green wizard."agony"


 いっそのこと、大声で喚いてこの部屋の中のものすべて打ち壊して、そう出来ればどんなにか楽だろう。
そして言うのだ、自分が行くと。
何もお前が背負うことはないのだと。
 その為に己は生まれてきた筈だ、第一子として。それが王家の定まりであるのなら、いずれは国を継ぐべき自分が表に立ち、国を護るのが役目なのだから。
 その為の人生、そして、・・・幻獣。


 7年前のあのとき、ちいさな両手をいっぱいに広げて自分を救ってくれたカナンが今度もまた、自分だけでなく、更にはこの世界の何もかもを救おうとしている。
 彼等を送り出した後、何故、とリグナムは頭を垂れる。答えは出ない。あまりの出来事に脳が思考を拒否しているようだ。それでもただひとつ、ずきずきと突き刺すような痛みを伴い浮かぶ疑問を口にしないではいられなかった。
          何故、先に生まれただけの私が・・・!」
 苦渋にまみれ、吐かれた声にローウェルがはっとしたように顔を上げる。
「・・・リグナム」

 それはまったく、あの時と同じ懊悩だった。
 何故、先に生まれただけの自分が幻獣を使う能力を持たされ、あれほどに始祖を敬い憧れる第二王子が、他愛のない夢を見るだけで罪悪感を持たなければならないのだろう。
 何故それがいけないことなんだろう。伝説の勇者に憧れる、子供ならあたりまえに持っていい感情だ。王家の第二王子としての出生、それだけのことがこんな小さな子供の夢に影を落とす。リグナムにはそれが一番許せないことだった。
 国を継ぐことに疑問や不満はない。そのように教育を受け、自覚を育てて父王の背に倣って生きて来た。家族を守り、国を護り導く、それが自分の宿命だと常に高みを見つめて精進を重ねてきた筈だ。
 それなのに何故国を継ぐ自分は後衛に護られ、何の特権も責任も持たされていない第二王子が、ただ始祖ルーシャスの血を引くというだけで前線に送り出されるというのか。ひどい矛盾を感じずにはいられない。
 矢面に立つべきは自分ではないのか。

"ここで今、お覚悟ができていないのは貴方だけです"

 しずかな眼をして、そう言ったアルネストを初めてリグナムは憎んだ。
 覚悟?何の覚悟だというのだ。そんなもの知らない。知りたくもない。
 ぎり、と握る拳がてのひらを傷付ける。
「リグナム、待て。手が     
 慌てたように手首を掴むローウェルをも振り払う。
「な、・・・にが第一王子だ・・・!こんな時に、のうのうと安全を保障されて胡坐をかく人間で居たいわけではない!」
「リグナム様」
「リグナム」
 痛ましげに気遣われる、その気配でさえ拒むようにリグナムは身を屈めた。
「違う、違うんだ。国の為にだとか、王子の立場だとかそんな事ではないんだ」


兄上、と嬉しそうに笑って駆け寄ってくるカナンの、日向のような温もり。
風に遊ばれる金糸の髪、明るい空色の瞳。
      自分が病に倒れたあの時、本当はカナンが助けてくれたのだと知っている。
 ウルネリスの一翼が滅ぼされる前。意識の定かでなかったあの時、カナンを傷付けてしまったらしいことも。

あにうえ、と懸命な眼差しで風船草を差し出した、あの日の幼けない小さな両の手。
今度は、今度こそは自分が守らねば、そう思っていた。
それなのに。

「私は、ただ一人の弟を、・・・この手で     !」
 まるで命じるように、危険を承知で送り出した。
 兵を集める時間さえ無く、たった二人で。


 腑を抉るようにして絞り出されたリグナムの声に、ローウェルはただ立ち尽くすしかない。しかしアルネストは毅然とした応えを返した。
「リグナム様、御心中は察しますがまずは貴方の為すべきことを」
「・・・っ」
「カナン様は、ウルネリス征伐をご自身の為すべきこととして出立されました。他の誰に強制されたものでなく、あの方がご自身で決められたことです。私は、カナン様のご決断を尊いものと考えます」
 勿論ルーシャスの血を引く者として、そして第二王子としての決断でもあるだろう。しかし何より、カナンが自分で何らかの責任を負って決めたことなら、それは誰が押し付けたものではない。
「貴方は第一王子として、カナン様のお働きに恥じない支援を此処で行わなくてはなりません」
「・・・」

 きっぱりと自分が行くべきだと言い放った弟。いつの間にか庇護の柵を越え、地を踏みしめて立つ。まっすぐに前を見詰めて。
「私は、支援を・・・カナンの・・・」
 漸う落ち着きを取り戻しつつあるリグナムに、アルネストはやっと微笑んで、僅かに首肯した。
「そう。弟君が頑張っているのなら、お兄ちゃんは精一杯応援して差し上げなければ」
 洒落っ気のないと思っていた近衛隊長の珍しい言葉に、くすりと吹き出してリグナムも肯く。
「そうだな。・・・すまなかった、二人共。子供のような取り乱し方をしてしまった」
「・・・いいえ。それが、人間として当たり前のことです」
「とにかく付近の住民の避難だな。後は国へ知らせを走らせて・・・」
「だがまずはその手の傷を、リグナム」
 リグナムが自ら傷付けた掌を、ほっとしたようにローウェルが手当てを施す。
 その前をアルネストはかつかつと歩き、閉ざされていた窓を開け放った。

 まるで何事もないように輝く東の空。遠くの地平まで続く切れ切れの雄大雲が、光と影を形作って風の道を見せている。

(・・・頼む)
 軽い自己嫌悪と共にそう念じる相手は今、赤王号の手綱を握っている。代わりに行けるものなら、一瞬でもそう思ってしまった自分はリグナムのことを言えた義理ではないのだ。

 だから、祈る。信じる。それが今自分に出来る精一杯なら、直向なまでに。
 あの身も心も宝石色をした王子と、真っ直ぐな性根の清廉な己の部下を。


「・・・よし、有難う。     行こうか」
     はい」

 手当ての済んだリグナムに応えて、アルネストは踵を返す。
 白い外套が翻り、彼等はその部屋を後にした。















ぐわ、すみません
セレカナサイトなのにセレもカナも出てこないものを書いてしまいました;
ごめんなさいぃ_| ̄|○
べつに隊長を書きたかったからとか、そんなヨコシマな心は
これっぱかししか持っておりませんっ
(持っとるんやないけ)

お兄ちゃんなリグナム様は、書いてて嬉しいです。
ローウェル氏も隊長も、ある意味お兄ちゃんだなあと思うのです。
今回お兄ちゃんだらけで楽しかったですが、喋らせるの大変・・・(="=;)
20040711.yuz

<BGM:Ask DNA/SEATBELTS>