第一王子リグナムに従ってヒライナガオへ赴き、久しぶりに第二王子カナンとその従者であるセレストの姿を目にした時、近衛騎士隊長アルネスト・ボーフォートはふと気が付いた。
第二王子はともかくとして、その傍に控える己の部下。一見線の細い体躯に優しげな風貌、とてもあの騎士団長の血を引いているとは思えない腰の低さと押しの弱さ。・・・しかし騎士としての格が見た目を裏切ることはままあることだ。相応しくない者に副官の地位を与える程、自分は甘くはない。
がしかし今、見る者が見ればすぐに判る、その身に宿す覇気の薄さ。
(おやおや)
またか、と顔にはまったく出さないものの半ば呆れつつ心の内で苦笑する。
国で二番目と言われる使い手だった筈の彼が見た目通りといえば悪いかもしれないが、吹けば飛ぶようなレベルにまで落ちている。以前にも確かあったことだ。きっとまたこの無体な第二王子に悪戯をされて、レベルが下がったのだろう。困ったものである。
あれから約二ヶ月が経過して、旅立つ直前には元のレベルにまで戻していた筈だ。それこそ人目を避け、時間を惜しんで文字通りの血と汗と涙の鍛錬の成果、それは何もかも第二王子付きの職務から外されたくはない一心からだったのだろうとアルネストは推測する。そもそも第二王子カナンという人物が他の者には扱いかねて手に余る、ある意味"難しい"人物であるが故に、セレストの任を解くという考えはまったく持ってはいなかったのだが、そこは彼の矜持が許さなかったらしい。
その甲斐あってかアルネストの目にはセレストのレベルそのものよりも、ひとまわり大きな精神面での成長が認められた。
そうしてやっとのことで元のレベルを取り戻し、身も心も晴れて第二王子の従者兼護衛として意気揚揚任務についたその途端のレベルダウン。それが当の第二王子から齎されたものらしいことが、彼等の右手薬指に嵌められた揃いの指輪から見て取れた。
(・・・なるほど)
アイテムや装備品などの造詣に深い近衛隊長には、それが何であるのかが一目で解る。セレストが自ら進んでそんなものを身に付ける筈はないから、さては寝込みでも襲われたか。
何にせよ、油断をしていたものだ。・・・尤も、自分が護るべき主君からそんなものを付けられる羽目になるとは、通常ではありえないが。まさかと思い気を抜いたことが仇となったのか、憐れといえば憐れ、間抜けといえば間抜けである。
彼の上役としては厳しく叱責するべきところなのかもしれない。が、少し考えて止めておくことにした。前回の事例を踏まえて彼の更なる成長が望めるならば願ってもないことではあるし、何より。
(ふむ)
目の前で繰り広げられているグループ漫才を眺めつつ、アルネストは密かに肯いた。彼、いや、彼等なら大丈夫だろうという気が無性にする。理由はない。けれど、何やら力任せに納得させられてしまう雰囲気を持っているのだ、この主従は。
陽光にきらきらと金糸を遊ばせて兄王子に笑いかける弟王子、兄弟とはいえ外見に似たところはあまりないが、どこか芯の強さに共通したものを持っている。
それに惹かれた自分が第一王子に心から誓った忠誠、そして何に替えてもこのひとを護るという決意、・・・同じものをセレストもこの第二王子に対し持っていることだろう。
リグナムが自分を深く信頼してくれているようにカナンもまた、腰が低くて押しが弱くていつも主に振りまわされていて、でもまっすぐに物事を見詰めることの出来るこの青年を、心から信頼していることだろう。
暖かな思いが胸に湧く。彼等ならきっと大丈夫だ。
口元に浮かぶ微笑みを今度は消さないまま、アルネストはひとときの麗らかさを堪能する。
季節は初夏。
ヒライナガオは緑の盛りを迎えていた。