Chapter 4-1 〜 復帰


ジャック、サー・ジョセフの計画を承諾するが、サプライズ号のみんなは落胆する

結局ジャックは、サー・ジョセフの計画にイエスと言うのですが、サーが思ったほど二つ返事で承諾したわけではありませんでした。

海軍に即復帰できて指揮艦ももらえるというのは、彼個人にとってはいい話なのですが、彼が気にしているのは部下たちを置き去りにすることでした。

水兵たちは、当然、サプライズ号から「ラッキー・ジャック」がいなくなることにがっかりしていて−「やっぱり、この航海はついてねえと思ってたよ」という者も。しかし「英国に戻りたい者には給料と旅費を払う」という船長の申し出に応じた水兵は一人もいませんでした。

彼らにとっては、ジャックが指揮するのが自分たちが拿捕した(ある意味「われらが船」の)ディアンヌ号であることが救いでした。それに、スキッパーのワインと寒冷地用衣服と、ドクターの本の山がサプライズ号に置きっぱなしになっていて、2隻が必ずランデブーするという保証になっていることも。

士官たちも、尊敬するキャプテンを失うことにがっかりしていますが、一方では希望もありました。プリングズには「サプライズを無事に英国に連れ帰れば確実に指揮艦をもらえる」とスティーブンから保証があったし、そうなればデイビッジとウエストも海軍に戻れる見込みがあるので…

ジャックたち一行、戦乱のポルトガル・スペインを馬車で北上する

サー・ジョセフ、ジャック、スティーブン、スタンディッシュ(主計長を辞めて英国へ帰るので同道させてあげた)、キリック、ボンデン(時間がなかったのでこの二人しか連れてこれなかった)の6人は、英国へ帰る艦が待っているスペイン北岸の港に向かって馬車を飛ばしました。何しろ急いで帰らなければならないので、風の都合で止まってしまう可能性のある海路より確実な陸路で、行ける所まで行く行程。

確実とはいえ、馬車の長旅はただでさえハードなものですが、まして当時のイベリア半島は戦場。往路のサー・ジョセフも、フランス軍の分隊から逃れたり、英国軍に道を譲らされて馬車が溝に落ちたり、散々苦労したのですが…

しかし、この復路は、サーにとって往路よりはずっとましな旅になりました。この地域を熟知し知り合いも多いガイド(スティーブン)がついているので、彼の顔で僧院や貴族の邸宅に泊まらせてもらったり、また馬車が溝にはまっても、船乗りたちが滑車を使って引っ張り上げてくれたので。

また、ジャックもスティーブンもここぞとばかりに惜しまず金を使ったので、馬車には銃をかかえた護衛がつき、常に手に入る限りで最良の宿と最良の食事。(こういうのを「地獄の沙汰も金次第」と言うのかな。)おまけに、食後にはスタンディッシュのバイオリン演奏という楽しみがありました。

サーとスタンディッシュが馬車の中、キリックとボンデンは(雨の時以外は)外の席、ジャックとスティーブンは馬で伴走。陸軍の「迷い馬」があちこちで見つかったので、ジャックたちは頻繁に馬を替えることができました。いい軍馬が野原をさ迷っているというのが、ここの状況を表しているのかも…元の持ち主の多くは戦死したんでしょうね。

ある夜、彼らが宿でスタンディッシュの演奏を楽しんでいると、ドアの外で熱心に聴いていた人がいました。彼は英国陸軍歩兵隊のラムレイ大佐。無類の音楽好きで、スタンディッシュのバイオリンにすっかり感激し、ぜひ彼をそばに置きたいと、自分の秘書の職をオファー。できればもう船に乗りたくない上に国に帰っても職のないスタンディッシュは、彼の申し出を喜んで受諾、そこでジャックたちと別れるのでした。(こういうのを「芸は身を助く」と言うのかな。)

ジャックたち、カッターでポーツマスに戻る。スティーブン、1800年頃のことを回想する

コルーニャの港で、英国海軍のカッター・ニンブル号が彼らを待っていました。カッターの艦長はフィトンという若い海尉で、ジャックの戦死した友人の息子でした。フィトンとジャックがカッターの艤装の話に熱中している間、スティーブンはキャビンに下がり、寝台に入って考えに沈みました。ゴフのことがあったせいか、彼は改めて1798年のこと…というより、その後遺症に苦しんでいた1800年(ジャックと会った頃)のことを思い出しているようです。

あの頃、私はひどく沈み込んでいた−あの蜂起の明らかな、不可避の失敗と、多くの、あまりに多くの人間の恥ずべき行動と、そしてもちろん、モナを失ったことの後で−そして言うまでもなく、フランスにおける耐えがたい悲惨と、我らの楽天的な、寛大な若い希望が全て打ち砕かれた後で。まったく、人間というのは変われば変わるものだ!ジェームス・ディロン(彼の冥福を祈る)に、こう話したことを憶えている。「私はもう、国にも団体にも忠誠心を感じない、親しい友人にだけだと。…目的がミレニアム(至福の千年間)でも独立でも、私は指一本動かす気はない」と。なのに今、私はこうして、その両方をもたらすために荒海を急いでいる−ボナパルトの敗北をミレニアムと、カトリックの復権とユニオン(アイルランド併合)の解消を独立と見なすことができるとすれば。グレープス亭に戻ったら、あの年の日記を読んで実際に何と言ったか確かめてみよう…

ここで、1巻からちらちらと出てきている「スティーブンのアイルランド時代の恋人」の名が初めて出てきます−「モナ」と。それから、1巻でのスティーブンとディロンの会話と、その時と比べてスティーブンの意識がどれほど変わったかということも…

「登場人物の過去がだんだん明らかになる」というのは、よくあると思うのですが、その「過去」がすでにシリーズの始まっている時期にかぶっているというのは珍しいなあ。13巻は「1巻の復習」みたいな部分があるので、改めて1巻を読み返しながら読むと面白いのですが(できれば原書を…このへん翻訳がその…ごほごほ)これは次回(4章後半)にもっと詳しく出てくるので、そちらで。

ただ、一つだけ…5巻10章で、スティーブンは「ヘラパスが彼の若さを、憧れと裏切られた希望とで使い果たしてしまわなければいいが−私がそうだったように」と書いていて、私は「うーん、ドクター、若い頃何があったんですか?」とか書いていたのですが…何があったか、はっきり書いてありましたね、ここに。

一行、ポーツマスに到着。ジャックとスティーブン、家に手紙を書く

カッターがポーツマスに到着すると、サー・ジョセフはさっそくロンドンへ発ちました。スティーブンは「ダイアナは今、デリケートな時期に入っているから、いきなり現れて驚かせるのはまずい」と気を遣い、まず手紙で到着を知らせることに。

アッシュグローブにメッセンジャーを送った後、二人は港湾司令官に誘われて、海軍士官のたまり場になっている酒場で楽しく情報交換しながら飲んでいました。そこへ子供の使いが来て−「レディたちの乗った馬車が、外で待っています。」

「Jesus, Mary and Joseph(なんてこった)」と、いつもの感嘆句を口にしながらスティーブンが外へ出ると、ダイアナが馬車の窓から身を乗り出して叫んでいました−「マチュリン、マイディア、罪もない女たちをこんな風におどかすなんて、何てひどい人なの!」後ろにはソフィーが乗っていて、「ジャックは?ジャックもいるの?」

馬車から勢いよく飛び降りようとするダイアナを、スティーブンがあわてて肘をつかんで止め、「マイディア、いいサイズになったね」と、やさしくキスをしました。

こうして家に帰ったのが、5月のある金曜日。…日曜にはもう「オーブリー艦長へ、火曜に第一海軍卿の自宅へ来られたし」という手紙が届きました。「ソフィー、おれの軍服は駄目になっていないかい?」「肩章がちょっと色あせている以外は、大丈夫よ。ちゃんと手入れをしてあるから。でも、今のあなたには大きすぎるかもしれないわね。かわいそうに、あなたは痛々しいほど痩せてしまったから。

たしかにジャックは痩せたんですが、「痛々しいほど」と思っているのは、たぶんソフィーだけでしょう。愛情のなせるわざね。(こういうのを「あばたもえくぼ」と…言わないか。)

二人ともすぐにまた出航しないといけないのですが、長旅に出る前にもう一度家族に会えてよかったね。

ジャックとスティーブン、ロンドンに行く。ジャック、第一海軍卿と面談

いよいよ海軍への正式復帰が近づいてきたジャック。でも、あれほど強く望んでいたことがこうして現実になってみると、かえって「復帰の条件がとても受け入れられないものだったら」とか、「ここまできて万が一駄目になったら」とか、いろいろ考えてしまい、だんだん緊張してくるのでした。

二人はいつものグレープス亭で食事をとるのですが、珍しくプディングに手もつけないキャプテンに、ミセス・ブロードはびっくり。「きっと、どこかの紳士にハイドパークへ呼び出された(決闘のこと)のだわ」と、ウェイトレスのルーシーに耳打ちしました。

ジャックが、第一海軍卿(海軍大臣)のメルヴィル卿を自宅に訪ねると、卿は「最初におめでとうと言わせてくれ」と言って、海軍広報の校正刷りを見せました。それには「オーブリー艦長、元の先任順位で復帰、ディアンヌ号艦長に就任」と、はっきり書いてありました。「それからこれが、君のディアンヌ号への任命書だ。」

卿は、「プロ・プラバン」での任務の内容を説明しました。「レイとレッドワードを逮捕して連れ帰ってくれれば非常に嬉しいのだが…サルタンとの友好上、そういうわけにはゆかないようだ。せめて彼らを大失敗させて、役立たずの烙印を押してほしい。艦については、明日海軍省に行って、提督から実務的な説明を聞くように。後でヘニッジが来るから、ぜひ食事して行ってくれ。」

卿が話している間、ジャックは「嬉しい」などという言葉ではとても言い尽くせぬ感情に圧倒され、任命書を握りしめていました。

ジャック、スティーブンに友人の親戚の銀行(スミス銀行)を薦める。

というわけで、うきうきとグレープス亭に帰ったジャック。その輝く顔を見て、スティーブンはすぐに面会の結果がわかり、心から祝福しました。

「君のお陰で、気分がだいぶよくなった。僕の方は不愉快な一日だったから…」「何があったんだ?」「銀行に行ったんだが、僕がずっと前に出した指示が、何一つ実行されていないんだ。『書類の形式が整っていなかった』とか言って…それに、預けていた金(きん)を引き出してポーツマスへ送るように言ったら、今は金が不足しているから割増料金を払えと言うんだ。自分自身の金を引き出すのにどうして余分な金がいるんだ?結局、意志を通すことができたが、船乗り流のきつい表現をたっぷり使わなければならなかったよ。」「スミス銀行に変えたらどうだ?ほら、出発前のパーティで会ったスミス艦長の兄弟がやっている銀行だ。おれ自身は、今の銀行に金がない時も親切にしてもらった恩義があるから変えられないけど…」「そうするよ。すぐ手紙を書こう。」

ジャック、キリックに肩章を買いに行かせる。

その後、ジャックはキリックを呼んで、肩章を買いに行くように言いました。キリックの気難しい顔がたちまち輝き、「それでは、決まったんですね?おめでとうございます!」と言いました。「こうなるってわかってましたよ。だからそう言ったんだ…まったく、ざまあみろってんだ!」と、誰に言ってるんだかわからない言葉をぶつぶつとつぶやきながらも、とっても嬉しそうに買い物に行ったキリックですが…

喜びのあまり祝杯が過ぎたらしく、真夜中過ぎに酔いつぶれて運ばれて来ました。新品の肩章も、見本として持っていた古い肩章も含め、身ぐるみ剥がされて。

ジャックは夜明けのロンドンを走り回ってなんとか肩章を手に入れ、奇跡的に、約束の時間までに規定の軍服で海軍省に出頭することができました。ソフィーの言った通り、ブリーチのお腹の辺りは腹が引っ込んだ分ゆるくなっていましたが、上着の肩のあたりは、しっくりと身に馴染んでいました。

久しぶりの軍服の着心地を味わいながら、彼は待合室で「タイムズ」を手に取り、広報の自分の記事を何度も読み返していました。

ここで改めて…ジャック、海軍に正式復帰おめでとう!