マイペースなあらすじ  第1巻「マスター・アンド・コマンダー」


第1章 第2章
第3章 第4章
第5章 第6章
第7章 第8章
第9章 第10章
第11章 第12章

マスター・アンド・コマンダー 第1章

時は1800年、所は地中海、イギリス占領下のメノルカ島、ポート・マオン。

ジャック・オーブリーは20代の英国海軍海尉。ネルソン艦隊の一員としてナイルの海戦にも参加した有能な軍人なのですが、今は乗る艦(ふね)にあぶれ、金にも困っていて、生来陽気で楽天的な性格の彼も少々落ち込み気味です。ある日、彼は友人であり、上官の妻でもあるモリー・ハートの開いた音楽会に出かけます。弦楽隊のすばらしい演奏に思わず手拍子を取っていたところ、隣の男が彼をつっついて文句をつけてきます。「手拍子を取るんなら、調子がずれないようにやってもらえませんかね?」ジャックは思わずムッとして、その風采の上がらない小男を睨みつけるのですが、上官のパーティで事を荒立てるわけにもいかず、むかつく気持ちをぐっとこらえたまま宿に帰るのでした。

ところが帰ってみると、宿の可愛いウェイトレス、メルセデスが吉報を持ってきます。海軍本部から彼に「軍艦ソフィー号に艦長として着任されたし」という命令が下ったのです!彼は海尉艦長(※1)として、生まれて初めて軍艦の指揮をとることになります。

翌日、ジャックは街で、昨夜彼にいちゃもんをつけた例の小男を見かけます。ところが念願叶って艦長となったばかりのジャックは、うってかわってすっかり上機嫌。昨夜の腹立ちはどこへやら、彼に声をかけ、音楽会でのことを謝罪し、一緒にココアを飲むことに。彼の名はスティーブン・マチュリン。話しこむうちに二人とも音楽好きで、ジャックはヴァイオリン、スティーブンはチェロを演奏することがわかり、すっかり意気投合してしまいます。ヤツガシラとかいう鳥を見ることができたと言って大喜びしているこの一風変わった男がすっかり気に入ったジャックは、夕食の時にまた会うことを約束して別れるのでした。

ところがその後、上官であるハート艦長のところへ出向いてみると、ソフィー号の前任艦長が引継ぎもせずに新しい艦で出航してしまった、ソフィー号のマシな士官・水夫は彼が根こそぎ連れて行かれてしまった…と聞かされます。しかもかねてからジャックを嫌っているハート艦長の意地悪でヨソからもまわしてもらえず、着任早々深刻な人手不足に悩まされることになるのか…とジャックは蒼くなります。

しかし、入院している元ソフィー号の海尉を見舞って話を聞くと、優秀な航海長のマーシャルは残っているし、事態はそれほどひどくはなさそうです。ただ、前任の軍医が艦を去ってしまったのは痛いかもしれない…

※1 海尉艦長(コマンダーcommander): 正式な階級名である勅任艦長(Post Captain)に就任していない海尉が、階級は海尉のまま小型艦の指揮をとる場合の呼び名。航海長(master)を兼任していることも多く、その場合は航海長兼海尉艦長(マスター・アンド・コマンダーmaster and commander)と呼ばれる。

マスター・アンド・コマンダー 第2章
夕食の席でスティーブン・マチュリンに再会したジャックは、彼が医者であること、つきそっていた患者に死なれて一文なしの身であることを知り、ぜひソフィー号に軍医として乗艦して欲しい、と頼みます。何しろ海軍本部に頼んだりしたら、軍医とは名ばかりの、経験はおろか医学薬学の知識もない役立たずを送りこんでくるに決まっているから…本物の医者に乗艦してもらえればこんなに心強いことはない。医者であると同時に熱心な博物学者でもあるスティーブンは、地中海のあちこちで動植物を観察できるチャンス、という言葉に心を動かされます。その食事の席で、ジャックはソフィー号の副長が決まったという知らせを受けます。アイルランド出身のジェームズ・ディロン。評判の良い海尉なのでジャックは喜びますが、スティーブンは聞き覚えのある名に密かに眉を寄せます…

軍艦の良し悪しは砲で決まる、という信念の持ち主であるジャックは工廠と交渉して12ポンド砲を二門手に入れた後、ソフィー号の航海性能を試すためさっそく出航します。この小さなスループ艦が12ポンド砲の重さに耐えられない事を確認した彼はがっかりしますが、彼女(<艦のことはこう呼ぶ)にだんだん愛情が湧いてくるのを感じるのでした。

バタバタと艤装(船の装備)を整え、港に戻ってドクター・マチュリンを拾ったソフィー号は、最初の任務である商船団の護送に出航します…


マスター・アンド・コマンダー 第3章

翌朝、夜明けの少し前、身軽にマストヘッドまで登ったジャック。75フィートの高みから、360度遮るものひとつない円形の大海原。その向こうの水平線に朝日が昇り、ジャックはその美しさに思わず涙するのでした。

一方のスティーブンは慣れない軍艦生活に当惑の連続。ジャックのはからいで士官候補生に船を案内してもらいますが、ビームに頭をぶつけたり、マストに登るのに恐怖を感じたり…でも彼にとってそれより気になるのは副長ジェームス・ディロンの存在です。スティーブンとディロンはかつて、アイルランドの宗教の自由と代議制を目指した「アイルランド人連合」の一員だったのです。組織の弾圧と崩壊にまつわる苦い記憶のために、お互いに知らないふりをする二人。

ジャックはディロンと共に苦労の末、新入り水兵たちを配置につけ終わり、ソフィー号はなんとか軍艦としての体裁を整えつつあるのでした…


マスター・アンド・コマンダー 第4章

翌日、ジャックは初めて砲撃訓練を行ないます。慣れない水兵たちの手際の悪さに気を取られていたジャックは、「あの二隻はどうしてあんなにくっついているんです?」とスティーブンに言われて初めて、護送している商船団の最後尾のスウェーデン船がアルジェリアの海賊船に襲われているのに気づきます。艦長としての初めての海戦。砲撃戦の末、何とか商船を救出する事はできたのですが、乗員の腕の未熟さを考え、相手を追撃して拿捕するのは諦めます。

スティーブンは怪我人の治療に腕をふるいます。とりわけ、木の破片を頭に受けた掌砲長に、甲板で脳外科手術を施して命を救ったのには全員が度肝を抜かれた様子。(この掌砲長はこの後「ラザロ(死から蘇った男)のデイ」と呼ばれるようになるのでした。)

何とか無事に護送任務を終えたソフィー号。ジャックはキース提督の旗艦に出頭、その夫人である幼なじみのクイーニーと再会した後、フランス・スペイン沿岸の巡航(<拿捕賞金が狙える、護送よりずっと美味しい任務)を命じられます…


マスター・アンド・コマンダー 第5章

巡航中のソフィー号はある日、波間を漂っている船を発見します。望遠鏡で甲板に倒れている男を見たスティーブンは言います…「間違いない、疫病だ。」生存者がいるかもしれないから行かせて欲しい、と言うスティーブンですが、ジャックは全速力でその船を離れます。「何もしないで見捨てて行くのか?」「たとえ君が感染しないで帰ったとしても、我々は黄色い旗を掲げて隔離島に監禁されなければならない。それに、乗員は恐怖のあまり死んでしまうだろう。」

その後、ソフィー号は幸運にも恵まれ、立て続けに敵船の拿捕に成功。艦長と乗組員の意気は上がります。ある日フランス船を捕えたソフィー号ですが、どうも様子がおかしい。乗員は妙に浮き足立っているし、船室からは身の凍るような叫び声が…実はこの船、船長が身重の奥さんを乗せていて、しかもショックで産気づいてしまった様子。さっそくスティーブンが行って、無事に男の子を取り上げるのでした。

母親と赤ん坊と、安堵と感謝で泣き出さんばかりの船長を乗せた拿捕船は、ジェームズ・ディロンが指揮してマオンへ運ぶことになり、またスティーブンも患者についていたいということで残ります。スティーブンとディロンはソフィー号とジャックから一時離れ、ゆっくり腹を割って話す機会を持ちます。友人たちの消息、アイルランドでの過去…フランス革命の頃の夢と希望…その後の恐怖、組織の崩壊、裏切りと密告の横行、絶望。話はいつの間にかジャック・オーブリーのことになり、スティーブンはディロンがジャックを嫌っている…少なくとも、複雑な感情を抱いている事を知ります。イングランド人特有の無神経さ…拿捕賞金にこだわりすぎる…たしかに、良い船乗りなのは認めるが…


マスター・アンド・コマンダー 第6章

ポート・マオンに一時帰港したソフィー号。ジャックはすでに赫赫たる戦果を上げ、「ラッキー・ジャック・オーブリー」と呼ばれるようになっています。ジャックはスティーブンと共にハート提督邸のパーティに出席しますが、絶好調の彼はジャックらしさを遺憾なく発揮、ご婦人に聞こえる所で下品な冗談を飛ばしたりする始末。ついにモリー・ハートはスティーブンに「船が火事だとでも言って、一刻も早く彼を連れて帰って!」と耳打ち、ジャックは強制送還されます。

翌日、ソフィー号は急ぎマオンを出航。二日酔いの艦長、泥酔の罪で鞭打ち刑になる者続出の水夫たち、船底にくっついていたコバンザメをプレゼントされて上機嫌の軍医を乗せたソフィー号は、ナオ岬に向かって順調に巡航を続けるのでした。


マスター・アンド・コマンダー 第7章

スペイン南岸、ナオ岬沖でスペイン艦隊に遭遇したソフィー号。二艘を拿捕しますが、高価な水銀を乗せた密輸船が砲台に守られた港に逃げ込みます。ジャックは部下を率いて上陸作戦を敢行、砲台を爆破します。その間、ディロンの率いるソフィー号は密輸船の拿捕に成功。この作戦の成功によって、ディロンとジャックはお互いに敬意を抱くようになるのでした。

スティーブンは上陸させて欲しいと−理由は告げずに−言い出し、ジャックはスペインの海岸で彼を降ろします。その後すぐソフィー号は味方のフリゲート艦隊に遭遇、ジャックは上官に呼び出され、捕虜を50人受け入れるようにと言う無理難題を押し付けられます。それから、至急アメリカ船ジョン・B・クリストファー号を捜すように。二人の反逆者が乗船している−二人は「アイルランド人連合」のメンバーだ…

アメリカ船を発見したくないディロンは航海長を脅迫して艦のコースを変え、スピードを落とすのですが…皮肉な事にまったくの偶然で、ソフィー号はジョン・B・クリストファー号を発見します。船を捜索して帰ったディロンは、反逆者は発見出来なかったと報告しますが、実は発見したにもかかわらず逃がしたのでした。軍人としての任務と過去のしがらみの間で苦悩を深めてゆくディロン。


マスター・アンド・コマンダー 第8章

アメリカ船の一件以来、ディロンとの関係がまたおかしくなったのに悩むジャックですが、ディロンのよそよそしさの原因にはまったく気づいていないのでした。それに、急な任務で艦を移動させたために敵国に置き去りにしてしまった形になったスティーブンのことも心配です。

ジャックは厄介者の50人の捕虜をドラゴン島(マヨルカ島付近の小島)に放り出し、スティーブンを上陸させた海岸まで戻ります。元気な姿で現れた彼を見て安心するジャック。スティーブンはスペイン滞在中に「偶然手に入れた情報」をジャックに告げます−ソフィー号に多くの船を拿捕されて大損害を被ったスペインの富豪が海軍を動かし、カカフエゴ号という艦がソフィー号を追っているというのです。

ある日、ソフィー号はスペインの32門フリゲート艦(※2)(14門スループ艦ソフィー号の2倍以上の大きさ)と出くわしてしまいます。まともに戦ったら勝ち目のない相手です。絶体絶命かと思われた時、相手のボートに向かってスティーブンがスペイン語で叫びます−「アルジェで疫病に感染したらしい。軍医をよこしてくれないか…」それを聞いたスペイン艦はきびすを返して去ってゆくのでした。去り際にその艦の名前を聞いてジャックは驚きます−カカフエゴ号。

しかし、ディロンは逃げずに一戦交えるべきだったと不満そうです。そんな事は自殺行為だ、と驚くジャックですが…

その後ソフィー号はマオンに帰港、ジャックとスティーブンは再びハート家のパーティに出席します。その席で、スティーブンはジャックとモリー・ハートがただならぬ関係なのに気づくのでした…

※2 フリゲート、スループ、その他: 軍艦の強さは要するに搭載している砲の数と大きさで決まる様です。軍艦の大きさとしては、大きい方から戦列艦(ships of the line)1〜4等艦>フリゲート(frigate =5〜6等艦)>スループ(sloop)…の順。他にブリッグ、カッター、スクーナーなどありますが、これらはスループより小さいようです。(<正確にはもっといろいろあるようなのですが、筆者もあまり把握していないので…)

マスター・アンド・コマンダー 第9章

晩夏の地中海を順調に航行するソフィー号。風は穏やかで、海は美しく、ジャックとスティーブンはヴァイオリンとチェロの合奏を楽しむ時間をたっぷり持つことが出来ます。快適な旅に一つだけ翳りを落としているのは、ジャックとディロンの間の緊張関係なのでした。

しかしある日、ソフィー号はフランスのフリゲート艦と遭遇。全速力で逃げている最中に、新入りの士官候補生が海に落ちてしまいます。ジャックは仕方なく艦を止めてボートを出し、仮死状態の少年を拾い上げます。スティーブンの処置のおかげで少年は命をとりとめますが、ソフィー号は敵艦に追いつかれてしまいます。ちょうどその時日が沈み、ジャックは艦の全ての明りを消し、同時にボートにランタンを灯して流します。闇夜の中、フリゲートがボートに向かって斉射を浴びせるのを後ろに見ながら、ソフィー号は何とか逃げ切るのでした。

再びマオンに帰港してみると、モリー・ハートはシウダデラ(メノルカ島の反対側の街)に出かけていて留守でした。ジャックはがっかりします。それに、父親が手紙で結婚するつもりだ−それも、ジャックよりも年下の元召使の女性と−と知らせて来た事で、彼の憂鬱は深まります。モリーに会うために巡航ルートからそれてシウダデラに寄港するジャック。しかし、彼女に会って帰ってきたジャックはひどく落胆した顔をしていました…


マスター・アンド・コマンダー 第10章

モリーとの関係悪化に悩むジャック。一方のディロンも、時が経つほど悩みを深めているようで、二人の関係はますます冷たいものになっています。そして二人とも、全てを吹き飛ばす決定的な事態を焦がれるように待ち望んでいます…戦闘を。

バルセロナ沖でさらに二艘のスペイン船を拿捕したソフィー号。ある夜、ジャックはスティーブンに言います−カカフエゴ号の件でディロンの言った言葉が、ずっと心に引っ掛かっている−落ち着いたらちゃんと説明してもらうつもりだ。

ある朝、夜明けと共に船影が現れます−カカフエゴ号です。ジャックは総員を甲板に集合させ、言います−「諸君、風上にいるのはカカフエゴ号だ。前回、彼女に挨拶もせずに逃がしたことに不満を抱いている者もいるだろう。今回は違う…我々の砲撃の腕は英国海軍一になったからだ。ディロン副長、戦闘準備にかかれ。」スティーブンは彼の顔に抑えきれない歓喜が溢れているのに気づきます…そして、ディロンの顔にも。数では圧倒的に不利な戦闘を目前にして初めて、ジャックとディロンの心は言葉を超えたもので通じ合うのでした。

「スペイン人と戦う時、嬉しいのは…連中は勇敢だが、いざという時に準備が整っていた試しがないってことだ。」ジャックはソフィー号を素早くカカフエゴ号の舷側ぎりぎりまで接近させ、矢継ぎ早に斉射を浴びせます。毎日の訓練の成果を遺憾なく発揮した、一糸乱れぬ、速く正確な砲撃。スペイン艦の砲撃は数量では勝るものの正確さに欠け、ソフィー号は敵艦にかなりのダメージを与えることに成功。

「斬り込むなら、今しかない。」ジャックはソフィー号の全員を二手に分けます。一隊をジャックが、一隊をディロンが率い、独り残るスティーブンに舵を任せ、カカフエゴ号の数百名に対し、数十名での決死の斬り込み。ジャックは男たちの先頭に立ち、舷側を飛び越え、剣を振るい、脇腹に槍を受け、耳を銃弾で吹っ飛ばされながらも、反対側から斬り込んで来たディロンの隊と共に、敵の混乱に乗じ、敵の軍旗を引き降ろし、ソフィー号の人数の少なさを悟られる前に、強引に降伏させることに成功します。

「捕虜を船倉に運べ…ディロン副長を呼べ。」…返事はありませんでした。甲板に倒れていたディロンを抱き起こすと、彼は心臓に傷を負い、既にこと切れていました…


マスター・アンド・コマンダー 第11章

14門のスループ艦での、32門フリゲート艦の拿捕−驚異的な戦功を上げたジャックですが、ディロンや他の戦死者の事を思い、心は悲しみに沈んでいました。しかし、カカフエゴ号を連行してマオンに帰ると、同僚の艦長たちからの嵐のような賞賛が待っていました。ジャックの胸にも少しづつ勝利の実感がこみ上げて来ます。そんな彼に、モリーから復縁の手紙が届きます。

未曾有の勝利に、ジャック・オーブリーの名は海軍中に轟きます…が、もう一つの芳しからぬ噂もマオン中に広まっているのでした。−モリーとの不倫です。モリーの夫、ハート艦長はジャックの上官。彼の姑息な工作によって、せっかくの輝かしい勝利にもかかわらず、ジャックはポスト・キャプテン(勅任艦長 ※3)に昇進出来ず、カカフエゴ号の指揮権も与えられず、もっと悪い事に巡航を打ち切られ、郵便船の護衛というつまらない任務を押しつけられます。これにはジャックだけではなく、ソフィー号の全員が意気消沈。

「ハートは君が我慢できずに軍規違反を犯すのを待っている。ここでキレたら思う壺だ」とスティーブンは忠告しますが、ジャックの無理に押さえつけた怒りは、大事なヴァイオリンの首を思わず折ってしまうほどに鬱積しているのでした。

郵便船を護送中、敵の港を攻撃するチャンスを掴んだソフィー号。死んだディロンの言葉がまだ心に引っ掛かっているジャックは、命令違反を承知で攻撃を敢行します。しかし、オリーブ油を満載した船に火がついて巨大な火柱が上がり、それが近くにいたフランス艦隊の注意を引いてしまいます。気づいたときは既に遅く、ソフィー号は3隻の巨大なフランス戦列艦に追われていました。張れるだけの帆を張り、必死でオールを漕ぎ、艦を軽くするために砲を海へ投げ捨て、さらに食料や水も捨て、必死で逃げるソフィー号。しかし風に恵まれず、追いつかれてしまいます。

ジャックはいきなり180度の方向転換をして戦列艦の間をすり抜ける、という奇策に出ます。これは成功したかに思われましたが…戦列艦の一隻ダセイ号は、74門の艦とは信じられぬほど敏捷に反応し、ソフィー号を追い詰めます。万策尽き、降伏の印に軍旗を降ろすソフィー号。ジャックは艦長としてはじめて、捕虜となる屈辱を味わう事になるのでした…

※2 勅任艦長(ポスト・キャプテン Post Captain): 国王の任命による終生の艦長職。一旦ポスト・キャプテンに昇進(be made post)すれば、指揮する艦の有無にかかわらず一生「艦長」と呼ばれて身分を保証され、任命順で順繰りに提督への階段を昇って行くことが出来る。逆に言えば、これに昇進できなければ海軍での未来はなく、また昇進が遅れるほど後々まで不利になる。

マスター・アンド・コマンダー 第12章

ジブラルタルに碇泊するフランス艦隊。ジャックとソフィー号の乗員たちは捕虜になっています。ダセイ号のクリスティ=パリエール艦長は紳士的で、ジャックが降伏の印に差し出した剣を返してくれた上、客人として丁重にもてなしてくれます。間もなく捕虜交換で帰れることもわかっているのですが…それでジャックの憂鬱が晴れるわけではありません。スティーブンはダセイ号の軍医ドクター・ラミを助けて両軍の負傷兵の治療に忙しく、あまり話す時間もありません。

英国艦隊に戻ったジャックですが、剣を返上して停職状態になります。艦を失った艦長は軍法会議にかけられ、自らの指揮の正しさを証明しなければならないのです。

ある夕方、ジャックとスティーブンはジブラルタルの巨岩に登り、英国艦隊とフランス−スペイン連合艦隊が出航するのを目撃します。大規模な海戦が始まるのです。ジャックは望遠鏡を掴み、固唾を飲んで見守るのですが、遠過ぎて戦況を判断出来ません。暗闇の中、砲撃の光だけがオレンジ色に輝き、2隻が爆発炎上するのが見えます。…あれは敵艦なのか?味方か?ジャックの脳裏に、かつて参加したナイルの海戦が鮮やかに蘇ります。…やがて全ては暗闇に沈み、その後何時間も、東の空が明け染めるまで、二人は物思いに沈んだままじっとそこに座っていました。

数日後。海戦に参加していたジャックの友人ヘニッジ・ダンダス艦長がジブラルタルに戻り、英国軍勝利の知らせをもたらします(1801年:アルへシラスの海戦)。自分の憂鬱を一時忘れて喜びにひたるジャック。

軍法会議。旗艦の艦尾船室に設けられた法廷に、判事役の勅任艦長たちが並んでいます。その前で、ジャックはソフィー号敗戦の顛末を説明。副長とスティーブンが彼の言葉を裏付ける宣誓証言をした後、全員が退廷します。

判決を聞くために呼び戻されたジャックは、緊張のあまり、長い海軍生活で初めて、船室の梁に頭を思い切りぶつけてしまいます。目が霞み、頭がガンガン鳴り、読み上げられる判決文はほとんど聞こえなかったのですが、気がつくと裁判長が微笑を浮かべて彼の剣を差し出していました。「おめでとう、オーブリー艦長…敵からも、味方からも、この剣が君の手に返された事を祝福しよう。名誉ある祖国の防衛のため、君が再びこの剣を取ることを望む。」

*END*



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