| *一緒に夢を見たいから。 |
夏休み。 何と、心地良い響きを持つ言葉だろう。 夏休み。 王家の中で、第二王子のみに与えられた、特権。 夏に弱い次男坊のための、優しい家族の配慮。 宿題も何もない、好きなことだけをしていても良い、奇跡の一週間。 こぢんまりと佇む、避暑地の離宮。 一週間の間だけ。ここがカナンの、城。 さてその離宮へと付き添うのは、王宮内でも限られた者だけ。最低限、王子の 身の回りの世話ができるだけの人数しか同行しない。 それは当たり前だ、王宮は通常通り営業中なのだから、そちらがメインに 据えられるのは当然のことで。 けれどそれこそ願ったり叶ったりで、カナンは静かな離宮で、のんびりと時を 過ごすことができるのだ。 午前は、涼しいうちに少し本を読んだりして。 午後は、付近の小川で水と戯れたりして。 夜は、美味なる水菓子に舌鼓を打ったりして。 夏休み。 暑いことは暑いのだけれど、避暑地はカナンに優しい。 ――夜になっても、あまり気温が下がらない。 それでも一応は避暑地と言われる場所だけあり、風はそよそよと涼しく、 夜中や明け方などは肌寒いくらいまでにはなる筈だ。 まだ暑さによる気怠さが残っているのか少々ぼんやりとしつつ、もそもそと 夜着に着替えをしている王子の横で、気持ち厚めの夏掛けを寝台に整えて セレストは振り返った。 同行メンバーの中で一番重要な任を負う者、それが王子付きの従者である。 王国騎士団近衛隊副隊長。国で二番目に腕のたつ剣士。 避暑に来て、第二王子が風邪など召しては大変である。そういったことにまで 細かく目配りをするのも、従者の役目。 ――今、こうして王子の寝台を整えたりしている様子からは、とてもそうは 見えないところが悲しい。 そもそも従者とは…体の良い雑用係、と言ってしまえば、それまでなのだが。 「カナン様、明け方は少し冷えるかと思うので…厚めの掛け物をご用意しました。 くれぐれも寝ながら蹴り飛ばさないで下さいね、お風邪を召しますから」 まるで子供に言い聞かせるような口調に、カナンはむっと眉間に皺を寄せた。 「そんなことはわかっている、でも寝ている時は無意識なんだから蹴っても 仕方ないだろう」 「…できるだけ、努力はなさって下さいね」 「わかったわかった」 ふあ、と小さな欠伸をひとつ、カナンはさあお休みなさいませと促す従者に 逆らわず、夏掛けの下へと身体を滑り込ませた。 素直な主君に微笑みかけ、くるりと踵を返そうとした従者の足は、そこから 先へと進めなくなった。何故なら。 「…カナン様?」 「ん」 「あの、…お手を」 「ん…?」 見下ろせば、服の裾にきゅうとしがみつくように、白く細い指。 戸惑いつつも、セレストはその指を細心の注意を払いながら、一本一本、 服から剥がしていく。――が、剥がす先からそれはまた、服へとしがみついてくる。 「カナン様、もうお休みになられませんと」 「うむ」 「では、その、お手を」 「…どこへ行くんだ?」 「は?」 思わず、首を傾げてしまう。まさか、寝惚けているのだろうか? 「カナン様…?」 「何でだ。一緒に寝るんじゃないのか」 「はぁ!?」 素っ頓狂な声を上げたセレストを、カナンはきょとんと下から見上げた。 そんな姿は非常に愛らしかったけれど、今はそんな場合ではない。 「……ですがカナン様、私もきちんと専用の部屋を設えて頂いておりますし。 私はそちらで休みますので…」 「何で」 「は、いえあの、何で、と仰いましても」 「どこで寝ようと同じだろう」 「同じじゃないですよ…」 「だって、暑いんだ」 「…でしたら余計に」 「暑くて暑くて夜中に目が覚めて、水が欲しくなったら」 「水差しをご用意致しますので」 「脱水症状を起こして、動けなくなるかも」 「…そ、それ、は」 「体力の限界で、水差しに手が届かなかったら?」 「う」 「水差しにもう少しで手が届く! …というところで力尽き、」 「えっ」 「僕は心の中で『セレスト…一生恨んでやるぞ〜』と思いながら、息絶えるんだ」 「なっ、何でそうなるんですかっ」 「だって、一緒に寝てくれなかったから」 「は!?」 「セレストが側にいたら、僕が苦しみ出したらすぐに気づいてくれるかも」 「…熟睡していて気づかなかったらどうします?」 「起きるよう、首を締めてやる」 「そ…そんな」 相変わらず服の裾を握り締めたまま、カナンはちょっときつい眼差しをセレストへと 向けた。そんな態度を取っても、目元のほんわりとした赤さは誤魔化しきれない。 「なつやすみ、なんだから。城と違うんだから、いいじゃないか」 「………」 セレストは、言葉もなく目の前の少年を見つめた。 夏休みだからこその解放感、なのだろうか? 常に人が行き交う城内とは違う、避暑地の離宮。カナンの城。 去年までは存在し得なかった、恋人という立場での、甘え。 城にいれば、どうしても『主君』、『従者』という立場は崩せないから、だからこそ ここではそれを取り払ってしまいたい。 そんな、カナンの想い。 …何やら、くすぐったくて。 「…カナンさま」 ふ、と笑んだセレストを見て、カナンの頬にさっと朱が差した。 「子供みたいだと、内心で笑ってるんだろう」 膨れっ面をして、ぷいとそっぽを向いたカナンの髪を、セレストは優しく手で梳く。 そうして、そのさらさらの金糸にそっと唇で触れた。 「いいえ、とんでもない」 カナンはそれでもこちらを向いてはくれなかったけれど、セレストが寝台に 腰を下ろすと、もぞもぞと動いて自分の横に隙間を作ってくれた。 さらさらとした柔らかい夏掛けの感触に、気持ち良さそうに瞳を閉じている、 自分の隣に横たわる少年を見て…セレストは不思議な気分になった。 主君で、でも弟のようでもあり。 親友とも言えるけれど、恋人で。 ――何であろうとも、大切で、愛しい存在には違いないのだけれど。 「…セレスト?」 物思いに耽っていたら、夢現の表情で、カナンが呼び掛けてきた。 「何でしょうか?」 カナンはとろりとした蒼い瞳を半ば瞼の内に隠しながら、小さく囁いた。 「…明日、も……一緒に………」 そこまでで力尽きたらしく、程なくしてすうすうと規則正しい寝息が聞こえてきた。 セレストは、夏掛けからほんの少し覗いていた細い指を取り、そっと爪の先に キスをして、言った。 「…はい」 ずっと、一緒に。 既に心地よい微睡みの世界に身を浸してしまっている、愛しいこのひとに。 この声は、届いただろうか? |
| END |
* * * 10000Hit オメデトウゴザイマス * * * [inside yuzyuz] 1萬打おめでとうございます〜v 私はかなり初期からのファン☆なので、うわぁ1万だー、と まるで我が事のように喜んでしまいました。日毎にカウンタの回りが速くなり、スゴイなぁやっぱりゆずさんの 生み出すものの良さが皆にもわかってきたってコトだよね、えへへv なんて(何か偉そうだなオイ)。 今日まで、ステキな作品たちにたっぷり萌えさせて頂いて参りましたが、これからもまだまだゆずワールドで 私たちを狂わせていって下さいね! もうホント、どこまででもついて行きますので〜vv 素晴らしいゆずさんのSSに、足元どころか軽く地球一周くらいは及びませんが、せめて「大好きだー!」という 魂の叫びを少しでも捧げたい…!と思いまして、お祝い話など拵えてみました(非常に迷惑)。 以前に使用許可頂きました、[summer dream]の王子夏休み設定で書いてみたものです。 こんなんじゃ、ゆずさんの萌えゲージは0.1ポイントくらい上昇するかどうかという程度だとは思いますが…(汗)。 宜しければお納め下さいませ。 今後も、ますますのご発展をお祈りしています。 おめでとうございましたv |
| 2002.夏 織田なつめ[Baby*Blue] |
うーわーーーん(T▽T)!なつめさん有難うございます〜〜〜!! いや、ゆっときますがなつめさん、わたしの方が好きになったの先なんですからネ!(笑) そんでもってわたしがなつめさんを好きな気持ちの方が、大きいんですからネ!<ってゆずさん・・・(虚目) ああ長い片思いでした・・・。まさか織田なつめさんにSS書いて頂ける日が来ようとは。 至福。もう墓まで持っていきます。(お迎え近し) うちのアホな夏休み設定で書いて下さったものですが、こうして見るとなんてすてきに思えて来ることでしょう、王子と従者の夏休み・・・!一週間ですよ一週間。まさに奇跡。 常に無く甘えたさんな王子のなんとラブリーなこと、そしてそれに便乗して襲ったりしない従者君がめちゃくちゃ格好良いです。だって王子は夏休みでも従者は仕事で来てるんだもん。特別出張手当が出るんだもん。 欲望よりも先に、まず仕事の出来る男、これがイイオトコの第一条件です。 でもカナン様大事で大好きだから、職務中でも出来るだけ我儘を聞いてやりたくて、添い寝なのですね。 萌え〜!!すてきすてきー!! そしてなんとカナン様の我儘の可愛らしいことか・・・!息絶えるのはこちらです殿下ー! あまりの愛らしさに落涙です。チクショウ従者め!<救済されている・・・!(笑) 萌えゲージどころか、癒しゲージもMAXです。(息絶えてたけど)生き返り若返りましたとも! ああ〜しやわせvvなつめさん、本当にありがとうございましたvv 一生お供します(従者)。 |
| 20020807.yuz |