asymmetry.


 糸が切れたように落ちてくる体躯を受け止めた。圧し掛かる、というよりは抱くようにして接着される重さを悦びの残滓の中、噎せないよう注意して息を継ぎながら、労うように腕を廻したまま髪を梳いてやる。
「カナンさま・・・ご無事ですか?」
 耳朶に直接吹き込まれる低い声に、軽く吐息が零れた。たぶん、同じ熱が彼にも届いていることだろう。

「うん、・・・大丈・・・、・・・重、・・・」
 小さく消える寸前で発せられた語尾に慌ててすすすみませんと身体を浮かせようとするのを、カナンは腕に残るわずかな力で引き留める。
「いいから。このまま・・・、どうせ、もう一回・・・、するんだろう」
「・・・すみません」
「謝るな、馬鹿者」
 苦笑する相手に甘えを紛らわして不貞腐れを装うけれど、これもたぶん、彼には見抜かれてしまっていると思う。求められていると知るのは、実はそう悪い感じではないのだ。それに、一度離れてしまうと今の状態を見ずにはいられなくなる。
 乱されたシーツ、肢を広げて受け入れた体勢、濡れてしまった何もかも。
           直視するには余りにも忍びないそれら。


 下手に離れて恥ずかしい思いをするよりは、このままでいた方がまだいいと思う。抱えた頭に頬を寄せて、でも少し休ませろと言うと、耳まで赤くした恋人があー、とかそのー、とか口篭った。
「何だ」
「あの、・・・このままで?」
「そうだが」
「・・・」
「何か不都合があるか?」
「・・・イエ」
 情けなさそうに眉尻を下げて肩口に突っ伏してくる男の髪を、また手櫛で梳いてやる。癖っ気の強い髪は見掛けよりずっと柔らかで、指に心地が良い。息を整える。悪戯に首と肩の境の辺りを噛まれたので、くすぐったいやめろと笑って髪を引っ張った。
「もう、落ち着かれましたか?」
 問うてくる声に首を振り、両手を彼の背中で組む。
「ん、まだだ」
「・・・」
「なあ」
「何ですか?」
「僕は、・・・その、」
「?」
 これを問うのは少し・・・いやかなり恥ずかしいが、今のこんな状態では恥も何も無い。

「う、上手く・・・出来ているんだろうか?」
「・・・は?」
 意味が解らないといった風に、首筋に埋まっていたセレストの顔が上げられる。まじまじと見詰められて、気まずく視線を逸らすと、漸く意味を悟ったらしく。
「な、何てことを仰るんですかっ!?」
「あ、いや、その・・・気になってだな」
「何を、いやあの、か、カナン様っ」
 ・・・恥ずかしさが増しただけだった。

「う、いや、今のは無しだ」
「〜〜〜っ」
 狼狽えて発言を撤回すると、勘弁して下さいと脱力したように抱き締められる。
 ふう、と溜息が首筋にあたって、これも擽ったい。くつくつと笑うと額に掛かった髪を掻き分けてキスをされた。お返しにその顎へ少しつよく噛み付いてやる。いたた、とこれも笑ってセレストは軽く目を合わせた後、またくちづける。唇に。

 すぐに深くなりかける口吻けを敢えて拒否し、顔の位置をずらして相手の頭を抱き締めた。まだもう少し。こうしているのは、とても心地が良いのだ。


 通常、カナンが接することの出来るセレストはその殆どの成分を従者とか近衛騎士とか勤務中とか唐変木とか、そういったもので構成されている。故に、それら全て無くして触れ合える機会というのは極端に少ない。普段はこんな建前を取り払った感情を表に出すことのない相手だから、今みたいに何の臆面もなく唇をつけ合ったり抱き締められたり、指を繋いだり、他愛のない行為はそれだけで安心するし、何より嬉しいのだ。

 だからきっと、自分の方が強い感情で相手を想っているとカナンは思う。それに関しては絶対勝っていると思っている。物量の量りようがない一方的で仕様も無い勝ち負けだとは思うけれど、年下だったりいつまでも背を追い越せなかったり剣術ではたぶん一生敵わないし大人だし、一方的で仕様も無いことにいつも負けているから、これくらい勝っておかないと溜飲が下がらない。「負けないからな」と独りごちると、鈍い彼が「何にですか?」と問うてきた。

「む、ひみつだ」
「カナン様わけがわかりません」
「わ、わからんでいいっ」

 何故だか顔に血が上るのを止められない。笑う気配に顔を向けると、更に熱の上がりそうな表情で見詰められていて息を呑んだ。今更ながら、身の内に在るセレストの体温を強く覚える。
 その温度差が、薄らぎかかっていた羞恥に火を点した。ひく、と無防備に晒していた太股が揺れる。

 こんな瞬間に惨めなほど自分の中の、何かの負けを自覚してしまうのだ。

「カナン様・・・」
「ばっ・・・」
「・・・ば?」
思わず。
「馬鹿者可愛い言うなー!」
「ぶっ・・・!い、言ってませんっ」

 恥ずかしさにまかせて闇雲に繰り出したちょっぷが、見事彼の顔面に命中する。
「今!今言おうとした!」
「いや確かにそうですが!でも!まだ」
「やっぱり!!」
 額を押さえて涙目になったセレストを下から睨み上げた。可愛い、と言われる度に恥ずかしい。否応もなく気持ちを攫う言葉だ、それは。
 鼓動が引き上げられる。唇を噛む。うーと唸る。もう、本当にやめて欲しい。


 それなのに蕩けそうな笑みをその面に刷いて、セレストは狡いことを言うのだ。
 少しだけ、困ったように眉を寄せる表情がまた狡い。

「・・・お嫌ですか?」
「・・・っ」
 手刀で痛めた指先を捕らわれ、口寄せられる。伝導わる熱にどうしようもなくなって、追い詰められるように正直な感情を認めざるを得なくなった。



 気持ちの強さでは勝っている筈なのに、それに対するこの敗北感は一体、何だ。















これ読んだなつめはんに「汗でた」と言われました(笑)
どうだ恥ずかしいだろう!
オレも恥ずかしいのさ!
(只今羞恥プレイキャンペーン開催中)

萌え、というよりは…絶対自分の方が強く好き、みたいな漢の意地を。
なのに何だかそれが悔しい受の可愛さを。
それから閨房を覗き見ているような居心地の悪さを(笑)

表に出せるエチ話をと試したつもりが、身も蓋もないシチュエーションの割に
あんまりエチくならなくて無念です。
もっとこう、直接的な表現なしに匂い立つような雰囲気の、そんなのがええですなあ。
20040220.yuz

<BGM:アシンメトリー/スガシカオ>
"だから何度も 君のその手を確かめる"