trouble morning.


「やあおはようセレスト!良い朝だな」
「キャー!!」

 某考古学者よろしく、ばあん、と景気の良い音を立てて開け放たれた扉。絹を裂くような悲鳴が早朝の騎士団宿舎に響き渡った。

「む、何だその絶叫は。若い娘じゃあるまいし」
 リアクションが気に入らなかったのか、不満そうにふんぞり返る偉そうな闖入者。それは誰だと問うまでもない。
「何何何何なんですかカナンさまっ!いきなり・・・ってああっ!何ですかそのお忍びスタイルはっ」
 若い娘じゃないけどなんでか胸元を隠してしまうセレストである。隠しつつもカナンの服装を責める口調に、しかし当のカナンは悪びれもせず腕を組んだ。
「おお、着替え中だったのは謝る。しかし、僕とお前は何も知らない仲じゃむぐ・・・」
 言葉半ばのカナンの口を瞬即で塞いだのは、朝っぱらからの騒動に戸口へ騎士団の野次馬どもがどやどやと集まってきた所為だ。なんだなんだどうしたスゲー声がしたなオイ、あっ、セレっち裸。
「着替え中だ馬鹿!何でもない!」
と、カナンさ・・・
「あ、あ〜〜〜何もないない、ないから!ここに見えるのは幻だ!そうだそうに違いない」
「むぐむぐ」
 もがく王子の口を片手で塞いだまま半裸の騎士はえらく現実性のない事を言うが、それを聞いた野次馬たちは勘鋭く何かを悟ったらしい。
「・・・あっ、そうかー朝だもんなオレ寝惚けてんのかも」
「俺最近目が悪くてさー」
「朝からこんなところにカナン様がいらっしゃる訳ないもんなー」
「そうだなーカナン様の私服も見えてない見えてない。あ、セレっち俺ね今度ね休みが欲しんだわ」
「じゃオレは当直一回かな」
「副隊長、自分は食券がいいですっ」
「あーもうわかった、わかったよスマン恩に着る」
 これ以上多くの交換条件を出されては敵わないとばかりに、セレストは諸々の要求を呑んだ。彼等とは騎士団の中でも親しい付き合いがあり、セレストの従者職にまつわる労苦辛酸をよく知っている。第二王子はご無体だとか脱走するとか、倉庫からあやしいアイテムを引っ張り出しては従者を実験台にするとか王子なのにおやつにイカげそを出しても文句を言わないとか、その内容は噂も事実も交えて様々だ。というかほとんど事実だ。だからこそ、その第二王子が身分の差を介さずこんな処に現れたとしても、皆一様に見て見ぬふりをしてくれるのだが。
 ・・・これが騎士団長や近衛隊長だったりしたら、食券どころの話では済まない。自分ではない、いや当然年長者で従者たるセレストも叱責の対象となるが、本当に叱られるのはカナンの方だ。

 じゃあねー、とセレストに貸しを作り速やかに立ち去る野次馬ども。ご丁寧に扉まで閉めて行き、そうしてやっと止めていた息を吐き出すことが出来た。
「はー、もう、寿命が縮みましたよカナン様」
「ぶはー、僕はたった今寿命が尽きるところだったぞセレスト」
 鼻口を覆っていたセレストの手を外し、飄々と見上げてくる主君に渋面を作る。
「何仰ってるんですか。何のご用事か知りませんが、またお城を抜けだされようとしてもそうはいきませんよ」
「だから許可を貰ってきた」
「・・・      は?」
 続けようとした小言の息継ぎに、間髪いれずぺろりと言われたカナンの言葉。今、何と。
「ほら、許可証。兄上の有り難いご署名付きだぞ」
 ごそごそと上着のポケットから取り出され広げられた紙を、まじまじとセレストは見る。いや、見せられる。王家の紋章が透かしで入る公式なものに、間違えようもない麗筆にてリグナム・ルーキウスと。社会見学のため今日一日の城外への外出を許可すると共に、但し書きとしてセレストを同行させること、とある。よくよく見れば、書類の端がインクの沁みで少し汚れている。察するに、汚して使えなくなった書類へリグナムがサインを入れたものだろう。
 今日は外へ行きたいのですあにうえー、と両手を拳にして訴えるカナンと、やれやれ仕方ないねと苦笑しつつ戯れのように、しかしセレストという釘を刺すことは忘れずに書類を作ってやるリグナムという、仲睦まじい兄弟の様子が目に見えるようだ。

 これは、所謂"こども銀行"の紙幣と同じアレであろう。城の門卒とセレスト本人に向けてのみ、効力を発揮する。更によくよく見れば、隅の方に小さく「面倒をかけて済まないが宜しく」との私信まで丁寧に書かれているではないか。

「・・・・・・」
 セレストの顎が落ちる。
「さあセレスト、今日は隊服はなしだぞ!眼鏡はまだ持っているか?」
「か、・・・カナン様、このような許可証を頂くならもっと早く・・・」
 言ってくれれば、同僚たちに余計な借りを作らずとも良かった気がとてもするセレストである。
「何を言う、前もって言えばなんだかんだと反対するだろう、お前。こんなものはな、セレスト。敵を騙すにはまず味方から的なニュアンスで攻めてなんぼだ」
 ちちちと指を振るカナンにセレストは頭を抱えた。
「ていうか敵がどこに!」
「ニュアンスだ、ニュアンス」
 鼻歌でも歌いだしそうな機嫌の良さで、カナンは部屋のクロウゼットを引き開けた。これとこれを着て、と勝手に衣類を引っ張り出す。
「あああ人の箪笥を勝手に!お行儀が悪いです!」
「む」
 慌てて羽交い絞めにして留めると、羽交い絞めされたままのカナンに真下から見上げられた。くしゃりと後頭部の金糸が自分の胸元で撓む。その睫毛が触れるほど真蒼の瞳が近くなり、どきりとする。思わず息を止めた。
「・・・僕と行くのは嫌なのか」
 不平で尖らせた桜色の唇に、セレストは天を仰いで嘆息する。
 ・・・嫌ではないから困るのだ。


「・・・服は自分で選びますから」
「よし」
 悪戯な猫を逃がすようにカナンを放す。すると猫は逆に振り向いて、
「今日はデイト日和だな!」

 満面の笑顔で一日の始まりを告げた。




















苦労性の朝は少しの胃痛とオツリがくるようなしやわせと共に。
ちゅーはデイトの締め括りと相場が決まっておるのです。(そうか?)



しばらく潜ってごそごそと色々書いてましたが、久々にオンUPものを。
ってあああもう3月じゃないスか(-□-;)
ぱんつ祭りにウツツぬかしててスミマセン(笑)

そんで相変らず上達しない萌え文でスミマセン・・・_| ̄|○
UPする度に落ち込むよ・・・
20050305.yuz

<BGM:走れ走れ/遠藤響子>
"経験がすべてじゃない さぼっても減らないし"