早暁、この季節ともなると流石に冷えて、セレストは腕の中の温もりを守るように上掛けを引き上げた。
僅に身動いだ柔らかなひとは、暖かい処を探すようにして鼻先を押し込み熟睡している。すこし腫れた目蓋に掛かった金糸を解くようにして掻き上げてやると、額の生え際の産毛は未だ残る幼さの象徴のようで、胸が甘く痛んだ。
こんな、ともすれば壊れてしまいそうな身体を持つこのひとに、いつも無体を強いている自覚がセレストには有る。
痛みと快楽に耐え、泣いて泣いて酷い有様になってゆくのをこの目で見ておきながら、どうしても自制することが出来ないのは、その艶麗さ故か、それでも決して拒もうとはしないひとへの愛しさ故か。
くたりと力の抜けた首筋の動脈に、かなり濃い鬱血の痕が残っている。あのとき、この白い喉首を喰い破りそうになる衝動を辛うじて堪えた。そっと指先をあてる。
もし、そうしていたらこのひとは、すべての時を止めて何もかも自分のものと成っただろうか。
永劫に消えない罪を負うこととなろうとも、それは甘美な誘惑であった。同時に、この存在が失われることへの想像を絶する恐怖がセレストを苛む。
ふいに視界が緩んで、温もりを奪うようにして抱き締めた。込み上がるものを全部、腕の中のひとへ押し付けるように、強く。
暴走する欲望は、むずかる子供の感情にも似て。絶対に手に入らないものを欲しがって駄々を捏ねるように。
「う、・・・ん、・・・セレ、どした・・・?」
まどろみを阻まれて、苦しげに吐息を漏らしたひとが掠れた声を出した。
その声も息も、すべてが惜しくなって半ば呑み込むようにして口付けた。未だ眠りの領域に居る唇が、とろとろと甘さを含んで想いを返してくる。
「・・・っ」
眉間が寄った。苦しいのだろう。それ以上無理をする気も起きなくてそっと解放してやると、曙光に透ける蒼眼が薄らと姿を現した。
けれど、ふう、とそれはすぐに閉じられて。
何を思う間もなく、頭ごと抱き寄せられた。
「?・・・」
「こわい・・・、夢でも見たか?」
「・・・は?」
髪の中に細い指が差し入れられて。
「ン・・・よしよし」
ちゅ、ちゅ、と頭にキスを落とされる。顔が熱るのが判った。
「カ、カナン、さま」
「もうちょっと、寝てろ・・・此処に居るか、・・・ら・・・」
そう言ったきり、また継続する規則正しい呼吸と、放しては貰えない、頭。
それこそ子供のような扱いだけれど、少しの驚きが去れば後は暖かい愛しさが微笑みとなって湧く。
さらりと滑らかな胸肌に寄り添って、恋人の体温を匂う。
もう少し、子供のままで甘やかされるのも良いかもしれない。
完全に夜が明けるまでには、まだ暫くあるから。