Chapter 9-1 〜 サンティアゴ、ヴァルパライソ


前にも書いたとおり、この巻のチリでのジャックの活躍は、トマス・コクラン卿が証券詐欺疑惑によって海軍を除隊になっていた時期のチリでの活躍をモデルにしています。もちろん、前後の事情や詳細は、現実とは変えてありますが。基本的に、1820年頃に起きた実際の出来事を元にしているようです。

この巻の背景が正確には何年ということになっているのか、例によってはっきりしないのですが、おそらく1818〜20年頃、チリは既に独立は宣言していたが、統一された政府が確立していなくて、スペインからの干渉に悩まされていた時期と思われます。(ペルーはまだ独立していない。)ジャックたちがワーテルローの戦いの年に出航して、到着したばかりとすると、2〜3年飛んでいるのですが…まあ、歴史上の時間の流れと矛盾していることは、このシリーズの場合あまり気にしてはいけないってことで(笑)。

(p197〜p199)スティーブン、サンティアゴでサー・ジョセフに手紙を書いている。まずウールコムからの手紙を送ってくれたことに感謝し、チリのだいたいの状況を報告する。

さまざまな独立勢力があってまだ状況は混沌としている。オーブリーとリンゼイ卿はとりあえず協力する合意に達した。サプライズ号は、王党派(スペイン派)の支配下にある港の沖にいる。そこにいるスペインの私掠船に斬り込んで拿捕するつもり。共和派(独立派)のスループ3隻が補助するが、その乗員は素人ばかりで役に立たない。航海士と士官候補生たちが乗って指揮を取る。チリの海軍は経験ある士官水兵がほとんどいないので、ペルーの手強い王党派の海軍のことを考えると、これは緊急になんとかしなくてはならない。

書き終えたスティーブン、サーが届けてくれたウールコムからの短い手紙を読む。それはクリスティーンとブリジッドからで、クリスティーンはスティーブンの希望通りウールコムに滞在していて、ブリジッドと仲良くなったようだ。スティーブンは手紙をポケットにしまってニコニコする。


南北に長〜いチリの海岸線のちょうど真ん中あたりにヴァルパライソの港があり、その近くに首都のサンティアゴがあります。そういえば、ペルーも海岸線の真ん中あたりにカヤオ港があって、そこから少し離れて首都のリマがありましたね。スペインが植民地を作る時のパターンのひとつだったのでしょうか。

とにかく、そこに到着したサプライズ号。ジャックもスティーブンも、さっそく行動に移っています。

(p199〜p204)スティーブン、ジェイコブと話し合い、ペルーのカヤオの様子をエージェントに見張らせてほしいと頼む。その後、ヴァルパライソ港に行って店に入ったスティーブンはドブソンたち「アイザック・ニュートン号」の博物学者たちに会う。そこにジャックも来て、楽しく歓談する。

ジャックはチリ共和国の貿易船を妨害してたスペイン私掠船の拿捕に成功した。チリ人の水兵たちは経験はないが熱心で、非常に速く学んでいる。スティーブン、ジャックにウールコムから届いた手紙を渡す。

その後、用をすませたスティーブンが宿屋に帰ると、ジャックが泣いている。ウールコムから来たソフィーの手紙を読んで、すっかり家族がなつかしくなってしまったようだ。スティーブン、チリを独立させる任務が終わったら、家族を呼んで喜望峰で落ち合うことを提案する。


<どうでもいい余談>このあたりで、チリの「独立した共和国の」船、という意味で"republican"という単語が使われています。もちろんここでは(チリ)共和国の、という意味なんですが、最近私がいちばん頻繁に「republican」という単語を聞く(読む)のは「アメリカの共和党の」という意味なので(本当はそっちはRが大文字のRepublicanですが)…その影響で、「republican」と聞くと、とっさにどうも「味方」「正義の側」という気がしないのが困る(笑)。

ソフィーの手紙を読んで、すっかりホームシックになっているジャックはかわいいです。長く家を離れて、故郷からの手紙を読むなんていつものことなのにね。今までは、これほどはっきり泣くまでには至っていなかったと思うのですが…ジャックも年を取って、前よりさらにセンチメンタルになっているんだろうか(笑)。

(p204〜p209)スティーブン、馬で山を越えてサンチャゴに戻る。山を登りながら、クリスティーンの鮮やかな幻が浮かぶ。クリスティーンは普段はおとなしく控えめで礼儀正しく、少し自分の世界に閉じこもっているところがあるが、相手が好きな人だと見違えるようにオープンになる傾向がある。

スティーブンはサンティアゴに戻り、ジェイコブと食事する。ジェイコブがリマとカヤオからの情報を伝える。ペルーの海軍がヴァルパライソを攻撃しようとしている。


ヴァルパライソ〜サンティアゴ間の殺風景な岩山を馬でとぼとぼ行きながら、クリスティーンの姿を岩に投影しているスティーブン。クリスティーンはスティーブンの望みどおりウールコムに滞在していて、ブリジッドちゃんとも仲良くなったようなので、プロポーズの件は大いに脈ありのようです。しかし、スティーブンが思い返しているクリスティーンの性格って…一言でいえば、オタク体質ですね、やっぱり。

ところで、ここでスティーブンが食べているのがolla podrida(オーリャ・ポドリーダ)というスペインの鍋料理。これは訳すと「腐った鍋」という意味で、名前はちょっとアレですが、豆だの肉だの野菜だのをじっくり煮込んだ鍋で、栄養たっぷりで美味しそうです。

検索していてついでに分かったのですが、olla podridaには、絵を組み合わせたパズルという意味もあるようですね。余談でした。

(p209〜p212)スティーブンとジェイコブ、ラバでヴァルパライソに行く。共和国総司令官のベルナルド・オイギンスがヴァルパライソに来ていて、町は陸軍兵でいっぱいで、興奮状態である。キリックは陸軍の将校に宿の部屋を占領されて不機嫌である。

スティーブン、従兄弟(ドン・ラモンの親戚)のエデュアルド・ヴァルデスに会う。彼はチリ共和国軍の大佐で、オヒギンス司令官の右腕。ヴァルデスはオイギンスがジャックを非常に高く評価していると言う。その後、スティーブンはジャックとオイギンスに会い、話をする。スティーブン、オイギンスにペルーの侵略計画を話す。カヤオでは艦の装備の値段がつりあがって補給が困難なので、彼らはヴァルディヴィアの港で補給するかもしれない。

オイギンス、明日のサプライズ艦上ディナーの間に、目立たないようにサプライズ号を動かしてヴァルディヴィアを偵察してはどうかと提案する。


ベルナルド・オイギンスは、チリの独立の父。つづりはO'Higginsなんで「オヒギンス」と読んでいたのですが、どうやらHは発音しないで「オイギンズ」が正しいようです。「O’」がついているところから分かる通り、家系はアイルランド系。父はアイルランド系スペイン人、母はチリの先住民、という人らしいです。