love drunk.


 人は何故、酒に酔うと気が大きくなるのだろうか。そしてその場合、先に酔った者の勝ちとはよく言ったものである。

 でろんでろんに酔った同僚を半ば引き摺るようにして帰って来たら、折角のほろ酔い気分も覚めてしまった。ああんセレっちもう帰っちゃうのーもうちょっと飲もうよおーお互い独身貴族の身分を祝ってさああとか言ういい年した男を引っぺがし、いいからお前もう寝ろ明日も仕事だぞと寮の部屋へ押し込めたのは午前をとうに回り過ぎた頃。やれやれと無性に疲れ、撚れた衣服を直す気力も無いまま自室の扉を開けると金彩の笑顔に迎えられた。

「やあ、おかえり」
「・・・もう今更何を申し上げても聞いては下さらないの承知で敢えて申し上げますがこんな夜更けに何故に貴方は」
「おかえり」
「・・・っ、・・・た、だいま戻りました」
「うむ」
 にこ、と笑まれる表情に勝てる自分でないことを、尚更に承知させられてしまう。
 己の敗北に凹む従者へとことこと王子は歩み、「飲みに行っていたのか」と言った。
「あ、はい。実は同僚の結婚が決まりまして」
「なんと。めでたい」
「それで、前祝に少し・・・すみません」
「何を謝るんだ、めでたい事なのに」
「いえ、こんな、カナン様の前で」
 恥じるように口元を覆うセレストに、カナンは笑う。
「今は僕が勝手にお前の処へ顔を出しただけの事だろう。それに友人の寿ぎに酔える程祝えなくてどうするんだ、その友人へも良い祝いをしてやれたじゃないか」
 清々しく言う様が、セレストにとっては何より眩しい。しかし。
「いえ、その、当の本人は今日出向で」
「む?」
「本人抜きで祝おうという同僚たちと今夜はですね」
「なんと!主役も居ないままに宴を催したのか」
「あー・・・宴というか、要は残った独身者の集まりで自棄のような飲み会を」
「なるほど」
「で、何だか流れでずるずると・・・」
「2次会へか・・・よくある話だな」
「いえ、3次会にも」
「なんと!」
 驚いたように見開かれる蒼眼から逃れて下を向いた。先刻まではまるで平気だったのに、今になって酔いが回ってきた気がする。
 それは多分、このひととこんな夜更けに話をしている所為だ。部屋のささやかな灯火にさえ煌めく髪。湯上りなのだろうか、ふわふわと絶えず漂う花のような香。酔いとは無縁の、澄んだ声。動悸が落ち着かなくて眩々する。更には、はたはたと小走りに離れて戻ってきたカナンの手に、水差しから注がれたグラスが乗っていて。

「お前、顔にぜんぜん出ないからわからんな。実はものすごく酔っ払っているだろう」
「そ、うなんでしょうか・・・」
 差し出されたグラスを受け取ったつもりで、カナンの手指ごと掴んでしまったことに気がついた。
「ぁ・・・っ」
 小さくあげられたカナンの声に、そのまま滑らかな硝子の縁に唇を付ける。

 人は何故、酔うと気が大きくなるのだろうか。
 酒に酔うというよりは、今のこの状況に酔いそうだ。
 静かに杯を傾けて水を飲む。ふる、と震えを伝える軟い手の温度が低い。随分と長い時間、自分を待っていてくれたのだろうか。伏せていた眼を上げて視線を合わせると、びくりと揺れた指先とは裏腹に、燃えるほど上気した顔でぷいと逸らされた。可愛いな、と思ったけれど、それを酔いに任せて言うのは勿体無い。
「・・・お前、・・・自棄になるにも程があるぞ」
「いえ、私は付き合いで行きましたので、自棄酒という訳では」
「?」
 グラスごとカナンの手指を捕まえたまま、セレストは言う。
「私には、ちゃんと恋人がいらっしゃいますから、まるっきり独身を嘆き祝う必要はない訳で・・・」
 そしてあははと照れ隠しに少し笑った。確かに酔ってなければこんな事、とてもじゃないが素面で言えるわけがない。まあいいやと思うのも酔いの所為だろう。もう少し、恋人の居る幸せに酔って一緒にいたい。

 言われた方は、その酔いが伝染ったように頭の中が霞む。
 そしてこの場合、先に酔った者の勝ちとはよく言ったものなのである。無闇矢鱈と頬が熱い。
 暫し言葉を失った後。馬鹿お前、と口篭り、カナンは薄い唇を噛んだ。


「馬鹿お前、・・・それじゃまるっきりプロポーズじゃないか」

 ことん、と水を振り撒きくすんだ音を立てて、絨毯の上にグラスが落ちた。




















・・・で素面に戻った時に羞恥の余りのたうちまわるんですな、青いのは。
・・・



そんな事より題名にLOVE☆ってつくの、恥ずかしいっス親分!!(≧≦)
中身の淡白さの割に、題名だけが濃いなあ。。。やだわ。
20041107.yuz

<BGM:星に願いを/つじあやの>
"切ない気持ちが溢れて来る夜は 星に想いを告げてしまおう"