Chapter 3-1 〜 帰郷


(p57〜60p)サー・ジョセフ、いつものようにスティーブンを温かく歓迎する。スティーブンはサー配下の暗号の専門家にジェイコブの手紙を見せる。さすがはプロで、専門家はジェイコブがどこで暗号化を間違えたか割り出し、中身を解読してくれる。

チリでは懸念していた事態が起こっていることが分かる。影響力のあるチリ人の独立派グループが、元英国海軍のデビッド・リンゼイ卿と接触した。サー・ジョセフ、リンゼイ卿がどのような人物か語る。彼は元海軍艦長で、一対一の海戦では優秀だったが、命令に従うのが苦手で艦隊の一員になると能力を発揮できなかった。短気な人で、違法な決闘をしたことで海軍を辞めざるを得なくなった。


この暗号の話、当時のアナログな(<当たり前)諜報活動の一端が垣間見えるようで面白かった。

チリの方でも、独立をめざすグループといってもいろいろありまして、それぞれがバラバラに活動しているようです。南北に長い国ですしね〜。英国政府と海軍省としては、表向きは民間船のサプライズ号を派遣して独立派を支援することで、独立が成功して新政府が樹立された時にはしっかり緊密な関係を結びたいという狙いがあるわけで、リンゼイ卿のような個人が勝手に、英国政府が支援しようとしているのと別のグループの味方になったりしたら困るわけです。

スティーブンは、リンゼイ卿のことはジャックから聞いたことがあったそうですが、改めてサーから詳しい話を聞いて「ジャックは全てを話していたわけではなかった」と考えています。ジャックは人の悪口が、特に海軍の仲間の悪口が嫌いだからなあ。

ちなみに、ジャック・オーブリーは実在の海軍軍人・コクラン卿をモデルにしている部分があるのですが、このリンゼイ卿もコクラン卿がモデルのようでもあります。ジャックとリンゼイ卿は、一見性格が似ているような気もします。どちらかと言えば単独の航海が得意なところとか。でも、ジャックは他人の指揮下でもけっこううまくやるし、気短に見えても、カッとなって決闘したりは絶対しないものなあ。意外とオトナなんです。少なくとも、4巻ぐらいからこっちは。

(p60〜p62)スティーブン、グレープス亭でも温かく歓迎される。サラとエミリーは背が伸び、もうほとんどスティーブンと変わらない背になっている。二人は勉強の成果をスティーブンに見せる。フランス語や算数はあまり得意でないようだが、夕食の時になると、二人は素晴らしい才能を見せる。スティーブンとリードはロブスターと魚にクリームをかけた素晴らしい料理に感激し、サラとエミリーが二人だけで全部作ったと聞いて喜ぶ。

ミセス・ブロードはスティーブンのむさくるしい格好を嘆き、「ドクターの世話をちゃんとしていない」キリックに腹を立て、キリックがグレープス亭に来ても食事を出してやらない、と息巻いています(笑)。ミセス・ブロードはいいなあ。

サラエミには料理の才能があるようで、グレープス亭も将来安泰ですね!スティーブンは、サラとエミリーが「下層甲板の」英語(労働者階級の英語ということ)と、「艦尾甲板の」英語(上流階級向きの英語)を見事に使いこなしているのに、フランス語はちっとも覚えないことを不思議に思っていますが…まあ、そんなもんでしょ。最近思うのですが、言語っていうのは、それで話されている内容にまったく興味が持てなければ、いつまでたっても憶えられないものなのよね。

リード君はサラエミの「ロブスターと魚のクリーム煮」を、「たとえメインマストにユニオンジャックを掲げるようになっても(海軍元帥になってもということ)、こんなに美味しいものは二度と食べられないだろう」と絶賛しています。ここでは「if」を使っているとは言え、料理を誉めるにも「海軍元帥」が出てくるあたり…なる気満々ですね、リード君(笑)。

(p62〜p65)スティーブンがサー・ジョセフのシェパーズ・マーケットの私邸でお茶を飲んでいる時、サーはウィリアム王子と会ったこと、王子がオーブリーの海洋調査のための航海の話をどこかの口の軽い人間から聞きつけて(政治的意味は知らない)、認知していない息子をオーブリーの船に士官候補生として乗せてもらいたがっている、という話をする。

少年はホレイショ・ハンソン。王子と少年の母は、彼女がハンソンという海軍士官と婚約していた時に短期間密会し、彼女は直後にハンソンと結婚したが夫はすぐ戦死。彼女はその後再婚してカナダに行ってしまったので、少年は祖父に育てられた。公式には死んだハンソンの息子ということになっていて、本人も王子が父であることを知らず、王子は死んだ父のシップメイトなので後見人になってくれているだけだと思っている。ホレイショは王子の「公認」の愛人の子供たちより出来がよいので、王子はことのほか可愛がっている様子だという。


ウィリアム王子ことクラレンス公爵(後のウィリアム4世)は、当時の国王ジョージ3世の三男で元海軍軍人。まあ全体としては、やや下品でワガママな人なんですが、元スティーブンの患者で、海軍軍人としてのジャック・オーブリーをこよなく尊敬しているという、私から見るとなんだか憎めないお方です(笑)。

王子は当時は独身ですが、元女優をなかば「公認」の愛人にしていて、彼女との間に認知している非嫡出子が10人もいました。このホレイショくんはそれとは別で、認知していない隠し子という設定です。高貴な方だから「ご落胤」というのかな?

というか、本当は母の婚約者のハンソンさんの息子かもしれないんですけどね。ただ王子自身は、自分の息子だと思い込んでいるようです。

(p65〜p68)スティーブン、馬車でウールコムに帰る。予告の手紙を出す時間がなかったので、いきなり現れるが、馬車を降りたとき子供たちはクリケットをしているところだった。ちょうどジョージがボウラー(ピッチャー)、ブリジッドがバッターをやっているところで、真っ先にパパを見つけたブリジッドは「パパだ!」と叫んで駆けてくる。

ウールコムのニュースとしては、クラリッサがアンドリューという地元の牧師と結婚している。ジョージはもうヘニッジ・ダンダスの74門艦ライオン号に乗っているが、今は休暇で家に戻っている。


クリケットのバッターをやっているおてんばなブリジットちゃんを想像すると可愛い。バットを投げ出して「野ウサギのように」スティーブンのところへ駆けて来た、という表現もまた可愛いです。<3

クラリッサはちゃっかり(?)次の結婚相手を見つけたようですね。さすがです。ジョージ君はもう艦に乗る年になったのか!って、いくつなんだっけ。このシリーズは「長い1813年」の関係で、歴史上の時間と個人的な時間の流れが一致していないので、ややこしいんですよね。