Chapter 10-3 〜 ミズンマストに青の旗


(p249〜p251)拿捕したエスメラルダ号を引き連れてヴァルパライソに帰還したジャックたちは盛大な歓迎を受ける。連夜のように盛大なディナーパーティに招かれるが、ジャックはだんだん機嫌が悪くなってくる。

それは、怪我が治っていないのに、エスメラルダ号の修理や他の艦の装備に飛び回っているので疲れているせいもあるが、最大の原因は、チリ当局からヴァルディヴィアとエスメラルダ号の正当な拿捕賞金が支払われないことだった。輝かしい勝利を収めたにもかかわらず、上陸してビール一杯飲む金もない乗員たちに不満が高まってくることをジャックは心配している。


脚の怪我が治っていないジャックは、杖をついて歩き回っているのですが、無理がたたって痩せてしまっているようです。(まあ、いつもよりは)

ジャックは、治療のことについてスティーブンに文句を言ったりすることはまずないのですが、よっぽどストレスが溜まっているらしく、珍しく「包帯の巻き方がきつすぎる」ときつい言葉で言ったりしています(すぐに謝るのですが)。

スティーブンは、文句を言われること自体はまるで気にしていないのですが、その不機嫌が、傷が悪化している影響ではないかと心配しています。このへんはさすが医者と言うか、さすがスティーブンというか。

(p252〜p256)ジャックとスティーブン、チリ独立政府の高官カレラに招かれてディナーに出席する。カレラはオイギンスからの伝言として、オーブリー艦長に土地が贈られることをもったいぶって伝えるが、その土地は敵対的な原住民が住んでいる上、松の木に覆われた役立たずの土地だった。ジャックは冷たい威厳をこめて、部下たちにすぐに正当な拿捕賞金が支払われなければならない、月末が期限だ、と宣言する。カレラは慌てて、すぐにサンティアゴにいるオイギンスに連絡を取ると言う。

翌朝、カレラはサンティアゴに使いを出す。スティーブンは港を歩いていて、チリ海軍の軍艦「オイギンス号」が「サン=マルティン号」に改名されているのを目撃し、チリ独立政府内の風向きが変わってきたことを悟る。ジャックは、オイギンスは友人だがサン=マルティンには一度しか会っていないしあまり好感がもてなかった、状況がこれ以上悪くなるようなら辞職願いを出して英国に帰る。しかし約束は約束なので、月末まではチリ海軍の士官たちを訓練する任務を果たす、と言う。


ディナーにクリスマスプディングが出ているので、多分この「今月」というのは12月のことと思われます。

「オイギンス号」だった艦が「サン=マルティン号」になっている、ということですが、このサン=マルティンとは、アルゼンチン人のホセ・デ・サン=マルティンのことです。

サン=マルティンはで南米各国のスペインからの独立に活躍し、オイギンスと共同でチリの独立を成し遂げた人ですが、やはり後に失脚し、ヨーロッパに戻って失意のうちに亡くなったそうです。その功績が認められ名誉回復したのは、ずっと後になってからだとか。なんというか、難しいことなんですね、英雄になるのって。

船の名前を途中で変えるのは、ジャックに言わせると「縁起が悪い」そうです。そういえば、敵国から拿捕して英国海軍のものになった時でさえ、艦の名前は外国語名であっても、たいていそのまんまにしていますね。英国人が発音できない名前だとか(笑)、敵国の政治理念に関連した名前なのでマズいという場合は別ですが(フランスのUnité(団結)号がサプライズ号になったように)。

(p256〜p261)その後のジャックは、チリ海軍の若い士官たちの訓練に集中する。ヴァルパライソ沖の諸島を測量するついでに、サプライズ号は他の艦を引き連れて沖に出て、操船・操帆を徹底的に訓練し、艦長・副長たちを順番にサプライズ号に呼んで英国海軍式の軍艦の運営全般を教える。厳しい訓練に生徒たちは苦労するが、体力のある若者たちはついてくる。航海術と天文学・数学の教育は、基礎ができていないために最も困難を極めるが、ここではダニエルとハンソンが大いに役立つ。

日は過ぎ、いよいよ明日が約束の期限という30日。スティーブンが沖の小島のひとつで鳥を観察していると、1隻のブリッグがやってくる。それはジェイコブの友達の宝石商が所有するブリッグで、望遠鏡で見るとジェイコブが乗っていて、ニコニコ笑いながらなにかジェスチャーをしている。

スティーブンが急いでサプライズ号に戻ると、ジェイコブはヴァルパライソに届いてたばかりのジャック宛の手紙をスティーブンに見せる。暗号文で、まだ一部しか解読していないが、これは急いで艦長に知らせなければならないと思った、と彼は言う。「彼は君の親友だから、君から伝えるべきだ。」

スティーブンはジャックに会い、手紙の解読した部分をジャックに読む。「本命令を受領後、直ちにラプラタ川に向かい、当地にて南アフリカ艦隊と合流し、英国海軍インプレイカブル号に乗艦の上、ミズンマストに青色旗を掲げ、青色艦隊の指揮を執られたし。

ジャックは腰を下ろし、頭を垂れて両手に埋めた。彼はほとんど威厳を失いかけていたが、一瞬後、こう言った。「スティーブン、今のところを、もう一度読んでくれないか。…まったく、スティーブン、このニュースを伝えてくれたのが君でよかった。


ジャック、青色艦隊少将昇進おめでとう!

17巻あたりからずっと、「黄色艦隊少将になる(yellowed)」こと(つまり、形だけ将官になって指揮する艦隊はなしになること)を、それこそ死ぬほど心配していたジャックですが…ペルーからエスメラルダ号を拿捕して、チリの独立を確実にするという貢献をいち早く本国に知らせたのが効いて、無事昇進を果たしたようです。よかったね〜。スティーブンも、いろいろ苦労して根回しして、このチリ行きを実現させた甲斐があったというものです。

(p261〜p262)「ぼくからも、お祝いを言わせてもらっていいかい、親愛なる提督?」スティーブンはジャックを抱擁し、ジャックはごく自然に抱擁を受けるが、まだ少しぼんやりしていた。「素晴らしいことだけど、ぼくはまだ、チリ政府との約束に縛られている。」

ちょうどその時、チリ政府の使者カレラがサプライズ号に来て、「チリ政府はあと三ヶ月支払いを待ってほしいと言ってる」と伝える。ジャックは、「今月末が期限という約束だった。別方面に向うよう命令を受けたので、貴国の若い士官たちを連れてお戻り願いたい。チリ海軍の未来の繁栄を心からお祈りする。」と答える。

チリの若い士官たちが、カレラの乗ってきたスループに移った後、サプライズ号は命令書に従ってラプラタ川(アルゼンチン)へ針路を取る。二隻は礼砲を交わし、友好的に別れる。


いつものように、最後の数ページでばたばたと忙しく展開するラストでしたが、ジャックにとって最高のハッピーエンドでよかった。

最後の文を引用:
最後の礼砲の後、ジャックは上を見上げた。まだ、素敵な西風が吹いている。そして彼は艦首と艦尾を見た。規律正しい、すっきりした甲板、乗員たちはみな部署につき、みな喜びに微笑を浮かべている。航海長の方を振り向いて、彼は言った。「ミスタ・ハンソン、ピラー岬からマゼラン海峡へ向かう針路を取れ。」

ここでもう一度、おめでとう、ジャック・オーブリー提督!

さて…

1巻のあらすじを書き始めた時から数えると、6年半に渡って、自分でも呆れるほどしつこく書いてきた「感想」ですが…ここでとりあえずゴールとなりました。ここまで長々とおつきあいいただいた方々、まことにありがとうございました。

でも、あとまだ未完の21巻があるんですけどね。それは年が明けたらまた。