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              FF-85Kの改造    ('09,05,26 初稿)

スピーカーユニットのマグネットを保持するフレームには、瞬間的にかかるコーンの反動を
しっかり確保するため充分な強度が要求されます。

殆どのスピーカーユニットは直立したバッフルに取り付けるよう設計されています。
バッフルに取り付けた場合に、上に位置した梁には張力が、下に位置した梁には圧縮力が働きます。
圧縮力に耐えるためには撓まない太い梁が必要ですが、張力ならワイヤーのような 細い梁でも充分です。

円筒形スピーカでは総ての梁に張力しか働きません。
そのうえゲルと仮想グランドを組み合わせたサスペンションが、コーンの反動を慣性で抑え込んでくれます。
そのため細い梁で充分な強度を確保できる筈です。

それならばフレームを削って音の通り道を拡げれば音質が向上するかもしれないと考えました。
さっそく試したところ予想以上の良い結果が得られました。

     1 改造1回目
       1-1 フレームの加工
       1-2 試聴
       1-3 ARTAによるBurst Decayの測定  ( '09、05、27 追記 )

     2 改造2回目               ( '09,06,05 追記 )
       2-1 フレームの加工
       2-2 試聴
       2-3 ARTAによるBurst Decayの測定  ( '09、06、09 追記 )
       2-4 試聴会              ( '09,06,30 追記 )
       2-5 残りの改造            ( '09,07,03 追記 )

     3 改造3回目 : 失敗            ( '09,06,11 追記 )
       3-1 シーラントの充填
       3-2 試聴

     4 LIMPによるインピーダンスの測定     ( '09,08,31 追記 )




1 改造1回目
1-1 フレームの加工
下の写真で左が加工前、右が加工後です。
上下方向に2mm、左右方向には4mm程度拡げました。
これによって音が通る穴の面積は3割近く増えました。

梁の部分は、端子板が付いている部分を除いた5ヶ所の幅を半分の4mmに狭めましたが、
まだ充分な強度があります。もっと細くしても大丈夫かもしれません。



加工前の養生が下手で方々に鉄の削り屑が付着して取るのが大変でした。
残りの一台を改造する際には、もっと工夫しなければなりません。

加工には電動ルーターを使い回転する丸棒の砥石を使って穴を拡げました。
電動ルーターはネット通販で>買った中国製です。無名ですが問題なく使えました。
本体価格が2500円で送料と代引き手数料などを合わせて4300円かかりました。


1-2 試聴
肝心の音ですが、予想以上に良い感じに変わりました。
試聴には過日のライブでファンになった武藤晶子トリオの 「 Dark Eyes II 」 を鳴らしたのですが、
中域から低音にかけての音量が増えたようでピアノの魅力が倍増しました。
気持ちよく聴いているうちにアルバムが終わってしまいました。
心地良い音は短く感じます。
円筒形SPは、また一歩生演奏に近づいた感じです。

今までのFF-85Kとは雰囲気の違った音で朗々と鳴ります。
FF-85Kは低音から高音まで美しい音で鳴ってくれますが、
難を言えば音が若干硬いのです。それが和らいだ感じです。

この改造によって悪くなったと感じたところは全く在りません。
SPユニットの梁が音質に大きな影響を与えている事がわかりました。
もっと丁寧に梁を削れば更に良い音になるかもしれません。
なにか禁断の園に足を踏み入れてしまった感じです。

1-3 ARTAによるBurst Decayの測定  ('09、05、27 追記)
ARTAを使って電気的な特性測定で差異が出るか試しました。

上のグラフは改造前と改造後のグラフです。

1kHz以上の周波数帯域で凹凸の畝が増え山と谷の差が小さくなっています。
ピアノの魅力が増したのは、低音が増えた為ではなく高音域の起伏が減った効果と思われます。

無響室を使った測定ではないので結果の総てを鵜呑みにはできませんが、
SPユニットのフレームが低音ではなく高音に大きく影響しているのが確認できました。
梁の部分をもっと細く削れば更に良い音になりそうです。

ARTAによって音を客観的に評価できる事が判ったのは素晴らしい事です。
ARTAを使えばアマチュアでもプロに迫る音の良いスピーカーを作れるかもしれません。
今後は改良の速度が上がりそうです。

測定はいつもと同じ廊下で行いました。柏手を打って最も反響の少ない場所です。
測定に使ったマイクとスピーカーの間隔は50cm、マイクの高さは1mです。

6Periods以降の残響は建物からの反射ではないかと“好意的”に解釈しています。

50Hzの残響が長く続くのは、マイクの電線に商用電源の誘導ノイズが侵入したものと推定しています。
いろいろと試したのですが、消せませんでした。


2 改造2回目 ('09,6,5 追記)
2-1 フレームの加工
下の写真で左が2回目の加工前、右が加工後です。
梁を更に細く削りました。梁の幅は概ね4mmです。

写真では梁が細くて弱弱しく見えますが、円筒形SP用としては充分な強度があります。
手に持って力を加え撓めようと試みたのですが、頑強で歯が立ちませんでした。

前回の加工で、鉄の粉が付着して取るのが大変だったので丁寧に養生しました。
使ったのは梱包用低粘着テープです。適度な粘性で剥がすのが楽でした。
剥がした所に粘着剤が残りません。コーン紙に貼っても問題なく剥がせました。
(真似される方は自己責任で御願いします。)

なおエッジが白く汚れているのは前回の加工で付着したものです。


2-2 試聴
音は更に良くなりました。いろいろと聴いたのですが、苦手と感じるCDが無い程です。

今、Polini氏が弾くベートーベンのピアノソナタ30番を聴きながら書いています。実に心地良い音です。
これまでは、録音が古い(1975年)ので良い音が出ないのだろうと考えていたのですが、間違いでした。

改造1回目では感じられなかったピアノの低音が魅力的です。
文を推敲しているうちに31番と32番が終わりGilels氏の奏でる悲愴に代わりましたが、これまた良い感じです。

古典的なピアノ曲をジャズと同じ感覚で楽しめるようになったのは素晴らしい事です。
片側だけでこれならステレオにしたらさぞかし良くなるだろうと期待が膨らみます。

改造してもFF-85Kの持つ華やかな高音は変わりませんが、
中低音の朗々とした癒される感じの音は数年前に試したTangband社製W3-517SAによく似ています。
フレームを削って音道を拡げたFF-85KはW3-517SAの良い所を合わせたような魅力ある音です。

W3-517SAは友人に提供したため手元に無いのですが、写真でFF-85Kと見比べると鍔とマグネットの間隔が違います。
W3-517SAのほうが広いのです。そのため音道の窓が充分に広く確保されています。
これが朗々となる中低音を生み出していると思われます。
その反面ボイスコイルを巻くボビンが長くなる為に可動部の重量が増し高音の再生限界周波数が低くなったのでしょう。

FF-85Kは可動部を軽くするために鍔とマグネットの間隔を狭くして抜群の高音再生能力を実現しているようです。
そのため音道の窓が狭くなっています。この窓の狭さが円筒形SPを朗々と鳴らすには抵抗になっていると確信しました。

2-3 ARTAによるBurst Decayの測定  ('09、06、09 追記)
視聴では音が良くなったと感じたのですが、ARTAによる視聴で差異が出るか試しました。


改造1での測定結果にくらべて大きな違いは見られませんが、
周波数の上限の肩が角張ってきたように見えます。

また周波数の低い200Hz」以下では音量が増し、谷が浅くなっているようです。
音が良くなったと感じたのは、低音が増えたことによるラウドネスのような効果かもしれません。
自分の好みに近づいたという事でしょうか。

測定の際は前回と同じ条件になるべく努力したのですが、マイクの向きや仰角で測定結果が大きく変わってしまいます。
客観的なデーターを得るためには、いつも同じ条件で測定できる設備と反響の少ない部屋が必要です。


2-4 試聴会  ('09,6,30 追記)
恒例になった試聴会で未改造のFF-85Kと改造済みの音を聴き比べてもらった。
左側だけが改造済みで右側はオリジナルというアンバランスな状態で鳴らした。
自分の耳では改造による音質向上は明らかだったので残りのSPユニットも改造したくてウズウズしていたのだが、
この試聴会で聴き比べてもらうために我慢していた。

当日の参加者は8名程度だったが、皆が改造済みの音が良いと認めていた。
改造済みのほうが音量が大きく、特に低音が豊かになっているとの評だった。



上の写真は当日に試聴した機器です。

左端から我が円筒形SP。

その右の背の低いのが友人T氏の新作で10cmのSPユニットを使用。
パイプではなくコルクの薄板を巻いてある。独創的な構造で今後の改良に期待している。

その右は友人I氏の新作。FRP管に10cmのSPユニットを搭載。
ホーンポールは使っていないが充分な低音が出る。しかし高音の拡散が若干足りないと感じた。
SPユニットの上に指向性を改善するデフューザーを取り付ければ良くなると思う。

前に置いている大きな箱は先輩N氏が作った金田式D/A変換器。
HRDAC-01とは趣の違う音が出ていた。

その右は、アンプ、SP切り替え機、HRDAC-01、ポータブルDVDプレーヤーDVP-FX720です。


2-5 残りの改造    ('09,7,3 追記)
試聴会を無事に終えたので未改造だった方の音道を削り拡げた。
今度は養生を丁寧に行ったので鉄粉での汚れは少しで済んだ。

ステレオで聴いてみると過去最高の心地よさだが、モノラルの2倍も良くなってはいない。
感じとしては3割増といったところだ。

上の写真で端子台に半田付けされている抵抗はダンピング特性改善用の8.2Ω3Wです。
これでDumping Factorが1以上になります。簡単で抜群の効果があります。
先に改造したSPユニットでは発熱の為に変色していたが、こちらには焼けた形跡は無かった。
容量に余裕が無いようなので、もう少し大きめの抵抗が良さそうだ。


3 改造3回目   ('09,6,11 追記)
以前から気になっていたのだが、スピカーのマグネットとフレームの接合部に幅5mm深さ5mm程度の窪みがある。
音道にある窪みは音質にマイナスの筈なので埋めたら音がどう変わるのか興味が湧いた。

3-1 シーラントの充填
手軽に実験する方法は無いかと考え建築用のシリコンシーラントを使った。
下左の写真で凹みと段差のある部分をテーパー状に埋めました。空気の流れを妨げにくい形です。



3-2 試聴
小さな改造ですが、音の純度が上がりました。しかし高音と低音のバランスが崩れた感じです。
円筒形SPではSPユニット周辺の空間が狭いため小さな変更でも音が変わります。

先ず低音が改造2より更に強くなりました。若干過剰と感じています。
音道の凹凸が無くなり低音再生の際に空気を圧縮する効率が高くなった為と推定しています。
低音を増やすのは大変ですが、減らすのはホーンポールを細くするだけなので対応できます。

高音は純度が上がった感じで解像度も高まりましたが、反面で量が減ったようです。
音道の狭い部分に弾性のあるシリコンシーラントの壁を設けたために高音が吸収されているのかもしれません。

その後、数日間にわたって視聴しました。一番の問題は、高音に魅力が無い事です。             ('09、06、15 追記)
音量が少ないとは言え解像度が高くノイズも感じられません。
しかし何故か魅力の無い音です。この改造は失敗でした。

シリコンシーラントを剥がして視聴したところ元の高音が出ました。
仕組みは判りませんが、凹凸による反射が心地よい高音の発生に寄与しているようです。

4 LIMPによるインピーダンスの測定      ( '09,08,31 追記 )
音道を削って広げた結果、ピアノの音が柔らかくなり低音の量が増したように感じています。
改造後のインピーダンスがどのように変わったのか興味が湧き測定しました。


LIMP(ARTA)の100Ω法で測定したところ上のグラフのようになりました。
上はFF-85K改 + ダンピング抵抗(8.2Ω)、
下はFF-85K改 + ダンピング抵抗(8.2Ω) + 三周波数対応ノッチフィルタです。

改造前と概ね同じですが、120Hzの山が0.2Ωほど高くなっています。
前回の測定は春で室温は15℃程度でしたが、今は25℃なので差は10℃ほどです。

銅の温度係数は+0.2%なので実質は0.124Ωの増加です。
音道を広げた効果なのか測定誤差なのか判りません。

しかし三周波数対応ノッチフィルタが効果的に機能しているのが確認できました。


5 ダンパーレス化の改造     ('10,06,27 追記)
先にタイムドメインラボ社から発売されたプロトタイプユニットを改造しダンパーレスとしました。
その結果は素晴らしく改造前のユニットとは較べものにならない程の良い音が出ました。

そのダンパーレス・プロトタイプユニットと
改造FF-85Kの音を比べたところ籠ったような歪んだ感じがあります。

改造FF-85Kもダンパーレス化すれば更に良い音が出ると思 われましたが、
窓が狭く切り抜くのは難しそうでした。

そこで工具を作りました。
細い半丸やすりの先端を研いで刃を付けダンパーを切り取りました。




切り取った後に、ボビンにセラックニスを塗りました。
強度を上げる為ではなく磁性流体が浸み込むのを防ぐ為です。

その後にTW用磁性流体を注入しました。

ダンパーレス化は改造FF-85Kでも顕著な効果が在りました。
籠ったような歪み感が完全に解消しました。
自然で爽やかな音に変わりました。

5-1 試聴と考察        ('10,07,03 追記)
約一週間に亘ってモノラルで試聴しました。
ダンパーレス・プロトタイプユニットと似たような音です。
ダンパーレス化によって改造FF-85Kの個性が薄れました。
僅かな差ですが、以下が特徴的でした。

高音はダンパーレス・プロトタイプユニットに比べて鋭さを感じず穏やかです。
これはコーンが紙だからでしょう。
紙コーンでは分割振動によって高音の鋭さを失い耳障りの良い音になります。
紙コーンの宿命ではないでしょうか。
セラックニスを塗ればタイミングの正確な鋭い高音が得られる筈です。

低音はダンピング不足です。ベースの音がボワーンとした感じです。
フェライト磁石の直径が大きくパイプの中を仕切っているような形が災いしているのでしょう。
対してダンパーレス・プロトタイプユニットは力強くメリハリが効いてます。
空気の抜けが良くネオジューム磁石が強力でダンピング抵抗による“回生制動”が 強く働く為と思われます。

ダンパーレス・FF-85Kはダンパーレス・プロトタイプユニットに比べて
一回り小さく纏まった感じの音ですが、嫌みが無く爽やかな音です。
しかし低音が弱くメリハリが無い為にピアノやベースの魅力には大きな差があります。

どちらのユニットも良い音で上述の評価は筆者の好みです。
ダンパーレス・FF-85Kのほうが好きという人も多いでしょう。