雨が降る日に、窓辺のソファでうたた寝をするのが好きだ。
特に、こんな明るい暖かい雨の降る。
ここからは見えない中庭にある紫陽花を思って、自然と幸福な気分になる。あの紫紺はそろそろ見頃だろう。雨が止んだら、見に行ってみようか。
とんとん、と控えめなノックの音。
「…カナン様、おやつをお持ちしました」
しとしとと、雨の匂いが勝っていて目が覚めない。大丈夫、こんな日にうたた寝をしてしまう自分の癖は、彼もよく知っている。
そっと、テーブルに茶器の置かれる音。細心の注意を払って。
馬鹿なやつだな。起こしても、かまわないのに。
気を遣わせているのがわかったから、起きない。暖かいから、そのまま眠り込んでしまってもいいけれど。
どうするかな。出ていってしまうのかな。
しとしとと、雨の音だけ。
しとしとと。
しとしとと。
きし、とソファが鳴った。
投げ出した手に、彼の指がそっと絡められる。持ち上げられて。
てのひらに感じる、唇の感触と、吐息。
「カナン様…」
雨の音に紛れる、密やかな声。少しかすれて。
明るかった視界の陰った様子が目を閉じていても解って、ソファの背に彼の手が掛かったのを知る。
すぐ近くに感じる体温。額にあたる前髪。
くちびるにかかる息。熱くて。
・・・。
くす、と笑う気配がして、耳元に低く流し込まれる。
「・・・狸寝入りが上手くなられましたね」
薄く目を開けると、覆い被さるようにして微笑う彼が間近に見えた。
「・・・ふん。眠いのはほんとうだ」
「では、すこしお休みになりますか」
会話は短く、ささやくようでいて。
しとしとと、雨の音がずっときこえていて。
「うん。・・・でもその前に」
柔らかく手をのばして。ひどく眠いけれど。
微笑んだ唇のかたちのままで。
周りから、音が消えて。雨の音でさえも。
紫陽花を、見に行こうと思った。
彼とふたりで。
雨が止んだら。
雨が止むまで。