intermission.〜a fragrant orange-colored olive〜


「なあセレスト、」
「何でしょう」
「チューしよう」

 がつ、と歪な音が聞こえて目を遣ると、壁に頭を打ち付けてめり込んでいる様子が見て取れた。
「おお、痛そうだな」
「誰の所為だとお思いですかっ」
「ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ひょっとして僕か」
「当たり前ですっ!!」
 そんなに変なことを言った積もりは無いのだが、大真面目にそう言うとあわわだかひわわだかよくわからない音声を発した後、絶句する。いちいちとそれに付き合ってもいられないので軽く無視を決め込み、つるつるとレエスのカーテンを引いた。
「か、か、カナン様、カナン様」
「何だ」
 背後で慌てたようにおろおろと狼狽えるのに向き直ると、湯気が出る程染まった顔で困憊しているようだ。とことこと寄る。完全に腰が引けてしまっている彼の前で立ち止まる。見上げると困・惑、とその額に書いてある。
「あの・・・あの・・・」
「よし準備は良いぞ」
「いやそうじゃなくてですね」
「?」
「理由を・・・お伺いしても良いですか?」
「チューするのに理由も何も」
「チューとか言わないで下さい」
「じゃ接吻か」
「いえ問題はそこでなく」
 頑迷に踏み止まろうとするその態度に思わずむっとして「嫌なのか」と訊く。つい口先が尖ってしまいこれでは子供のような拗ね方だ、と気付いたけれど。
「嫌なわけではなくてですね」
「じゃ良いじゃないか」
 とりあえず、子供の無邪気さを装っておく。
「よよよ良くないです」
「まあ堅いことを言うな」
 そう言って両手を出すと、向こうも仕方なさそうに手の平を上に差し出してきた。ほいと預けるとぽんと良い音がする。きゅ、と握ると何だか何かの儀式のようで、少しどきどきとした。
「儀式なら、間に小川があれば完璧なんだがな」
「私がダイアナなんですか」
 両手を繋いで向き合い言うと、そう返してくる。さてはこいつもあの名作を読んだくちか。しかも配役に不満が有るらしい。
 だがしかし生憎と、これは親友の絆を結ぶ儀式ではない。

 負けを認めたように彼が溜め息を吐き・・・、すいと顔寄せ眉間に口付けてくる。目は閉じずにそのままじっと見詰めると、自嘲するように苦く笑って、そっとくちびるを合わせてきた。2度3度と啄んで、恥ずかしそうに項垂れる。

「ふふ」
「まったくもー・・・何でいきなり・・・」
「んーいや実は金木犀がな」
「は?」
 薫るのだ。

 窓を開けていると、ぱらぱらとした葉擦れに乗って金木犀が薫る。露台に出ても見える場所に樹はないのに、すぐ傍にあるが如く、馥郁とした甘さにどきりとすることがある。
 橙色の小さな花、あのひとつひとつに何処から此程つよく薫る力があるのか、いつも不思議に思うのだけれど。嬉しさと憧れと切なさと、気恥ずかしいまでの清純さと、微かに何かを誘うような艶やかさ、そんな香り。

 それはまるで恋のようではないだろうか。

「・・・で、ついムラっとな」
「そのような下品な物言いをなさるものではありません!」
「うーん、じゃあお前はこの香りに何を思うというんだ」
 今もこんなに甘く薫るのに。何もないなどとは言わせない。
「・・・」
「何だ?」
 言葉を失ったらしいセレストの、容の良い唇を怪訝に見詰めると
「〜〜〜っ」
 更に血の気を上らせて絶句する。
「セレスト」
 いいから言え、と繋いだ両手に力を込めて、促した。
 自分のものよりひとまわり大きな掌と、かちりとした長い指。
「・・・金木犀は・・・」
 伏せられる翡翠。少し長めの前髪が瞼に落ちかかる。
「うむ」
 その優しげな風貌に、何処か男っぽい影を湛えた頬骨の線。俯いて。
「金木犀は・・・カナン様を想うときの感じによく、似てます」
「うわ、恥ずかしっ」
「貴方が言えと仰ったんですっ!」





















うわ、恥ずかしい。

というか、こんなのもアリかな、と思って書いたものですが
私が恥ずかしいだけでした。(堂々)

ちなみにアンオヴグリーンゲイブルズは私の乙女バイブルです。
先月はコンビニ弁当食いまくって皿貰いまくりました。
(…アホだ)
20031005.yuz

<BGM:パンと蜜をめしあがれ/clammbon>