Chapter 6 〜 ドルドラム(無風帯)


(p134〜p140)サプライズ号の航海士が二人、黄熱病で死ぬ。航海長のウッドバインが健康を損ねていることもあり、ジャックはホレイショ・ハンソンを航海士に昇進させることにする。ホレイショは海に出たばかりだが、保護者(ウィリアム王子)の影響力のおかげで小さい頃から名前だけいろんな艦の名簿に載っており、名目上は士官候補生室の誰よりベテランになっているので、他の士官候補生を追い越して昇進することになる。彼はそれが嬉しくなさそうで、他の士官候補生ももちろん嬉しくないが、彼は有能だし、ボクシングの試合で勇気があることも証明したので、表立って文句は出ない。ボクシング試合のことを士官たちより高く評価している水兵たちはこの昇進を喜ぶ。

スティーブンは航海中のあれやこれやを、リオで出す予定のクリスティーンへの長い手紙に綴っている。

スティーブン、サプライズ号についてきているサメの群れを見るため、コックに頼んで家畜の血を航跡に流してもらう。サメがわらわら出てきて、血はあるが獲物はいないことに気づくと、共食いをする。


フリータウンで罹った黄熱病で死んだ二人のうち一人はワンテージ君、マデイラで羊飼いの女性に恋したために村の男たちに去勢されてしまった青年でした。さんざんな目に遭った上に…かわいそう。

スティーブンは、船の生活の細々したことや、途中でみかけた鳥や魚のことなど、せっせとクリスティーンへの手紙に書いています。前にダイアナあてに書いていた手紙は、本当にこれをダイアナに出すの?という感じもあったのですが、クリスティーンへの手紙は、本当にクリスティーンがそれを読んでいるところが想像できるような。ダイアナの時は、スティーブンは親しい相手に個人的な手紙を書くというのに慣れていなくて、どのぐらい心を打ち明けていいのかその加減がわからないのではないかと思っていたのですが…スティーブンも慣れたようです。それとも、クリスティーンとは実際のところまだそれほど親しくないということが関係しているのかな。

鮫を呼び集めるために血を流すのは、たしか10巻でもやってましたね。あのときは人間の血(乗員を瀉血した血)でしたっけ。

(p141〜p143)ガンルームでジャックを招いたディナーが行われるが、サメの観察に熱中していたスティーブンは遅刻する。

副長のハーディング、自分の発明したヤードの塗料について長々と自慢してみんなをうんざりさせる。特に「プリンス・ウィリアムは自艦のヤードの美しさを認められて昇進した」という冗談は保守的な士官たちに、「(早く塗料を試したいので)無風帯が待ち遠しいぐらいだ」という一言は縁起かつぎの水兵たちに大いに顰蹙を買う。


ここで出てくるのですが、スティーブンは母方の祖父に紳士として厳しくしつけられて育ったそうです。それにはエレガントなマナー、スペイン語とカタロニア語とフランス語、乗馬、ピストル射撃と剣術が必須だったそうで。スティーブンが乗馬・射撃・剣術に優れているのは、祖父の仕込みだったことがわかりました。それにしても、「エレガントなマナー」だけはあまり身についていないような…

ハーディングの軽口に関して、スティーブンは、ウィリアム王子の名前がこんなふうに気軽な冗談として出てくるということは、ホレイショがウィリアム王子との関係を艦内でまったく匂わせてもいないことだと考え、彼に大いに感心しています。彼は「同じ私生児として(as a fellow-bastard)」、有力な親戚がいることを回りに知らせたいという誘惑が強いことはよく知っているので。

スティーブンの父方の親戚はアイルランドの名門、フィッツジェラルド家。フィッツジェラルド家といえば、アメリカ大統領ジョン・フィッツジェラルド・ケネディの母の出身。ということは、スティーブンはケネディ家と親戚ということになるのか…

(p143〜p149)ハーディングの不用意な一言のせいでもないが、まもなくサプライズ号はドルドラム(無風帯)に入る。ものすごい雷雨の後、そよりとも風の吹かない、どんより曇っているのに猛暑という気候が続き、ジャックは、例によって、帆をひたして乗員に水浴びさせる。その時、見張りから「Sail-ho」の声が上がる。

現れたのはアメリカのデラウェア号。今はアメリカとの戦争も終わって敵でなくなったので、サプライズとデラウェアは友好的に挨拶をかわす。デラウェアの艦長ロッジは、ジャックと知り合いだった。ジャックがボストンを訪問した時、彼と彼の母上と一緒にディナーをとったと言う。

ロッジ艦長、ナビゲーションに問題が生じているので、サプライズ号の航海長に相談していいかと聞く。ジャックはもちろん承知し、デラウェアの航海長が書類を持って来て、言いにくそうに、位置計算に狂いが生じていることを説明する。サプライズの航海長ウッドバインは、うちには若い優秀な航海士が二人いるので(ジョン・ダニエルとホレイショ・ハンソンのこと)、彼らに計算させましょうと言う。二人は書類と取り組んで、デラウェアの位置計算がどこでどうして狂ったのか答えを出す。


ジャックがアメリカ海軍のロッジ艦長と会ったのって、いつのことなんでしょうね。彼がボストンで捕虜になった6巻には、そんな描写はなかったように思うけど…シリーズが始まる前(1800年以前)にアメリカに行ったことがあったのかな?

ドルドラム(doldrum)というのは、大西洋の熱帯海域にある無風帯のこと。単に風が吹かない海域かと思っていたのですが、豪雨や雷を伴うのですね。そのへんの気象学的なところは、私にはさっぱりわからないのですが…スティーブンにもわからないようです。

(p150〜p160)サプライズ号とデラウェア号、お互いにディナーに招きあう。リオで補給したばかりのデラウェアにはまだ果物やチーズが豊富なので、サプライズのみんなはことのほか喜ぶ。スティーブン、デラウェアの軍医から、ヘラパスが元気に医学を研究していて、本も出していることを聞く。

その日、突然の雷と豪雨とともにリングル号が現れ、サプライズ号はドルドラムを抜ける。

スティーブンとジャックが食後キャビンでコーヒーを飲んでいるとき、スティーブンはリンゼイ卿はどんな人かジャックにたずねる。人の悪口が嫌いなジャックはためらうが、スティーブンのために話しはじめる。

リンゼイはいい船乗りで勇敢さもあるが、とにかく怒りっぽく、気難しく、自分の話に反論されたり、批判されたり、押さえつけられたりするのにガマンならない性格で、誰よりも頻繁に決闘していた。艦隊に所属しているスループの艦長であった時、艦隊の隊列を乱したことで提督にひどく叱責され、その提督に決闘をを申し込んだ。上官、それも将官クラスの上官に決闘を申し込むなど海軍ではまずありえない事で、軍法会議にかけられて除隊になった。

しばらく弁護士を雇って争っていたが、やがて南米に行った。「自由のために戦ったために英国海軍を追い出された」と主張しているので、貴族が好きな人と自由に賛同する人には受け入れられている。南米人たちが思う「自由」はスペインからの自由で、上官とハイドパークで撃ち合う自由ではないはずだが…また彼は、スペイン語にも堪能である。


ここの、ジャックがたっぷりした食事をとった後で、キリックが珍しくニコニコしていて、「彼はジャックが食欲旺盛だと機嫌がいい、彼が『愛想のよさ』に少しでも近づくのはこの時だけ」と書かれていて、それもかわいいなあ、と思ったりしていました(笑)。

かわいいといえば、この時のサプライズ号には、フリータウンから猫が二匹乗り込んできていて、暑い無風帯でへばっていたり豪雨におびえたりしている様子がいちいち描写されているのもかわいかった。豪雨におびえた猫が「スティーブンの歓迎していない膝(Stephen's unwilling lap)」に飛び乗ってくる、というのもあって…スティーブンは特に猫好きではないようです。それでもやっぱり、動物の方はスティーブンが好きなのね。