●神隠しの怪


下谷徳大寺に、ある大工が住んでいた。彼の息子は十九歳になっていたが、今年の盆十四日のことであるが、葛西あたりに、名大工の造った寺の門を見てくる、といって自宅を出たまま行方不明となった。両親の驚きは大きく、近隣の知り合いを呼び集めて、鉦太鼓を鳴らして探したがわからない。
隣町の者が、江ノ島へ参詣して、社壇にて行方不明の青年を見かけた。
「どこへ行ったんだ。ご両親が大騒ぎして探しているぞ」と言うと
「葛西辺りの門の細工を見ようと思って家を出たんだけど…ここはどこ?」と尋ねてくる。ここは江ノ島である旨伝えると、彼ははなはだ戸惑う様子なので、江ノ島の住職へ訪ね、しかじかと事情を話し、「さっそく親元へ知らせ、迎えを待つ間、こちらで預かりましょう」と頼んだ。
隣村の者は両親の所へ行き、事の次第を話した。両親は喜んでさっそく迎えの者を遣った。
不思議なのは、彼の伯父で大工稼業の者(親の弟)が、同じく十八,、九歳でどこへ行ったのか行方知れずのゆえ、あちこち探したが、こちらはついにどこへ消えたか分からずじまいであったので、息子がいなくなった時の、両親の憂いはひとしおであった。(耳袋より)