Chapter 9-2 〜 ランデブー


ディアンヌ号、ランデブー地点に到着する。サプライズ号は来ていない

ランデブー地点である「偽ナテュナス」に到着したジャックたちは、さっそくその大きな岩に上陸しました。が、岩の頂上には決めておいた印もなく、メッセージもないことを確認。(つまり、サプライズ号はまだ来ていないということ。)ボンデンが白いペンキで印をつけ、ビンに入れたメッセージを残して行きました。

上陸隊にくっついて行ったスティーブンは、その間に大急ぎで標本採集をしました。ただの岩とはいえ、結構独自の植物や昆虫がいるらしく…「新種の昆虫が見つかった。マーティンに見せたら、大喜びするだろうな。」(<マーティンさんはサプライズ号の船医をしています。)「早く会えるといいな。正しい緯度に来たから、これからここを一週間行ったり来たりして、サプライズ号を探すことになる。」

一往復して戻って来ると、ジャックは印を確認するためにトップに登りました。ジャャックに誘われて一緒にトップに登ったスティーブンは、いつものようにおっかなびっくりの登り方をしながら、いつものように「このシュラウドという設備は、知性ある人間よりも類人猿に向いている」と考えるのですが…そこでムオンを思い出して「彼女は知性ある存在だった」と思い直すのでした。

サプライズ号が後から来たら、白ペンキの印の上に旗を立てることになっていたのですが、初日の日没前には旗は見えませんでした。しかし、まだ一日目なので、会えなくてもみんなそれほどがっかりはしていなかったのですが…

ジャックとフォックスの関係は悪化する

あのディナー以来…いや、ジャックがフォックスに苦情を言いに行った時以来、フォックスとジャックは(艦尾甲板で顔を合わせたとき挨拶する以外は)まったく口をききませんでした。少なくともジャックの方は、故意に避けているということはないのですが…

今や、ディアンヌ号乗員と使節団の間のコミュニケーションは、ドクターのところへ仮病で診察を受けに来るローダー、ガンルームのメンバー話す秘書のエドワーズ(ボスの不人気にもかかわらず、彼は好かれているので)、という二つのルートしかありませんでした。

ローダーが「フォックスがいつジャワに帰れるのか知りたがっている」と言うので、スティーブンはだいたいのところを説明しました。「しかし、艦長に直接聞けばもっと正確に教えてくれますよ。…いいえ、会話の中継役はお断りします。」

この頃の三人は、フォックスを嫌っているというわけではないものの、以前のような度を越した尊敬やミエミエのおべんちゃらは、まったく消えていました。フォックス自身は、それに気づいた様子はないのですが…

ランデブー地点の往復を始めて3日目。フォックスが、いささかわざとらしい親しさでマチュリンをバックギャモンに誘い、上の空でゲームをしながら、「艦長は予定通りのコースを行っているのでしょうか。それとも、現れもしない船を待ってぐずぐずしているのはわざとですか?」「艦長に直接聞けば教えてくれますよ。」「そうかもしれませんが、鼻であしらわれるのは嫌ですね。先日、『艦上で意志を決めるのは艦長ひとりで、完全な独裁者でなければならない』という意味のことを、あまりに横暴な、憎悪にあふれた言い方で宣言されましたので…悪意を感じたのはそれが初めてではありませんが。あれほどの悪意を持たれる理由は見当もつかないのですが…」「悪意ですって?とんでもない。艦尾甲板の一件では一時的に怒ったかもしれませんが、後に残るような悪意はまったくありませんよ。」

「それではなぜ、私が条約をまとめて帰った時、旗を満艦飾にして、乗員をヤードに並べて万歳三唱をしなかったのですか?このような場合には、海軍では必ずそうする習慣だという事は、私も知っているのですよ。何度も見ましたし。これは故意の侮辱だとしか思えないではありませんか。」「いいえ、とんでもない、それは誤解です。それをやるのは王族が艦に来る時か、海戦で勝利した海軍士官を迎える時のみです。」「もちろん、あなたは友人を庇う義務を感じておられるのでしょう。もう申し上げることはありません。」

その後スティーブンはトップに登ったのですが、フォックスの態度にあまりに苛々していたので、いつもの恐怖を忘れてしまい、ずんずん登るのでした。「なんだ、スティーブン、その気になれば人間らしい…いや、船乗りらしい上り方ができるじゃないか。」

フォックス、勘違いで恥をかく

翌日の日曜日。いつものように乗員が一張羅を着込んで集合し、礼拝の代わりに艦長が戦時条例を読み上げるいつもの儀式が行われました。その日は国王の即位記念日だったので、儀式の後にロイヤル・サルート(21発の礼砲)が発射されましたが、その時、ちょっと間の悪いことがありました。

フォックスはなぜか、このロイヤル・サルートを自分のためだと勘違いし、その場で立ち上がってお辞儀をし、丁寧にお礼を言ったのです。副長が「いえ、これは即位記念日のためです」と言うと、水兵たちから嘲笑が起き、フォックスは激怒してすぐにその場を立ち去りました。士官たちは礼儀正しく知らんぷりをしていましたが、もともとフォックスが嫌いな水兵たちは容赦なし。後でジャックは、お辞儀するフォックスの真似をして笑いを取っている少年水兵を叱り、罰としてマストヘッドに登らせたりしなければなりませんでした。

フォックスさん、スティーブンがジャックに自分の不満を伝えたので、ジャックが埋め合わせをしてくれたと思ったのでしょうか。…ふぅ、これはちょっと気の毒なような気もするなあ。

サプライズ号はランデブー地点に現れない

ロイヤル・サルートの音が水平線の向こうにいるプリングズに届けばいい、と期待するジャックですが、海には帆影どころか海鳥一羽、流木ひとつ見つからず、まるで「創世記の二日目」のようでした。

しかし午後になって、「水平線に帆のようなものが見える」と見張りから報告があり、ジャックはリチャードソン海尉とともに張り切ってマストを駆け上りました。ディアンヌ号にはロイヤルマストがあるので、トゲルンマストの天辺まで登れるのですが…リチャードソンが「私が行きますから、私は9ストーンしかありませんから」と必死で止めるのも聞かず、17ストーンの巨体で細いトゲルンマストを登り、水平線に望遠鏡を向けるジャック。

リチャードソンが(「マストが折れませんように」と)祈るような気持ちで見守る中、ジャックは目を凝らすのですが…例の帆は、地元の海賊のプラフ船(この地域の小型快速帆船)が3隻いただけでした。がっかりしてマストを降りるジャック。海賊はこちらへ近づいて来て、船長らしい緑のターバンの男がしばらく値踏みするようにディアンヌ号を見つめていましたが、やがて首を振り、諦めて去りました。

その夜は満月でしたが、月は完璧な黄金色をしていて、みんなは何かの前兆に違いない、しかし吉兆か凶兆かわからない、と話し合っていました。しかし翌日、偽ナテュナスの白いペンキの印の上に、サプライズ号が立てるはずの旗の代わりに真っ黒な鵜が羽を広げているのを見た時は、「凶兆だ」と意見が一致しました。スティーブンが「鵜はこのへんではありふれた鳥で、中国人は飼いならしている」といくら説明しても、皆は「このランデブーではサプライズ号に会えないだろう」と確信してしまったようでした。

不幸なことに、その確信は大当たりで…ついに最終日まで、サプライズ号は現れませんでした。

心からがっかりして、仕方なく艦をジャワに向かわせるジャック。おまけにスティーブンがヘマをやって大事な観測器具を壊してしまうというアクシデントもあり、すっかり落ち込み気味。メイントップまで登るにも、重い身体を引きずるようにしなければならず…「この前もっと上まで登った時はなんともなかったのに…もう年なのか?」と、余計に暗い考えになってしまうのでした。

ジャックはフォックスに「二日後の金曜にはバタヴィアに着くので、それまでに荷造りさせておいて下さい」と伝言を送り、寝台に入りました。落ち込んでいたジャックですが、掛けてある軍服の肩章が光っているのが寝台から見えると、海軍から追い出されていた時にどんなにあれに焦がれていたか、文字通り夢にまで見たことを思い出し、幸せな気分が一気に戻って来て、微笑みながら眠りにつくのでした。(<こういう、ちょっとしたことで幸せになってしまうとこがかわいいね。)

幸せに眠りについたジャックですが…朝直二点鐘(5時)ごろ、艦の竜骨が岩をこすった衝撃で飛び起きました。衝撃で寝台から振り落とされつつも、艦尾甲板に駆けつけて指示を下すジャック。

ディアンヌ号、岩礁に乗り上げる

ディアンヌ号は暗闇の中で、海図に載っていない岩礁に乗り上げたのでした。(…というか、この辺りの暗礁で海図に載っているものはほとんどないのですが。)それはひどく唐突に突き出た険しい岩礁で、ディアンヌ号はぴくりとも揺れないほど、がっちりはまり込んでいました。

不幸なことにそれは満潮時で、しかも大潮。(つまり、艦がこれ以上浮くのは少なくとも半月後ということ。10巻5章と同じパターンですね)不幸中の幸いは、艦の損傷がそれほどひどくないらしいことで、ビルジウェル(あか水溜め)の水位はまだ低く、増加も少しずつのようです。

数時間後に夜が明けると、これまた不幸中の幸いで、1マイルほど北に小さな無人島(直径2マイルぐらい)があるのが見えました。すでに潮が引き始めていて、岩に三点でがっちり固定されたディアンヌ号の舷側は、海面から妙に高く突き出しています。

エドワーズがフォックスの「何かお手伝いすることはありますか?」という(珍しく礼儀正しい)伝言を持ってきました。「今のところ助力いただくことはないが、状況を説明します。…ドクター、君も聞いておいてくれ。ディアンヌ号は海図にない岩礁に乗り上げましたが、すぐに沈む危険はありません。荷物を降ろせば次の満潮には浮く可能性があります。とりあえず、できるだけたくさんの荷物をボートに積んで、島へ行っていただきたい。」