Chapter 1-2 〜 嵐とワーテルロー


(p4〜9)賞金の分配を終えたサプライズ号、チリに向かって出航するが、その夜、ひどい嵐になる。嵐の中、正体不明の船がサプライズに衝突。サプライズはヘッドとバウスプリットを破壊され、浸水してしまう。ジャックはジブラルタルへ戻る。

莫大な拿捕賞金を手にしたサプライズ号クルー。ジャックの方針により、家族のいる水兵は、一定の比率を直接英国に送るように指導されているのですが…残りの金だけでもかなりの額。賞金分配した後、上陸休暇なしですぐに出航できてよかった、とジャックは言います。大金を手にした水兵たちが上陸すると、酒と女と賭博でたちまちスッテンテンにされるだけならまだしも、ケンカ沙汰で逮捕されたり、怪我したり病気をもらったり、果ては脱走する兵も多くて、だいたいロクなことにはならないので。

ところが、出航したとたん、海はたちまち荒れ模様になります。甲板を歩き出そうとして転びかけたスティーブンの肘を、ジャックが(もはや無意識の条件反射のように)さっとつかんで支えるシーンがあって…こういうのって、このシリーズ20巻にわたって、もうすっかりおなじみの光景なんですけどね。久しぶりに読むと、こういうちょっとしたことがなんとなく懐かしくて、ほのぼの気分になってしまいました。

夜に入って嵐はますますひどくなり、トップライト(夜間にマストに下げておく灯り)が壊れて消えてしまい、航海士のダニエル君(憶えてる?)が直す作業をしているところです。

サプライズ号のもうひとりのドクター、Dr. エイモス・ジェイコブ(憶えてる?)が、激しい揺れの中でワイングラスを持ったまま転んで(彼にはとっさに支えてくれる人がいなかったので)ケガをしていしまい、スティーブンと女性看護士のポル・スキーピング(憶えてる?)が手当てをしている時…船に激しい衝撃が走りました。

正体不明の船(たぶん外国の商船)が、暗闇の中でサプライズに衝突し、バウスプリットとヘッドを大きく破壊して、そのまま姿をくらましてしまったのです。思わぬ「あて逃げ」被害に遭ったサプライズ号。ジャックは仕方なく、船を何とか安定させ、ポンプをつきながら風下のジブラルタル方向へ戻るのでした。

(p10〜p11)ジャック、書記のアダムスを呼んで簡単な報告書を書き、マシな外見の士官候補生をよく洗ってバーマス卿に届けさせるように言う。「しっかりした水兵に彼を送らせるように」と言うが、その時ボンデンの名がのどまで出かかる。

ジャックがバーマス卿のところに出頭すると、彼の妻のイゾベルが来て「会えてうれしい」と言い、クイーニーが心配しているので、ぜひ今日、キース夫妻のディナーに来て欲しいと言う。バーマス卿は、「サプライズ号にぶつかった船は捜させている、しかしサプライズ号はもう私有船の身分に戻ったのだから、修理を待っている軍艦より先に修理させるわけにゆかない」と通告する。ジャック、応急修理だけはお願いしたいと言う。


マシな外見の士官候補生を選ぶというのは、手紙を受け取った相手がサプライズ号の規律を士官候補生の格好で判断するから、ということでしょうか。まあ、キレイな封筒を選ぶというのと同じような感じ?(笑)

信用できるしっかりした水兵に送らせるというのは、士官候補生が帰りにふらふらと遊びに行ったりしないように、ということです。建前上は部下を指揮する立場とはいえ、実際のところはただの遊びたいさかりのガキですからね、士官候補生って。

「しっかりした水兵」と考えて、思わず「ボンデン」と言いそうになり、改めて彼はもういないんだと思い出し、「今までにないほどの強い痛み」を感じるジャック。彼の戦死の直後には、あまりゆっくり悼んでいるヒマもなかったから、こうして後でじわじわとコタえてくるのでしょうね。しくしく…

ところで前回、私、キース卿が地中海艦隊の最高司令官(コマンダー・イン・チーフ)だって書きましたっけ?すみません、間違えてました。キース卿は19巻の終わり頃に引退して、ジャックとはイマイチ折り合いが悪いバーマス卿が引き継いでいたんでした。どうも、久しぶりだと細かいところを忘れてしまっていますね…

そう、それからこれも忘れかけてましたが、サプライズ号は戦争の再開で臨時に海軍に復帰していましたが、終戦とともにまた「海軍雇用私有船」の身分に戻ったのでした。チリに「海洋測量にゆく」というのはもちろん表向きで、本当はチリのスペインからの独立を支援するという英国政府肝いりの任務なんですけど…バーマスはそこんとこ、よく知らされていないようですね。これがキース卿なら、すぐに計らってくれたのでしょうが…

(p12〜p16)ジャック、キース卿のディナーに出席する。ディナーの客として、ワーテルローの戦いで指揮官ウェリントン公爵の副官のひとりだったローチ大佐が来ていた。ジャックはぜひ、ワーテルローの戦いの話をしてほしいと頼む。大佐はクライマックスだった6月18日の戦闘を詳しく再現する。全員が熱心に聴いている。

ご存知の通り、ワーテルロー(英語読みだとウォータールー)の戦いとは、イギリス・オランダ・プロイセンなどの連合軍がナポレオンのフランス軍に勝利し、ナポレオン戦争に終止符を打った陸戦です。

有名な戦闘に参加していたと言っても、個々の士官には全体の状況が分からないのが普通ですが、このローチ大佐は指揮官であるウェリントン公爵の副官。公爵は一番状況が把握しやすい丘の上に陣取っていて、このローチ大佐は副官として公爵のそばに控えていたので、かなり全体の戦況を把握しやすい位置にいました。これ以上ないほど適任の人物による歴史的戦闘の現場報告とあって、ディナー・テーブルのほとんどを占めている海軍士官たちは興味津々。食事のことも忘れ、スープを注ぎに来た召使をバーマス卿が追い返すほど、熱心に聞き入っています。

大佐は海軍さんたちの要望に答えて、海軍士官がディナーの席上で海戦を再現する(時々ジャックたちがやっている)ときのように、パンかごやパンやワインのボトルで騎兵隊や歩兵隊や砲兵隊を示しながら、くわしく語りました。

その報告ですが…あいにく私、海戦のことはこのシリーズを読んでいるうちに少しはわかるようになってきましたが、陸戦となると読んでもあんまりピンとこないので、うまくまとめられません。(たぶん、上のウィキペディアを読んだほうがわかりやすいかと。)ポール・ベタニーが出ているという「シャープ」のドラマのエピソード(Sharpe's Waterloo)でも見ておけばよかったかなあ。

ひとつ興味深いと思ったのは、陸軍の小隊が一つの戦闘に勝ったしるしとして奪うのが鷲の記章(eagle)で、海軍でいうとcolour(軍旗、海戦で負けた艦が降伏の印に降ろす)にあたる、と言っていたことです。鷲の記章っていうと、ローマ軍の印ですよね。その伝統を継いでいるんでしょうか。

(p16〜p18)ジャック、ディナーの後でローチ大佐と二人で話す機会がある。ジャックにウェリントン公爵のことを聞かれた大佐は、ワーテルローの戦いの後、公爵は戦死者の死体であふれる戦場を歩き回りながら「負けた戦いの次に悲惨なのは勝った戦いだ」と言っていた。

また公爵は以前、陸軍兵士のことを「人間のくず(scum of the earth)」だと言っていた。それを聞いた時は反発を感じたが、ワーテルローで勝利した後、パリに戻る途中で兵士たちが同盟国内で民間の村を襲撃し、略奪とレイプの限りを尽くしているのを見て、その言葉を思い出した。「人間は厳しい規律に縛られているほど、それが解けた時には悪魔のようになるものです。」と大佐は語る。


ふーむ、考えさせられます。

私は常々、飛行機が発明されて、空から爆弾を降らせて簡単に一方的に何万人も殺すというのが始まってからの戦争と、それ以前の戦争というのは違いがあって、あんまり一緒くたには語れない、と思っているのですが…

規模の違いはあるにせよ、民間人が一方的に被害に遭うというのは、昔の戦争でもやっぱり避けられないのね。

このシリーズ、もちろん反戦文学とかではまったくないのに…こういう話が、ワーテルローみたいな栄光ある大勝利の話のすぐ後に、特に思い入れも教訓もなしで、単なる「別の側面から見た現実」みたいな感じでひょろっと挿入されているあたりが…すごいんだなあ。