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唐突だが、2005年は “日本におけるドイツ年” (2005年4月から2006年3月まで)。はてさて、どれほど認知されているのだろうか?2006年、ドイツでワールドカップ(サッカー)が開催されることは、まさに今、その予選が行われており、ますます注目が集まっているわけだが、“日本におけるドイツ年”という、ドイツのあらゆるものを日本に紹介すというイヴェントの影は、なんとも薄い... が、けして見逃すことはできない... シェーンベルクからフランク・ザッパまで、フランクフルトを拠点とする近現代音楽の世界的スペシャリスト集団、アンサンブル・モデルン が、この“日本におけるドイツ年”で、この夏に久々の来日を果たす。今秋にはドイツの名門、バイエルン国立歌劇場 が、メータに率いられての最後の来日。冬には人気沸騰中のマエストロ、ヤンソンスを首席指揮者に招いた バイエルン放送交響楽団 が来日。年明けて2006年初頭には、今、ドイツ語圏で最も充実し、評価され、かつスリリングなことをやってのけている シュトゥットガルト州立オペラ までもが来日する!まさにフルコース的“日本におけるドイツ年”な状況が続くことに。そんな、まったくもって楽しみな一年が、まもなく、3月に開幕する。認知はいまいち進まず、ワールドカップに比べれば圧倒的に影が薄いものの、クラシック・ファンにとっては、今からしっかりチェックしたい“日本におけるドイツ年”なのだ(クラシックのみならず芸術全般に盛りだくさん!)。そして、2月、東京クラシック・シーン... 3月の正式開幕を前に、クラシックにおいては、盛大に、一足お先に開幕してしまう。まったくもって盛大にだ。

まずは、ドイツの名門の一角を占める、シュターツカペレ・ベルリン の来日。フリードリヒ大王に始まるベルリン国立歌劇場のオーケストラ・ピットを務めるオーケストラとして知られているわけだが、そのオペラハウス(1742に創設)よりも歴史は古く、選帝侯、ブランデンブルク辺境伯の宮廷楽団として16世紀に誕生。以来、その時代、その時代を彩った著名な作曲家たち、20世紀に入ってからは、伝説的なマエストロたちとともに歩んできた名門オーケストラだ。また一方で、歴史、政治に翻弄されたオーケストラでもある。ナチス時代、ベルリンの壁が存在した時代、必ずしも名門としての栄光ばかりではなかった。が、1992年、ダニエル・バレンボイムがベルリン国立歌劇場の音楽監督に就任し、オーケストラは新しい時代を迎えた。このコンビのその後の飛躍と活躍は、今さら言うまでもないわけで... さて、まもなくの来日の注目点は、音楽監督、バレンボイムのピアノも楽しめるということ。バレンボイムによる弾きぶりでのベートーヴェンのピアノ協奏曲と、シューマンの交響曲 【公演日 : 2/17, 19】 、あるいはマーラーの交響曲 【公演日 : 2/20】 を組み合わせたプログラムが用意されている。昨秋、ラトルとともに来日を果たしたベルリン・フィルが、大いに話題となったわけだが、ベルリン・シュターツカペレに比べれば、ベルリン・フィル(1882年に創設)もまったくの新興勢力... という、ドイツ史とともに歩んできたベルリン・シュターツカペレの伝統のサウンドで聴く、独墺系の核をなす作曲家の作品ばかりのプログラム。期待せずにはいられない。また、ピアニスト、バレンボイムは、コンチェルトのみならず、リサイタルも予定。こちらではバッハの平均律クラヴィーア曲集の第1巻 【公演日 : 2/13】 、第2巻 【公演日 : 2/15】 の全曲が取り上げられる。また、バッハだけでなく、ベートーヴェンの最後のピアノ・ソナタ、32番 【公演日 : 2/14】 を聴かせてくれるリサイタルもあり、こちらも楽しみ。
ドイツの名門は、ベルリンからだけでないのが2月の東京クラシック・シーン... ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 までもが来日。250年以上の歴史を誇るドイツ屈指の名門。日本へも、古くから度々訪れてくれており、数あるドイツのオーケストラの中でもお馴染みの存在(オフィシャル・サイトには日本語ページまで!)。しかし、今シーズンの来日は、いつもと少し違う... 1998/99年シーズンからカペルマイスター(楽長=音楽監督)を務めてきた、N響定期でもお馴染みのマエストロ(N響名誉指揮者)
、ヘルベルト・ブロムシュテットが、今シーズンをもって離任することに。このコンビでの来日は最後となる。そうした名門の節目、今回の来日では、このオーケストラの礎を築いたカペルマイスター、メンデルスゾーンの4番の交響曲「イタリア」に、このオーケストラが1884年に初演したブルックナーの7番の交響曲を組み合わせた、オーケストラの歴史をそのまま編んだプログラム 【公演日 : 2/27】 に、ドイツ出身のベテラン、フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)をソリストに迎えてのバルトークの2番のヴァイオリン協奏曲と、ベートーヴェンの「英雄」が取り上げられるプログラム 【公演日 : 2/21】 が用意されている。長年培ってきた伝統のサウンドのみならず、ブロムシュテット時代の成果を味わうコンサートとなるのだろう。楽しみだ。
そして、次期カペルマイスターはというと... 昨シーズンまでオランダの名門、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を率いてきたイタリアのマエストロ、リッカルド・シャイーの就任が決まっている。これまで、ゲヴァントハウス管といえば、クルト・マズア(1970-96)、ヘルベルト・ブロムシュテット(1998-2005)という、独墺系正統派の伝統を手堅く押さえるカペルマイスターに率いられてきたわけだが、新たにやってくるカペルマイスターはこれまでとはまた違うカラーを持ったラテン圏からのマエストロ。近現代音楽のスペシャリストであり、またオペラでも活躍するシャイーだ。ドイツ屈指の名門にどのような新しい風を吹かせるのか、今から楽しみだ。また、シャイーは、ゲヴァントハウス管がオーケストラ・ピットを務める、ライプツィヒのオペラハウス(オーパー・ライプツィヒ)の音楽監督への就任も決まっている。ライプツィヒはゲヴァントハウス管によるコンサートだけでなく、オペラにおいても大いに目が離せなくなるのではないだろうか。

さらにドイツから注目のオーケストラが来日する。ヒュー・ウルフ率いる フランクフルト放送交響楽団 だ。フランクフルト放送交響楽団といえば、1974年から1989年まで、エリアフ・インバルが首席指揮者を務め、マーラーやブルックナーの録音で大いに話題を呼び、世界的なオーケストラへと飛躍したわけだが、1997年に首席指揮者に就任したヒュー・ウルフの下、また新たな時代を築いている。アメリカの個性派指揮者、ヒュー・ウルフ... 古典派と近現代音楽を得意とする実に興味深い存在。1992年から2000年まで、セント・ポール室内管弦楽団(ミネソタ管弦楽団の本拠地、ミネアポリスとはミシシッピ河をはさんで隣のミネソタ州都、セント・ポールを本拠地とする)のアーティスティック・パートナーを務め、“室内”というその規模を活かしてのハイドンの交響曲や、20世紀の新古典主義の作品など、幅広いレパートリーに取り組み、テルデックから多くのCDをリリース。このコンビは、一躍、気になる存在に。そしてフランクフルトへ。ここでもヒュー・ウルフの個性的な動きは衰えることなく、フランクフルト放送響とは、CPO にて、20世紀前半、アンファン・テリブル(悪童)と呼ばれヨーロッパの音楽界を沸かしたアメリカ人作曲家、ジョージ・アンタイルの交響曲のシリーズを録音、展開中。最新作は3番の交響曲「アメリカン」をメインにしたアルバム(CPO 輸入盤 : 777 040-2)。フェルナン・レジェとのコラヴォレーションから生まれ、今をもってしても実験的で、当時、パリにセンセーションを巻き起こした作品、「バレエ・メカニーク」を中心に、再びスポットを浴びつつあるアンタイルの紹介に力を入れている。また、ドイツ・グラモフォンの20/21シリーズ からは、ヘッセン放送協会の同僚にあたるHRビッグ・バンドと組み、ジョン・スコフィールドを大胆にフィーチャーしたターネイジの新作“Scorched”(Deutsche Grammophon 輸入盤 : 474 729-2)を録音、リリース。ジャズとクラシックの大胆なコラヴォレーションを聴かせてくれている。もちろん録音ばかりではなく、今シーズンのプログラムを見てみると、エトヴェシュやホリガーら、現代音楽界のスターたちを指揮台にも招き、新しい作品にも敏感である一方、古典派の作品はもちろん、“Barock+”というシリーズでは、ホグウッドやコープマンといった古楽界の巨匠に、エマニュエル・エイムといったフレッシュな古楽界の次世代リーダーをも指揮台に招き、フランクフルト放送響のフレキシヴィリティを思い知らされる... そんな“Barock+”には、ウォルフ自身も指揮台に立ち、得意のハイドンの交響曲を取り上げている。古楽界の大御所、次世代と並んでの“Barock+”、彼はどのようなアプローチを試みたのだろうか?
まもなくの来日では、そうした彼らのハイドンをまず聴くことができる。ハイドンの88番の交響曲「V字」【公演日 : 2/2】 が取り上げられる。同じドイツで、放送オーケストラで、昨秋に来日し大きな話題を呼んだノリントン率いるシュトゥットガルト放送交響楽団が、古楽とモダンのハイブリット演奏で時代の最先端を聴かせてくれているだけに、ウォルフ + フランクフルト放送響の古典派へのスタンスはどのようなものになるのか... そんなハイドンの後には、デッカへの移籍で世界への飛翔が期待されるギタリスト、村治佳織をソリストに、アーノルドのギター協奏曲が取り上げられる。18世紀の交響曲の後に20世紀の協奏曲。なんともウォルフらしいコントラスト。村治佳織の演奏はもちろんのこと、クラシカルとモダンの食べ合わせの妙のようなものも楽しみだ。この他に、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、マーラーという独墺系の音楽の系譜を追うプログラム 【公演日 : 2/7】 も用意されており、本場ドイツのオーケストラでの定番フルコースを楽しめる... が、ウォルフ + フランクフルト放送響のコンビは、まさにチャレンジングなコンビだ。本拠地フランクフルトでの大胆さ、好調な彼らの「今」を感じるプログラムを、是非、東京でも披露してほしかったのだが... 難しいか...

それにしても、3つのドイツのオーケストラが立て続けに来日してしまうわけだ。“日本におけるドイツ年”、ますます期待したい。そして、来日チェックは欠かせなくなりそうだ。一方で、国内勢によるドイツものというのも気になるところ... 今シーズンの後半にはN響や読売日響が“日本におけるドイツ年”を記念したプログラムが予定されており、また来シーズン、新国立劇場の開幕はワーグナーの楽劇 『ニュールンベルクのマイスタジンガー』 であり、二期会ではハノーファー州立オペラとの共同制作でオペラ 『さまよえるオランダ人』 が予定され、心なしかワーグナー作品があちらこちらでいつもより多目に取り上げられるような気配。
そして2月、大いに気になるドイツ・オペラが上演される。それが、新国立劇場のオペラ 『ルル』 【公演日 : 2/8, 11, 14, 17】 だ。ワーグナーを経て、濃厚なロマン主義のオペラが次々に生み出されていく一方で、20世紀初頭、シェーンベルクにより無調のオペラ 『期待』 (作曲 : 1909/初演 : 1924)が生み出され、オペラに限らず独墺系の音楽の系譜は新たな世界へと突入。ほどなく、そのシェーンベルクにより12音音楽が発明され、それをオペラにも導入したのがベルク。彼の最初のオペラ 『ヴォツェック』 (作曲 : 1914-21/初演 : 1925)は、12音音楽を巧みに取り込み、第一次世界大戦、その後の混乱の不穏な空気と、シュールとすら言える社会状況、緊張感を絶妙に音としている。そして、ナチズムが台頭してくる中、次のオペラにして未完に終わるオペラ 『ルル』 (作曲 : 1929-35, 未完/未完2幕版初演 : 1937)を手掛ける...
近頃、新ウィーン楽派のオペラを上演することは、さほど冒険でもなくなりつつある。昨年のサイトウ・キネン・フェスティバルではベルクのオペラ 『ヴォツェック』 が取り上げられ、安藤忠雄によるペットボトルを使った美術が話題に。また昨春、ジェシー・ノーマン(ソプラノ)を迎え、斬新なパリ、シャトレ座のプロダクションを紹介するプロジェクトの第一弾では、シェーンベルクのモノ・オペラ 『期待』 が取り上げられ、話題に。また、一昨年、日生劇場40年を祝い、二期会、東京フィルにより上演されたオペラ 『ルル』 は、ツェルハ補筆の3幕完全版による日本初演ということで注目を集めたばかり。そして、今後も、再来年のベルリン国立歌劇場の来日では、シェーンベルクの未完の大作、オペラ 『モーセとアロン』 が取り上げられるとのこと、今からとても楽しみだ。そうした中で、国内唯一のオペラハウスに初の新ウィーン楽派のオペラがレパートリーとして加わるわけだ。それも、ステレオタイプなオペラとは当然のことながら一線を画す、極めて現代的なセンスで綴られた、20世紀オペラの最高傑作の一つ、オペラ 『ルル』 が取り上げられるのだ。
演出には鬼才、デイヴィット・パウントニー、指揮にはシュテファン・アントン・レックと、芸術監督、ノヴォラツスキー体制となった新国立劇場らしい、西欧で話題の演出家に、オペラをしっかりまとめる技量を持った指揮者という、冒険と手堅さを併せ持つ組み合わせ。だが一方で、昨シーズン、同劇場でのオペラ 『ホフマン物語』 でブーイングを浴びてしまった日本を代表するソプラノ、佐藤しのぶが、タイトルロール、ルルにキャスティングされていることへの一抹の不安も... そこにきて、当初発表されていたツェルハ補筆の3幕完全版での上演から、突然、未完2幕版での上演に切り替わるというゴタゴタ... いったいこの新しいプロダクションに何が?いったいどうなってしまう?というあたりも見逃せなかったりする新国立劇場の 『ルル』 なのだが。そうした下世話な話しはさておき。実態のつかめない謎の女、ルル、彼女のたどる顛末、その物語は、欲望に満ち溢れた現代社会と恐ろしいほどにシンクロしてくる面がある。この新ウィーン楽派のオペラが抱える不穏な空気と、シュールな様、異様な緊張感は、独特ではあるが、そこには、日頃、メディアに載るニュースを見るようでいて、ヴェルディやワーグナーでは味わうことができない生々しさ、“リアル”が存在している。その、普段のオペラハウスではなかなか感じることのできないもの、「古典(クラシック)」という枠組みを超えた魅力、新国立劇場の 『ルル』 は、どのように表現してくれるのか、とても楽しみだ。
ベルクが2つのオペラを作曲した時代、ベルリンを沸かした作曲家が、クルト・ヴァイル。ブレヒトと組み、大ヒット作、『三文オペラ』 を世に送り出した“クラシック”というカテゴリーにありながらも、独特のボーダーな魅力を持った稀有な存在。このもう1人のドイツ(後に、ユダヤ系であったため、ナチズムの台頭とともにパリを経てアメリカに亡命)の作曲家、クルト・ヴァイルにスポットを当てる楽しみなコンサート... なんと、夏木マリをナビゲーターに迎えてしまう、東京文化会館のレクチャー・コンサート≪音楽と都市≫シリーズ、その第4回は、“『ベルリン』 黄金のベルリンからアメリカへ”【公演日 : 2/18】 というタイトルで、クルト・ヴァイルのソングが並ぶプログラムが予定されている。ナチズムが台頭するまでの第一次世界大戦後のドイツ、それまでの価値観が大きく傾き、傾いた隙間から止め処もなく新しい感性が沸き出でた1920年代、ベルリン。カバレット(キャバレー)に多くの人々が集い、ジャズが旋風を起こし、とにかく新奇なものが話題を呼び、そんな猥雑さから新たな芸術が生み出されてしまうという、“黄金のベルリン”をフィーチャーしたレクチャー・コンサートは、楽しみな発見がいろいろありそう... なにより、ナビゲーターの夏木マリというキャスティングが魅力的。大河ドラマに出るかと思えば、『印象派』 と名付けられたアーティスティックな舞台を仕掛け、時にはリゲティのセクエンツァや、シェーンベルクの 『月に憑かれたピエロ』 からの数曲を、彼女なりのスタイルで表現してしまう、ボーダーな魅力を持った稀有な存在によるヴァイルのソング。そんな彼女の下には、自ら作曲もこなす近現代のスペシャリスト、中川賢一(ピアノ)に、新日本フィルのコンサート・マスターとして、またソリストとして活躍する豊嶋泰嗣(ヴァイオリン)といった豪華な面々が終結。どんなコラヴォレーションが展開するのか、大いに楽しみ。

ドイツだけでないのが2月のいろいろ... このあたりでドイツから離れて、東京クラシック・シーン、2月の注目人物にスポットをあてる。まずは、もはやベテランか、ジャズ・ピアニスト、小曽根真 。彼が、クラシックのコンサート、井上道義が指揮をする東京フィルハーモニー交響楽団の定期に登場する。ジャズ・ピアニストがクラシックを演奏するというのは、キース・ジャレットをはじめ、さほど奇異なことでもなく、なによりガーシュウィンによるラプソディ・イン・ブルーというボーダーな名曲があるわけで、また小曽根自身もすでにモーツァルトなどを弾いており、特筆するまでもないように思うが、“ジャズ”というフィールドからの“クラシック”は、普段とはまた違うテイストを楽しめるのではないだろうか。ということで、東京フィルと共演する小曽根が演奏する作品は、バーンスタインの2番の交響曲「不安の時代」 【公演日 : 2/10】 と、モーツァルトの9番のピアノ協奏曲「ジュノーム」 【公演日 : 2/13】 。バーンスタインの交響曲は、ほぼピアノ・コンチェルトでもあり、ピアノ・パートは聴き応え十分。そこにきて、バーンスタインならではのジャジーなテイスト。となれば、小曽根真というキャスティング、大いに楽しみ!
そして、もう1人、ピアニスト... こちらはピアニスト、というだけではなく、コンポーザー・ピアニストとして、気になる存在になりつつある 野平一郎 。近現代音楽のスペシャリストとして知られる彼の、サントリー音楽賞受賞を記念して、3つのコンサートが予定されている。作曲家として、ピアニストとして、1人のアーティストに切り込む用意された3つのプログラムはどれも興味深く、#1“室内楽作品の夕べ” 【公演日 : 2/2】 では、すべて野平作品を。また#2“ピアノ・リサイタル” 【公演日 : 2/12】 では、ベートーヴェンのディアベッリ変奏曲が取り上げられる。LiVE NOTES にて、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音を完成させ、すばらしい演奏を聴かせてくれているだけに、“近現代音楽のスペシャリスト”というイメージだけではない彼のベートーヴェンは、大いに注目したい。そして#3“室内オーケストラの夕べ” 【公演日 : 2/23】 では、リゲティのピアノ協奏曲が取り上げられ、近現代音楽のスペシャリストとしての野平一郎ももちろん楽しみ。なのだが、この3つのコンサート、なによりも作曲家としての野平一郎に触れる絶好の機会。2002年、エレクトリック・ギターのスター、スティーヴ・ヴァイをソリストに、エレクトリック・ギターと管弦楽のための「炎の弦」(2002年版)が演奏され話題になり。また、今年の夏には、初のオペラとなる 『マドルガーダ』 が、ドイツ、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭 にて、ケント・ナガノの指揮で世界初演が控えている。フランス、リヨン国立歌劇場の委嘱により、かの武満徹のために用意され、彼の死により作曲されることなく眠っていた台本が、野平一郎の手により、ようやくオペラとなるわけだ。現代音楽自体が話題になりにくい“現代”なわけだが、野平一郎、実は話題の多い作曲家である... 来春には 静岡音楽館AOI の音楽監督にも就任する。多方面で目が離せない存在だ。

指揮者でも注目人物が登場する、2月の東京クラシック・シーン。まずはN響定期にデビューする、イタリア出身のジャナンドレア・ノセダ。マリンスキー劇場の首席客演指揮者として、ゲルギエフがプッシュする期待の次世代... というイメージから、今では、イギリス、マンチェスターのオーケストラ、BBCフィルハーモニック の首席指揮者として、気になる活躍を見せている。昨秋には、このコンビ、来日も果たし、ホルストの 『惑星』 など、イギリスの人気作品ですばらしい演奏を聴かせてくれたばかり。一方、録音では CHANDOS から、ポーランドの夭折の作曲家、カルウォヴィチ(1876-1909)
の作品集(CHANDOS 輸入盤 : CHAN 10171/国内盤 : OCHAN 10171)など、珍しい作品の発掘で注目を集めている。そんな彼らの最新盤は、昨年、生誕100年のメモリアルを迎えた、20世紀イタリアを代表する作曲家の1人、ダッラ・ピッコラ(1904-1975)の作品集(CHANDOS 輸入盤 : CHAN 10258)。こちらも、実に興味深い... そうしたノセダのこだわりは、彼が振る、2月のN響定期、2つのプログラムにも現れている様子。C Program 【公演日 : 2/18, 19】 では、定番の“交響詩”ではないリヒャルト・シュトラウスの作品に、スイスの作曲家、オトマル・シェック(1886-1957)のホルン協奏曲に、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲が。B Program
【公演日 : 2/23, 24】 では、ウェーベルンのパッサカリアに、ギリシア出身の名手、レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)をソロに迎えてのコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲、メインにはチャイコフスキーの2番の交響曲「小ロシア」が取り上げられる。とにかく珍しい作品のアラカルトだ。新しい音楽監督がやってきてからというもの、他でもやっている“名曲”ばかりになってしまった印象のあるN響だが、2月はノセダというフレッシュな才能とともに、刺激的なプログラムが楽しみだ。
さて、指揮者をもう1人紹介したい。そのN響の、アシスタント・コンダクターとして、また“アシスタント”という枠を飛び出しての活躍が目立ち始めた岩村力が、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の定期演奏会 【公演日 : 2/25】 に登場する。N響、前音楽監督、シャルル・デュトワはもちろんのこと、チョン・ミョンフン、イヴァン・フィッシャーといった世界的マエストロの下、アシスタント・コンダクターを務め... これは、ちょっとしたアシスタント・コンダクターの第一人者なのでは?と言えてしまいそうな一流の面々をアシストしてきたそのキャリアは、なかなか興味深い。また、ロスァンジェルス・フィルハーモニックのアシスタント・コンダクターを務める篠崎靖男(Miscellany; Januaryで紹介した... )の東京での活躍も目立ち始めたりと、今、アシスタント・コンダクターというポスト自体がなにやら気になるような。話しを岩村力の東京シティ・フィルの定期に戻し... ここでは、プロコフィエフの6番の交響曲がメインに取り上げる。昨シーズンのN響定期へのデビューでは、プロコフィエフの5番の交響曲を取り上げ、異様な緊張感と熱気に包まれたすばらしい演奏を聴かせてくれただけに、6番も大いに期待したい。また、「古典交響曲」で知られる1番と、5番がプログラムにのぼることはあっても、それ以外の番号のプロコフィエフの交響曲はなかなか聴く機会がないだけに、この6番は、なかなか貴重な機会となりそうだ。

さて、2005年、今年もメモリアルを迎える作曲家はいろいろあるのだが、2000年のバッハ没後250年や、2001年のヴェルディ没後100年、2003年のベルリオーズ生誕200年、さらには来年、2006年のモーツァルト生誕250年に比べると、少々地味であることを否めない... が、メモリアルだからこそ注目すべき作曲家、という視点もおもしろいのではないだろうか。人気作曲家のメモリアルを祝うばかりがメモリアルではなく、メモリアルを足がかりに、より広く紹介される、というのも、埋もれた名曲に出会う絶好の機会のように感じる。そして、2005年、今年、メモリアルを迎える作曲家に、没後200年のルイジ・ボッケリーニ(1743-1805)がいる。イタリア出身の作曲家で、後にスペインに渡り活躍した作曲家であり、チェロの名手でもあった人物。作品も、チェロ協奏曲や、チェロ・ソナタなど、チェロが活躍する名作を多く残し、また膨大な室内楽作品も残している。そんなボッケリーニを早速取り上げてくれるのが、チェロ(モダン楽器から古楽器まで... )の名手にして、古典派専門の古楽オーケストラ、オーケストラ・リベラ・クラシカを率いる鈴木秀美。彼が、オーケストラ・リベラ・クラシカをバックに、ボッケリーニのチェロ協奏曲 【公演日 : 2/11】 を弾き振りする。さらには、来月になるのだが、オーケストラ・リベラ・クラシカの主要メンバーとともに、弦楽五重奏曲 【公演日 : 3/30】 を取り上げる特別演奏会も予定されており、こちらも楽しみ。現代のチェロの名手が、18世紀のチェロの名手に挑む、注目のメモリアル演奏になりそうだ。

さて、先にも書いたとおり、来年はモーツァルト生誕250年。1991年、没後200年の記憶を思い返せば、日本人はモーツァルトが好き... ということで、またまた盛大に祝われることになるのであろう。が、近頃のムーヴメントとして、人気者、モーツァルトとともに、その時代もクローズアップされてきているように感じる。モーツァルトとほとんど同時期(モーツァルトより13歳年上で、14年長生きした... )を生きたボッケリーニのメモリアルもタイムリー、というのも変な話しだが、興味深く。また、昨年末、ミラノ、スカラ座のリニューアル・オープンの際、1778年の劇場の柿落としに委嘱し初演されたサリエリのオペラ 『救われたエウロペ』 が復活上演され評判に。“モーツァルト”から、“モーツァルトの時代”に視野を少し広げてみると、実は、簡単に切り捨てることはできない、興味深い作品が多いように思う。
そして、日本においても、先にも挙げたオーケストラ・リベラ・クラシカのような、古楽界からの意欲的なアクションにより、少しづつではあるが、モーツァルトでもなく、ハイドン(交響曲ばかりで他の作品はなかなか取り上げられないのだが... )でもない、さらなる古典派の魅力が紹介されつつあるように思う。また、オペラに至っては、新国立劇場の意欲的なライン、小劇場オペラ・シリーズにおいて、ハイドンのオペラ 『無人島』 、さらにはモーツァルトではなく、ガッツァニーガ(1743-1818)のオペラ 『ドン・ジョヴァンニ』 が取り上げられるなど、モーツァルトばかりの古典派のオペラにも意欲的だ。そして、古典派オペラの上演において、もう一つ欠かせない存在、東京室内歌劇場を忘れるわけにいかない。これまで、ヴェルディではなくサリエリのオペラ 『ファルスタッフ』 (2002)や、ロッシーニではなくパイジェッロのオペラ 『セヴィーリャの理髪師』 (2003)を上演し、大きな成果を上げている東京室内歌劇場。次なる古典派の演目に選んだのが、オペラ・ブッファの名作の一つ、パイジェッロのオペラ 『水車小屋の娘』 【公演日 : 2/10, 11】 。
18世紀、オペラ・ブッファ(モーツァルトのオペラ 『フィガロの結婚』 に代表される喜劇的オペラ)の世紀、その都がナポリであり、今日では名前ばかりが知られるナポリ楽派の作曲家たちは、当時、ヨーロッパ中を席巻し、彼らが18世紀の音楽のモードを担ったわけだ。そして、その代表的な存在の1人がパイジェッロ(1740-1816)。イタリアの、陽気で活き活きとした気風が生んだオペラ・ブッファ... 時に王様までも論争に巻き込み、貴族も市民も熱狂させたオペラ・ブッファ... パイジェッロはその最盛期の作曲家であり、そのブームの中心にいた人気作曲家だったはずだが... 現在では、イタリア・オペラといえば、なんと言ってもヴェルディであり、プッチーニであるわけだ。しかし、そうしたイタリア・オペラの礎を作った、ナポリ楽派のオペラも、無視することのできない、また違う魅力がある。東京室内歌劇場によるパイジェッロ、当時の人々が何に熱狂したのかを覗きに行くも、おもしろいかもしれない。どのような舞台を見せてくれるのか、大いに期待したい。一方で、バッハ・コレギウム・ジャパンをオーケストラ・ピットに迎えて、バロック・オペラにも取り組む二期会のように、日本においても充実してきた古楽オーケストラとのコラヴォレーションを、東京室内歌劇場にも、是非、期待したいのだが... 18世紀、オペラ・ブッファの活きの良さは、モダン・オーケストラで優雅に演奏されるよりも、古楽オーケストラで、当時の喧騒、猥雑さ、体温を感じさせる、ある種の“リアル”が伴って演奏されたなら、より18世紀当時の熱狂が、時を越えて、新世紀の今に伝わるのではないだろうか?
さて、古楽界の巨匠、ルネ・ヤーコプスも惚れ込んだというメッゾ・ソプラノ、ヴィヴィカ・ジュノーが、2月、東京デビューを飾る。ナポリ楽派による超絶のアリア集(ジェラール・コルビオの映画 『カストラート』 でクローズアップされた伝説のカストラート、ファリネッリのために書かれたアリアを集めた... )を、そのヤーコプス(指揮)の強力なバックアップ(演奏はベルリン古楽アカデミー)でリリース(harmonia mundi FRANCE 輸入盤 : HMC 901778/国内盤 : KKCC 474)。いきなり話題の存在に。そんな彼女が、まもなくロッシーニで東京デビュー!そして、彼女を招くのが藤原歌劇団。藤原歌劇団の大好評シリーズ、オペラ 『イタリアのトルコ人』 (2003)、『アルジェのイタリア女』 (2004)に続いて、ロッシーニ・ブッファ・シリーズの第3弾は、オペラ
『チェネレントラ』 【公演日 : 2/10, 11, 12】 。もちろん、タイルロール、チェネレントラ(シンデレラ)は、ジュノー(11日は森山京子)。指揮には、ロッシーニ研究でも知られるアルベルト・ゼッダ。演出は、このロッシーニ・ブッファ・シリーズの第1弾を飾った、オペラ 『イタリアのトルコ人』 で、ポップでお洒落で、ウィットに溢れる、最高に楽しい舞台を見せてくれたピエール・ルイージ・ピッツィ。となれば、かなりのクウォリティを期待できそう... まさに期待大!

かなり長くなってしまったが、最後に、一つ、残念な話題を... 東京クラシック・シーンにおいて、最も刺激的なシリーズ、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団による“フランス音楽の彩と翳”が、まもなく終了することに。2002年の5月にスタートしたこのシリーズ、フランスもののスペシャリスト、東京シティ・フィルの首席客演指揮者、矢崎彦太郎が仕掛けるフランス音楽だけを取り上げる意欲的なシリーズ(フランス・ワインのプレゼント抽選付きというのも意欲的?なんて... これも、このシリーズの大いなる楽しみ!一度も当たらなかったが... )。とにかく“クラシック”といえば、独墺系(ドイツ語圏)の作曲家こそが正統派である、というステレオタイプがしっかりと根付いている中で、まったくもってチャレンジングなシリーズであり、なにより毎回必ず発見があったシリーズ。普段のコンサートであったならば、“フランス”というだけで一つのテーマに成り得てしまうものだが、この“フランス音楽の彩と翳”では、「19世紀末文学」(Vol.3)や「フランス革命、その後――」(Vol.11)など、さらに掘り下げた興味深いテーマが用意され、ただフランス音楽を聴くのではなく、その背景までも聴かせてしまうという充実した内容がしっかりとあったわけだ。近頃、コンサート・プログラムに、最もらしいテーマやタイトルを付けたがる風潮が東京クラシック・シーンにはあるが、まずはテーマが先にあって、そこからプログラムが構成されているであろう“フランス音楽の彩と翳”と、それらは、明らかに一線を画す。さて、このシリーズを振り返っておもしろかったのは、「地中海を廻って」(Vol.2)や、「スペイン!!」(Vol.6)、「イタリアのオマージュ」(Vol.10)という、フランスの作曲家による異国趣味の視線を特集したもの。聴こえてくるサウンドは時にアラブ風(「地中海を廻って」)であり、フラメンコ(「スペイン!!」)のようであり、フランスのシリーズにしてフランスではないというパラドックス。ジャポニスムに熱狂した国だけはある、エキゾティシズムはフランス音楽の重要なエッセンスなのだ... そんなあたりまでも紹介してしまうあたりは、まさしく“フランス音楽の彩と翳”だった。またフランス音楽だけでない、そうしたフランス音楽の影響を大いに受けた武満作品も、シリーズ内で紹介(Vol.4, Vol.8)されたことは、実に興味深かった。なにより、フランス・オンリーである、珍しい作品も、当然、多く取り上げられた。フランス革命期に活躍したメユールの交響曲(Vol.11)や、フランス6人組の合作、バレエ 『エッフェル塔の花嫁花婿』 (Vol.5)などは、再びライヴに触れるチャンスは、いつになるだろうか?そして、このフランス6人組による合作バレエもそうだが、フランスの近代音楽を振り返る時、重要なテーマになるのがバレエだ。音楽のみならず、あらゆる芸術ジャンルを巻き込んだ、ディアギレフが仕掛けるバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)。この団体を軸とした、20世紀の前半を彩った総合芸術としてのバレエは、“フランス音楽の彩と翳”にとって、宿命(?)のテーマ... 「ディアギレフとロシア・バレエ」(Vol.1)ではじまり、そして、最終回は、「ディアギレフを巡る葛藤」(Vol.12) 【公演日 : 2/18】 。
ディアギレフに委嘱はされたものの、お蔵入りになってしまったバレエ(『ラ・ペリ』、『ラ・ヴァルス』)。上演はしてみたものの、当時の客席にとてつもないショックを与えてしまったもの(『パラード』)、そんなショックにも慣れ、今度は刺激を求める客席に、無視されてしまったもの(『遊戯』)。センセーションを仕掛ける達人、ディアギレフにより、右往左往させられもした作曲家たちの作品を並べたプログラムが用意されている。特に楽しみなのは、サティのバレエ 『パラード』 か。サイレンやら、なにやら、街の喧騒を取り込んでしまった、サンプリング・ミュージックの先駆けとも言える作品。サティの伝説の作品でありながら、ライヴに触れる機会の少ない作品だけに聴き逃せない。
さて、“フランス音楽の彩と翳”は終わってしまうわけだが、東京シティ・フィル、来年度からは“ティアラこうとう定期演奏会シリーズ”が始まる。ざっとそのプログラムを見渡してみると、名曲がズラリ並んでいる... やはり、チャレンジングなことはもう無理なのか... というより、どんなに意欲的なことが行われても、客席と言うのは常に保守的なのだろう。なにしろ“古典(クラシック)”というジャンルだ。コンサートホールや劇場は、名曲の確認をする場ではなく、今そこに息づく音楽に触れる場だと思う。そこには、もっと冒険や未知なるものがもたらす刺激があってもいいように思う。興味深い発見や、隠れた名曲が、「マニアック(あるいはクラオタとでも言うのか... )」な人々に独占されているという事実に、損をしているという感覚を少しでも多くの音楽ファンが持ってくれたならば、ステージ上も客席も、どんなに盛り上がることだろうか。“クラシック”とは、十二分にそれだけの魅力を持ったジャンルだと信じている。取り澄ましてなどいられない、ステージ上も客席も、大いに盛り上げることができるジャンルだと...

それにしても、東京シティ・フィルはしたたかだ... いや、クラシックの可能性をより信じていると言うべきか、名曲がズラリ並んだ“ティアラこうとう定期演奏会シリーズ”、よくよく見てみると、日本の近現代作品が必ず1曲組み込まれている。ドンペリ?ロマネコンティ?誰もが知る高級ワイン
ばかりでなく、いつもと違った珍しいワインを、あるいは少し気分を変えるアペリティフ、いや、新たに紹介される隠れたおいしいワインの試飲?東京クラシック・シーンの名ソムリエは、まだまだ健在のようだ。
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