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トラッドのハープについて

   

 ハープには無数の種類とタイプがあり、とてもすべてをご紹介することはできません。ここでは実際に欧米で伝統的な音楽の演奏に使用されているハープに限定して説明します。

  

  

 現在、トラッドの分野で主に使用されているハープには以下のようなものがあります。

*クラシック系のネオ・アイリッシュ・ハープ
*フォーク系のネオ・アイリッシュ・ハープ
*前記2種の中間的な存在のハープ
*金属弦を用いた中世のケルティック・ハープ
*金属弦を用いたその他の様々なハープ
*それ以外のハープ

 以下にそれぞれのハープの特徴を紹介します。

  

クラシック系のネオ・アイリッシュ・ハープ

 実はこれが最も一般的です。ルーツは19世紀のハープですが、現在のようなスタイルになったのはおそらく20世紀の後半と思われます。典型的なのは日本の青山ハープの「ノン・ペダル・ハープ」です。アイルランドの楽器屋さんで「ハープを見せて」というとこの青山ハープが出てきます。スコットランドのハイスクールで音楽の時間に使う楽器として青山ハープが指定されていたりもします。

 主な特徴は以下の通りです。

*弦と弦の間隔が広い/弦の張りが強い/楽器自体が非常に重い

 演奏法もクラシック・スタイルです。つまり、両手の親指を高くあげる構えで、各指を弦に確実に引っかけて演奏します。逆に言うと、弓を射るように強くはじかないと、充分な響きは得られません。この奏法は日本各地の一般的なハープ教室などで教えてもらうことができます。教材や指導者も揃っていますので「一から十まで丁寧に教えて欲しい」という人はこれが最も無難です。残念ながら当方では取り扱っておりません。

 参考リンク:青山ハープ

  

フォーク系のネオ・アイリッシュ・ハープ

 当方で取り扱っているストーニー・エンドの「イヴ」のようなハープで、部分的に中世からのハープの伝統を継承しています。

 主な特徴は以下の通りです。

*弦と弦との間隔が狭い/弦の張りがやや弱い/楽器自体が比較的軽い

 演奏法はフォーク・スタイルになります。弦は指先で軽くはじくだけです。指先を引っかけてしまうと、楽器が悲鳴をあげてしまい、本来の優しく繊細な音が出ません。また、弦の間隔が狭いので、指を引っかける奏法はやりにくくなっています。教材や指導者は少なく、あまり一般的とは言えません。

  

前記2種の中間的なハープ

 弦の間隔が広くて張りの弱いハープもあります。逆に、間隔が狭くて張りが強いハープもあります。間隔も張りもホドホドというハープもあります。つまり、いろいろなハープがあって、すべて「アイリッシュ・ハープ」と呼ばれてしまっているわけです。

  

金属弦を用いた中世のケルティック・ハープ

 ある意味ではこれが本来のトラッドのハープです。「ブライアン」「クイーン・メリー」などのニックネームを持つものもあり、「ハープ」とは呼ばずに「クラルサッハ」と呼ぶこともあります。アイルランドのシンボル的な存在ですが、オリジナルはスコットランドという説もあり、あえて「ケルトのハープ」としているわけです。

 主な特徴は以下の通りです。

*弦の間隔が極端に狭い/弦の張りが弱い/削り出しで大型の共鳴箱

 弦には主にブラスやブロンズが使用されており、低音弦に銀を用いることもあります。
 演奏法は独特のもので、長く伸ばした爪の先で軽く弦をはじきます。はじきながら指先で余分な弦の響きを止める「ダンピング」のテクニックも必要となります。教材は極端に少なく、演奏家もごく少数です。自分自身で研究する必要があります。

  

金属弦を用いたその他のハープ

 前記したフォーク系やクラシック系のネオ・アイリッシュ・ハープに金属弦を張ったものもあります。弦の素材や張りの強さは、それぞれのハープの特性に合わせて選びます。つまり、これにもいろいろあるわけです。演奏法もそれぞれにすべて異なってきます。

  

それ以外のハープ

 これまでに紹介したハープのそれぞれの特徴を少しずつ含んだものや、どれにも当てはまらないものも数多く存在します。つまり「なんでもあり」なのです。
 例を挙げると、形は中世のケルティック・ハープながら弦はナイロンで間隔は広く、張りも強い、というものです。見た目には中世でも奏法上はモダンのクラシックになるわけです。
 また、ウェールズなどでは弦を3列に張ったトリプル・ハープなども使われています。

  

現在の状況

 ここまででご紹介した分類名、及び「フォーク系」「クラシック系」「ネオ・アイリッシュ」「ケルティック」などによる分類は当方独自のもので、一般的な分類とは言えません。実状はもっと混乱しており、メチャクチャです。
 海外の業者の中にはクラシック系のネオ・アイリッシュ・ハープに「クラルサッハ」とか中世やルネサンスのハープをイメージさせるような名前を付けて販売しているところも数多くあります。自社の製作しているハープがどの分野のものなのか認識できていないメーカーも数多くあります。

  

トラッドの奏法

 本来のトラッドの奏法は金属弦を用いたケルティック・ハープによって築かれたもので、その後、フォーク系のアイリッシュ・ハープによって引き継がれました。従って、それらのハープならトラッド本来の奏法を取り入れることができます。弦の間隔が狭く、軽く触れるだけである程度弦が鳴ってくれる必要があります。このため、クラシック系の特徴を持ったハープでトラッドの奏法を取り入れるのには無理があります。

  

CDで聴くハープ

 アイルランドなど海外からのものも含めて、CDなどで聴くことのできるハープの殆どはクラシック系のハープです。奏法も音楽スタイルもクラシック調ということになります。
 「アイルランドの伝統音楽の神髄」などというサブ・タイトルがついていても、内容は古い民謡をクラシック調にアレンジしたものだったりします。だからといって「ニセモノ」というわけではありません。音楽としては非常に良くできた素晴らしいものもたくさんあります。
 本来のトラッドの奏法によるハープの音楽のCDも少数ですが、輸入盤で入手することができます。CDごとの情報を集めるよりも、演奏家の名前で探した方がよいかもしれません。

  

主な演奏家

 クラシック・スタイルのアイリッシュ・ハープの演奏家で有名なのは、チーフテンズのデレク・ベルです。教則本で有名なシルビア・ウッズもこの分野です。クラシック・スタイルのハープでトラッドを演奏する場合のお手本になります。
 フォーク・スタイルのアイリッシュ・ハープの演奏家ではアリソン・キナードが代表格です。本来のトラッド・スタイルで、やや泥臭い印象があります。若手で人気も実力もナンバー1なのがグローニャ・ハンブリーです。
 金属弦を用いたトラッド・スタイルのハープではアン・ヘイマンが有名です。ポール・ドゥーリーもこの分野です。

  

 ここで紹介した様々なハープは、全体のごく一部にすぎません。また、あえて弦の数や音域には言及しませんでした。キリがないのです。もともとすべての楽器を「ハープ」としてしまうことに無理があると言えます。

 軽く考えられてしまうことが多いのですが、ハープのタイプが異なれば奏法も異なり、結果として音楽自体も変わってしまいます。ご自分の好みや音楽スタイルに合わないハープをチョイスしてしまわないように、今一度確認してみてください。いったん特定のスタイルになれてしまうと、その後の修正は非常に難しくなります。

  
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