Chapter 1 〜 出航


"Ah, tutti contenti saremo così."(ああ、これで我らは、皆幸せに)という「フィガロの結婚」最終曲の大合唱が、恥ずかしいほどわかりやすいハッピー・エンドを示して終わった12巻ですが、私は「人生に完璧なハッピーエンドはない」なんて、意地悪を書いてしまいました。(思わぬところでそれは証明されてしまったわけですが…いや、すんません愚痴です…)

さて、その後、皆は幸せに暮らしているのでしょうか。未来のことはわからないにしても、とりあえず、12巻と13巻の間に何があったかをまとめておきたいと思います。

マチュリン夫妻のその後

まず、スティーブンとダイアナですが、二人は結婚しました。…とっくにしているだろうって?いえ、二人はとうとう「カトリック教会で」「司祭によって」結婚式を挙げたので、宗教的には(たぶん二人の心理的にも)やっと正式に夫婦になったのですね。

そして、そして、ダイアナは妊娠しています

スティーブンが初めて胎児の心音を聞いた時、彼自身の心臓が一瞬止まり、その後ひっくり返った。彼は今までに知らなかった喜びに満たされ、同時に、ダイアナへの一種の崇拝の念が沸いた。

スティーブン、3巻あたりでは、母親としてのダイアナなど考えられないとか、子供を持つことに興味はないとか思っていたくせに、いざ自分の子供ができるとこうなるのか。…なんて、意地悪な書き方をしましたが、この「近い将来のパパ」モードのスティーブンは、ほんと言うと、愛しくて可愛くてたまらんです。(寝言モード全開)

スティーブンは、パディーンの一件と自分の「転落」以来、「アヘンチンキは頻繁に使うと害がある」と分かり(今ごろ分かったんかい!)止めているので、以前より「情熱的な」夫になっているそうです。情熱的という意味は、あれですね、え〜と…アヘンチンキには抑える副作用あって…つまり、子供ができたのも多分…まあ、ここを読んでいるのは「くどくど野暮な説明をせんでも、意味ぐらい分かるよ!」という賢明なる大人の方ばかりだと思いますので(ですよね?)、やめておきます(笑)。

ダイアナは予定通りソフィーのところに居候して、馬を育てるのにいい土地を探しているのですが、妊娠中なのに馬に乗ったりしてスティーブンを心配させています。彼女はバーラム・ダウンという土地に目をつけているのですが、スティーブンはそこが気に入らず、時には「情熱的な」ケンカをしたりしています。でも、ケンカを避けるために別居していた新婚当初に比べると、本物の夫婦(and 本物の夫婦喧嘩?)になったような気がします。

ジャックのその後

一方のジャックですが…サプライズ号が南米へ出航するまで、家族と楽しく過ごしていますが、陸のジャックは相変わらず陸のジャック。陸での社交的能力のなさを遺憾なく発揮しています。

彼はあるパーティで、皇太子の愛人レディ・ハートフォード(11巻参照)がダイアナにとても失礼な態度を取ったと聞いて怒り、友達にレディの悪口を言ったのですが…それがなぜか皇太子ご自身に伝わってしまいました。スティーブンとサー・ジョセフは、その「忠言」に、ジャックの復活を妨害しようとする計算された悪意を感じ、未だ正体不明の敵(レイたちの仲間)と関係あるのではないかとにらんでいます。

そんなこんなで、海軍への復帰に自信が持てなくなってきたジャック。スティーブンとサーは、国会が始まったらジャックは出席しなければならず、また失言するか、失言するように仕向けられかねないので、ここは一刻も早く彼を海に出すのがいいと考えています。

それにしても…ダイアナに失礼な態度を取られたから、相手が皇太子の愛人と知りながら、めったに言わない悪口を思わず言っちゃうジャックはいい奴だ。たぶん、怒ったのはダイアナのためというよりスティーブンのためなんでしょうね。当のスティーブンは、むっちゃ怒っていても口に出さないだろうな。その代わり、深くしつこく根暗く怒る(笑)。ジャックは怒るとすぐ口に出るけど、すぐ忘れてしまうタイプ。(私はこの点ではスティーブンに近いタイプだなあ。ま、スティーブンの怒りと私のつまらん腹立ちを比べるのもなんですが。)

というわけで、いろいろ問題はあってもまずは幸せな二人ですが…残念ながら、とても不幸になってしまった人がいます。そう、パディーンです。

パディーンのその後

サプライズ号はスウェーデンからの帰路、レイス(エジンバラ近郊の港)に寄航したのですが、パディーンはそこで脱走しました。エジンバラでアヘンチンキを手に入れようとして、薬の名前がわからなくて買えなかったので、薬局を襲って盗んでしまいます。

逮捕された彼は、強盗罪で(当時としては避けられない)死刑を宣告されたのですが、ジャックが国会議員としてのコネと影響力を駆使して、やっとのことでオーストラリア流刑に減刑してもらったのでした。

というわけで、今は「囚人護送艦」に乗せられて「流刑大陸」(※)へ向かっているパディーン。かわいそう…スティーブンのせいだよなあ、やっぱり。

※ 5巻の邦題、見ました?このモノモノしさ、私は結構気に入っていたりするのですが。(笑)

プリングズ他、サプライズ号乗員たちのその後

さて、我らがアイドル(?)トム・プリングズ艦長は、南米への長期航海にもジャックの副長としてついてゆく予定になっています。それはもちろん、第一にジャックへの変わらぬ忠誠心、第二に海軍が艦をくれないせいですが…実は、妻のせいでもあったりします。

2巻でちらりと登場した時は、ジャックが「家に連れて帰ってペットにしたい」と思ったほどの愛らしい少女だった彼女も、今や4児の母。日に日に気難しくなり、昔の素朴な田舎娘しか知らない人には信じられないほどの変貌ぶり。

彼女は「なぜ艦をもらえないのか」としつこく夫をせっつくだけならまだしも、綴り間違いだらけの汚い字で、海軍省に直接「ウチの夫にはやく艦をください」と訴える手紙を書き送ったりして、プリングズを悩ませています。いや、その行動自体は、いじらしいと言えなくもないけど…なんとなく、マライア(別シリーズのH艦長の奥さん)を思い出すなあ。

2巻の「プリングズの可愛い婚約者」は、男性に人気のありそうなタイプでしたが…若い頃に素朴でかわいらしいタイプほど、オバサン化するのが早いのよね〜。ダイアナみたいなタイプの方が中年になっても魅力的だったりする。でも、プリン妻よりずっと年上で3児の母のソフィーが、いまだに可憐さを維持しているのは偉いよな〜。(でも、彼女は初登場の時27だったから、既に若い頃とは言えなかったかも。)

プリングズ以外の二人のオフィサー、デイビッジとウエストは、ジャックの海軍復帰が近いと知って、自分たちもその余波にのって復帰できるのではないかと期待しています。

水兵たちは、アゾレス諸島の拿捕賞金でそれぞれ金持ちになりました。たいがいの拿捕賞金と違って、短期間の飲む打つ買うで使い果たせるような額ではないはずですが、もうギャンブルで無一文に逆戻りしている人も。(でも、キャプテン・オーブリーについて行けばまた稼げると確信しているので、気にしていない。)でもほとんどの人々は、オーブリー船長のアドバイスに従って堅実に財産管理してます。ジャックほどフィナンシャル・アドバイザーに向いていない人もいないと思うけど、みんな彼を崇拝しているので、彼のアドバイスなら何でも聞くのですね。

将来への投資としてパブやエールハウス(ビール酒場、パブより小さくて安くて宿泊施設はない)を買った水兵も多く、シェルマーストン近辺だけで7軒の「オーブリー・アームズ」(オーブリーの紋章という意味。〜アームズはパブによくある名前)が誕生しました。でも、ほとんどの人は経営を親戚に任せ、自分はまたサプライズに乗って海に出るつもりでいます。

出航の前日、アッシュグローブでディナーパーティ

さて、上記のような理由で、サプライズ号は予定より早く出航することになりました。ちょうどその前日、アッシュグローブ・コテージでお客を招いてディナー・パーティが行われます。(お別れパーティではなかったのですが、結果的にそうなってしまいました。)

ソフィーはとびっきりのドレスを着て、輝くように美しいのですが、ダイアナは「大きなおなかを抱えた妊婦がオシャレをしてもしょうがない」という主義なので、気楽な格好をしていました。(バーラム・ダウンズの件でケンカして、スティーブンにちょっと怒っているということもあるのですが。)

客が到着する前に、ジャックが女性たちに「明日出航する」と宣言すると、ソフィーとミセス・ウィリアムズは、無駄と知りつつ「急すぎる」と反対しました。

「ねえスティーブン、本当に明日出航するの?」「ああ。」ダイアナはそれを聞いてさっと部屋から出て、階段を「少年のように」一段飛ばしで駆け上がり(わー、大丈夫か?転ぶなよ)…数分後、目のさめるようなブルーのドレスに、胸にはブルー・ピーターをつけて降りて来ました。彼女はこっそりと再入場しようとしていたのですが、否応なく注目を集めてしまいます。おりしも到着した本日のゲスト、スミス艦長夫妻の奥さんは、ブルー・ピーターを感嘆の目で見つめていました。

余談:このドレスは「彼女の黒髪と青い瞳に映えるように計算された色」だそうですが、欧米人はよくこういう風に「自分のカラーリング(髪・瞳・肌の色)に似合う色」というのを意識していますね。2巻でソフィーがピンクのドレスを着ているのを見て、ダイアナが「ピンクは危険な色なのに彼女の肌には合っている」と羨んだり…それで思い出したけど、クレイグ・ライスに「灰色の似合う女は百万人に一人」という印象的なセリフがあったり…ずばり「プリティ・イン・ピンク」(ピンクが似合う)というタイトルの映画もありましたっけ。

日本人はあまりこういう色合わせは気にしないと思います。「何色が似合う」とは、言わないわけじゃないけど、むしろ「パンツスタイルが似合う」「ミニスカートが似合う」という風に、体型とデザインのバランスを気にすることが多いような。まあどうせ、基本的にみんな似たような髪と目と肌の色だしな〜。アジア人のカラーリングには赤が似合うそうですが、そればっかじゃつまらないしね。

閑話休題。さて、例によって、散々余計な事を書いた後、このパーティのその後の会話については省略させていただきます。自分にとっておいしいとこだけつまんでいる(<改めて書くと、けっこうヒドい言い方だな…いや独り言…)わけじゃないです。全部を書くわけにいかないし、いろいろ考えてはいるので。

サプライズ号、南米に向かって出航する

さて、その翌日…

ペルー、チリの独立を援助するという政府の秘密任務のため、私設戦闘船として(しかし政府の秘密裡の出資を受けて)シェルマーストンから南米へ出航するサプライズ号。(このへんの詳細は11巻10章参照)。

港でハンカチを振るソフィー、ダイアナ、ミセス・プリングズ、ミセス・マーティンたちの姿が見えなくなるまで、夫たちは望遠鏡を連ねて見つめるのでした。(実はこれが13巻ファーストシーン。)