雨乞いの里 その年はひどい日照りの日が続いた。 水路は澗れ、土が割れ、稲が悲鳴を上げる。 この調子では、不作は決定的だ。何度も何度も雨乞いをしたが効果はなかった。 村の者はまるでそれが雨の神そのものであるかのように祭主の家を頼った。 草太は、その祭主の家に生まれた跡取り息子だった。 「草太、お前断食するって本当か!?」 「…もう聞いたのか。」 草太は大きなため息をついた。 「“断食の儀"ってやつだよ。堂に籠もって雨が降るまでずっと祈り続けるんだ。  その間は水以外口にしちゃいけないらしい。」 「雨が降るまでって…そんなの後何日先になるか…」 「…まあな。…でも、何も死ぬまでやる訳じゃないよ。これ以上駄目だと思ったら  出て来ていいって言われてる。」 「そうは言ってもな…」 「本当は爺さんがやる筈だったんだけどな。…あの歳だろ?  こんなことやったら命にかかわるから。」 草太の父親は村にはいない。紀行文を書いて旅費を稼ぎながら世界各地を旅している。 だから、祭主である祖父の代理となると、草太しかいないのだ。 「だからって何もお前がやることないだろ。  雨なんて祈ろうが祈るまいが降るときには降るんだから…」 「そうはいかないさ。こういう時のためにお前らはうちに寄進をしてるんだろ? 金だけもらって何もしないのは職務怠慢だ。」 「いいじゃん、毎日雨乞いの踊りやってるんだから。断れよそんなの。  そんなの始めたらどうせお前ムキになって体壊すまで我慢するだろ」 草太はまたため息をついた。 「…そんなに心配する程の事じゃないよ。」 「椰央、俺が堂に籠もってる時はうちに来るなよ。  “断食の儀”は人に会うことも禁止されてるんだ。」 「…草太…」        なんだよ人がセッカク心配してやってるノニ! 「なー螢麻、ひどいと思わねー?」 「はいはい…」 蛍麻は面倒臭そうに梛央の頭を撫でた。 梛央はさっきから、蛍麻の事など気にせずダラダラとグチを零していた。 「心配してやった俺に対してもう会いにくんなとか言うんだぜ?」 「ほうほう…。」 「あれからもう一週間はたったよな…。…なんにも食べてないんだろうな…  あんな狭いトコに範もったまま誰にも会えないなんてな…。」 蛍麻は“おや”と、思った。 「人に会っちゃいけないのか?.j 「…そうだよ。だからあれから、草太には会ってないの。」 「そうか…」  その日蛍麻は、梛央と別れた後、草太のいる神社に行った。  表で手を合わせた後、社務所に行く。 社務所の奥はもう普通の民家とさして変わらない造りになっている。 そこで、祭主である草太の祖父を呼んだ。 「草太には会えますか?」 「何か、用事でもあるのかい?あるんだったらワシが取り次ぐが?」 「梛央の事でちょっと話があるんですけど…」 「…どうやらワシじゃあわからん話らしいのう…。」 「ええ、まあ。」 「まあいい。こっちに来い。」  堂の中には、祭壇が設けられ、それを囲むように。蝋燭がおかれていた。 草太は、お堂にはいなかった。祭主は、螢麻をそこで待たせ、草太を探しに行った。 草太は、すぐにやってきた。 「よう、草太。どこ行ってたんだ?」 「ん、ちょっと水飲みにな。」 蛍麻は、やっぱりと、思った。 要するにこんなものなのだ。寵もると言っても堂から出られない訳じゃない。 水を飲むにも、風呂に入るにも、用を足すにも、動かなくてはできないことだ。 人に会う事だってまるっきり禁止されている訳はない。 何しろ、家族にはどうやったって会ってしまうのだ。 外の人間だって最小限なら会えない筈はない。  しかしまあ、草太の体は酷い物だった。 もともと細いほうだったが、手足が折れそうな程に細くなっている。 頻は、頬がこけて頬骨が浮き出ている。肌の色は、濁って見える。 「お前がうちに来るなんて珍しいな。何しに来たんだ?」 いいながら、祭増の前の座布団に腰を下ろす。 「いやあ、対したことじゃないんだけどな…、さっき梛央に泣きつかれちまったもんで。」 蛍麻はカラカラと笑っていた。草太は、梛央の名を聞き、害虫を噛み潰した顔をする。 「泣きつかれたって…」 「“草太に会えなくて寂しい”ってな。」 蛍麻が草太の目を真っすぐに見る。笑顔は崩していないが、それは、草太を責めている目だ。 「…ガキかよあいつは。」 「カワイイじゃん。お前が心配でしょうがないんだよ。」 「かわいいってな…」 草太がそっぽを向く。 「お前、梛央に会いに来るなって言ったろ?誰にも会っちゃいけないなんて嘘ついて。」 「…嘘じゃない。」 「でも今俺と普通に会ってるじゃん。」 「……それは…」 「なんでだよ?あいつが会いに来たら集中できないからか?」 「…あいつ、どうせやめろって言うだろ。…お前らにはピンとこないだろうけど、  こういう折りっていうのは、神や精霊にちゃんと届いているんだ。」 「草太…?」 「後、どれだけ先の事になるか分からない。それでもいつか、雨は降る。  それは、雲の流れや風の動き、季節の移り変わり…いろいろな要因があって起こる奇跡だ。  それは、自然が与えるもので、我々から自然に訴えかけるものではない。  お前らにはそう見えるだろ?だからこの行為が無意味なものに見える。  それで、やめさせようとする。  でも、俺たちはお前らよりも、少しだけ、そういったモノに近い。  姿が見えるし、語りかけることもできる。」 草太は、その能力のせいで人から理解されない事も多くあった。 どんなに説明しても、白分の目で見れないものを、人はなかなか信じない。 「だったらちゃんとそういうふうに梛央を説得するべきなんじゃないのか?」 「………。」 「梛央はお前の飼い犬みたいなもんだろ?面倒臭がらずにしっかり可愛がってやれよ。」 「…うん。」 「なあ草太、お前、最近梛央のこと避けてないか?」 「…別に」 「梛央に守られてるのが面白くないってのは分かるけどさ、  向こうが勝手に自己満足してるだけだろ。もうちょい優しくしてやれよ。」 蛍麻に言われたことは、一々的を得ていた。 草太は昔から身体が弱く、運動神経もよいとは言えない。 梛央は、草太の右目をつぶしてしまったことを悔いて、草太を守うとしているらしい。 だが、男として、守られている自分はどうかと思う。 「…分かったからお前もう行け。」 「…てな訳だ。分かったか、椰央?」 「何だよ。俺けっきょく邪魔者扱いかよ?」 「だってお前、草太に会ったら絶対やめろって言うだろ。」 「…言わなかったらいいのか?」 「言うさ。今の草太を見たら…」 「…そんなに酷いのか…?」 「………」 「螢麻、俺…やっぱ草太に会いに行く。」 「…そういうと思ったよ。」  草太は、堅い床の上で横になり、ろくに動くこともできなくなっていた。 細くなった体で、じっと重カに耐えていた。 「草太…」 草太は、梛央に気づいて半開きの目で視線を送ってきた。もう声を出すのも辛いのだろう。 椰央は、草太が寝ている隣に、腰を下ろした。 「…梛央、怒ってるか?」 草太は、やっと椰央に届くほどのか細い声でそう聞いた。 梛央は、何もしゃべらなくていいと言う代わりに、優しく草太の髪を撫でた。 「怒ってないよ。」 草太の髪は、汗で軽く湿っていた。もう長く、風呂にも入っていないのだろう。 梛央は、置いてあった団扇で、軽く草太を扇いでやった。 草太は、気持ちよさそうに、目を細めた。 「寝ていいからな。」 草太が、軽く頑く。草太は、そのまま寝てしまった。 梛央は、ずっと草太を扇ぎ続けていた。そんな事くらいしかできなかった。 その頬が別人のようにこけているのを見て、梛央はすごくいたたまれない気分になった。 何もできない自分が悔しかった。ぐったりと横になっている草太を見るのが辛かった。 誰でもいいか一ら草太を助けてほしいと思った。雨が降って欲しいと、強く願った。  どのくらいたったろう。梛央は、草太の唇が微かに動いていることに気づいた。 「どうした?水、欲しいのか?」 梛央が、草太の口元に耳を寄せる。 草太は、さっき口にした言葉を、もう一度はっきりと繰り返した。 「…北の山の沼のほとり。洞窟の中で、雨の神様が助けを待っている…。」 「え…」 「…見えたんだ。」 草太が梛央を見上げる。 「分かった。北の山の沼だな。行って来るから待ってろ。」 椰央は、蛍麻の家へ走った。 「蛍麻、山連れてってくれ。」 「山?」 「沼の対岸。そこに雨の神様がいるって草太が言ったんだ。お前、山の道に詳しいだろ?」 「…別にいいけど…二日かかるぞ?」 「二日も!?」 草太が行ってた沼は、村からさほど離れている訳ではない。 しかし、途中に高い崖があり、直接は行けない。 まる二日かけ、反対側から北の山をぐるっと回って行かなければならないのだ。 「行くか?」 「…行く!」 「分かった。明日の朝までに今から言う物用意しとけ。」 沼のほとりに洞窟はあった。 洞窟の中にあったのは、両手を使っても抱えきれないほどの、巨大なカエルの石像だった。 「これが…雨の神様?石像なのか…?」 螢麻が近寄ってそっと触ってみる。石のように見えるが、表面がガサガサしている。 「干からびてる。石像っていうよりこりゃ干物だな。水でもかけてみるか? 「そうだな。でも…」 梛央が水筒を取り出す。中には飲み残しの水がちょっとだけ入っていた。 「それだけじゃ足りないだろ。沼の水つかおうぜ。」 「あ、じゃあいっそ沼の中に放り込んじゃおう。」 「バカ。それで沈んだまま浮きあがって来なかったらどうすんだよ。」 「あそっか。」 二人は、水筒を使って何度も沼とカエルのミイラの間を往復し、水をかけた。 カエルの皮膚は、水を吸収し、だんだんと潤いを取り戻して行く。 そしてしっとりベッタリとした普通のカエルの肌触りになった。 「起きねえな…。」 「水、口の中に入れてやったらどうかな?」 梛央が、蛙の口をこじ開け、水筒に汲んだ池の水を流し入れる。 「螢麻、コイツ飲んでるか?」 「だめだ。舌が邪魔して喉まで入ってってねえよ。」 「強情だな…」 「梛央、俺が口抑えてるからお前そいつの舌引っ張れ。」 「蛙の口ん中手ぇ突っ込むのかよ?気持ち悪りいよ!お前やれよ!」         ↑ヲイ…相手は仮にも神様だぞ… 「うるさい。草太を助けたいんだろ。」 「…お前やな奴だな。」 「…ゲコ?」 カエルの目がゆっくりと開く。二人が、その回りに寄る。 「起きたのか…?」 「…あ一…、お前らは…?」 「俺たちはこの池の対岸にある村の者だ。」 「あ…そうか。お前らが助けてくれたのか。ありがとうな。」 濡れた体を震わせながらカエルは話す。 「いやぁ実はな、ワシはこの穴蔵に住んでいるんだがな、 体が蛇いて来たなあと思ったら、穴から出て雨を降らすことにしとるんじゃ。 しかしな、この間、ついつい寝坊をしてしまって雨を降らすのを忘れた。 そのせいで干からびてしもうたんじゃ。」 長い話を終え、さも楽しそうにゲコゲコと笑い出す。 梛央の腹の底から、怒りがふつふつと込み上げる。 螢麻は、不安になって梛央の手を握り、小声で嚥いた。 「抑えろ。相手は神様なんだから。」 梛央が螢麻を恨めしそうに見る。 「あ…の、それでさ、ここのところずっと日照り続きで困ってるんだけど  すぐに雨を降らせてもらえないかな?」 螢麻が控えめに頼む。カエルは笑うのをやめた。 「あ一そういやあ…そうだなあ…。  でも、お前らが助けてくれたからワシは別に雨はいらないんだがのう…。  ほれ、背中も腹もしっとりぴちぴちじゃ。」 そしてまたゲコゲコと笑い出す。 螢麻は、梛央の怒りをひしと感じつつも、穏便にカエルを説得しようと試みた。 「…あんたは満足でも、村は雨がないと困るんだけど…」 「ワシが知るか。雨を降らせるのは疲れるから嫌いじゃ。」 取り付く島もない。 「そこをなんとか…」 「生け賛がほしいのう…。若い娘か生きのいい蝿がいいのう…」 助平面でゲヘゲヘと笑い転げる。その姿に、梛央の堪忍袋の緒が切れた。 「いいかげんにしろよ。さっきから聞いてりゃ自分勝手なことばっかいいやがって。  とっとと雨を降らさないと尻の穴から、息吹き込んで破裂さして肉を火であぶって  村の食料にするぞ。」 これは、田舎の子供なら誰でも知っている昔ながらの遊びだ。 蛙は肛門にストロ一を差し込んで息を入れるとぷくーと膨れあがり、綺麗に丸くなる。 カエルの肉は、量こそ少ないが、鶏に似て、なかなか美味なのだ。 「い…いやああああああああつ!!!!」 それを想像したカエルが奇声をあげる。 「鎌だろ?嫌だよなあ!?だったら雨を降らせるんだ!」 「わ…わかった、降らせる、降らせるからっ!」 「いいな、日照りで米が採れなかったら、真っ先にお前を食ってやるからな。  覚悟しとけよ!」 「ご…ごめんなさい。もう二度と寝坊なんてしないからっ!」         …なんか…この村の神様ってこんなのばっかし… 「お析りをしたから今日の夜には降り始めるはずじゃ。」 「じゃ、今日は峠の村まで行って泊めてもらうしかないかな。」 「ここを通って行けばすぐにお前らの村に行けるぞ?」 そう言ってカエルが指さしたのは沼だった。 確かに沼を泳いで行けば村は目と鼻の先だ。しかし船などあるはずもない。 「泳げってのかよ?冗談も休み休み言え。」 「大丈夫じゃ。  ワシが魔法をかけて一度岸に上がるまでの間、水の中で呼吸ができるようにしてやろう!」 「魔法…?」 「とりあえず目をつぶりなさい。」 言われた通り、梛央が目をつぶる。 ひんやりとした空気が近づいて来たかと思うとそれが顔にねちょっとひっっいた。 何事かと思って後ろに飛びのくと、それはカエルの口だった。 「お…お前…何を…!?」 驚くのも無埋はない、カ工ルに唇を奪われたのだ。 梛央にとっては、生まれて初めての口づけだった。 「魔法。」 青ざめている梛央に、けろっと言ってのける。 「お前も目をつぶりんさい。」 カエルは螢麻に目を向ける。 螢麻は、もちろんさっきの梛央を見ているので、少し考えた。 「あー…折角ですが、僕は、自分の足で、村まで帰りますよ。」 「なんでだ?」 「ほら、白分の、足で歩いてこそ人生だから、  魔法でズルしてたらいつまでたっても成長できないでしょう?」 蛍麻は、白分でもよく分からない言い訳を並べた。 しかし、カエルはそれに感動をしたらしく、ぼろぼろとう涙を流し始めた。 「なんと素晴らしい人間じゃ、  神であるワシを脅して雨を降らせようとしたこいつとは大違いじゃ。  なぜお前のような人間がこんなやつの友達に甘んじているのじゃろう。  お前もちっとは見習えよ。」          …こいつ本当に膨らましたろか… 涙目で螢麻を睨む梛央。螢麻は、笑いを堪えながら梛央の肩を叩いた。 「いいじゃん。早く行って草太にこの事知らせてやれよ。…で、ちゃんと仲直りしろよ。」 そして、二ヤニヤ笑いながらこう付け足した。 「なんならお礼にチュウでもしてもらえば?今のまんまじゃ気持ち悪いだろ?」 「なっ…何言ってんだよ!」 梛央が真っ赤になる、螢麻は、その新鮮な反応がおかしくてしょうがなかった。  カエルの魔法の効果は、確かなものだった。 ただ水の中で呼吸ができるだけではない。泳ぎが早くなるのだ。 お陰で、対岸の村につくまでに2時間とかからなかった。  着いたころには、空からぽつぽつ雨が降り始めていた。 嬉しさが込みあげて来て、椰央は駆け出した。 雨に濡れるのもかまわず、草太のいる神社を目指す。  狭いお堂に、遠くから、雨の音が響いて来る。草太は、その音に気づけないでいた。 祭壇の前で横になり、細い呼吸を繰り返している。 その草太に、祭主である祖父が近づき、肩を叩く。 「…草太、草太、聞こえるか?雨の音じゃ。降り出したぞ。」 草太が、少しだけ目を開ける。 「ほれ、粥じゃ。食え。」 背中を支えて起きあがらせ、水のように薄い粥をすすらせる。 草太は、それをひとくち食べた後、掠れた声で“椰央は?"と聞いた。 「ああ。もうすぐ来る筈じゃ。ここで待っていなさい。」 と、それは彼特有の予知のカだった。草太は、微かに笑った。 表から、遠く近く、快い雨の音が響いている。 その中に、ぴちゃぴちゃと泥を叩く足音が近づいて来る。 梛央が、庭を回って、縁側からお堂の扉を開ける。 「草太!」 雨でびしょ濡れになった梛央が、中に上がれず、縁側に座る。 草太は、祭壇の机に掛けてあった布をはいで、椰央に投げてよこす。 「お帰り。…ご苦労様。」 椰央は、満面の笑みでそれに応えた。 「ただいま。」 梛央が、渡された布で髪の露を拭う。草太は、這っていって、隣に座った。 「…もう、なんか食ったのか?」 「うん。」 草太が、梛央にもたれ掛かって来る。 「俺の服、冷たくないか?」 草太が緩く首を横に振る。 梛央の服は濡れていたが、草太は気にしていないようだった。 雨が、庭を潤す。その音が、縁側に響く。草太は、無防備な姿で梛央に寄りかかっている。       …あったかいな、こいつ… 唐突に、螢麻の言葉を思い出し、草太の唇から目が離せなくなる。 じっと見続けていると、不意に草太か俯いて、口もとを抑える。 気づかれたかと思い、慌てて目を逸らす。 「…気持ち悪い。」 「は?」 その時、母屋の方から、爺さんが出て来た。 「いきなり物が入って来たから胃が驚いてるんじゃろ。  吐かないで、込みあげて来た物をもう一度飲み込むようにしなさい。」 「…大丈夫なのか?」 「ああ、勿論な。お前は、おとなしく風呂でも入って来なさい。  もう、沸く頃じゃろ。」 椰央が、不思議そうな顔をする。 「お前がここに来ることぐらい分かっとったよ。  風呂場の方で婆さんが待っとるから早く行って来い。そのままだと風邪をひくぞ?」 「…はい。」 梛央が立ち上がり、表から風呂場へ回ろうとする。 草太は、その背中に声を掛けた。 「椰央、」 草太の呼びかけに、椰央が足をとめて振り返る。 「ありがとう。」 椰央は笑って、"どういたしまして"と返した。