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| 2005/07/31 『クジラの歌ハチの地図― 動物たちの心と意識 』J・モーテンソン(岩波書店) 動物は考えることがあるのか。さまざまな動物の複雑で知的な行動をさぐりながら、 諸科学の最新の成果にもとづいて、動物には心や意識がないとする従来の信仰に挑戦して、 人間自身の心や意識についての謎にせまる タコが発する不思議な信号。ガラガラ蛇の眼に映る光景。 クジラの歌のメッセージ。シギやチドリの優雅な防衛反応。 石や水の流れにも意識が在ると誰が想像しようか。 現実は脳の創造物であり、われわれが持っている感覚器官から様々に入ってくる大量 の情報を処理することによりできる世界のひとつの雛形である。 脳は相似模型をこしらえあげる肉体の装置なのか。 2005/07/24 『クライム・ウェイヴ 』 ジェイムズ・エルロイ (文春文庫) 原題 White Jazz (1999) 徹底的にイカれた中篇小説、彼にしか書けぬ異形の犯罪実話、そして驚くほどノスタル ジックなエッセイまで―文学界の狂犬、大暴れ。 最高に狂った新文体を開発、最高にイカレた物語を爆走させる中篇3本に加え、 鬼気迫る犯罪実話と感動のエッセイを収めた作品集。 サミー・デイヴィス・Jrを相棒に、LSDで錯乱するシナトラを道連れに、メキシコを 暴虐の渦と化すスキャンダル記者の悪行を史上最高に狂った極悪狂騒文体で描く中篇を はじめ小説3本、異常犯罪の深層に迫るルポ、LAをめぐる叙情的なエッセイまでを収録。 狂犬エルロイのCRAAAZYな才能の全てがここに! ◆日刊ゲンダイ書評 http://www.bookreview.ne.jp/book.asp?isbn=4167661934 James Ellroy:1948年ロサンジェルス生まれ。 10歳のとき母を何者かに殺害され、以降、犯罪者同然の荒んだ生活を送るも更生、 作家デビューを果たす。 ◆デイヴィッド・ピースのオフィシャルサイト http://www.hayakawa-online.co.jp/noir/noir1.html 2005/07/20 実験小説 『ぬ』浅暮 三文 (光文社文庫) 交通標識で見慣れたあの男の秘められた、そして恐ろしい私生活とは? 東京の荻窪にラーメンを食べに出かけた哲人プラトンを待っていた悲劇。 本の世界に迷い込み、生け贄となったあなたを襲う恐怖。 奇想天外、空前絶後の企みに満ちた作品の数々。 帯には「絶頂期の筒井康隆を彷佛させるアイディア」と記されている ◆浅暮三文の現状web http://asagure.fc2web.com/ 2005/07/7 『青い目の犬』ガルシア=マルケス(福武書店) 初期のガルシア=マルケスは、夢の中で出会う女性の話や、死者の側から見た世界の話など、 死や病を主題にした超現実的な作品を書いた11の短編。 抽象的なイメージでつくられた幻想的な物語が多く、詩情あふれた不思議な麻薬的エンドル フィン魅力が溢れやまない。 魔術的リアリズムの旗手として数々の作家に多大な影響を与えた「百年の孤独」。 その舞台となる架空の地マコンドが短編作品として、すでに本書にも登場して魅力ある設定 となっている。 鏡の壁をめぐらした家々が並ぶ村。そこで百年という運命づけられた時間の中で生きる家系 があった。 「今日は何曜日だ?」アウレリャーノが火曜日だと答えると、 ホセ・アルカディオ・ブエンディーアは 「わしもそう思っていた。ところが、急に気づいたんだ。今日も、昨日と同じように月曜だ ということにな」 翌日の水曜日、再び彼は仕事場に姿を現した。 「大変なことになったぞ。空を見ろ。太陽の照りつける音に耳をすましてみろ。昨日と、 その前の日と、少しも変わっちゃいないぞ。今日もやっぱり月曜日なんだ」 木曜日に、ひっかき回された畑のように情けない顔でまたもや仕事場に現れた彼は、 泣かんばかりの声で言った。 「時間をはかる機械が故障してしまったんだ!」 不死の命を手にいれた、メルキアデスと名乗るジプシーが、羊皮紙に書き写した百年という 運命づけられた時間の中で生きる。一族のものたちは、一度すんだものをまた最初からやり なおすという悪い癖があった。この場所に町を建てることに決めたのは、ある晩見た夢の ためだった。鏡の壁をめぐらした家々が立ち並ぶにぎやかな、マコンドと呼ばれる町。 時間というものはぐるぐる回転しているのだけなのだろうか、時間も事故か何かに当たって 割れ、部屋のなかに永久に破片を残していくということがあるのだろうか。 鏡の壁に映った時間の秘密を一族で百年かけて経験することになるという魔術的世界。 1982年ラテンアメリカでは4番目となるノーベル文学賞受賞。 「現実的なものと幻想的なものを結び合わせて、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する、 豊かな想像の世界」を創り出したことに受賞の理由があった。 ◆ガルシア・マルケスを活用事典 http://members.jcom.home.ne.jp/macondo/index.html ◆時間都市辞典 http://www.kajima.co.jp/gallery/chronopolis/list/list.html 2005/06/30 『魔法の国にて』アンリ・ミショー/小海永二訳(青土社) 現代人という捕われ人の日常を離れ、強靱な感性の羽に託して想像力の極限を遊泳する 散文詩画集。 「魔法の国」では物理的な世界の法則は機能を停止させ、魔法使いたちが直接的なやり方で 自然に働きかける。一方「ポドマ」では物事をなすすべよりも、物事を感じるすべを発達させ、 新しい種族を創り出すことを目指している。 この世には存在しない架空の国を旅して、風俗習慣や住む人たちのなどを調査した 架空旅行の見聞記である。 詩的想像力の極限に迫りつつ構築した夢と幻想の全領域、現実世界と超現実的世界を股にかけ た旅人はメスカリン試飲による詩的ドキュメントなどを試みた前人未到の巨人であった。 ◆言語表現では達成できない地平を墨や水彩や油絵具によって表出した作品展示 http://www11.ocn.ne.jp/~kanekoag/kaneko/2002/020221/mic-0202.html ◆「瀧口修造文庫」アンリ・ミショー関連 http://archive.tamabi.ac.jp/bunko/takiguchi/michauxlist.htm 2005/06/20 『築地のしきたり』小林 充 (日本放送出版協会) 今から300年以上前の江戸の町には、景気のいい場所が三つあった。 「日に千両 鼻の上下 臍の下」 これは寛文年間に作られた古川柳のひとつである。 鼻の上下は歌舞伎芝居に日本橋魚河岸、臍の下とくれば、いわずもがなの遊里吉原に 決まっている。これが当時殷賑をきわめたという三大消費経済の中心で、 文字どおり日に千両、合わせて三千両が動いた。 震災前の歌舞伎の隆盛を支えたのは魚河岸と色里の連中だった。“総見”と称して、 狂言に馴染みのない者たちも打ち揃って見物してくれたのである。が、真の芝居好きなど しょせん寥々たるもの。河岸の男衆も花柳界のあだっぽい姐さんたちもいつしか芝居小屋 から足が遠のき、ついにはカツドウに追われテレビに追われ、日に千両が落ちたという 往時の威勢は消え失せてしまった。 歌舞伎がだめ、吉原がだめとなれば、残りは“鼻の下”の魚河岸しかない。 近頃昔ほどの元気がなくなったとはいえ、水産物の取引高ではいまだに世界一。 日に2300トン、およそ20億の金が動く。 河岸の男衆は場内市場を時に“シマ”と呼ぶ。周囲を隅田川や築地川に囲まれていた頃の 名残だが、なるほど、今でもシマの中だけに通用する珍妙な符丁やしきたりがしぶとく 生き残っている。 シマという言葉には、外界とは違う“特異な世界”といった響きを感じさせるが、 より人間くさいシマの中から外界を眺めれば、どっちが特殊なシマの世界の住人なのか わからなくなる。それほどシマの内側は非文明的なるがゆえの朴直さに溢れ、対する シマの外側は魑魅魍魎が巣くう異界に思えてくる。(本書より) 2005/06/18 『恐怖』筒井康隆(文藝春秋) 文芸誌「文学界」に連載されていた頃に、ハードカバーじなくて文庫本で本作をまとめて 読みたいと思っていた。 念願かなってこの殺人事件小説の文春文庫をポッケに入れて面白く読了した。 地方都市で起きた文化人連続殺人。誰が殺されるのかとパニックに陥った作家の恐怖を 刻明に描く。犯人の狙いはどうやらそこに在住する14人の文化人たち。 犯人の狙いはいったい何なのか? 次はおれが殺されるのか?渦中の主人公の作家も、 次第に疑心暗鬼、半狂乱の精神状態に苛まれる。「そして誰もいなくなった」にそっくりの 夢をみたあたりから、狂気の吹く風穴がいたるところに開く。 推理小説のパロディも作中の作家へ意識させるあたりは、前衛的ヌーボロマンを彷佛させ る心理描写もぞくぞくする。 「恐怖」とは何なのかと重層的な構造で「笑い」とは紙一重の境界に実験小説を展開する。 初期の澁澤龍彦の小説ごとく奇妙な壊れ方を味わえた。 2005/06/15 『澁澤龍彦初期小説集』澁澤龍彦(河出書房新社文庫) サナトリウムから逃げ出した詩人と、恋人と金魚の幻想的な三角関係を描く「撲滅の賦」 をはじめ、昭和30年代に同人誌に発表された「エピクロスの肋骨」「錬金術的コント」 を含む、著者の初期小説集。 狼の子を宿す女の幻想を描いた「犬狼都市」のほか、両性具有の王と彫刻師が織りなす 古代ギリシャ奇譚「陽物神譚」、邪教の祭典や彷徨する幽霊船に拾われる3人の女と 赤子のドラマ、成仏できずさまよう亡霊に助けられる「マドンナの真珠」。 サド侯爵の監獄における幻想や未来都市を舞台とした思想日記、 著者唯一の推理小説ともいわれる「人形塚」など9編を収録。 たとえば自動人形だとか、複雑な装置のある時計だとか、噴水だとか、花火だとか、 オルゴールだとか、びっくり箱だとか、パノラマだとか……すべてこういった非実用的な 機械と玩具の合の子みたいな巧緻な品物には、なにかしら、正常に営まれるべきわたしたち の生産社会に対する、隠微な裏切りにも似た、ふしぎな欺瞞の快楽にわたしたちを誘い込む ものがあるであろう。それは芸術的感動ほどオーソドックスではなく、明らかにそれとは 別種のものであり、どちらかといえば、うしろめたい快楽に属すると言った方がよいかも しれない。またそれは、玩具に対する場合ほど、見る者が安心していてよいわけのものでは なく、虚をつかれること、驚かされること、恐怖せしめられることを期待しつつ、いわば、 精神にある種の装備をほどこすことを必要とするような種類の快楽であろう。 一般に、芸術家は「神の真似をする猿」だということになっている。しかりとすれば、 このように無益な、無気味な、しかも高度の技術を要求する精巧無比な品物の製作者には、 そもそも、どんな名称を与えたらよいものか。(「夢の宇宙誌」より) ◆澁澤龍彦の蒐集 http://www.kit.hi-ho.ne.jp/yuga/ http://homepage2.nifty.com/weird~/doraconia.htm http://www2.big.or.jp/~ogawa/html_j/draconia/index.shtml 2005/06/10 『ロートレアモン全集』 Lautr´eamont (著)石井 洋二郎 (翻訳) 筑摩書房 高度に凝縮された反逆と呪詛の叫びを残して24歳で夭折した詩人の 極限に紡がれたテクストを明晰な新訳である。 実証的伝記研究をふまえた註解を付した 672 頁に及ぶ翻訳の力技ともいえる大冊は圧巻。 同書はちくま文庫より『ロートレアモン全集 』石井 洋二郎 (翻訳) として、 註解を簡略して刊行されている。こちらは軽量だが充実した翻訳書。 ロートレアモンの作品はこれ一冊に全て収納されている。 2005/05/12 『古武術と身体 』 大宮 司朗 (原書房) 日本人の身体感覚を呼び起こす、秘技秘伝、究極の身体理論。 武術的身体の獲得は、心を自由に解き放つ極上の生き様となる妙術。 人体は宇宙の縮図であり小宇宙であるとよく言われます。 プラネタリュウム円形状の頭は「天」、方形である足は「地」を象るとされる。 毛髪が144万あまりであるのは蒼空の星であり、顔面にある耳と眼と鼻と口の「七つ穴」は 北斗七曜星にあたるという。そして、左の目は太陽、右の目は月にあたいし、鼻は山岳渓谷、 息は渓風であり、口は天と地の間の虚空、その気息は空虚の風で、声を出せば雷電となる。 五臓は、金(肺)火(心)木(肝)水(腎)土(脾)の五気五行にあたり、その活動は万物の生成を 意味する。血は海河の水であり、その循環は満潮と干潮で、一分間の脈拍72動は 年の七十二候であるということだ。 一日に 白血球を700億個、赤血球を毎日2000億個(世界人口の約40倍)造り出して、 人間の体はコントロール次第では百歳まで生きられるように設計されているそうだ。 体のミクロコスモスはいろいろと言われ続けてきたが、それを体感で現実のものとして どこまで認識できるかなのだと思う。 雨音を聞いて、ショパンの曲を連想するのも新しい詩を思いつくのも五体の五感が 開いていれば可能だ。耳を澄ましてその一つ一つを譜面に写し取ったり演奏したり、 色彩に変換してキャンバスに何処までも果てしなく描くこともできる。 「人間は小天地なり」 どうやら古武術の教えとは、身体のスポーツとは対極のように異なる認識のようです。 2005/05/10 『流刑の神々・精霊物語 』ハイネ(岩波文庫) キリスト教が仮借ない非寛容性をもってヨーロッパを席巻していったとき、 大陸古来の民間信仰はいかなる変容をしいられたか。 今から一世紀以上も前,歴史の暗部ともよぶべきこのテーマに早くも着目したハイネは、 これら二篇のエッセーでギリシアの神々と古代ゲルマンの民族神たちの「その後」を 限りない共感をこめて描いている。 「古代の自然信仰を悪魔への奉仕であると作りかえ、異教の勤行を魔術に作りかえること、 神々のトイフェル」その寛容の無さをもって古来の信仰を邪教として抹殺していった様相 を記す。日本の変革や寺社の統合にもかさなる。 ゲルマン民族と日本民族は、追いやれれた存在の様相の相似するものが多いのか、 本書は古来からあっていいい存在の迫害を再認識できるように高らかに歌いあげている。 詩人としてのハイネよりも遥かに切味が鋭い。 「世界のためになること」「地球を救うようにするには」「善いことへ人々を導いてゆきたい」 などという俯瞰視したエリート意識の御節介が、多くの迫害や大規模な死者たちや弾圧を もたらしてきたのは今も変わらない様式である。自分の身辺を慈しみに充たすことから行動し ないで「自分たちが善良で在り続けたいだけ」に災いを呼ぶ最凶の愚行である。 この最悪のパターンは歴史にも繰返しリピートされている。 新しい風も絶えず変革には在るべき要素だ。しかし何億という年月により築かれてきた根底に ある背骨を、皮膚とおなじような感覚で売り渡していいものなのか。それを新規していい部分 とともに勢いで流してはならないだろう。 コンビニの製品を一つ一つ点検してゆくと、人の不和や戦の元になる物質と食料が観測される だろう。コンビニは新しい現代の社務所として統合ネットワークを獲得して自然を制覇する勢 いだ。知らない間に多くの人がコンビニの信者にされている。 脈々と連なる時の中で、生物生命を大量消費する寛容の無さをもって、 いかにして偏執的なる「正義」の理念をかざして攻撃してしまう原理も言い換えれば 明確に記される名書は絶版にしてはならないと思う。現代人必読の一冊。 2005/05/8 『すべての幻はキンタナ・ローの海に消えた』 J・ティプトリー・ジュニア (早川書房 ) キンタナ・ローは実在のとてもふしぎな場所である。 ユカタン半島の長くのびた波の荒い東海岸に位置し、公式にはメキシコの一部だが、 心理的には違う。現在のキンタナ・ローの特異性は、西欧的、アメリカ的な生活様式の 洪水に埋もれようとしている。 ここかしこに見られるのは、マヤの一千年の文化を復興させたいという関心だ。 そして、表面下には、巨大な力を持つ潮流と、古い海流が流れている。 ここに記された物語の材料は、その大部分がかけ値なしの真実である。 残りの架空の部分については、それが四千年を経た声、キンタナ・ローで夜ごとのささやきと つぶやきをくりかえす声によって運ばれてきたものではないと、だれが断言できよう? (まえがきより) われわれはそれを殺すかもしれない。それとともにわれわれも死ぬ。 あの青年がいったとおり、われわれの血はそれの本質であり、われわれの血管のなかに流れている。 海と自然は、人間の手にかかっておとなしく死んでいったりしないかもしれない。 ひょっとすると、死そのものが、恐ろしい生命を備えて逆襲してくるかもしれない。 もっと機械的な破壊だけでなく。(本文より) ◆ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの紹介 http://ebby.hp.infoseek.co.jp/tiptree.htm ◆「ティプトリーこの3篇」―ふるさとの冷たさ http://web.kyoto-inet.or.jp/people/ray_fyk/review/tiptree.htm 2005/05/5 『Sex』全7巻 上條淳士(小学館) 完成度の高いイラストと鋭利なアート世界で描かれた長篇コミック。 純白の天使が舞い降りてくる空間に、危ないROCKの匂いがただようシャープさは絶妙なタッチで、 マンガだということを忘れてしまうほど美しい。 ジムジャームッシュの映画を想起させるクールな画面構成で、沖縄、横須賀、福生など米軍基地が ある街を舞台にして進む物語で1989年頃の特有の空気を見事に切り取っている。 作者の好きなストリートスライダースの音楽が、これほど似合う世界もないだろう。 上條淳士は少年サンデーに連載した『TO‐Y』という作品で一世風靡した。 音楽業界の舞台裏をト−イという特異なキャラクターでスタイリッシュに切り込み、 斬新なビジュアルとアングルでインディーズシーンを描くスト−リィ展開も衝撃的なものだった。 現実よりも新宿副都心部がリアルに表現された手法は、『Sex』では舞台をかえて受継がれた。 その方法はさらに研澄まされて隔週刊の連載ぎりぎり限界地点までゆく。 痛々しいまでの硬派なる創作行為は、連載不可能な曲面を迎えるほどまで突進むことになる。 原稿を加筆されていると長年ウワサされていた幻の『Sex』は、 12年のときを経て初めて完全単行本化された。12年ぶりのセックス。 ◆『Sex』の導入部がweb立読みできます。 http://www.youngsunday.com/rensai/first/pdf/sex.pdf 2005/05/1 『発狂した宇宙"What A Mad Universe!"』 フレドリック・ブラウン(早川書房) 本書は総天然色ハリウッド映画のような展開で、悪夢のような異世界がみかけてくる プロットも巧みで、多元宇宙と平行世界にひきこむというアイディアは 1948年に書かれたというのが驚異的だ。 「この発狂した世界はどうなっているのか」 自分の存在を認めてくれるらしい人工頭脳を探して土星へと宇宙飛行する。 ドぺル総統の肩の上に浮遊する球体のメッキ―は、予言者か神官のような存在で、 人々とテレパシィーで感応していた。目眩を感じながら精神をメッキ―に傾ける。 「無限数ノ宇宙ガ同時ニ存在シテイルワケダ。 ソノナカニハ、コノ宇宙モ、キミガ 住ンデイタ宇宙モフクマレル。 ドレモミナ同様ニ現実デアリ、 真実デモアル。 シ カシ、宇宙ノ無限性トハナニヲ意味スルカ、キミニハ考エラレルカネ?」 この世界の支配者ドぺルに似た人物をキース・ウィントンは思いだす。 「ツマリ、無限ノナカニハ、想像サレ得ルスベテノ宇宙ガ存在スルトイウコトダ。 タトエテイエバ、コレトマッタク同ジ場面ガ展開サレテイナガラ、 タダキミ--アルイハ キミニ相当スル人物--ノハイテイル靴ガ、 黒デナク茶色デアルヨウナ宇宙モ存在シテイル、 トイウワケダ。ソンナフウニ異ッタ組合ワセノ宇宙ガ無限ニアルノダ。 タトエバ、キミガ人差シ指ニカスリ傷ヲシテイル宇宙モアレバ、 キミノ額ニ紫色ノ角ガ 生エテイル宇宙モアルトイッタグアイデ--」 「サマザマノ宇宙ノナカニハ、はっくるべりー・ふぃんガ実在ノ人物デ、 まーく・ とうぇいんガ描写シタトオリノコトヲヤッテイル宇宙モアル。 実際ニハ無数ノ宇宙ガ アッテ、 はっくるべりー・ふぃんガ、 まーく・とうぇいんヲ描写シタカモシレヌ、 アリトアラユル型ヲ実行シテイルトイウワケダ。 ソノ差異ガ大キイカ小サイカハ別ニシテ、 トモカク、まーく・とうぇいんガアノ本ノナカデ書イタカモシレヌコトハ、 スベテ事実デアルトイウ可能性ヲモッテイルノダ」 宇宙空間が無限に在るとすれば、 SF少年のドッベルゲンガーの世界も、時間も平行して 無数に存在するということになるわけだ。そしてSF雑誌の編集者キース・ウィントンが、 心から望む世界もこの宇宙のどこかに。 多元宇宙をテーマとした作品に分類されるものでは、F.K.ディックの『宇宙の眼』や 『高い城の男』は多く読まれているかもしれない。小説としての完成度という視点から すると『高い城の男』が圧倒的に評価が高い。物語の核には「易」と「タオイズム」が 設定されていて、それらをパラレルワールドを絡めた発想には、現実が徐々に異化して いくさまを描く『発狂した宇宙』の影響が伺える。 2005/04/24 『アラビアの数学 -古代科学と近代科学のかけはし』 アリー・A・アル=ダッファ(サイエンス社) アラビアの数学は10進法をつくり出したインドの数学に影 響を受けていた. アラビアの数学の先史「代数の源流」をさかのぼれば、「エジプトの算法」「メソポタミアの 代数」を継承融合した「学」を創造した古代ギリシャの数学と哲学が浮かぶ. ギリシャ数学ではユークリッド原論に見られる「幾何学的代数」 の世界が展開された。 「幾何学が知性を啓発し、人間の精神を正しくするということは知られるべきである。 そのすべての証明は非常に明白で秩序立っている。 誤謬が幾何学の推論に入りこむのは不可能である。 なぜなら幾何学の推論は順序よく配列されて、幾何学の精神は誤謬に陥ることはない。 幾何学の方法は知性を獲得する。」 アラビア数学の集合のなかで零ほど大きな意義をもつ数字はない。 無の記号として在るが、実際には多くの意味をもっている。 1と10の間の見かけの違いはただの「0」だけであるが、この円は数概念の刷新といえる。 0は9個の基本数字を組合わせると、無限にかわる多くの数をつくりだす。 月の満ち欠け、天体の惑星運行、暦、 占、航海など世界を認識する概念への道を開いた。 2005/04/10 『潮風のルフラン』みやわき心太郎(道出版) 緻密な文芸小説のような表現を駆使して描かれた短編集。 ハートコレクションは作者が貸本劇画から、叙情を叙事してきた連作シリーズである。 熟成した作風は日常のなかにある 愛と狂気を繊細に抉り出す珠玉の8編が収録。 「二等船室」「しおかぜ」「保険」「家具」「白い日々」「風花」「花嫁」「休日」 作者直筆の絵とサイン本が、JR中野の本屋新刊コーナーに置かれていて購入した。 2004年12月15日初版とあり、発売から4ヵ月は経ているのに平積みされていたという ことは売残り在庫にまとめて直筆サインされた可能性がある。 このような作品は一般から受け入れ難くなっているという事なのだろうか。 確かに想像力を働かせないと地味な作風とも読めるのがハートコレクションの特色と持味である。 視覚派手な上村一夫の演出よりも数段達筆とおもう。 2005/04/1 『失踪日記 』吾妻ひでお (イースト・プレス) 「ふたりと5人」「やけくそ天使」などのギャグ、 「パラレル狂室」「メチル・メタフィジーク」「不条理日記」などの不条理・SFマンガ、 「陽射し」「海から来た機械」などのエロティックな美少女ものなど 様々な作風で各方面から絶大な支持を得る。 しかし 2度の失踪 自殺未遂 ホームレス生活と、アルコール依存症による強制入院をして、 20年ほど消えた漫画家になっていた。 突然の失踪から自殺未遂・路上生活・肉体労働、アルコール中毒・強制入院まで、 波乱万丈の日々を綴った、今だから笑える赤裸々なノンフィクション。 ホームレスアル中というハードな状況を乗り越え、不条理マンガが復活した。 作画において最盛期のレベルを取り戻して、壮絶なる状況をポップで客観的な視点から描き、 お笑いの娯楽作品に昇華しているのが凄い迫力だ。あくまでも明るいタッチで描かれるところが 上手いけど、失踪された奥さんと家族の立場で読んだら「冗談じゃない!」と一喝されそうな作品。 現在第三刷で10万部ちかく売れているから、複雑な心境だろう。(カバー裏にシークレットおまけ インタビューが掲載されています) SFアニメ映画の制作に参加していた時に、吾妻ひでおさんにゲストキャラクター設定をお願いした ことがあり、本書に登場する仕事場、喫茶店、神社など訪れている。 だから「全部実話です(笑)」というのはとてもリアルに信じられのです。 ◆吾妻ひでお公式サイト http://azumahideo.nobody.jp/ |
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