何の予兆も無しに、ぽっかり目が覚める時がある。
その時の目覚めも突然のことで、カナンは暗闇に慣らそうと目を瞬いた。
右を下にして横たわる自分の身体を、後ろから抱きしめるようにして力の抜けた腕が回されている。彼だ。
自分が目覚めたことで彼も起こしてしまわなかったかと、首を巡らせてみるが、暗くてよく見えない。身体を反転させようとしたが、肢の間に彼の脚が絡められていて、とても身動きが叶わなかった。
どうりで痺れていると思った。
(むぅ・・・動けないじゃないか馬鹿)
よく眠っているらしい。首筋に顔を埋めるようにする癖は、起きていても眠っていても変らないとみえる。暖かな寝息が肩口を掠めていた。
まるで、何かにしがみ付いていないと眠れない子供のようだと、思う。
(抱き枕か、僕は)
何だか不本意な扱いに納得出来ずにはいるものの、その眠りを妨害する気には何故かなれない。そもそも自分よりずっと年上の青年を子供のようだと感じる瞬間が、カナンはそう嫌いではない。
常にはまるで保護者のように、そして騎士として自分の護衛を勤める彼が、我武者羅になって求めてくる夜が、たまに有る。
そんな時は本当に余裕が無くて・・・子供の我儘のようで。
それはいつも抑えられている本音のように感じられたから、そんな彼も良いと嬉しく思ったりもする。
しかし縋り付かれて貪られて、・・・それでも優しいのは最後で大人の理性が働くからだろう。
至らない自分が申し訳なくなる。もっとひどくても良いのに、とは思うものの。
(・・・ちょっと、怖かったかな)
自分は実際、名実共に子供で。
おかしな話だとはいつも思う。こんな子供で、しかも同性である自分に欲情するのは。
だからふとした瞬間に、こんなに彼を欲しているのは自分だけではないかと思うときがある。彼はそれに合わせてくれているだけ。
彼は自分よりもずっと大人だから。
無論気持ちを疑ったことなど、ない。あの時の誓いは掛値無しに本物だった。
だが、身体は。
男の身体は不便なもので、一度走り出したら止まらないものだ。
気持ちを伴わずとも。
そして成熟した大人の欲求に、すべて応えられているとはいえない未熟な自分。
時には、なんて歯痒い矛盾。
(・・・考えても詮無いことだが)
ふう、と息を漏らして肢の痺れを逃がそうと身動ぎをする。こう筋肉の付いた重い脚に押さえ込まれていては、眠れるものも眠れない。
「・・・、カ・・・ナンさ・・・?」
・・・起こしてしまったか?
何故か罪悪感を感じて背後の様子を窺うと、未だ眠りの淵に居る彼の腕に抱き直された。何度か猫を宥めるような仕草でカナンの腹を撫でて、其の侭またことんと眠ってしまう。
本当に、子供みたいに。
眠る、彼と。
扱われる、自分と。
不思議にも、嫌だとは思わなかった。逆に、撫でられた鳩尾の辺りが暖かくなって。
ふわ、と再度の眠気が訪れる。
そうっと、彼を起こさないように身体を反転させて広い肩の中にすっぽりと収まって落ち着く。眠りの無意識の中でさえふんわり抱き締め返してくれる腕に、泣きたい程の倖せを感じた。
(焦らずとも、いつかは・・・)
子供ついでのお返しに、自分の肢を彼の長い脚の間に絡ませて痺れさせてやることとする。
境界線が訪れる朝は、まだ、来ない。