からん、と銀のスプーンが落ちた。
カナン様の唇からは、今年最初に穫れた桃のソルベの味がする。まだ冷たい。
それがとても気持ち良くて涼を取るかの如く、息継ぎに夢中な甘酸っぱい口内を貪った。
スプーンは落ちてしまったから、もう片方の手にある硝子の器を取り上げて、そっとテーブルに置く。
カナン様は気付かない。
閉じた金の睫毛が震えて、合わせたままの口唇から甘い香りの吐息が漏れた。
頬に添えた手をそのまま滑らせて耳の後ろの髪に差し込むと、切なげに眉根が寄って、潤んだ蒼の瞳が薄らと開く。
俺の眼と、至近で視線が絡まる。
とろりとぼやけたような蒼が徐々に焦点を結んで、その目元がさあ、と朱を刷いた。
耐え切れなくなったかのようにきゅっ、と目を瞑り直すと俺の首に細い手を回して、しがみついて来られる。
角度を変えて、もう一度深く。
甘えたような鼻声が耳を擽る。
いちどだけ、こくと喉を鳴らして嚥下された。
ほっそりとした指が、俺の後髪に絡まっているのがわかる。息苦しさからか、少し震える腕の白さが眩しい。
絹のような舌触りを存分に堪能して名残惜しくそっと離れると、艶っぽく染まった目線を逸らされる。
その濡れた唇を、親指で拭う。途端に朱がのぼる、桃の頬。
ゆっくりと、親指の滴を舐めるとまだ、甘い。
それを見て、最早額までを赤くされたカナン様が、拗ねたような表情で下唇を噛まれた。
溶けてしまった桃のソルベを、恨めしそうに。
「・・・もう、味見は良いか」