「うぁっ」
吃驚したようなカナン様のお声にこちらも驚いて目を向けると、襟足からお背中にかけてぱたぱたと届かない御手で叩かれている。
「せ、セレスト、セレスト」
「どうかなさいましたか」
ご様子がおかしい。しゃくしゃくと枯葉を踏んで駆け寄られるのに慌てて手を差し出すと、躊躇なく飛び込んで来られた。
必死にしがみ付いて来られるお身体に、何もかもの温度が上がる。
「カナン様・・・あの」
その、あまりくっつかないで下さると。
「取って、取って背中の!」
「はい?」
「や、せ、背中に何か」
身を捩られるようにするけれど、何も・・・
「ちが、取って、中、服の中の!」
どうやらお背中に何かが入ってしまったらしい。それは気持ちが悪いだろうな。
「笑ってないで取ってくれってば!」
真っ赤になって怒られてしまった。
「失礼します」
苦笑をもってふわりとパーカの襟を持ち上げ、その中に失礼乍ら手を入れた。直ぐに触れるのは、暖かな絹地のような手触り。注意をしてそっと探るものの。
「・・・取れたか?」
「・・・?いえ、何処にも・・・」
「虫、む、虫かも」
「えっ!?」
驚いた。
そんな、万が一刺すような虫であったなら。つい庇うようにその肌を撫でてしまい、
「ンぁっ」
思わず、といった体で漏れ出たお声に慌ててしまう。
「うっ、す、すみません!」
「馬鹿何謝ってる!な、何でも無いんだからな!」
そのように耳まで赤くして仰られても。
何でも無いという風情では・・・。
幾分上がったように感じる被服体温、抱き留めた左に取り付く可憐な指先、秋の木漏れ日を集めたような色の髪と、その隙間から見え隠れする仄白い首筋に。
「もう何でもいいから早く取れ!」
うーうーと、子供のように縋り付いて来るひとに。
・・・刺激される、悪戯心。
「じっとしていて下さいね」
そっと奥まで手を差し入れて、脇腹のふくふくとした辺りをすいと辿ってみた。
「〜〜〜っ」
途端にお声を噛殺して、ぎゅっと腕に顔を押し付けられる。ふる、と震えて。
其れには気付かない振りをして、触れるか触れないかの距離を保ったまま、指を中央に。
「・・・ゃ」
小さく、それでも聴こえた微かなお声に満足をする。半ばで留まっていた一葉を捕まえ、引き出すついでに中指で背骨を数えて。
「・・・んっ」
懸命に堪えられる様が愛しい。痛くきつく立てられる爪。指を、傷められなければ良いけれど。
「取れましたよ、カナン様」
「・・・っ」
上気したお顔に映える程の涙目で睨まれるが、此れには邪気の無い笑顔をお返しする。
小狡く、知らない振りをして。
取り出したのは、鮮やかなまでに色づいた紅葉。綺麗なグラデーションに、拍子抜けしたようにカナン様の潤んだ蒼眼が瞬く。
無意識にか、伸ばされる指先をふいと避けて。
其の侭、軽く唇に付けてから風に逃がした。
瞬時に悟られたのか、益々と赤くなるお顔をそっと掬い上げる。
「・・・此処にも、紅葉が」