Chapter 5-1 〜 プロポーズ(その1)


(p108〜p110)サプライズ号、シエラレオネのフリータウンに入港する。艦長と士官たちは総督のディナーに招待される。新総督夫人の気配りで、スティーブンとクリスティーンは隣の席になる。最初はお互い妙に意識してぎこちない会話になるが、鳥や動物の話になると急に生き生きとしてしゃべりまくる二人。彼らを知らないパーティの客は、「一文無しの軍医には、金持ちの若い未亡人は格好のターゲットだろう」などと悪口を言う。

クリスティーンは夫の死後もシエラレオネにとどまり、総督夫人時代に自分で別荘として買った沼のほとりの家に住んで、動物の研究を続けている。スティーブンはその家に招待される。


この総督のディナーパーティは、ジャックが自分の家に他の艦長を招待したり、艦上で男ばかりでやったりするような略式なものじゃなく、本式にフォーマルなディナーです。だから、男性と女性の出席者は同数、席もしっかり階級順。前総督未亡人として、現総督夫人の次に身分の高い女性であるクリスティーン・ウッドが、一介の軍医であるスティーブンの隣に座るのは社交ルール違反で、本当は副長の隣に座らなければならないのですけどね。現総督夫人が「二人とも鳥に興味がおありのようだから」と気を遣った結果です。

総督未亡人の上に実家も金持ちのクリスティーンほどではないにせよ、今までにジャックと一緒に獲得した莫大な拿捕賞金を(ジャックと違って)無駄遣いせずにためこんでいる上に、カタロニア有数の富豪だった名付け親の遺産を相続したスティーブンは「一文無し」とはほど遠い状態なのですけどね。金持ちになっても見かけにお金を遣わないと、いろいろ誤解を生むようです。本人は気にしていないでしょうけど。

あ、それと、ほとんど余談ですが…ここを読んでいてたまたま気づいたこと。アカデミー賞やエミー賞の授賞式の後で、受賞者やノミニーが招待されるアカデミー主催のパーティのことを「ガバナーズ・ボール(Governor's Bowl)」と言いますよね。授賞式の後で行われる数多の華やかなパーティの中でも、最も正式で盛大でこれでもかってぐらい豪華な、「これぞハリウッド!」っていうパーティです。この「ガバナー」というのは、知事とか組織の長という意味もあるんですが…ひょっとして「(植民地)総督のパーティ」というイメージからきているのかな…と、ここを読んでいて思いました。

(p110〜p113)翌朝、クリスティーンの家に行くスティーブン。17巻でガイドだったクルー族のスクエアが船まで迎えに来る。彼女の家の近くには、海水と真水の混じったところにマングローブが生えている水辺があり、フラミンゴをはじめいろいろ珍しい鳥がいるので、二人は観察に出かける。そのうち、昔、二人の独身時代に彼女の兄のエドワードと三人で動物観察したころの気持ちがもどってきて、自然にファーストネームで呼び合うようになる。

スティーブンが、サプライズ号まで迎えに来たスクエアのボートに危なっかしく乗り込むのをハラハラと見守りながら、自分のバージ(艦長用艇)を出せばよかったと後悔しているジャックがかわいいです。

(p114〜p115)クリスティーンは彼に見せたい動物がいるらしく、マングローブの根を伝って彼を導いて行くが、急ぐあまり足を滑らせて泥の中に落ちる。スティーブン、泥に飛び込んで彼女を助ける。岸に這い上がった時には、二人とも服はどろどろ、ヒルだらけになっている。「裸になったら気になさいますか?」「いいえ、全然。我々は二人とも解剖学者ですから。」二人は服をすべて脱ぎ、きれいな水のところへ行って体と服を洗って、お互いの体からヒルをとる。

芸術家のモデルや、そもそも服を着る習慣のない国の女を除けば、これほど裸を気に留めない女性を初めて見た、とスティーブンは思う。以前にここを訪れた時も、彼女と黒人のメイドが裸で水浴びをしているのを遠目に見た事はあったが、その時はどちらかというと美しい鳥を鑑賞するように見ていた。しかし今は、ほっそりと背が高く足の長い彼女の体、ヒルに吸われたあとの血が流れて強調されている曲線を観察しているのは、科学者や解剖学者の目ではなかった。


「我々は二人とも解剖学者ですから。」…スティーブンったら!

ウソはいかんよ、ウソは(笑)

(p115〜p120)二人は生乾きの服を着て、再びクリスティーンの案内で歩き出す。まもなく、頭が青く体は茶色で緑の脚の巨大なアオサギの仲間が飛び立つところが見られて、スティーブンは感激してクリスティーンに感謝のキスをする。

二人は一度家に帰って、アフタヌーンティーを飲む。日が落ちた頃、夜行性の鳥を見に再び出かける。再びクリスティーンの案内で、今度は狩猟用の隠れ場所に立って待っていると、繁殖期の長い羽根をひるがえした巨大な鳥があり得ないような見事な飛翔を見せるのを見て、またスティーブンは感激する。


ここでクリスティーンがスティーブンに出したアフタヌーンティーは、例の「きゅうりのサンドイッチ」とか、マフィンとかクランペットとかの出る本格的なやつです。アフリカまで来ても「きゅうりのサンドイッチ」を食べるイギリス人って不思議な人種ですね。…とは言え、実はわたし、結構好きなんですけどね「きゅうりのサンドイッチ」。

ここでスティーブンを感激させた鳥はヨタカの一種で、原文には「Caprimulgus longipennis」という学名しか出てきませんが、調べてみると英語ではPennant-winged nightjar、和名は「フキナガシヨタカ」という鳥でした。

Caprimulgus longipennis(フキナガシヨタカ)

この長い吹流しのような羽根は繁殖期のオスだけにあわられるmating plumageというものだそうで。このような羽根があっても飛翔能力にまったく影響がないヨタカを感嘆の目で見ながら、クジャクやゴクラクチョウなど、メスを惹きつける美しい羽根のために飛ぶ能力を犠牲にし、多くの不便を耐え忍んで生きている数々の鳥たちに思いをはせるスティーブン。

再読して初めて気づいたのですけど、これって、続くプロポーズの話に繋がっているのですね。オブライアンさんお得意の、動物を使った暗喩…

プロポーズの話しだというのに、ちっともロマンティックじゃないつっこみですみません(笑)。でも、この章のトーン自体が、そういう感じなんですよね。そこが味なんですけど。

(p120〜p121)しばらくすると、クリスティーンが「スティーブン、落ち着かないご様子ですね。少しはずしましょうか?用が済んだら、口笛で合図して下さい。」と言う。「いいえ、そうではないのです…どう申し上げたらよいのか迷っていたのです。つまり、あなたが私と結婚して下さったら、どんなに幸せかということを。

スティーブンがソワソワしているのを生理的欲求だと勘違いしたクリスティーン。女性が男性にこういう気を遣って、それをさらっと言えるのは珍しい…まして200年前の女性だと思うと。クリスティーンのそういう所が好きですが。

ついに思い切ってプロポーズしたスティーブン。イエスの返事は聞けるのでしょうか…