マイペースなあらすじ  第2巻「ポスト・キャプテン」


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第3章 第4章
第5章 第6章
第7章 第8章
第9章 第10章
第11章 第12章
第13章 第14章


ポスト・キャプテン 第1章

1802年−突然の休戦(「アミアンの和約」)によって暇になったジャック・オーブリースティーブン・マチュリンは、暫しの陸上生活を楽しもうと、ボンデンキリック等数人の水夫と共に、サセックスのメルベリー・ロッジという屋敷を借ります。早速、ジャックは乗馬を、スティーブンはサセックスの生態系の観察を楽しみます。ジャックは牝馬に乗った美しい黒髪の女性を見かけますが、その直後、乗り手のあまりの重さに辟易したジャックの馬は、彼を振り落としてしまうのでした。

メルベリー・ロッジの近所にはメイプス・コートという屋敷があり、ウィリアムズ夫人と年頃の三人の娘(ソフィア、セシリア、フランシス)、姪で若い未亡人のダイアナ・ビリャズが住んでいました。娘に良い結婚をさせることに命をかけているウィリアムズ夫人は、近所に若い独身男性が来たという噂を聞きつけ、売りこみ作戦を練り始めるのでした…


ポスト・キャプテン 第2章

娘たちと姪を連れてメルベリー・ロッジを表敬訪問したウィリアムズ夫人。久々に可愛い女性たちに囲まれ元気一杯のジャックは親睦を深めるため舞踏会を催すことにします。

その後、狐狩の時にダイアナの見事な乗馬姿を目撃したジャックとスティーブンは、彼女にすっかり心を奪われてしまいます。

オーブリー艦長とソフィーは良縁だと一人決めしたウィリアムズ夫人は、邪魔になりそうなダイアナをドーバーの親戚の所に追っ払うのですが、一枚上手のダイアナはちゃっかりジャックの部下のバビントン士官候補生にパーティの直前に迎えに来てもらう段取りをつけているのでした。バビントンからオーブリー艦長の事を色々聞き出すダイアナ。

舞踏会は盛況をきわめ、ピンクのドレスを着た輝くように美しいソフィーを見て、ジャックは恋に落ちます。一方、スティーブンはダイアナを本気で愛し始めているのに気づくのですが…スティーブンには何故かずけずけと本音で話す彼女は、「叔母との窮屈な生活を抜け出すために『対等な結婚』を手に入れる、その相手として条件の揃っているオーブリー艦長を狙うつもりだ」と至極率直に告白します。「でも、あなたのことは友達として信頼している。唯一の友達よ」…


ポスト・キャプテン 第3章

ある日、ロンドンへ出掛けたスティーブンはホワイトホール(海軍本部)へ足を運び、海軍省の諜報活動のボスであるサー・ジョセフと会います。潜在敵国のスペインを分裂させるためにカタロニアの独立運動を密かに支援している海軍。カタロニアの独立を望み、事情に詳しいスティーブンはコンサルタントと情報収集役を勤めているのです。これは、ジャックも知らないことなのでした…

一方、ジャックにショックな知らせが届きます。彼のプライズ・エージェント(拿捕賞金代理業者)が破産、ソフィー号で稼いだ拿捕賞金を全て持ち逃げしてしまい、おまけに拿捕した中立国船に損害賠償を請求され、彼は巨額の借金を背負うことになってしまいます。ジャックは第一海軍卿セント・ビンゼント卿に「とにかくすぐに艦を下さい」と頼みに行きますが、けんもほろろに断られます。破産の噂はたちまち広がり、ウィリアムズ夫人は娘が借金男とくっついては一大事と、ソフィーたち三人娘を連れて(ダイアナは残して)バースへと去ってしまうのでした。

メルベリー・ロッジで鬱々とした日々を過ごすジャックは、バースにいるソフィーが結婚するという噂を聞いて動揺します。スティーブンに黙ってダイアナと会い始めるジャック。それに気づき、ダイアナの気まぐれに傷つきながらも彼女から離れられないスティーブン。四角関係はややこしさを増してゆくのでした…

しかしある日、ゴロツキのような執行吏たちがジャックを探しに来たことで事態は急変します。捕まったら債務者監獄行きの事態にスティーブンは腹を決めます。彼はダイアナと会っているジャックのところへ行き、ダイアナを無視してジャックに言います。「このまますぐ国外脱出する。今夜中にフランスへ発って、そこからスペインの僕の家へ行こう。」立ち去るスティーブンをダイアナが追いかけて来て、彼の手を握って言います…「私を放り出して行かないで…手紙を書いて。必ず戻って来てね。」

出国の直前、ソフィーから結婚の噂を否定する手紙が届きます。陸上生活のややこしいしがらみを全て後にして、フランスへ旅立つ二人…


ポスト・キャプテン 第4章

フランス・ツーロン港。休戦により敵ではなくなったダセイ号のクリスティ=パリエール艦長と旧交を暖めるジャック。パリエール艦長はスパイ容疑者を検挙する役にもついているのですが、ジャックと食事中に部下から報告が入ります。望遠鏡で基地を偵察していた怪しい黒服の男がいた−その男の人相があまりにスティーブンにぴったりなのでジャックは驚きます。スティーブン・マチュリンをスパイと間違えるなんて、何て馬鹿らしい!僕が保証しますよ、鳥の観察でもしていたんでしょう。

話がジャックの個人的近況に及ぶと、彼は情けない顔になって告白します−結婚を考えている女性がいるのですが−実は彼女の従妹にもぞっこん参ってしまっているのです。

一方、スティーブンはフランスの情報提供者であるドクター・ラミと会い、着々と仕事を進めている模様。…ある朝早く、ジャックが物音で目を覚ますと、スティーブンが見知らぬ男から手紙を受け取っています。彼はその手紙を解読した後焼却し、ジャックに言います。「落ち着いて聞いてくれ−すぐスペインへ脱出する。明日、フランスは英国に宣戦布告する。ナポレオンは英国人を全員逮捕するつもりだ。」

南フランス。民間人も含めた英国人捕虜の一行が、フランス軍に連行されています。彼らは熊使いに連れられた一頭の熊を見かけます。フランス軍は熊使いの旅券を調べます−スペインの旅券−名前はジョーン・マーゴール−職業熊使い−熊の名はフローラ(雌なんです)。熊使いなら、熊に芸をさせられる筈だろう?ぐったりと疲れた様子の熊は、熊使いのホーンパイプに合わせていかにも嫌々という感じで踊るのでした。

一行が去ると、熊が言います−「スティーブン、この毛皮、もう脱いでいいか?」熊使いは答えます−「まだだ、ジャック。フランスを脱出するまでは油断出来ない。」…

焼けつくような陽射しの下で毛皮をかぶり、汗にまみれ、皮膚はすりむけ、犬に噛まれ、徒歩での過酷な逃避行。頼りはスティーブンだけなのですが、彼の事はよく知っているつもりだったのに、この旅で別の顔が見えたようで、ジャックは不安を感じます。人目を避け、警察と軍の目を逃れ、野を越え、難行苦行で山を越え、やっとの思いで国境を越え、辿りついたピレネーの谷間には岩山に聳える城が見えます。「あれが僕の家だ。」


ポスト・キャプテン 第5章

旅の疲れから熱病に倒れ、スティーブンの城で寝込んでいたジャックですが、数ヶ月後ようやく元気になり、二人はジブラルタルから東インド会社の貿易船ロード・ネルソン号に乗って故国へ向かいます。

しかし、船は途中でフランスの私掠船(※1)ベローヌ号に襲われます。ロード・ネルソン号は一応武装しているとはいえ所詮は商船。船長も船員も戦闘には不慣れです。助っ人を買って出たジャックは砲撃を指揮し、斬り込んできた敵をバールを振り回して撃退し、獅子奮迅の働きを見せるのですが、何しろ多勢に無勢。彼は頭と腕に傷を負って昏倒します…

彼が目を覚ますと、ロード・ネルソン号は拿捕されてスペインの港に向かっているところでした。苦労して敵国を逃れたのに、結局捕虜になるのか…望みは英国の軍艦がこの船を見つけて奪還してくれることだけです。

英国海軍のブリッグ、シーガル号が現れ、ジャックは希望を持ちますが、海戦の間捕虜は船倉に閉じ込められてしまいます。ひっきりなしに響く砲の音から、必死の思いで戦況を判断しようとするジャック。…何時間も続いた長い砲撃戦の後、船倉から出されてみると、ロード・ネルソン号は無残な状態のシーガル号にとどめを刺そうとしているところでした…

しかしその時、風上に強大な英国艦隊が出現。すんでのところでジャックは救われるのでした。

※1 私掠船(privateer): 「敵国艦船拿捕免許状(The Letter of Marque)」を政府から交付された民間の船で、敵国の商船や軍艦を襲撃・拿捕して利益を上げる、言わば政府公認の海賊船。

ポスト・キャプテン 第6章

無事英国に帰ったジャックとスティーブンですが、ジャックは借金取りに捕まったら債務者監獄行きという身の為、うっかり出歩けない立場。またスティーブンも私掠船で全財産を略奪されてやはり金に困っていたので、二人は節約のためロンドン郊外の小さな家に同居します。普段の生活ぶりは想像を絶するほどだらしないスティーブンに対し、海軍式の清潔整頓が身についているジャックは、エプロンをつけて家事に孤軍奮闘するのでした。

二人はレディ・キース(クイーニー)のパーティに出席。そこでジャックは、キャニングというユダヤ人の紳士に紹介されます。キャニングは裕福な実業家で、多くの私掠船を持っています。新しく建造する強力な私掠船の船長に優秀な人材を探している…彼の誘いのあまりの条件の良さに、ジャックは思わず心動かされます。

またこのパーティには意外な人たちが顔を出していました…ウィリアムズ夫人とダイアナです。ジャックとスティーブンを見て、心から嬉しそうな顔を見せるダイアナ。しかし、彼女の出現によって、親友同士の関係には確実に、目に見えない亀裂が生じたのでした…

その夜ジャックは、借金の事、海軍での将来とキャニングの私掠船の事、ソフィーとダイアナの事…いろいろ考え込んで眠れなくなってしまい、ヒースの野原を散歩していました。と、突然「金を出せ」と言う声がします。追いはぎです。むしゃくしゃしていたジャックは彼を簡単に叩きのめし、男はぐったりと動かなくなってしまいます。「しまった、殺してしまったか」ジャックはスティーブンに診てもらおうと彼を担いで家まで連れて帰ります。手当てを受けて息を吹き返した追いはぎ−名前はスクリブン−は、出版社に契約を反故にされて一文無しになった翻訳家でした。同情した二人はとりあえず彼を置いてやることにします。

海軍本部で新しい第一海軍卿、メルビル卿と会見したジャックは、ついに新しい艦を与えられます。艦の名はポリクレスト号。しかし、このスループ艦は通称カーペンターズ・ミステーク(船大工の失敗)と呼ばれる、新兵器の運搬のために作られた(しかしその新兵器がボツになったため艦だけ残った)妙な艦で、艦首と艦尾が同じ形なのです。再び艦長になったはいいけど、またまた苦労しそうなジャックであります…


ポスト・キャプテン 第7章

艦長に就任したジャックですが、ポリクレスト号はひどい人手不足。ジャックは物書きのスクリブンに志願兵募集のポスターとチラシを作らせます。その効果もあり、また旧ソフィー号の艇長のボンデン、ジャックが海尉に昇進させたトム・プリングズなどが集まってくれたこともあり、なんとか出航出来そうです。

ジャックがプリングズの昇進祝の宴を楽しんでいると、そこへ借金取りが押し掛けて来ます。ジャックたちは乱闘の末彼らを返り討ち、ついでに何人か強制徴募(※2)して艦に引き上げます。

陸上のごたごたを逃れて出航したジャックですが、悩みの種はこの”新型艦”です。幼い頃から軍艦暮らしで、帆船の事なら知り尽くしている彼ですが、こんな妙な癖を持った艦は初めてで、回頭(※3)するのも一苦労です。

もうひとつの悩みは副長の事。副長は緊急時以外には艦の運営を任されるのが普通で、艦長といえどもあまり干渉することは出来ないのですが、パーカー副長はやたらに規律に厳しく、ささいな事で厳罰を課すのです。水夫の間には不満が鬱積し、艦の雰囲気が日に日に悪くなっているのをジャックは感じます。

ポリクレスト号は荒天を抜けてダウンズ(ドーバー沖の錨泊地)に到着。ジャックがハート艦長に挨拶しに旗艦へ行って帰って来ると、怒りに顔を紅潮させたパーカー副長が来て言います−「重大な規律違反を報告しなければなりません…」−パーカーが水夫の一人を「口輪の刑」(※4)にしている所に通りかかったスティーブンが、口から血を流している男を見て激怒、彼の口から鉄の棒を外して投げ捨て、副長に凄い剣幕でくってかかった…と言うのです。ジャックはパーカーのやり方にも問題がある、と言った上で双方を謝罪させ、その場を収めるのですが…

その夜キャビンに来たスティーブンは、自分がここにいては君の迷惑になるから艦を降りる、と言います。たしかに暴力は軍艦の上に限った事ではないが、僕はあのような野蛮な行為の共犯者になりたくない。ジャックは言います−君は戦時法規の適応を受ける身だから下船する事は許さない。勝手に下船したら逃亡者として鉄輪をはめて連れ帰り、軍法会議にかける事になる…

※2 強制徴募(プレスpress): 民間の船に乗っている船乗り、あるいはそこらを歩いている普通の男性をさらって来て強制的に軍艦の水兵にする事。言わば、人攫いによる徴兵。

※3 回頭: 船の向きを変えること。何しろ帆船ですから、ハンドルを回せば曲がるってわけには参りません。基本的には速いが技術の要る「上手回し(tack)」と大回りだが比較的簡単な「下手回し(wear)」の二つの手法があるようなのですが、具体的にどうやるのかは…聞かないで下さい。

※4 口輪の刑: 口にマーリン・スパイク(紐を通すのに使う鉄製のでっかい針のようなもの)をくわえさせてくくりつけ、鞭で打つ。(ちなみにこの場合、もちろん軍医より副長の方が階級が上ですから、スティーブンの行為は上官への反逆ということになり本来なら軍法会議ものです。)

ポスト・キャプテン 第8章

ポリクレスト号がドーバー沖に錨泊している間、休暇の許可を得たスティーブンはサセックスの様子を見に行きます。メイプス・コートを訪ねると、ソフィーは母親に結婚相手を押しつけられて悩んでいました。スティーブンは、ジャックが艦の事で落ち込み気味であること、金が無いために部下を食事に招待することも出来ず、艦長として支障をきたしている事を話し、ソフィーは心配します。「私、ジャックの事でダイアナと大喧嘩したんです。彼女はドーバーの親戚の所へ行ってしいました。…私、母の許しなしでは結婚出来ませんけど…でも、ジャック以外の人と結婚するつもりはありません、絶対に。たとえオールド・ミスになっても…」

スティーブンはドーバーで少々頭のおかしい親戚(自分の事をティーポットだと思っている年配の紳士)の世話をしているダイアナにも会いに行きます。スティーブンに対しては相変わらず、身もフタもない残酷な態度を取り続けるダイアナですが、彼が帰ろうとすると怒ったりします。

スティーブンが帰艦すると、ソフィーからジャックに大量の食料とワインの差し入れが届いていました。ソフィーの暖かい心遣いに、涙を流さんばかりに感激するジャック。お陰で、キャニング氏と士官たちを招いての食事会は大いに盛り上がり、オペラと海軍歌の大合唱で終わるのでした。

ポリクレスト号は商船団護送の任務を与えられますが、何故かジャックはなかなかドーバーを離れようとしません。おまけに逮捕される危険を冒してたびたび上陸している様子。ある日スティーブンは、自分がダイアナに贈ったフランス香水の匂いがジャックの軍服に染み付いているのに気づいて動揺します…


ポスト・キャプテン 第9章

ある日、ポリクレスト号の水夫の1人が、鮫のいる海に落ちて溺れかけます(船乗りには泳げない人が多い)。迷わず飛び込んだジャックは手際良く彼を救出します。感心するスティーブンに、彼は「たいしたことじゃない、水から引っ張り上げたのはこれで23人目だ」と言います。

スティーブンは海兵隊長と、剣と銃の手合わせをします。アイルランド人はイングランド人より決闘することが多い…学生時代には1年に12回も決闘していたこともあるので、生き延びるために憶えた…剣では海兵隊長を感服させ、20歩離れた所からトランプのマークを撃ち抜くスティーブンの腕に、ジャックは驚きます。

商船団護衛を終えたポリクレスト号は、フランスの私掠船を発見。それは英仏海峡でジャックの乗っていた船を捕えたベローヌ号でした。復讐戦に燃えるジャックはベローヌ号を追い詰め、斉射を浴びせます。ベローヌ号はマストを失い、岩礁に乗り上げて横倒しになりますが、そこはスペインの領海だったため拿捕は出来ませんでした。

ハート艦長に報告に行くと、彼は私掠船なんか放っておいて商船を拿捕すべきだった、とジャックを叱責します。(商船を拿捕すればハートにも拿捕賞金の歩合が入るため。)それから…海軍本部から妙な命令を受けている。この封印された文書を君の軍医に渡せと言うんだ…


ポスト・キャプテン 第10章

スティーブンは再びソフィーを訪ね、「ジャックにはっきり気持ちを打ち明けてはどうか」と言いますが、彼女はためらっています。ソフィーの方は彼にダイアナに求婚することをすすめますが、スティーブンは、「僕は財産でも容姿でも生まれも宗教も(スティーブンはカトリック教徒)、ダイアナとは−ダイアナの野心とは釣り合わない」と言います…

ダイアナと一緒の馬車でブライトンへ向かうスティーブン。「所用で故郷のアイルランドへ行って来る」と彼は言いますが、本当の行き先はスペインでした。「スペインがフランスと同盟して英国に宣戦するかどうかを探れ」という海軍本部の密命を受けていたのです…

数ヶ月後。疲れ切って英国に戻ってきたスティーブンは街でジャックの友人のヘニッジ・ダンダス艦長に会います。ダンダスは「ジャックが不当に出航を引き伸ばし、何度もドーバーに上陸している、このままではマズいので何とか忠告して欲しい」と言います。

ポリクレスト号に帰ってみると、パーカーのヒステリックな怒声が響き、艦の雰囲気は前にも増してすさんでいました。新任の士官が彼に声をかけ、「艦長は女に会いに行ってるんだ」と言います。「たしかにいい女だ。俺もその気になればモノに出来るかもしれないな。」スティーブンはその言い方に内心ムカつきますが、顔には出さず、ただトランプの勝負で彼をこてんぱんに負かして全財産を巻き上げてやるのでした。

久しぶりに会ったジャックは顔色が悪く、落ち込んだ様子でした。夜眠れなくて困っているんだ。スティーブンは彼に、「上陸するのを止めろ、借金のかどで逮捕される危険があるし、任務に支障をきたしているし、ダイアナもさらし者になっている」と忠告します。ジャックは頭に血が上り、「ダイアナが君に保護を頼んだのか?余計なお世話だ。」と反駁します。スティーブンがダイアナを自分のものにするために、忠告にかこつけて別れさせようとしているのではないかと疑った彼は「どんな卑怯者(=bastard ※5)でも、言葉を並べればごまかせるものだな」と言います。「言いすぎだ。取り消したまえ」「取り消すものか。それに君は嘘吐きだ、その日焼けした顔で、アイルランドへ行ってきたなんて…」「何て変な巡り合せだろう−非難(=challenge※6)で始った我々のつき合いが、非難で終るとは。」

ダンダスに立会人を依頼して決闘の準備を進めるスティーブン。ジャックはまたダイアナに会いに行きますが、家の窓から彼女がキャニングと会っているのを目撃し、ショックを受けます。

ところが、ポリクレスト号が急な命令を受けたために決闘は延期になります。ショウリャー港(砂州や浅瀬の入り組んだやっかいな港)に、フランスのコルベット艦、ファンシウラ号が逃げ込んだ。この艦と港にいる他の敵艦を、出来る限り拿捕または破壊せよ…

※5 bastard: 野郎,畜生,ろくでなし…てな感じの侮辱の言葉ですが、元々の意味は「私生児」。

※6 challenge: 「決闘の申し込み」という意味もあり。当時のヨーロッパの紳士階級では、面と向かって侮辱されたり、謂れ無き非難を受けた場合、相手に決闘を申し込まないのは臆病者(またはその非難を是認している)と見なされたようです。現代の常識からすると馬鹿らしく思えますが、つまり「名誉の問題」ってことでしょう。決闘は双方が立会人をつけ、剣かピストルで行ないます。相手を殺すことを目的としているわけではなく、どちらかが死ぬとは限らないのですが、もちろん死ぬこともあります。

ポスト・キャプテン 第11章

フランスのショウリャー港に向かうポリクレスト号。病人の治療をしていたスティーブンは、水兵たちのひそひそ話を小耳にはさみます。「ドクターは大丈夫だ…彼はいい人だ…こっちの味方だ…」

ジャックに会いに行ったスティーブンは、固く冷たい表情で、「面会を申しこまざるを得なくなって残念だが…反乱(※7)が起ころうとしている。連中はフランスの港に艦を運び込むつもりだ」と告げます。「首謀者が誰かは、教えてくれないんだろうな」「当然だ。僕は密告者じゃない」…スティーブンが部屋を出て行くと、ジャックの心はこれまでになかった程の絶望感に苛まれます。(それに、なぜ今のチャンスにスティーブンに謝罪しなかったのだろう?)しかし、これは艦長であるジャックが一人で対処しなければならない事態なのです。

ショウリャー港に近づくと、ジャックは全員を甲板に集めました。「諸君、この艦で何が起ころうとしているか、私は知っている。君たちはとんでもない愚か者だ−私が連絡すれば、簡単に全員を絞首刑にすることが出来る。しかし、私はそうするつもりはない。何故なら、本艦はこれから戦闘に突入するからだ。私は他の艦の連中に言わせるつもりはない−ポリクレスト号が臆病者だとは。」「そうだ」水兵から声が上がります−「あんたじゃないんだ、艦長。あの情け知らずのパーカーのせいだ。」「黙れ。ポリクレスト号には、たしかに未熟者が多い。口数の多すぎる者もいる様だな。しかし、臆病者は一人もいない。我々が怖じ気づいているとは、誰にも言わせない。これから我々はフランスの艦を叩くのだ−彼ら自身の港で。」

港に突入する時、もう艦の団結を乱す者はいませんでした。しかし、進入路を誤った艦は砂州に乗り上げてしまいます。砲台に狙いをつけられて身動きとれなくなったポリクレスト号。ジャックは砲台の真下に碇泊しているファンシウラ号を乗っ取ることにします。志願兵を募ると、ボートに乗りきれぬ程の男たちが彼について来ました。右手に剣、左にピストルを握って斬り込んだジャックは、凶暴な力を爆発させてフランス兵を薙倒し、艦の乗っ取りに成功。ポリクレスト号を救出に向かいますが、艦は砲台の十字砲火を受けてすでに沈没寸前でした。ジャックは乗員をファンシウラ号に移し、甲板に立って自艦が沈没してゆくのを見ます。彼はいつの間にか肩と頭に深手を負っていて、足元には血だまりが出来ていました。彼の耳にスティーブンの声が、まるで夢の中のように響きました−「さあ、友よ(brother)−下へ行こう。こんな血だらけのところにいちゃいけない。ボンデン、一緒に艦長を運んでくれ。」

※7 反乱(mutiny): 虐待されて不満を抱いた水兵たちが、艦長および士官たちに対して蜂起すること。大抵の場合、艦長と艦長の味方についた士官たちを殺して逃亡する。艦を奪い、敵国に売り渡すことも多い。反乱を起こした艦の水兵たちが捕まれば軍法会議にかけられ、まず間違いなくヤーダーム(マストの桁端)にて絞首刑。

ポスト・キャプテン 第12章

「体内に血液が3オンスしか残っていなかった」−という程の重傷を負いながら、スティーブンの治療により命を取りとめたジャック。ドクターの言いつけを厳格に守らせるよう、見張り役を買って出たキリックと共に、彼は馬車でロンドンへ向かいました。

自艦を失ったものの、敵艦2隻を拿捕、多くを航行不能に追い込んだ彼の活躍は好意的に報道されていました。しかし今までの事があるので、ジャックは不安な気持ちで第一海軍卿と面会します。しかし、メルヴィル卿は彼を暖かく迎え、思いがけない知らせをもたらしてくれます。ジャックは念願の勅任艦長に昇進したのです!身体中包帯だらけで、かなり弱っている彼ですが、心には歓喜と新たなエネルギーが湧いてくるのを感じるのでした。

喜びをかみしめながらロンドンの街を歩いていた彼は、教会から流れるパイプオルガンの音に惹きつけられます。しかし、オルガンに風を送る役の少年が逃げてしまったため、音楽は突然途切れます。ジャックは「こんなに素晴らしい音楽を止めてしまうなんて惜しいです、風がないぐらいのことで」と送風役を買って出ます。荘厳なオルガンの響く中、教会では結婚式が行なわれました。可愛らしい、若いカップル…少年のような花婿と臨月の花嫁。幸福に輝く二人を見ながら、ジャックは自分の過去のこと、将来のことをしみじみと考えるのでした。

ライブリー号というフリゲート艦の代理艦長を命じられたジャックは、スティーブンに手紙を書きます−「代理艦長なのであまり勝手には出来ないが、ぜひ僕の客人として来てほしい。もう君以外の医者には身体を預ける気になれない−ライブリー号に乗りこんだら、全てに片がつくまで、もう二度と上陸はしないと誓う。

ライブリー号はポリクレスト号とは大違い。前任艦長の管理が行き届いていて、副長をはじめ士官も水兵も腕利き揃い、規律正しく、しかも雰囲気の良い艦でした。しかし、この艦ならではのやり方が確立していて、代理艦長のジャックはかえってやりにくさを感じ、遠慮がちになってしまいます。スティーブンはといえば、そういう遠慮など一向に感じていないらしく、艦にミツバチの巣を持ち込み、ジャックの反対もどこ吹く風で生態観察に熱中するのでした。


ポスト・キャプテン 第13章

スティーブンが再びドーバーのダイアナを訪ねると、ダイアナも彼女の親戚も消えていました。不思議なデジャヴ(既視感)に襲われながら、空っぽの屋敷を歩き回るスティーブン。

帆走の腕と規律にかけては超一流のライブリー号ですが、実戦経験がないため砲撃はイマイチです。ジャックは砲撃訓練を兼ねてフランス沿岸の砲台を片っ端から攻撃。砲撃の腕は日に日に上がり、乗員たちもだんだんジャックのやり方に慣れてきます。

ソフィーと妹が滞在しているプリマスの港に来たライブリー号。会いに行かないのか?というスティーブンに、ジャックは「借金に追われている身で会うことはできない」と言います。「裏道をこそこそ歩かなきゃいけない身で、どんな顔をして会えばいいんだ…?」


ポスト・キャプテン 第14章

スティーブンがソフィーに会いに行くと、妹のセシリアが「ダイアナはキャニング氏の愛人になったのよ」と言います。「私たちの結婚にさしつかえるって、お母様は怒ってるわ。」スティーブンはソフィーに、艦に同乗させて欲しいとジャックに頼んだらどうか、と勧めますが、ソフィーは女の方からそんなに図々しい事は言えない、と尻込みします。「ソフィー、君の勇気はどうしたんだ?勇気こそ、ジャックが評価する唯一のものなんだよ。」

勇気を出したソフィーは、プリマスからドーバーまでライブリー号に乗せてもらうことにします。ジャックは大喜びで、部下たちとスティーブンの呆れ顔にも気づかず、上等の食器を揃えたり船室を飾り立てたりと大騒ぎで準備を整えるのでした。

スティーブンは再びスペインに潜入し、スペインが開戦しようとしている確証を掴みます。ロンドンに帰ると、ソフィーとジャックから、熱に浮かされたような手紙が届いていました。「手紙を涙で汚してしまいそう…私たち、結婚の約束を交わしたんです!もちろん母は大反対していますけど…私、いつまでも待ちます…」「僕は妻となる女性を手に入れた…彼女はまるで32ポンド砲のように素晴らしい!…」その有頂天ぶりに呆れながらも、心から喜ぶスティーブン。

翌日、サー・ジョセフに会ったスティーブンはスペイン海軍の状況を詳しく報告します。黄金を積んだ艦が南米からカディス(スペイン南西岸)に着く予定になっている。この艦を奪取できれば、スペインの軍資金は多大な損害を受け、英国は緒戦から優位に立つことが出来るだろう。サー・ジョセフと第一海軍卿はさっそく艦隊をカディスに派遣することにします。「私の活動に対して、今まで報酬を受け取った事はありませんが…」スティーブンはサー・ジョセフに言います。「今回は1つだけお願いしたい。その艦隊にオーブリー艦長を参加させて欲しいのです」…

ライブリー号はフリゲート艦4隻からなる艦隊に参加。カディス沖でスペイン艦隊を発見した英国艦隊は、4対4の砲撃戦に勝利します。が、肝心の黄金を積んだ艦が逃亡してしまいます。追跡を買って出たライブリー号は、自慢の帆走性能を遺憾なく発揮、スペイン艦を追いつめ、斬り込みなしで比較的簡単に降伏させることに成功します。

元気一杯のジャックは捕虜になったスペインの艦長たちを食事に招待し、ワインを振るまいます。「私たちと乾杯してくれませんか?…ソフィアに!」「ソフィアに乾杯!」−敵味方の艦長たちは声を揃えます。「ソフィーに」スティーブンがグラスを上げました−「彼女に祝福あれ。」

*END*


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