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ペニーウィスルの謎


Williamsburg 18th Century Tin Whistle

 「楽器史」という研究分野がある。読んで字のごとく「楽器の歴史」なのだが、意外と研究は進んでいない。並列する分野である「音楽史」の方はかなり研究が進んでいて、積極的に教えている音楽大学も少なくない。なのに何故か「楽器史」の方はパッとしないのだ。研究者の数が少なければ、それだけ研究や探索は遅れ、歴史的な史料や証拠、現物の楽器も次々とこの地上から姿を消してしまう。これはかなり深刻な状況なのだ。

 どうしても気になることがある。金属製の「ペニーウィスル」の起源はいつなのか? 通説では1840年代に現在のクラーク社の創始者であるロバート・クラークが、自分の持っていたウッド・ウィスルをコピーしてブリキ(ティン)で作ったのが最初とされている。ところが、そのクラーク本人は「自分が最初に作った」とは一言も言い残していないのである。自分が最初に作ったのなら、誇らしげに「最初に作った」と言い残すのが普通ではないのか? ウッド・ウィスルの単なるコピーだったからなのか?

 このことが気になってイロイロ調べていたら、なんとこの通説を覆す史料が米国にあることがわかった。ヴァージニア州のウイリアムズバーグという古都で、18世紀後半の雑貨屋の商品リストの中に「pennywhistle」と「metal fife」があるというのだ。この古都は米国独立直前に栄えた場所であり、言ってみればバロック時代のイングランドの町をそのまま移したようなものである。

 18世紀後半に、当時としては辺境の地であったウイリアムズバーグの雑貨屋に「pennywhistle」があったということは、その当時、既にウィスルがかなりポピュラーなものであったことを示している。つまり「pennywhistle」の起源はそれよりもかなり前ということになる。最初にご紹介した通説よりも、起源が百年近くもさかのぼることになるのだ。

 現在、ウイリアムズバーグではブリキを巻いたシンプルなウィスルが「18世紀スタイル」として販売されている。残念ながら歴史的な意味での復元品ではないようだが、クラーク社の「オリジナル」(19世紀スタイル)と似たようなウィスルで、かなり興味深い存在である。

 「metal fife」というのは金属製のミリタリー・ファイフのことで、通常は円筒形でB♭管のピッコロである。ちなみに指穴はどちらも6つで、基本的には運指も同じである。

 欧米では人が亡くなると、その遺品を柳行李(やなぎごうり)のような大きな箱に入れて、屋根裏部屋や物置にしまい込む。これをひっくり返して歴史的な発見があることも少なくないのだが、オモチャのような簡易な笛が「遺品」として大事に箱に入れてもらえるかどうかは疑問。発見されたとしても、発見者が「重要な歴史的発見」と思ってくれることはないだろう。捨てられてしまうのがオチだ。

 証拠が残っているとすれば、やはり雑貨屋の商品リストのようなもので、最も重要なのが船会社の運送目録。輸出入された貨物なら明細のリストが残っているはずで、これを公文書館などで徹底的に調べれば、いつ頃ペニーウィスルの輸送が始まったのか、発送地がどこなのか、イロイロとわかってくるはずだ。

 最初の話に戻るが、楽器史の分野は研究者が少ない。そのために中世やルネサンスの楽器の中には史料の発見が極端に少なく、「幻」になってしまっている楽器もある。現在の状況からするとペニーウィスルの起源は18世紀と思われ、今のうちなら重要な史料や現物が見つかるかもしれない。これを逃すとペニーウィスルの発祥の謎は、永遠に謎のままで終わってしまうかもしれないのだ。

 さ〜て、どうしよう、、、。

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