様に、曲によっても違いがあり、『ブン・チャカ』になりやすい曲とそうでないものとがあります。伝統的なメロディの多くは、メロディの中に『ブン・チャカ』のリズムを内包しています。 楽器による違いもあります。コンサーティーナは『ブン・チャカ』なら演奏しやすいのですが、『ドダダダ』では難しくなります。日本人のギター奏者で『ブン・チャカ』のカッティングで伴奏のできる人は非常に稀なようで、ほとんどの人が『ドダダダ』かブルーグラス系の『ブン・チャッ』で伴奏しているようです。ボランは『ブン・チャカ』の楽器ですが、最近は伝統的でない奏法を用いて『ドダダダ』に対応している奏者も増えています。 多くの人々が集まるセッションなどでは、全体としては『ブン・チャカ』になる傾向があります。自分自身では『ブン・チャカ』で演奏しているにもかかわらず、伴奏者には『ドダダダ』を要求するという無茶なパターンもよくあります。 どのような場合でも全体にある程度の統一感が必要です。様子を見て対処すればよいでしょう。固定メンバーのバンドなら、相談して決めることも可能でしょう。 【リズムが合わない!】 残念ながら、現在、日本国内でケルト系音楽の演奏をされているアマチュア・バンドの多くは、リズムが合っていないように思われます。これは音楽として決して高次元の話ではなく、他の一般的なポップス系の音楽を演奏している数多くのアマチュア・バンドと比較しても、トラッド系の人達の演奏には「リズム」が無いように思われるのです。これには前記したリズムの違いも関連しているかもしれませんが、実際には「リズム感」以前の「リズム」自体が無いという感じです。 一般的なポップス系のバンドでは、ドラムとベースが大音響でリズムを打ち出しており、他のメンバーは意識しなくてもそのリズムに全身を打たれるので、比較的簡単にリズムにのった演奏が可能です。 これに対し、トラッド系の多くの場合は、メロディを演奏している演奏者自身が、ある程度リズムを打ち出さなければなりません。優れた奏者がひとりいて、他の奏者がうまく追従できればよいのですが、実際には個々に異なったリズムで演奏してしまっているケースがほとんどのようです。せっかくリズムの合っている演奏でも、そこに不慣れなボランやギターなどの奏者が加わって、全体のリズムをメチャクチャにしてしまっているという状況もよく見かけます。 このような状況を変えるのには身体を動かすことが重要、というか必要不可欠です。全身を動かす必要はありませんが、できれば足だけでもリズムを取って動かしてみてください。ダンスのステップを思い浮かべながら動かせば『ブン・チャカ』のリズムが出しやすくなります。 リズムに関する感覚は人によって大きく異なる場合があり、早め早めにリズムを打ち出す人(前ノリ)と遅めに打ち出す人(後ノリ)がいたりします。前ノリの人は、気がつくと曲がどんどん早くなってしまっていたりします。これは全体を盛り上げる効果もありますので、意識的に応用するのなら良いのですが、自分でも演奏できないくらいに早くしてしまう「破滅型」の方もいらっしゃるようです。逆に、後ノリの人は落ち着いたスタイルで演奏できるのですが、油断すると曲がどんどん遅くなってしまい、楽しさや躍動感に欠ける演奏になってしまったりします。いずれの場合も普段からバンド等での自分の演奏を MD などに録音して、自身で客観的にチェックしておく必要があります。 困ってしまうのが、バンド内部に前ノリと後ノリの人が同居してしまっているケースです。お互いに気をつけて補正し合い、バランスを取るということも可能かもしれませんが、場合によってはメンバー・チェンジが必要となるでしょう。 もちろん例外もありますが、クラシック系の音楽教育を受けてしまった人達の多くは、身体でリズムを取ることができず、リズムを無視してメロディに抑揚をつけてしまうという傾向があります。これはプロもアマチュアも同様です。できれば一度、思いっきり全身を動かして踊りながら演奏してみてください。ロック・ミュージシャンのように狂ったように踊りながら演奏するのは恥ずかしいかもしれませんが、実は「リズムにのる」という感覚を得るためには必要不可欠なのです。ロック・ミュージシャンもただ単に「カッコつける」ために踊り狂っているわけではありません。それだけ動く必要があるのです。 とにかくリズムのチェックに関しては「客観性」が大切です。自分では合っているつもりなのに、ハズれているのが『リズム』なのです。 |