ヴィーナス&ブレイブス〜魔女と女神と滅びの予言〜

これは、世界の危機に立ち向かった女神と、不老不死の男、そして名も無き勇者達の物語である。

そして、これは語られることのなかった物語である。



         ある日のフェルミナにて
  1065年 301日 山間の町 フェルミナ


アルヴィ「ふう・・・」


私は溜息をつくと、筆を置いた。
時計は15時を少し回っている。
私は席を立ち、市長の部屋がある庁舎の最上階の窓から、私の愛すべき町を見回してみた。


アルヴィ「良い風・・・」


窓から流れ込んでくる心地の良い風が、私の頬を優しく撫でていく。
気のせいだろうか。
一瞬、その風が「帰ってきたよ」と言った気がしたのだ。
実は今日、半年振りに彼らが帰ってくる日なのである。


アルヴィ「・・・迎えにいこうかしら」


私はそう呟くと、町の入り口の門へと向かう事にしたのだった。
 
 
 
  女の子「あ、市長様だ〜」
男の子「アルヴィ様、こんにちは〜」


町の中を歩いていると、見知った子供達が私に駆け寄ってくる。
時々、公務を抜け出して町の様子を見回っているうちに仲良くなったのだ。


アルヴィ「あら、元気にしてる?」


私はしゃがんで子供達の頭を優しく撫でる。
こんな平和な時間が、私は何より好きだ。


15年前、フェルミナは変わった。
当時のフェルミナは表向きは平和に見えていたが、実際は法によって全てが縛られ、町全体が汲々としていた。
そう、彼らが来るまでは・・・。


男の子「ねえ、アルヴィ様、さっき『騎士団』って人たちがこの町に着いたんだって。大人の人たちが話してたよ。『騎士団』ってなあに?」


彼らはやっぱり着いていたようだ。
あの風の声は、気のせいではなかったらしい。


アルヴィ「『騎士団』は・・・そうね、皆の勇気と希望、かしらね」
子供達「?」


そう、彼は私たちの勇気であり、希望。
世界を滅びの運命から救う・・・。
でも、それは決して特別な人たちがするわけじゃない。
不老不死の赤眼の団長を支えている人たちは、名のある勇者ではなく、ただの普通の人たちなのだから。


アルヴィ「あなた達にはまだわからないかもしれないけれど、大丈夫、いずれわかる日が来るから、ね」


私は笑顔でそう言うと、子供達に別れを告げる。
彼らを迎えに行きたい。
私は少し早足になって、町の門へと向かった。
 
 
 
  私が門へ辿り着くと、騎士団は丁度、休憩をとっている所だった。
私は、つい、彼の顔を捜してしまう。
いた。


アルヴィ「ス・・・」


私は、彼に呼びかけようとして、途中で止めてしまった。
何故なら、彼は見知らぬ若い女性と、何となく楽しそうに話をしていたからだ。
半年前に来た時には、確かいなかった団員だけど・・・。


ブラッド「よう、アルヴィじゃないか。わざわざ迎えに来てくれたのか?」


結局、私に気がついた団長のブラッドが、先に私へと声をかける。


アルヴィ「え、ええ。さっき着いたって聞いたから・・・」
ブラッド「市長直々の出迎えとは光栄だな。ま、スルギに会いたいからってのが本当の・・・」
アルヴィ「・・・ブラッド?その先を言ったら、フェルミナへの立ち入りを永久に許さないわよ?」
ブラッド「うっ・・・すまん」


と言いつつも、ブラッドの表情は笑顔だった。
この人は、初めて会った時から、本当に変わらない。
もう30年近く経つのに、出会ったままのその姿を見ると、彼が本当に不老不死なのだと、感じる事ができた。


スルギ 「アルヴィ殿、久方ぶりでござる」


私がブラッドと軽口を叩いていると、それに気がついたスルギがやってきた。
隣には、先ほどの若い女性がいる。
見た目から察するに、聖騎士かしら?


アルヴィ「元気そうね、スルギ」


私は、元気そうなスルギの姿を間近で見ると、それ以上の言葉が出なくなってしまった。
色々話したい事もあったはずなのに。
スルギも、元々無口なので、結局そこで会話が一旦止まってしまった。


ブラッド「そうだ、アルヴィにも紹介しておこう。彼女は今度、新しく入団したレイスだ。レイス、彼女はこのフェルミナの市長アルヴィだ」


そんな私たちの間に、絶妙のタイミングでブラッドが話しかけてくれる。
ブラッドはスルギの隣にいた女性を紹介してくれた。


レイス 「聖騎士のレイス・メルヴァイクと申します。縁あって騎士団に入団いたしました。以後、お見知りおきを」
アルヴィ「フェルミナの市長アルヴィ・ヴォルレードよ。よろしくね、レイス」


レイス・メルヴァイクと名乗った聖騎士は、礼に則って深い一礼をしながら挨拶をする。
まだ若く見えるけど、外見といい、立ち居振る舞いといい、とても聖騎士らしい聖騎士ね。


アルヴィ「この調子だと、騎士団は安泰そうね、ブラッド」
ブラッド「ああ」


ブラッドは笑顔でそう答える。
1099年の大災厄まで彼らの戦いは、まだ30年以上続いていく。
恐らく、その結末を私やスルギは見ることは出来ないだろう。
でも、今のブラッドの笑顔を見ていると、結末は見なくてもわかる気がする。
彼らは勝つだろう、いや、絶対に勝つ。
勝って、予言からこの世を解き放つ。
根拠は全然無いけれど、私は、心からそう思ったのだった。


アルヴィ「今日は、ささやかだけど、宴の用意をしているわ。騎士団全員で楽しんでいってね。そのくらいの余裕はあるわよね、ブラッド?」
ブラッド「ああ、もちろん。すまないな、アルヴィ、気を使ってもらって」
アルヴィ「気にしなくていいわ。私に遠慮は無用よ」
スルギ 「かたじけない」
アルヴィ「全く、スルギの生真面目な所も変わらないわね・・・。さ、行きましょ」
スルギ 「ア、アルヴィ殿・・・」


私はそう言うとスルギの手をつかんで歩き出す。
いきなりの事に、スルギは顔を真っ赤にして慌てている。
ほんと、スルギは小さい頃から変わっていない。
ブラッドとは違い、私たちは見た目や容姿は変わっていくけれど、あの頃から中身は変わっていないのだ。
そんな嬉しい事実に気がついた私は、スルギにだけ聞こえる声でこう言ったのだった。
満面の笑みで。


アルヴィ「お帰りなさい、スルギ」