Chapter 2-1 〜 ジブラルタルの噂


(p30〜p32)バーマス卿の妻イゾベルとジャック・オーブリーの仲は、ジブラルタルでもっぱらの噂になっている。バーマス卿は自分の愛人からそれを聞かされる。イゾベルをなるべく怒らせたくない、またキース卿のお気に入りのオーブリーとなるべく表立って事を構えたくないバーマスは、とにかく彼をさっさとジブラルタルから追い払う目的で、サプライズ号の修理を最優先させるようにヤードに取り計らってくれる。

ジャックがさっさと海に出られずに、いつまでも港でうろうろしていると、まあたいがい、よくない結果を招くようです。

地中海艦隊最高司令官であるバーマス卿の新婚の妻イゾベルは、ジャックの親戚で幼なじみ。この二人が実際に不倫しているかどうかは、はっきりしないのですが…というか、ジャックの天真爛漫っぷりを見ると、まあ多分、本当は無実なんだろうな、とは思うのですが…

それにしても、「夕暮れに二人で散歩したり、月明かりの中を二人で海水浴したり」はしているようで。まあ、噂にもなりますわなあ。

もちろん気に入らないバーマス卿ですが、自分もちゃっかり愛人がいる上に、イゾベルはこういうことで責めたりすると10倍ぐらい言い返してくる性格らしいので、なるべく怒らせたくない。またジャックと表立ってケンカして、キース卿の機嫌をそこねたくない。ということで、サプライズをさっさと修理して追い払う、という賢明な作戦に出たようです。ジャックの不注意さが吉と出た珍しい例ですね。

バーマス卿の隠れた動機にはまるで気づいていない鈍感ジャックは、スティーブンに「君のコネのおかげかな」などと言ってニコニコしています。そのジャックの顔を「愛情をこめて(with affection)」眺めながらも、心の中では「あれだけ噂を呼ぶようなことをしておいて、本当に気づいてないんかい?」と突っ込まずにはいられないスティーブンがまた(笑)。

(p33〜p38)スティーブン、シエラレオネのクリスティーン・ウッド総督未亡人(夫の死後も動物の研究のためにアフリカにとどまっている)に手紙を書いている。話題は博物学のことにとどめ、馴れ馴れしい言葉遣いが入らないように細心の注意を払っているが、実のところ、近頃のスティーブンは彼女のことばかり夢想するようになっている。

17巻に出てきたクリスティーン・ウッドさん、憶えてますか?スティーブンの博物学仲間の妹で、彼女自身も博物学者で、シエラレオネ総督の若く美しい妻だった…スティーブンの「ポト」(霊長類の一種)を預かってくれた人です。

17巻でサプライズ号がシエラレオネに立ち寄った時、スティーブンと彼女は、なんとなくいい雰囲気になっていました。当時は二人とも結婚していたので、もちろん何もなかったのですが…

19巻のはじめにダイアナが死んだとき、同時にクリスティーンの夫も死んでいて、ああこれは伏線だな、と思っていたのですが…やっぱり。

私、クリスティーンは別に嫌いじゃないのですよね。むしろあのオタクっぽさや、無敵のマイペースっぷりは、好きな性格かもしれん。でも、私はご存知の通りダイアナ好きなので、ちょっとフクザツです。なぜかオブライアン読者にはダイアナが嫌いな人が多いみたいなんですけど、彼女の悪口を読むたびに、むしろ意地になってますますダイアナ贔屓になったというか。

それにしてもさー、私がダイアナが好きなのは何度も書いているから知っているでしょうに、明らかに彼女に好意的に書いた感想の後で、わざわざ「前からダイアナは嫌いでしたが、Kumikoさんの感想を読んでますます嫌いになりました」なんていうメールを送ってくることないと思いません?(18巻のときでしたが。)何ヶ月もの間何の反応もなかった後で、ようやく来たメールフォームがこんなのだと、ほんとうにがっくりしますよ。いやすみません愚痴でした…

ところで、クリスティーンへの手紙を書きながらスティーブンが「大人になってから心惹かれた女性に共通する特徴は何だろう?」と自問自答しているシーンがあって、「姿勢がよくて、自意識や気取りがなく、自然な優雅さをもって、女性にしては広い歩幅で一直線上を歩く」と答を出しているのが面白かった。たしかに二人とも、気取らずに大股でがしがし歩きそうな女性です。ダイアナはたぶん女っぽい体型であったのに対して、クリスティーンは中性的(androgynous)と表現されていて、そういうところはイメージ違うけど。

まあ、私だってスティーブンを愛しているし、また幸せになってもらいたいとは思いますけどね。でも、あんまりすぐに幸せになられると、それはそれでひっかかるというか…フクザツな女心なのでした(笑)。クリスティーンはいいキャラかもしれないけど、2巻からずっと、さまざまな嵐をくぐってきたダイアナとの関係の代わりにはならない気がします。

代わりにならないって言えば…長年ボンデンが勤めていたジャックの艦長づき艇長は、いつまでも空席というわけにもいかないのでレイサムという水兵が後任になったようです。有能な人のようですが、でも、ボンデンの代わりにはならない、とジャックも思っているようです。しくしく…

(p39)その夜遅く、サプライズ号は出航する。ベールをかぶったイゾベルが、また手を振りながら見送っている。

バーマス卿の下心のあるはからいにより、突貫工事で応急修理を済ませたサプライズ号。一時の見通しより大幅に早くマデイラ島へ向って出航できることになったので、ジャックと別れたくないイゾベルは悲しんでいます。ジャックの方は悲しんでいる様子はまったくないようで。どうやらこの「浮気」は、イゾベルの方の片想いだったのかな?

前章の終わりでは、ジャックはマデイラ島で応急処置をして英国のヤードに戻るというつもりだったようですが、この分だとマデイラで修理と人員補充を済ませてそのままチリへ向えるのではないか、と思ったジャックですが…

(p40〜p44)サプライズ号がマデイラ島のフンシャルに到着するが、タイミング悪くヤードが火事になってしまっている。ジャックが港湾司令官に会いにゆくと、火事になったヤード以外にサプライズを扱えるヤードはないし、今は東西インド諸島行きの貿易船団が相次いで出航した直後で、マデイラにはまともな船乗りは一人も残っていないと言われる。結局、ジャックは一旦英国へ帰る決心をする。

またしてもバッドタイミングでチリ行きが遠のいたサプライズ号。こうやってぐずぐずしているうちに、チリの事情が変わってしまうのではないか、とスティーブンは心配しています。それはそうですよね。しかし、なにしろ移動手段は船だけが頼りなので、プロの船乗りのジャックに「ホーン岬を越えるには修理と有能な乗員が絶対に必要」と断言されてしまうと反論もできず…