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ウィスルの歴史 |
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ウィスルの歴史に関しては多くの方が誤解されているようです。これは非常に困った状況なのですが、だからといって、ウィスルに関する歴史的な資料は少なく、断定的な話はできません。当方としましても公表するかどうか迷ったのですが、とりあえず、ウィスルの歴史に関するひとつの「仮説」として読んでみてください。 ここでいう「ウィスル」は「6孔(穴)の縦笛」で、現在のウィスルと同じような運指でメロディを演奏可能な楽器を指します。チューニング(音階)は異なっていた可能性もあります。 ※一般の研究者は、ウィスルとは別の種類の楽器に関する記述をウィスルの歴史と無理に結びつけて混同させてしまうケースが多いようです。ゲムスホルンなどのオカリナ系の楽器は、ここで言うウィスルとは構造的に異なり、別種です。また、フラジオレットという名称は中世から「笛」という意味で広く用いられた言葉であり、対象となる楽器が不明確です。フラジオレットに関する中世の記述は、当時としても奇異な楽器であったために記述が残された可能性があり、本筋のウィスルの歴史に関わるものではありません。また、2本のボアを持つ楽器はウィスルの先祖に属する楽器から派生した別種であり、このような楽器に関する記述をウィスルに結びつけるのにも無理があります。 |
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| ※上記の「古代ウィスル」と「モダン・ウィスル」の名称は、この説明文のための「仮称」で、 一般的なものではありません。 |
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「古代ウィスル」に関する歴史的・具体的な資料・証拠等は殆どありません。但し、「6孔の笛(縦笛及び横笛)」は世界各地の民族楽器に存在することから、かなり古い時代から存在していたと思われます。発祥は石器時代なのかメソポタミアなのか、古代エジプトなのか、まったく不明です。複数の地域で発祥した可能性もあります。素材はおそらく葦や竹、骨などだったと考えられます。 「古代ウィスル」に関する史料等は少なくても、同系列の楽器である「リコーダー」の歴史に関しては様々な研究や発見がなされています。楽器史全般の流れから、この「リコーダー」がウィスルの「発展型」であることは間違いありません。左手親指の穴や右手小指の穴は、より多くの音を出すための「エクステンション」なわけです。従って、リコーダーの歴史は部分的にウィスルの歴史と重なっていると思われます。 現在までに発見されている最古のリコーダーは13世紀か14世紀のもので、円筒管でした。その後、14世紀には逆円錐管のリコーダーも作られるようになりました。これらの楽器はいずれも精巧に作られており、当時、既にプロの楽器職人がいたと考えられます。円筒管よりも逆円錐管の方がオクターブ・バランスが取りやすいという情報が欧州の楽器職人の間で知識として広まったとすれば、ウィスルもこの時期(14世紀)に逆円錐管となったと思われます。当時、ウィスルはリコーダーの1種として、同じ管楽器職人によって作られていたと考えられるからです。 ドイツの音楽家、ミハエル・プレトリウス(1571-1621)が1618年と1619年に発表した論文「音楽大全(シンタグマ・ムジクム)」には、当時のヴェネチア(イタリア)で購入することのできるリコーダーのセットの詳細な記述が残されており、この中に「D管で6穴のルネサンス・リコーダー」つまり「ウッド・ウィスル」が含まれています。当時の演奏家も、C管のソプラノ・リコーダーとD管のウィスルを曲によって持ち替えて演奏していたと推察されます。 ※当時のヴェネチアは欧州の主要な貿易港のひとつで、他の多くの種類の楽器もヴェネチアから輸出されていました。ヴェネチアで売買されていた楽器がヴェネチア産であるとは言えませんし、他の国で作られたものがヴェネチアに持ち込まれて売られていた可能性の方が高いと思われます。 1840年代に英国人のロバート・クラークが、自分の所有していたウッド・ウィスルを元にして、ブリキ(ティン)でできた「ティン・ウィスル」を製作しました。一般的にはこれが「ティン・ウィスルの発祥」とされています。別名の「ペニーウィスル」という名称もこの頃のものです。ところが、それよりも前、18世紀後半の米国の古都、ウイリアムズバーグの雑貨屋の商品目録に「ペニーウィスル」の記述が残されいるという主張もあり、これが事実ならば「ティン・ウィスルの発祥」は18世紀ということになります。 いずれにせよ、当時のプロの演奏家達がこのティン・ウィスルを実際に使用していたかどうかは疑問です。古くからの精巧に作られたウッド・ウィスルを使い続けていた可能性もあります。ティン・ウィスルは長いウィスルの歴史の中では単なる廉価版の「亜種」とも考えられるわけです。 1950年代になると、プラスティック製のヘッドにブラス管のボディを持つ、現代のウィスル(モダン・ウィスル)が誕生します。大量生産するために、ボアは古代からの円筒形に先祖返りしてしまいましたが、精巧に作られている上に安価だったため、再び注目を集めることとなり、こちらは多くのプロ奏者にも受け入れられました。その後、アルミや合成樹脂など、様々な素材で作られるようになり、更に1990年代には大きなサイズの Low Whistle も一般的なものとなりました。
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【名称の問題】 結局、ウィスルの正式名称は何になるのか、まだ決まったものはありません。 現在、一般的になっているのは「ティン・ウィスル」ですが、実際にブリキで製造し続けているのはクラーク社のみですし、同社の「スウィトーン」にしてもヘッドはプラスティック製です。また、前記したように単なる廉価版の「亜種」の愛称をウィスル全体の正式名称にするのも苦しいところですし、ボアのスタイルも現在のものとは異なります。「ペニーウィスル」もほぼ同様で、高価なウッド・ウィスルやアルミ製ウィスルを「ペニー」と呼んでしまうのにも抵抗感があります。 他には「アイリッシュ」「ケルティック」「シックス・ホール」など、様々な案もありますが、今のところいずれも一般に広く認知されてはいません。 「ティン・ウィスルの歴史」といった場合、19世紀のロバート・クラークの話から始めてしまうと、それ以前にはウィスルは存在していなかったかのような誤解を生じてしまいます。また、現代のウィスルを指して「これはティン・ウィスルではありません」と言ってしまうのも「そっけない」感じがします。何か良いアイデアはないものか、実は海外の専門家の間でもずっと問題になっており、まだ答えは出ていません。
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